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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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第六話 Specter of school festival(4)


Specter of school festival(4)


「…アタシに用事って君達?」

「はい!岩瀬萌香先輩ですよね?私達義人くんの友達で、オカルト部なんです。」

「………ふーん。」

 私達は裕太くんと義人くんとヨハネスくんが接客をしてくれてる午前中に、岩瀬先輩に聞き込みをしたの。無理に呼び出したのに、岩瀬先輩は一応真剣に話を聞いてくれているみたい。案外良い人かも?でも、なんか違和感…。

「えっと、『文化祭の幽霊』について調べてるんですけど、先輩は去年会ったんですよね?その事について詳しく教えてくれませんか?」

「うん、いいよ。」

 私の質問に対して岩瀬先輩は笑顔で答えてくれた。さっきから愛想が良いけど…わかった!この人さっきから全然私と目を合わせない。その笑顔は涼くんだけに向けられているんだ!もしかして、涼くんを狙ってる?!

「君達変わってるね。オカルトに興味あるんだ。」

「は、はい、まあ…。」

 涼くんは馨くんに目配せしたけど、馨くんは黙ったままでいる。岩瀬先輩は更に続けた。

「アタシが見たのは旧校舎の調理室。クラスの出し物が屋台で、道具を取りに一人で調理室に入ったの。そしたらどこからかわかんないけど視線を感じたのよ。すっごく気持ち悪い視線。流石に怖くなっちゃって、急いで教室を出ようとしたら、何か黒い大きなものがサッと目の端に見えたの。あとはパニクって逃げちゃった。」

「一昨年同じ目にあった人については知らないんですか?」

「ああ、卒業しちゃった先輩達ね。由紀子先輩とか、正美先輩だっけ。黒いのを見たって人もいれば視線だけって人もいたみたい。…このくらいしかわからないけど、いいかな?」

 小首を傾げて涼くんを見上げる。あざとい!可愛いを超えてあざといよ!危険を感じて私は間に入った。

「ありがとうございます岩瀬先輩!すっごく役に立ちました!もう大丈夫です!!」

「そう。良かった。頑張ってね?」

 岩瀬先輩は、笑顔は笑顔でも嘲笑を含んだ笑みで私を見上げた。アナタじゃ無理よと言わんばかりにくすりと笑うと、涼くんの横を通り過ぎていった。しかもすれ違う瞬間、涼くんの胸ポケットにさりげなく紙の切れ端を差し込んだ。

「また何かある時は連絡して?できるだけ協力してあげる。」

 涼くんに向かってウインクするとまた歩いていってしまった。なんて大胆なの!?私(馨くんもいるけど)の前で連絡先を書いた紙を渡すなんて!

「岩瀬先輩、目にゴミでも入ったのか?」

「…はあ、お前の鈍感さが時々恐ろしくなるよ。」

「なんて人なの!?!?あり得ないよ!こんなもの!」

「痛っ!おい美弥!ポケットちぎる気かよ!?」

「涼くん絶対もう岩瀬先輩と関わっちゃダメだからね!」

「こんな感じ!もう本当あり得ないよ!」

 午後、自由時間を使って聞き込みして来た美弥さんは興奮気味に説明してくれた。流石あの岩瀬先輩だ…。良いと思った相手には見境ないんだな。影では猛獣系女子と言われているらしい。

「それで涼君の胸ポケット取れかけてたんだ…。」

「だってあの紙涼くんに渡したくなかったんだもん…。氷川先輩もよくあんな人と付き合ったよね!」

「わかってねーな美弥。悪女と知っていても騙されちゃうのが男ってもんなんだよ。」

 どこから聞いてたのか義人君が横からしたり顔で加わって来た。馨君曰く容姿は微妙だけど話術は優れているからと言うことで参加させられたらしいけど、スーツもそれなりに様になっている。

「義人くんには聞いてないもん!経験ないクセに!」

「ひでえな!お前最近オレにキツくね?」

「うるさいよ二人とも!」

 美弥さんと義人君の言い合いに見かねた馨君が裏方に顔を出した。今日は馨君もスーツ姿だ。細身の馨君にはなんだかスーツが大きそうに見える。

「馨くん!スーツ姿可愛い!!」

「それ全っ然褒め言葉になってないから。だからやりたくなかったってのに…。」

 ぶつぶつと文句をいう馨君。今日も調理室に張り込むつもりだったらしいが、先生に見つかって調理室に籠るなと怒られたらしい。しかし、よほど不本意だったのだろう。仕切りにスーツの襟や裾を気にしている。確かに涼君とヨハネス君に挟まれたら悪目立ちしてしまう。ボクも気持ちがわかる。まあボクなんて女装なんだけど。

「でも馨くんのスーツなんて激レアだよ!きっとみんな写真欲しがるよ!」

「どこに需要があるんだよそれ。」

「うるさい義人仕事に戻れ。」

「オレ午前中からずっとじゃん!自由時間は!?」

「君にあるわけないでしょ。この役立たず!」

 さながらシンデレラをいじめるお姉さんみたいな理不尽さだ。義人君にはいつもあたりが強いが、今日は特にひどいな。

「馨くん機嫌悪いねー。」

「今日幽霊見つからないとチャンスは来年だからきっとイライラしてるんだよ。」

「フン。美弥も早く準備して出てよ。涼一人じゃ客が偏るし。」

「はーい!じゃあ午後は裕太くんは自由時間だね!楽しんで来て!」

 そう言って笑顔を見せる美弥さんに気持ちが浮きだつ。しかし、本当は自由時間に美弥さんとあちこち廻りたかったボクは、結局昨日と同じで明子ちゃんと華代ちゃんと廻るだけだ。ここに留まれない事が少し残念に感じた。

「馨くん!ジュースきれてるよ!」

「あ、本当だ。」

「もう馨くんちゃんと確認しないとダメだよぅ。私とってくるね?」

「あ!待って美弥さん。ボクとってくるよ。」

「え!いいの?裕太くん。」

「うん。すぐだしね。それだけやって自由時間とるよ。」

 今日で終わってしまうこの特別なイベントが惜しくて、ほんの少しでも文化祭の中で美弥さんと関わっていたくて、ボクはジュースを取りに行く形で少しの間関わろうとした。てんやわんやの廊下を通り過ぎ、調理室に入る。廊下と調理室を隔てる扉を開けると、急に外の音が小さくなった。やはり特別教室は壁が厚いせいだろうか。馨君が言っていた通り、確かに本を読むのには最適な空間かもしれない。ボクは少し調理室を見回し、オカルト部のスペースを見つけてジュースのペットボトルを数本抱えた。

そそくさと美弥さん達の所に帰ろうと扉の方を向いた瞬間、首筋に嫌な視線を感じた。瞬間、文化祭の幽霊の話を思い出し、背筋が凍る。

「……っ。」

 心霊体験ゼロのボクでもわかる。確実にこの部屋には何かいるんだ。後ろを振り向こうか、でももし見てしまったら…。わずかに保った理性さえ手放してしまう気がした。意を決し、ボクは後ろを向かずに声を出した。

「誰だ!?」

ガラ!

「ひっ!!」



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