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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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Pyrokinesis girl(10)
「…はあ。」
すっかり冬の寒さになった部室で涼君の小さなため息が妙にはっきりと響いた。それを聞いた馨君が本から少し顔をあげて涼君を見ると、その脚を思い切り蹴り上げた。
「うわっ!?何すんだよ馨!」
「辛気臭い顔してるから蹴って欲しいのかと思って。」
「意味わかんねえよ…。」
「…涼君、まだ落ち込んでるの?」
ボクの言葉に涼君の顔に影がかかる。涼君は自分が睡眠薬を飲まされて眠らされなければ、彼女は踏みとどまれたのではないかと自分を責めているんだ。
「……俺があの時気を付けていれば、アイリスは今も普通に学校に通えていた気がするんだ。」
「はっ。俺が気を付けていれば?思い上がるなよ。彼女はお前に薬を盛る前から壊れてたんだ。例えあの場でお前が気付いても、発覚が遅れただけで結果はそう変わらなかったと思うね。」
「馨くんたら素直に涼くんのせいじゃないよって言えばいいのに。馨くんのツンデレ!」
「僕は事実を述べただけだ!それより今回も本物の超常現象じゃなかった事の方が残念だよ。」
「もう、照れ隠ししなくてもいいじゃん!」
「いい加減黙らないと口にガムテープ貼るよ美弥。」
二人のやりとりを見て、涼君の表情が少し和らいだ。それを見てボクも少しホッとする。確かに涼君がアイリスさんに監禁されかけた事でアイリスさんの異常性が明らかになり、結果として彼女は学校から去る事になってしまったけれど、例えそれを未然に防げたとしても根本的な解決にならなかったと思う。むしろ、他の誰かが襲われる様な事にならなくてよかった。
「…あれ、そう言えば馨君、どうしてあの時涼君の携帯を遠隔操作できるようにしたの?」
「ああ、涼が襲われるってわかってたから。」
「はっ…?」
「ええ!?な、なんで!?」
「イリスが涼の事が好きだって気付いたから。」
「アイリスだろ…って、はあ!?」
「気付かなかった?学校での小火でお前が上着で火を消したあたりからお前を見る目が変わってた。」
そう言いながらちらりと美弥さんを見る。美弥さんのような目で、と言いたいらしい。涼君の顔が赤くなる。
「なっ…!い、いつも人に興味ない癖に!」
「観察対象なんだから見るよ。だから手を繋がせて彼女の気持ちを煽ったんだ。」
「なにそれ馨くん!聞いてないよ!!」
「そうすれば彼女が涼に何か秘密を打ち明けてくれると思ったんだ。そこから彼女の状態を探ろうと思ったんだけどね。」
「お前なあ…──」
「馨くん!!!」
涼君が抗議する前に美弥さんが普段聞いた事のないくらい低い声で言うと馨君の前に立ち塞がる。後ろからとてつもないオーラが漂っている。馨君も美弥さんに気圧されて椅子に座ったまま身を後ろにひいた。
「…何、美弥。」
「涼くんが本当にアイリスちゃんとくっついちゃったらどうするつもりだったの?」
「それはないと思う。……多分。」
「今後こう言う作戦立てたら絶対駄目だからね。ね?」
「……わかった。」
「裕太くんも!馨くんに乗せられないように。」
「う、うん。」
涼君には聞こえないように小さい声で話すと、満足したのかいつも通りの可愛らしい美弥さんに戻った。女の子って怖い。
「なんの相談だ。もう俺を囮にするなよ!」
「させないよ!だよね馨くん?」
「わかったってば。なるべく他の手を考えるよ。」
「それでこそ馨くん!えへへ。て事で気分転換になんか食べに行かない?手繋いで!」
「なんでだよ。もう手を繋ぐのは懲り懲りだ。」
「ええー!みんなで繋いだらいいじゃん!」
「余計におかしいだろ。」
せがむ美弥さんを適当にあしらいながらも、その表情にはいつもの涼君だ。優しい分、気にし過ぎてしまうんだろう。安心した気持ちを共有したいせいか、二人を静観している馨君に話しかけた。
「でも、解決して良かったね。ボクはてっきり川嶋さんが犯人かと思ってたよ。」
「……解決してないよ。」
「え?」
「…彼女は独りでにおかしくなったんじゃない。それを助長した奴がいるはずだ。」
それだけ言うと馨君は窓の外を見つめた。外は雲に覆われた薄暗い空が広がっている。雲の中で乱反射した光に照らされた馨君の横顔から見える瞳には、今まで見た事のない仄暗い光が宿っていた。
「そいつが犯人だよ。」
fin
こんにちは。初の次回を予告する終わり方となりました。
考えている限りでは、次回が一応当初から考えていた“最終回”となります。
でも友人に、もっと続けて欲しいという嬉しいお言葉をいただいた事と、
キャラ愛から脱せない気持ちから、第一章の最終回とさせていただこうかと思います。
ファンタジーでもないですし、彼らが生きてる限りお話は書けるわけなので、のんびり続けて行こうと
思っております。どうかこれからもよろしくお願い致します。