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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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番外編1(8)
「結城!おい、目を開けろよ…!」
「……。」
「だから逃げろって言ったのに…俺なんかに関わるから…。結城…。」
「…。」
「な、あ…頼むから………グスッ」
「…何泣いてんだよ。キモい。」
「え…?」
涼が顔を上げると結城が目を開けて迷惑そうな顔をしていた。
「へ、なんで…。」
「近いよ。ちょっとどいて。」
「お、お前…頭打ったんじゃ…?お、俺、死んだのかと思って…」
「君達不良って本当頭悪いよねぇ。なんで頭打って口から血が出るんだよ。てか脈くらい確認したらいいのに。ま、そのおかげで助かったんだけど。」
「あ…お前、もしかして……。」
「そう。演技だよ。口の中にあらかじめケチャップ入った袋いれといて、倒れた拍子に噛みちぎったの。まああの音は割と本当に頭ぶつけたんだけど…。」
「な、なんで…。」
「は?だから、あいつらと完全に関係を断つには、あいつらの方からもう関わりたくないって思わせるのが楽だと思ったんだ。でも、喧嘩で全員打ち負かすなんて君みたいな事僕には出来ない。警察を呼んでも説教されるだけで後々報復されるだろうし、おそらく僕達もお咎めがあるだろう。で、僕に重傷を負わせたと思わせられたら今までの軽い犯罪と違って本当に警察のお世話になりかねないと思うんじゃないかとね。」
「そ、そうか…。」
「ま、あのボクサー崩れに殴られてたら本気でヤバかったけど。そうならないように雑魚を引きつけたんだけどさ。よいしょ、さて、病院行こう。歩ける?」
「あ、ああ…なんとか。」
結城は立ち上がって服を軽くはたいた。それから涼を起こし肩を貸すと、二人は河原を歩き始めた。
「怪我、してなかったんだな……良かった…。」
「まあ、ちょっと頭ぶつけたけど大丈夫。慣れない事はしない方がいいね。」
「そうか…。でも、なんでお前、あんなとこにいたんだ?」
「歩いてたら君たちが橋のしたに入って行くのが見えて、時機が来るまで隠れてた。」
「そうじゃなくて…今日普通に学校だろ。」
「ああ。今日推薦の受験日だから。」
「へえ…ってええっ!?痛っ…。」
「耳元でうるさいな。怪我人なんだから静かに話せよ。」
「お、お前!じゃあ推薦は…?」
「まあおしまいだね。ま、君を放って受かっても後味悪いし。後悔してないよ。」
「…すまない。俺のせいで……。」
「…三上くんてさ、優しいね。自分は酷い怪我してるのに、よく他人の事気にしてられるよね。」
「……。お前だって、俺なんかのためにこんな事…。普通しないだろ。」
「僕には目的があるんだ。それよりさ、前にも言っただろ、喧嘩が好きじゃなさそうって。なんで不良なんてやってたの?」
「……。」
「…別に言いたくないなら無理に聞かないけど。」
「…俺、やりたい事がなくて、毎日に意味が見出せなくて…さ。勉強も何のためにやってるのかわからなくて、そんな自分も嫌で、イライラしながら日々を過ごしてた。」
「……。」
「そんな時カツアゲしてる不良を見つけて、そいつを打ち負かしてやったら、実はそれがうちの中学の番長だったらしくて…。知らない間に名前が広まって、喧嘩売ってくるやつが増え始めたんだ。面倒だったから適当に相手してるうちに次期番長とか大黒天とか話に尾ひれがつき始めて、それを聞きつけた南高の奴らが声をかけて来たんだ。」
「なんでそれでつるむようになったの?明らかに良くない奴らだってわかるだろ。」
「…居場所が、欲しかったんだ。両親は仕事で基本家にいないし、番長とか言われ始めてからは周りにも距離をおかれ始めて、怖がられたり、避けられたり。それで、あんな奴らでも俺を必要としてくれるなら…って。馬鹿だよな……。」
「全くだね。」
「本当はっきり言うよな…。」
「でもさ、やりたい事がないからっていろんな事を放棄するのは勿体無いと思うよ。」
「…?」
「僕はやりたい事が沢山ある。絞り切れないくらいにね。だから将来、一番やりたい事をやる時のためにいろんなカードを残すことにしてるんだ。」
「カード…。」
「そう。知識、財力、学歴、体力なんかもね。やりたい事をやる時に、それに必要な力が足りなかったら余計な時間がかかるだろ。そんなの勿体無いと思わない?」
「…そうだな。でも、俺は今更遅いよ。今から勉強したって偏差値の低い南高くらいしか入れないな。」
「…僕がただ偽善的正論言ったんだと思ってんの?」
「は?」
結城は涼をまじまじと見つめ、それから心底呆れたようにため息をついた。
「はあ…。でもさあ、僕が助言した次の日に行動するなんて、単純ていうか、従順だよね。素質あるよ。」
「な、それは…。てか何だよ、素質って。」
「僕はカードが欲しい。君のその力と性格は僕にとって強力なカードになる。」
「は?あのさ…それとさっきの話どうつながるんだ…?」
「僕は一般受験で北奎宿高校を目指す。あと一ヶ月弱で受験日だ。君にもそこを目指してもらう。」
「は?!北高って…この辺りの市立で一番頭の良い学校だぞ!俺の学力じゃ無理だ…。」
「僕がつきっきりで教えてやる。絶対に合格させるから。」
「…。なんで、そこまでしてくれるんだ…?結城…。」
「馨でいいよ。僕も涼って呼ぶ。…君が必要なんだ。僕が君の居場所になってやるよ。」
「なっ…。」
「わかったら『お願いします』って言え。」
涼は結城の顔を見上げた。結城は真っ直ぐ進む方向だけを見つめて歩いている。その横顔には全く迷いなんて見つけられなかった。
「……お願い、します。」
「うん、明日からみっちり勉強だから。覚悟しとけよ。」