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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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第二話 Beautiful Vampire(6)


Beautiful Vampire(6)



「まさか、本当にヨハネスくんが吸血鬼で涼くんを襲うとか思ってるの…?」

「いや、それはもういい。僕も意地になってただけだから。」

「馨くんが珍しく素直だね!」

「うるさいな、美弥。どういう意味だ。」

「どういう意味も何も…。まあそれより、ならどうしてこんな所に?」

「それは……。……謝ろう、と…思って……。」

 馨君は俯きながら歯切れ悪く、小さな声で呟いた。ボクと美弥さんは驚愕した。あの馨君が人に真面目に謝ろうだなんて。しかも、こんな所でずっと待っていながら。

「…なんだよその顔。僕だって好きでやってるんじゃない。学校でいいたくないだけだ。」

「もうっ馨くんツンデレだね~!」

「それ以上言うとお前が涼の持ち物時々持ち出すのばらすよ。」

「借りてるだけだから!ちゃんと後で洗って返してるから!」

「…その情報本当聞きたくないんだけど。」

「冗談だよぉ。だいたいさすがにそこまでしてないから!」

 良かった、いつも通りだ。ボクは少しホッとしつつ、二人を見つめていた。その視線を気にしたのか、馨君は美弥さんを引き離した。

「ま、そういう事だから二人は帰りなよ。あ、この事誰かに言ったらどうなるか、わかってるよね?」

「えー!私達も待ってるよー。それに一人でこんな所いたら変質者に間違われちゃうよ?」

「三人でいても十分怪しいけど。てかうざいから帰ってよ。」

「高校生が道に溜まってるなんて普通だよ!それに上手く行くか心配だし…。ね?裕太くん。」

「あ、う、うん。」

「面倒くさい奴だな…。じゃあ裕太、まだかかるのか玄関から様子見てきて。」

「えっ!やだよそんなの!」

「じゃあ帰れ。」

「裕太くん、お願い!」

 美弥さんのウルウルした目を見て、ボクは観念し、渋々玄関辺りに近づいた。暗くてよく分からなかったが、こうやってみるとこの辺りには珍しい洋館風の家のようだ。おそらくルーマニアの家の面影があるのだろう。中の様子は、特に音もせず、暗いので様子もよく分からない。仕方ないので馨君達の所に戻ろうと背を向けた瞬間、カチャリとドアの開く音がした。

「…あれ、裕太君?」

「ん、なんでお前こんなとこに…?」

「あ、いやあその…。」

「…もしかして遊びに来てくれたの?」

「ま、まあそんなとこだよ!」

「?変な奴だな。…!馨…。」

「「(!)」」

 涼君は角で様子を伺っていた馨君達に気がついたようだ。気まずそうな顔の馨君とソワソワした様子の美弥さんが出て来た。涼君は少し怒った顔で二人に歩み寄る。

「…また“作戦"か?」

「違うよ。」

「じゃあなんでこんな所にいるんだよ。偶々じゃねーだろ。」

「涼くん!本当に違うの!馨くんずっと涼くんを待ってたんだよ?」

「…待ってたって、何を?」

「………その、悪かったよ。今日のは言い過ぎた。」

「…は。お前、なんて?」

ガツン!

「痛ってえ!」

「一度で聞けよ馬鹿じゃないの?ヨハネス君、今度は僕達もお家に招待してねー。そして是非ルーマニアの吸血鬼伝説を聞かせてねー。」

 呆然としている涼君を、馨君は照れ隠しなのか拳で殴り、何事もなかったようにヨハネス君に向けてにっこり笑った。隣で美弥さんが嬉しそうに微笑んでいる。美弥さんが言ったツンデレもわからなくないなあと思いつつ、ボクもホッとして、そちらに向かおうとした時。

「知ってたよ。」

「…え?」

 振り返ると、ヨハネス君がいつもの爽やかな笑顔で立っている。なのに、なんだか違和感を感じる。どういうことだ?知ってたって、何を?

「オカルト研究部の事。正確にはさっき知ったんだけどね。」

「…涼君が、言ったの?」

 そんなはずはないだろう。人を吸血鬼呼ばわりして色んな事してたなんて、話してもヨハネス君を傷つけるだけだってわかっているのに。ヨハネス君は相変わらずの様子で答える。若干小さな声で、おそらく馨君達に聞かれたくないのだろう。

「ちょっと違うかな。涼君は優しいから、言わないだろうし。」

「じゃあ、どうやって…。」

「馨君てちょっと変わってるけど意外と鋭いよね。ふふ、でもそんな簡単にボロを出さないよ。」

「な、なに、言ってるの…?」

「さっきからそんなに恐がらないでよ、裕太君。何もしないから。」

 あり得ない。あり得ない事なのに、ボクの頭は結論を出している。ボクは必死に、もっと現実的な結論を探そうと考えるが、目の前のヨハネス君はそれを遮る様に続けた。

「古来から、血肉を食べると、その相手の能力が手に入るって言うでしょう?さすがにそこまでいかないけど、知っている事をちょっと教えてもらうくらいは出来るんだ。ほんの少し、だしね。」

「ヨハネスくんのお家、どうだった?洋館みたいで格好良いよね!」

「変わったものはなかった?なんかの偶像とか。」

「いや…。それが全然思い出せないんだ。」

「は?何それ。」

「玄関入ったのは覚えてるんだが、そのあと貧血みたいに眩暈がして…。」

 少し離れたところから、馨君達の話し声が聞こえる。ボクはヨハネス君から目が離せずにいた。すっかり日も暮れて、満月に照らされた顔は、陰影が強くて、彫りの深い端正な顔がよりはっきりする。彼はゆっくりとその艶やかな唇に人差し指を当てた。

「…馨君達には、内緒だよ?」

 そういって弧を描いた彼の口から、真っ白で尖った犬歯が覗いた気がした。



Fin



第二話目です。ご愛読ありがとうございます。
ヨハネスくんは友人が考えてくれたキャラクターですが、正直とても扱い難いです…。
ご満足いただけたら何よりです。

それでは、また。

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