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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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第四話 Tragedy of table turning(4)


Tragedy of table turning(4)



翌日の昼休み、ボク達は馨君に呼ばれ、何故か会議室で行われる合同部活動会議に出席していた。

「それでは、これより今週の合同部活動会議を始めます。出席を取りますので呼ばれた部活動の人は返事を──…」

 生徒会長が明瞭な声で始めの挨拶をする。合同部活動会議とは、週に一度、昼休みに各部活の部長が集まって行う会議の事だ。各部活動の向上の為のもので、一応生徒会長と副会長も出席する公式の集まりだけど、週に一回も集まれば話すことも特になく、生徒会長が事務的に近況報告をして終わるような形だけのものらしい。馨君に呼ばれて無理矢理出席させられたが、何をしていいかわからず手持ち無沙汰だ。仕方が無いから黙々と昼食のパンを食べながら生徒会長の様子をぼんやり眺めていた。朝礼で遠目でしか見たことのなかったが、長いストレートヘアを後ろに下ろした背の高い彼女はとても利発そうで、いかにも『生徒会長』といった雰囲気だ。ただ、柔和な表情の副会長と違い、どこか神経質そうな瞳と事務的な態度が、人を寄せ付けない雰囲気をはらんでいる。

「──…では、特に質問もないようなので、本日はこれで解散いたします。ありがとうございました。」

 彼女の一言に、生徒達が一斉に雑談しながら席を立っていく。ボク達もそのまま帰るのかと席を立つと、馨君に上着を引っ張られた。

「どこ行く気だよ裕太。」

「えっ。会議終わったから…。」

「僕がただ会議に参加させる為だけにお前達呼んだと思う?」

「俺毎回参加させられてるんだけど。」

「涼は一応副部長扱いだから。それより、生徒会長!」

 馨君に呼ばれ、生徒会長がこちらを振り返る。自分を呼んだ相手が馨君だとわかると、彼女は眉間に少しシワを寄せた。

「…何ですか、結城君。部活動の質問なら会議中にして下さい。」

「相変わらず僕にはトゲがあり過ぎませんか?生徒会長としても先輩としてもどうかと思いますよ。」

「貴方に言われたくないわね…。もうちょっと後輩らしく可愛げのある態度とったらどうなの?」

「貴女こそもう少し愛想よく振舞った方が可愛いですよ。ただでさえ僕よりデカイんですから。」

「なっ……!」

「ちょ、馨君!」

 馨君の言葉に会長の顔が引きつる。まずい。女性にそんなストレートな悪口は絶対に避けるべきだ。彼女の瞳にみるみる怒りが満ちて行く。必死に怒りを押し殺した様子で彼女が口を開いた。

「…今のはセクハラよ。結城君。」

「か、馨!謝れ!すみません、悪気はないんです。」

 どうやら、生徒会長と馨君は大分仲が悪いらしい。飄々とする馨君に対し、彼女は険悪なムードを隠す気すらないみたいだ。この調子だと、恐らく馨君は今までも随分生徒会長に迷惑をかけて来たようだ。涼君の必死な様子になんとか怒りを抑え込んだ彼女は気を取り直した様子で続けた。

 「もういいわよ。…全く、貴方達の問題行動を誰が許してあげてると思ってるの?」

「す、すみません!部費の件は本当にありがとうございました。」

「本当にね。三上君、貴方ももう少ししっかり結城君を見張っててくれない?本に部費を使うならまだしも、カツラや制服なんて、いつから貴方達は演劇部になったのかしらね。」

「活動内容に文句言われる筋合いはありませんが。」

「馨!なんでお前はそういう言い方しか出来ないんだよ!」

 またもや彼女の顔が険しくなる。涼君が慌てて馨君を怒るが彼女の機嫌は治らない。それにしても、カツラや制服って、河童の噂の時に使ったものの事だろう。犯人の平川君を騙す為に馨君と美弥さんが変装したんだ。確かに、不審に思われても仕方ない買い物だよな…。ボクまで申し訳なくなってくる。

「結城君。生徒会長は生徒を健全な方向へ導く義務があるんです。その為には部活動の把握も必要です。ただでさえ問題行動が多いのだから、これ以上問題があるようなら部活動停止に──」

「へえ、じゃあ『お使いエンジェルさん』は健全な遊びなんですか?羽淵百合乃生徒会長。」

 『お使いエンジェルさん』という言葉を聞いて、生徒会長、羽淵先輩の顔色が変わった。

「えっ。羽淵ってあの古賀先輩の言っていた…?」

「…比奈から聞いたのね。何?今度はこっくりさんについて調べてるの。あんなのくだらないただのごっこ遊びじゃない。」

 本当に困った子、と呟き視線を外す羽淵先輩に馨君が詰め寄る。

「本当にくだらないごっこ遊びなんですか?古賀先輩が言うにはあの遊びを行った女子のうち、三人が大きな怪我をしているそうですが。」

「だから何?彼女達は本当に気の毒だと思うけど、生徒会長として出来るだけのことはしてるつもりよ。」

「あの…、羽淵先輩も一緒に『お使いエンジェルさん』をやったんですよね?三人とは友達じゃなかったんですか?」

「…いいえ、私は大して仲良くなかったわ。彼女達は比奈とよく一緒にいたけど。」

「じゃあ、古賀先輩の繋がりで参加したんですね。」

「ええ。それに、一応推奨されていない遊びですもの、監視役として参加したわ。」

「そんなことより!羽淵先輩、貴女が本当にエンジェルさんを喚び出したんじゃないんですか?」

「…どういう事よ。」

「羽淵って苗字、凄く珍しいですよね。『はぶち』や『はねぶち』と読む場合は全国にありますが『はねふち』と読む場合は少ないそうですよ。調べてみたら、先輩の苗字ってこの地域だけのものだそうですね。以前は河盛村で絶大な権力を持っていた神社の家系だとか。」

「…そうよ。だから何?」

「先輩の神社では毎年神降ろしの儀式をして今年の吉凶を占う行事があるんですよね。巫女の血を継いでいる貴女がこっくりさんという降霊術を行えば、計らずも霊を喚び出してしまう可能性もあるんじゃないですか?」

 この辺りの大きな神社といえば、河盛神社の事だろう。水神様を祀っているという比較的有名な神社だ。まさか先輩がそこの神主さんの家系だったとは…。結城君のまくし立てに、羽淵先輩は眉間を押さえて呆れた。

「はあ…。結城君、漫画の読み過ぎじゃないの?私が霊感少女だとでも思っているようだけど、そんな力ないわよ。それに、そんな馬鹿げた詮索は酷い怪我をした彼女達に失礼だわ。」

 そういうと、先輩は踵を返して部屋を出る準備をし始めた。

「…古賀先輩や貴女も、エンジェルさんに狙われるかもしれないんですよ。」

「もうその話は終わりよ。教室を閉めるから早く出て行きなさい。もうすぐ午後の授業が始まるわ。」

 半ば強引にボク達は会議室から出され、その後は羽淵先輩は話してくれなかった。


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