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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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今まで幸せな気持ちで通っていたバーまでの道のりが、今日は酷く険しく思える。あれ程望んでいた彼女からの視線。それは思っていたよりもずっと虚しいものだった。それなのにまた今日も彼女の元へ通う俺は被虐性愛者かもしれない。…なんて、ただ単純に諦めきれないだけだ。必死に自分を慰めながら歩く。初めは声をかける気もなかったのだ。その頃に戻ったと思えばいいじゃないか。俺はただ彼女が眺められればそれでいい。自分にそう言い聞かせながらバーのドアに手をかけた時、不意に肩を叩かれた。
「お兄さん、ちょっといいですか?」
若い男の声に振り返ると、昨日見たあのホスト男がニコニコしながら立っていた。驚いて反射的に身を引くと、男は慌てて手を離した。
「ああ驚かせちゃってごめんなさい。」
「な、なんですか貴方。何の用です。」
ほぼ初対面の人に随分とつっけんどんな態度をとってしまった。だがこの男はいけ好かない。俺に何の用だ?こんな見た目だ、昨日のことで因縁でもつける気だろうか。
「いやあここだとちょっと言いにくい話でして…。ついてきてもらえませんか?」
「は、はあ?私はこれから用事が……」
「ああ、レイちゃんならバーにはいませんよ。」
男の確信を持った言葉に手が止まる。まるで罪が暴かれた犯罪者のように全身から汗が噴き出した。
「な、なんの事ですか。俺は別に…!」
「それ以外の用事なんてないですよね?毎晩仕事が終わるとすぐにバーにやって来てはレイちゃんの前に座り、2時間以上ずっと見つめながら酒を飲んでるじゃないですか。」
ばれた。ばれたばれたバレタ!全身がカッと熱くなり急激に冷える。こいつは全部知ってる。人通りの少ない小さな路地で男は懐に手を入れながら微笑んだ。
「ついてきてくれますよね?」
その意味あり気な動作に俺は懐の中に凶器があると確信した。びびった俺は頷くことしかできなかった。
車に乗せられて三十分。民家もなく、誰もいない河川敷に連れて来られた俺はこの世の終わりの様な絶望感に晒されていた。ホストだと勝手に思っていたこの男、ヤクザだったらしい。ヤクザの女に手を出した愚かな男が拷問されるというのはドラマだけの世界だと思っていた。
「そっちに歩いてもらえます?」
「は、はい…。」
「あれ?なんか急に大人しくなっちゃったね。車酔いしました?」
こんな状況でなにを冗談言ってるんだこいつ。ふざけた奴だと思うがそこが余計に恐ろしい。素直に謝ってなんとか逃げ出さなくては。
「…あの、ホント申し訳ありません。ただ見てただけなんです。もう彼女には二度と近寄らないんで、許してもらえませんか?」
「え?ああ、心配しなくても二度とそんな気起こらない様になりますよ!大丈夫です!」
笑顔でVサインを出すこの男が悪魔に見えた。あくまでただで返す気はないという事だろう。いや、そもそも生きて返してもらえるのだろうか。死刑台に自ら向かう様にふらつきながら歩いていると、薄明かりの中誰かが立っているのが見えた。二人いる…一人は背が小さい。もう一人は、……彼女だ。
「(暗くてほとんど見えないのに、なんで俺はわかるんだ?)」
「九喜、準備終わったよ。」
「ありがとう奈々ちゃん!助かったよ~。」
「い、今の声…子供?!なんで子供が…。」
「子供じゃない!高校生だし!」
「まあ詳しい事は後で!」
立ち止まった俺の背中を男が押したせいで草むらに倒れかけた。状況がわからないでいる俺はそのまま前に二、三歩踏み出した位置でなんとか頭を整理しようとする。男は俺を放って地面に何かすると、彼女と少女の元に駆け寄ったようだ。
「よくすんなりついて来てくれたね。」
「うん。こうやってジャケットからミラクルヘヴンステッキを見せたらね。こういうの一回やってみたかったんだ~。」
ヘラヘラしながら男は俺にしたように懐を探ると、小さなおもちゃらしき物を取り出し、その先端を引っ張てステッキ状にした。ようやくこの状況に目と頭が慣れた俺は、どうもこれがヤクザによるリンチではないと気付いた。先程までの緊張が一気に解け、同時に怒りがふつふつと湧き出す。
「バッカみたい。」
「そんな事言わないでよー。それじゃ、手筈どおりにお願いね。」
「わかってる。」
「おい!こんな所に連れてきて一体なんの真似だ!子供の悪ふざけにしては度が過ぎるんじゃないか!?」
「あららもう元気になっちゃった。じゃあ頼んだよ奈々ちゃん!」
男は少女の肩をポンと叩くと数歩後ろに引いて何かつぶやき出した。異様な雰囲気に少し気圧されるが、ここで怯んだらこいつらの思う壺だ。
「ナ…ンダ……バザラ……」
「な、なにブツブツ言ってるんだ?今なら警察には言わないでおいてやる、早く元いた場所に帰してくれ!」
「ケーサツに言われて困るのはアンタの方なんじゃないの?この変態。」
「な!?君!大人に向かってなにを言うんだ!俺はただバーで彼女を見ていただけで…。」
「彼女?…はあ。」
少女と彼女が顔を合わせ、二人とも呆れた顔をした。何が言いたいんだこの二人は。
「そっちじゃなくて。おっさん最近まで白鳥瑞乃って女の人をストーカーしてたでしょ。」
「えっ……!」
「毎晩彼女が帰宅する時間に家の前うろついたり、留守電に悪口吹き込んだり。何度着拒しても直ぐに新しい携帯でかけてきてさ、マジどんだけ暇なんだよおっさん。」
「な、…なんで知ってるんだ!お前ら何もんだ!?」