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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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「いよいよ文化祭だ。お前達準備はいいな?」
「ばっちりだよ馨くん!ね、涼くんっ。」
右隣でウエイトレス姿の美弥さんがVサインを送る。フリフリのレースを随所にあしらった制服が非常に似合っている。頭にはお揃いのレースのカチューシャが揺れている。率直に可愛い。…でも少しやり過ぎじゃないだろうか。ニーハイによって生み出された絶対領域につい目がいってしまう。っていけない、見とれてる場合じゃなかった。
「ああ…。」
左隣には胸元を大きく開けた黒いワイシャツに灰色のスーツをカッコ良く着こなした涼君。髪型もワックスで少し固めているそうだ。美弥さんがうきうきしながら用意していたっけ。ホストみたいな格好だっていうのに、嫌味にならないのは流石涼君だ。しかしどこかげんなりした表情をしている。
「なんでこんな格好…。」
「なんか言った?涼。」
「いいえ。」
なんでこんな格好、か。問いたいのはボクの方だ。この二人に挟まれて本当に肩身が狭い。そしてスカートのせいで脚が涼しすぎて居心地が悪い。
「それにしても裕太くん可愛いよ!元が良いからメイクのやり甲斐があったね!」
「は、はは…。」
元が良いってそれ女顔って意味だよね美弥さん。褒め言葉になってないんだけど…。改めて自分のウエイトレス服姿を見る。化粧が濃過ぎて自分じゃないみたいで気持ち悪い。
「思った以上に良い仕上げだね。背丈もちょうど良いし、これならいけるよ。」
「そ、そうだな…。ふっ。」
「涼君笑わないで!!」
なんで地味キャラなボクが女装なんて…。もっとも目立つ立ち回りじゃないか!美弥さんとお揃いなところが更に気分を悪くする。
「裕太くん、落ち込まないで!男の娘は男女にとって不朽の萌えキャラだよ!」
「何言ってるかわかんないよ美弥さん。」
「さて、席の準備も完璧だ。午後からはヨハネス君と義人も参加してくれるからな。午前中にしっかり客を集めるように。特に裕太と涼、愛想良く接客よろしく!」
時は一ヶ月前に遡る。来須先生に許可をもらったボク達は旧調理室を使用する為だけに出し物を考えることになった。と言っても、主に美弥さんが発言してばかりなんだけど。
「はいはい!私演劇やりたい!ロミジュリとか!」
「却下。人数と台本と練習時間がない。なにより荷物を置く必要がない。」
「うーん、あ!バンド!!機材とか置くのに使えそう!」
「だから練習時間がないんだよ!この中じゃ誰も楽器出来ないだろ!」
「ええー。じゃあ食べ物屋さん!在庫を保管させてもらえるよ!私がレシピ作るし!」
「「「却下!」」」
美弥さんは典型的な文化祭の出し物をやりたいみたいだけど、直前までやる気のなかったボク達に出来ることは少ない。もう時間もないし、正直出来る気がしなかった。
「どこかの部活と合同にしてもらうとかどう?」
「うちと仲の良い部活なんてないぞ。土壇場でそれは無理だろ。」
「そうなると休憩所とかしかないよ?それじゃ旧調理室使う必要ないし…。」
「正直オカルト部の目玉なんてあるわけないしな…。」
思案に暮れるボク達を傍目に、馨君が急に立ち上がった。
「あるよ。オカルト部の目玉!」
「えっ!?」
そう言うと馨君はこちらをビシッと指差した。…美弥さんと涼君?
「わ、私達?」
「…非常に癪だけど、二人は他はともかく見た目美形だ。涼はなぜか女子に人気だし、美弥も一部の男子に好評だ。これを使わない手はない。」
「他はともかくってどういう意味だよ!」
「一部って何!?私ってマニア受けなの!?」
「ま、まあまあ。でも、二人をどう使うの?」
「喫茶店のウエイターとウエイトレス。」
さらりと言ってのける馨君。しかしそれはさっき満場一致で却下したはずだ。美弥さんの瞳が輝きを増す。
「じゃあ!お菓子とか──」
「ただし飲み物だけで。調理となると手続きが面倒だからね。市販の飲み物をカップに入れて出すだけだよ。」
「えー、でもそれだけじゃ…。」
「つまらな過ぎて客が入らないよね。飲み物の在庫なんてたかが知れてるし、許可がおりないかも。」
「わかってるならなんでそれなんだ?」
「『じゃんけん』だよ。」
『喫茶店』に『じゃんけん』て…。都会の某駅周辺の萌え萌え言ってる怪しいぼったくりのお店しか浮かばない。
「か、馨くんそれって流石にダメじゃない?違法営業だよ!」
「金とってじゃんけんするなんて言ってないよ。あくまで飲み物にしか代金はかけない。でもじゃんけんで勝てたら景品をあげるってのはどうかな?」
「ああ、それで景品を調理室に置かせてもらうんだね。」
「うん。一回じゃ簡単過ぎるから三回勝てたら一つあげるとか。一回しか勝てなかった時は写真を撮る権利をあげるってのもいいね。」
「写真て…そんなの喜ぶのか?」
「それめっちゃ良いよ!すっごくやりたい!」
美弥さんが身を乗り出して賛成した。涼君のブロマイドを密かに集めている美弥さんにはそっちの方が景品になりそうだな…。
「異論がないなら決定だね。なるべく旧調理室を利用したいし。早速企画書を書こう。」
違法すれすれな気がしたが、馨君が法律の知識まで持ってきて弁明したおかげでなんとか許可がおりた。本当に馨君てなんでも知ってるんじゃないだろうか…。
「おい、裕太聞いてる?」
「えっ!?な、なんだっけ。」
「お前接客中に今みたいな態度とったら──」
「ご、ごめんごめん!ちゃんと聞くよ!」
いけない、回想している場合じゃなかった。今日馨君の機嫌を損ねるのは避けたい。顔の前で手を振って弁明すると馨君は軽くため息をついた。
「いい?お客に話しかけられたらオウム返しに同調する。『外は暑いね』って言われたら『暑いですねー』と笑顔で返す。客はこれで満足するから。あ、でも一人の客のところに常駐するのは禁止ね。」
「『接待』になって違法になっちゃうんだよね!」
なんだか本当に違法営業すれすれの店の指導みたいだな…。しかし、指導をする馨君はいつもの制服にセーター姿だ。
「僕は旧調理室に張り込むから、接客はしないよ。なんかあったら携帯に連絡して。在庫持って行ってあげるくらいはするよ。」
「ええーー!馨くんもやろーよ!スーツもウエイトレスの制服もあるよ?」
「馨の女装の需要は絶対ないぞ…。」
「言われるまでもなくしないよ!」
「えー可愛いのにー。」
「眼科行ってきなよ美弥。」
「それどういう意味?って馨くん待ってよー!」
「馨!荷物持って行けよ!」
ウエイトレスの衣装を手に迫る美弥さんから逃げるように馨君は一階の旧調理室に行ってしまった。後から飲み物と景品の在庫を持って涼君が追いかけていった。
「もう!せっかく全員分揃えたのに!」
「それほぼ女装喫茶だよ美弥さん。」
「何言ってるの裕太くん!文化祭って言うのは合法的にコスプレを披露できる特別な日なんだよ!?恥じらう端正な顔にリボンが揺れる、男らしい筋肉とフリルの夢の共演…これぞ女装の至高!」
嬉々として女装の良さを語るその瞳は輝いている。なんだか美弥さんがどんどん遠い存在になって行く…。
「もちろん裕太くんの女装も最高だよ!絶対モテモテだね!」
「そ、そうかな…。」