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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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夜になっても変わらず賑わい続ける新宿の街。いや、むしろ夜の方が人の数が増えて感じるかもしれない。東口を出て少し行ったところにあるネオンの灯りに彩られたここは通称二丁目。ゲイバーが数多く軒を連ねる場所である。その中の一軒、『三匹の豚』という小さなバーに十楽寺とレイはいた。
『今宵のシンデレラにガラスの靴はいらない。二十四時間美しいあなたのままでいよう。葉王化粧品の『シンデレラファンデ』新発売。』
「これこれ!これ巷ですっごい人気なのよー。結構バッチリ塗り込めるからアタシ達も昼間も安心なのよね。おまけにお肌も荒れないし!」
ムーディーな照明と音楽の中、店の奥についたテレビを見るともなしに見る十楽寺にハイボールを出しながら大柄の人物が話しかける。
「ああ、葉王の新商品ねえ。」
「なによ興味なさげね!」
「だって僕ら女装趣味じゃないもん。ねえレイちゃん?」
「…。」
隣でオレンジジュースを飲みながら静かに頷くレイを見て大柄の人物、三子(みつこ)は腰に手を当ててため息をついた。彼はここの店主の女装家である。何故そのチョイスなのか薄地のぴっちりとしたドレスが厚い胸板のせいではちきれそうになっている。
「レイちゃんはいいわよ化粧なんてしなくても綺麗な肌だもの。うらやましいわ~。」
「三郎ちゃんも結構綺麗な肌じゃない?顔のラインさえ隠せばもっといいと思うよ!」
十楽寺のにこやかな笑顔の前に包丁が突き立てられた。十楽寺の表情がそのまま固まる。頭の上からひときわ野太い声が降ってきた。
「次その名前で呼んだらコロス。」
「ゴメンナサイ三子サマ。」
本名で呼ばれることを極端に嫌う彼のご機嫌を取りながら十楽寺はハイボールを煽った。男性ホルモンの影響をもろに受けた角ばった顔をした三子の怒り顔は圧巻である。
「まったくもう!余計なお世話なのよ!」
「いやあそれはそれで似合ってると思うよ…。そのショートボブ。」
「ありがと。ねえそれより見てよこの上腕二頭筋!一カ月ジムで鍛えまくって一回り大きくしたの。そそらない?」
「うわちょっとそれ以上筋肉に力入れるとドレス破れるよ!」
微笑みながらレイの二倍はありそうな腕を隆起させる見るに堪えない光景に十楽寺が制止すると、三子は不満そうに頬を膨らませた。
「もう!伸縮性高いから大丈夫よ!まったく九ちゃんはレイちゃん一筋なんだから!」
三子の言葉にレイが表情を変えずに首を振る。十楽寺も困ったように眉をはの字にして返答する。
「違うよ。僕たちそういう関係じゃないって!」
「あら、あんた達付き合ってんじゃないの?」
「最近よく間違えられるんだよねー。いっそ付き合っちゃう?」
「…。」
ふざけて抱きつこうとする十楽寺をレイが華麗に避けたせいでそのまま椅子からずり落ちた。レイは若干眉間にしわを寄せながら左右の人差し指を交差してバツマークを作っている。
「あいたた…。冗談だってば!」
「ちょっと!いい大人が店内で暴れないでよ!」
「九喜、レイちゃん。何やってんの。」
この場所に似つかわしくない甲高い声が聞こえて振り向くと、入り口の前に奈々美が立っていた。
「あら奈々美ちゃん!また可愛くなったわねえ。これ以上綺麗になったら入店禁止よ!」
「ハイハイ。一週間前にもそれ聞いたよ。で、今日どっか食べに行くんでしょ?」
「そうでした!予約入れてたの忘れる事だったよ。じゃあまたね三子ちゃん。」
「あらどこ行くの?」
「近くの京懐石料理店。ちょっと収入があったからね。またゆっくり飲みに来るよ。」
十楽寺はそういうと代金を手渡し、二人を連れて足早に出て行った。
「全く慌ただしいわね。」
ため息をつきながらコップを片付け、三子は他の客の相手をする事にした。店には相変わらずムーディーな音楽と客と従業員による喧騒が充満している。
大勢の人間が右往左往行き交う街、新宿。サラリーマン、学生、ホスト、浮浪者。普段接点のない者同士がすぐ真横を通り過ぎていく。例えそれがどんな人間であってもきっと誰も気にしないだろう。だが、もし何かのきっかけで彼らに関わってしまうことがあれば気をつけなければならない。何故なら彼らは最強の味方にも、最恐の敵にもなり得るのだから。
fin