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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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Zodiac Murder(7)
「う……?」
気がつくと、頭に鈍痛がした。どうやらまだ生きているようだ。あたりを見渡すと、薄暗いが学校の化学室にいるみたいだ。幸い男もどこかに行っているらしい。今がチャンスだと思い、起き上がろうとしたが、両手両足を縛られていて起き上がれない。口にもガムテープか何かが張られていて大声も出せそうにない。どうにか出来ないかと床を這いずり回っていると、不意にドアが開いた。あの男が戻って来た!男はボクを睨むと舌打ちをした。
「チッ。てめえ何勝手に動いてやがる!」
男の蹴りがボクの脇腹にヒットした。あまりの痛みに体を丸めると、男は鼻で笑った。
「ふん。そうやって大人しくしてりゃいーんだよてめぇは。儀式の準備が終わるまでせいぜい神に祈るんだな。」
そういうと男は祭壇の様なものを組み立て始めた。ああ、このまま助けが来なければボクは死ぬのか。まだ十五年と少ししか生きてないのに。せっかく素敵な人達と出会えたのに。母さん達にも全然親孝行できてないのに。そう思うと、ボクは恐怖よりも悲しみや寂しさで涙が出た。山里さんや戸田君もこんな気持ちだったんだろうか。なのにボクは軽い気持ちでこんな奴に感謝したいだなんて、馬鹿だ。
そうこうしているうちに、儀式の準備が終わったらしい。男は右手に前に襲われた時見た短剣を手にしていた。その短剣はよく見ると細かな装飾が施されたかなり古いもののようだ。男は覆面の下に薄気味の悪い笑みを浮かべなからがこちらに近寄って来た。
「心配すんな。お前は神の贄となるんだ。光栄なことなんだぞ」
「う、うー!んー!!」
必死に逃げようとするボクの肩を乱暴に掴み、仰向けにすると、口のテープをはがした。そしてボクの上に馬乗りになると、ブツブツと何かを唱えながらボクの首を徐々に締め上げて来た。本当にもう終わりだと思ったその時──。
ガン!
「おい!」
「「!?」」
不意に男の手が離れた。咳き込みながら見上げると、三上君が男の腕をひねり上げていた。
「柿本、大丈夫か。」
「み、三上君!?一体どこから?」
「くそっ!またお前かっ!」
「涼!」
次いで結城君や美弥さんが飛び出して来た。……ロッカーから。
「な、なんで皆そんなとこに…。」
「あ、ゆ、裕太君…!ち、違うんだよ!?け、決して馨くんがどんな儀式をするか見たいからってぎりぎりまで放っておいた訳じゃないからね!」
「美弥…。全部自白してる。」
「ぇえ!?あの、だから、違うんだって!だって言うこと聞いたら涼くんのブロマイドくれるって言うから!」
「お前どんな約束結んでるんだ!つかなんで勝手にそんなもん作ってるんだよ!」
「よく売れるんだよ。」
「そういうことじゃねー!」
「そんな事よりコイツの覆面とれよ。ほら。」
結城君はそういうといやがる男の覆面を無理矢理取った。…すると。
「え、ウソ…。」
「「田口!?」」
「…って誰だっけ」
「はあ!?てめぇ忘れんなよ結城!同じクラスだろうが!」
「……ふーん。まあいいけど。で、この祭壇は何?儀式って一体どんな?詳しく説明してもらおうか。」
「は、な、何言ってんだよお前!この状況わかってんのかぁ!?おめえらもなんとか言ってやってくれ──」
「…いい加減にして!!!」
「「「「!?」」」」
「か、柿本…?」
「冗談じゃないよ!人が殺されそうになったって言うのになんなんだよ!儀式が見たい?馬鹿な事言ってる暇があったらこれをほどいてよ!!」
「「「「………。」」」」
……あ。つい、叫んでしまった。自分でもこんなに感情が爆発するとは思わなかった。でも、なんだか吹っ切れてしまった。
「か、カキゴオリ君…?」
「ボクの名前は柿本裕太だよ!そんなに覚えられないならもう裕太でいい!」
「す、すみません…。」
「え、と…裕太…?すまん。今解くから。」
未だ口をあんぐりと開けている美弥さんと落ち込む結城君、おそるおそるボクの縄を解いてくれる三上君を尻目に、ボクは田口に近づいた。
「…どうしてこんな事したの?」
「はっ。お前に関係ないだろ。パシリの柿本。」
「関係なくないよ。田口は殺される恐ろしさなんて感じた事ないでしょ。ボクはぎりぎりで三上君達に助けてもらったから死ぬ事はなくてすんだけど、山里さんや戸田君は救われる事なく恐怖の中で息絶えていったんだよ。彼らをそんな風にした君には理由を話す義務があるはずだ。」
「…裕太くん。その人はいかがわしい儀式の為に人を殺す様な人だよ。まともじゃないよ…。」
「………んだ。」
「え?」
「いやだったんだ!!学校では宇都宮にこき使われて、逆らえばいじめられる…。成績もどんどん落ちて来てるし、相談できる様な相手もいない!不安と行き場のない怒りでどうにかなりそうだったんだよ!そんな時に教会の人に…。俺は、俺はああああ!」
田口はそのまま崩れるように座り込むと慟哭した。やがて、その声が初夏の夜に溶けてなくなるまで…。
またいつも通りの朝がやって来た。朝礼で昨日犯人が逮捕されたという発表があったことには、流石にみんな驚いていたようだけど、他人事で、まるで昨日のテレビ番組の話でもしている様な感じだった。
「裕太!」
「あ、義人君。どうしたの?」
「いや、昨日の事謝ろうと思ってさ…。ほんとごめん。」
そういうと義人君はすまなそうにお菓子の詰め合わせを差し出した。
「そんな、気を使ってくれなくても大丈夫だよ。もう気にしてないよ。」
「いや…。俺が結城達に頼まれてお前をわざと一人にした所為であんな危ない目に遭わせちまった訳だし。俺の気持ちだと思ってくれよ。」
「う、うん。ありがとう…。」
「おい、大丈夫か?まああんな事があったばっかりだもんな。具合悪いなら保健室までついてくぜ?」
「う、ううん。大丈夫だよ。」
「じゃあなんだよ。…あっ心配すんなよ!こう言っちゃなんだけどこの菓子は美弥の手作りじゃないからさ。」
「いや、そんなつもりじゃないよ。田口君の事をずっと考えてたんだ…。……田口君って、宇都宮達に脅かされていたり、不安な事を打ち明けられる友達がいないなんて、ボクとそんなに変わらない状況にいたんだなと思って……。ボクも、一歩間違っていたらもしかして…って思うとさ。なんか…。」
「裕太とアイツは全然違うと思うぜ。」
「え…?」
「だって、お前は相談できる仲間がいるじゃん。俺とか、な。」
「そうだよ裕太くん!」
「相談くらいなら聞いてやるよ。涼が。」
「また俺かよ!…ま、構わないけどな。」
「みんな…本当に有り難う。」
「お礼を言われる様な事はしてないよ。入部もしてくれた訳だし。」
「うん。そんな──……え?入部って…どういうこと?」
「あれ?言ってなかったの涼?」
「よくも白々しく…。はぁ、まあ今更だからな…これ。」
鞄から取り出したチラシをボクに渡してくれた。
「…これは、前にボクが書いた依頼の。」
「裏を見てみろ。」
チラシをひっくり返すと、裏側は真っ黒だった。…その時、ボクは悟った。
「…これって、カーボン紙。」
「ご名答。その裏にくっつけておいた入部届けはもう顧問に提出しちゃったからね。」
「ご、ごめんね裕太君。別に騙すつもりはなかったんだけど…。」
「すまん…。」
「─……ったく。アンタ達はやる事がえげつない事ばっかり。…いい加減うんざりだよ。」
「ゆ、裕太…?」
「今度こういう事やったら本気で怒るよ!馨君!涼君!」
きっとボクが怒ると思っていたのであろう、一瞬驚いた様な顔をされたが、次に見せてくれた彼らの笑顔はボクの新しい人生の幕開けの合図となったのだ。
ここからが、本当の始まり。
Fin
高校に入る直前に書いたものです。
一話で終わるつもりだったんですが、何となくシリーズ物になってしまいました…。
完結させたいです。
それではまた、次回作で。