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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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Pyrokinesis girl(2)
「アイリス・プリムローズね。知ってるよ。この義人様に知らない人間なんていねえからな!」
義人君は自慢気にメモ帳(北高一年四組リストと書かれている。)を翳しながらニカっと笑った。あの後、彼女、水野さんは用事があったらしく、すぐに帰ってしまったので、調査は次の日からになったんだ。今は昼休みで、弁当を食べながら義人君に情報を提供してもらっているところだ。
「同じクラスだろ。」
「そこは言うなよ結城!」
「それより、アイリスなんとか…って、ハーフなのか?」
「純日本人だよ。両親共々河盛市の生まれだぜ。本名は水野小梅。」
「じゃあなんで…。」
「…まあさ、なんつうの?空想の中の自分の名前っていうか、こーだったらいいなーって奴よ。名前がコンプレックスらしい。」
つまり、彼女は自分を主人公にして別次元の設定で妄想をしているっていう事らしい。なんと言うか…それってつまり。
「厨二病患者って事か。」
「まあお察しって奴さ。変わってるけどよ、根は良い子だぜ。可愛いしな!」
「で?当然もっと詳しい事知ってるんだろ?知ってること全部話して。」
サンドイッチ片手に馨君が催促する。あっという間に弁当を食べ終わって菓子パンまで食べている義人君は顔をしかめながらメモ帳をめくる。
「わーってるよ…。…えーっと私立阿加保乃中学卒業、自宅は東中の近く。父親は銀行員で母親は主婦。美術部所属。クラスの女子とは積極的ではないものの関係は良好。同じ美術部の川嶋麻里と特に仲がいい。好きな物はヌイグルミ、スイーツ。嫌いな物は虫、辛い物…。」
「そう言うのはいいよ。もっと火に関係しそうな事ないの?」
「あ?うーん…あ、二カ月前に自宅で小火があったらしい。出火元は自分の部屋だとよ。」
「寝室で小火か…それらしいじゃないか!詳しく聞きたいね!」
「今んとこアイリスについて知ってることはそんくらいだよ。別に特に詳しく調べたわけじゃねえからな。」
特に詳しく調べたわけじゃなくそこまで知っていれば十分だ。ボクなんて、気になっている相手の事だってさっきの半分も知らない。
「使えないな。詳しく調査よろしく。」
「本当人使い荒いな…。ありがとうくらい言えねーのかよ!」
「落ち着けよ義人。明日の昼奢るから。」
「えっいいのか涼!?」
「別に大したことないからな。」
「いつもお世話になってるしね。ボクもジュース奢るよ。」
「優しいな二人とも…。結城も見習えよ!サンドイッチなんて食ってお高く止まりやがって!」
「なに?恵んで欲しいの?ハム一枚ぐらいならいいよ。」
「ちげえ!!」
憤慨する義人君を宥めたところで予鈴が鳴ったので解散となった。
「えーもう義人君に情報貰っちゃったの?」
放課後、美弥さんにお昼の事を話すと、ちょっと残念そうな声を上げた。美弥さんはお昼は大体自分のクラスで女子の友達と食べているので、事前に連絡しなかったのだ。
「私も聞き込み調査して来たのにー。」
「へえ。美弥にしては手際が良いじゃん。」
「えへへ。実はアイリスちゃんの名前出したら結構有名だったみたいでみんな話してくれたんだよね。」
そう言いながらノートを開いて話してくれた。
「女子の間ではあの見た目と話し方で目立ってるみたい。最初は反感買いがちだったみたいだけど、話すと明るくて優しいし、ノリもいいから今では打ち解けてるんだって。」
「馨と逆だな。」
「お前の腕を逆に曲げてあげようか。」
「やめろそれはマジで折れる!」
馨君が腕を引っ張って肘の関節を膝を使って折ろうとするのを必死に止める涼君。二人のじゃれ合いを見て美弥さんが頬を膨らませた。
「馨くんばっかり涼くんとっちゃってずるい!私も入れて!」
「美弥さん、涼君本当に腕折れちゃうよ。」
「それで?聞いてきたのはそれだけ?」
「そんな事ないよ!『アイリス』ちゃんて言うのは自作の小説の主人公の名前なんだって。いつも肌身離さず持ってるっていうノートにイラスト付きで書いてるらしいよ!一回部活中に見ちゃった子がいたらしいけど、王子とか魔女とかが出てくるメルヘンな内容なんだって。それも随分長く書いてるらしくて、A4サイズのノートいっぱいにびっしり文章が書いてあるらしいよ。」
言い方が悪いけど、見た目に似合わず根暗な趣味なんだな…。でもキャラクターの名前を名乗っているんだからある意味開放的な性格なのかな。
「イタイね。」
「ばっさり言うなあ馨くん。女の子なら行動に移すかは置いといてそんな妄想くらい誰だってするんだよ!私だって…。」
顔を赤くして涼君を上目使いに見つめる美弥さん。涼君はその目に一切気付く様子もなく肘辺りをさすっている。彼女の気持ちが報われる時は来るのかな。少し胸が締め付けられる。
「もう涼くんのばか!」
「うわなんだいきなり。」
「今更言わなくても、いつも馬鹿だもんな。」
「そういう意味じゃねーよ!」
その時また静かに扉が開き、巻き毛の頭が覗いた。
「お邪魔しますわ。今日も良いかしら?」
「あ!アイリスちゃん!どうぞ、入って入って!」
「ありがとうございますわ木下さん。」
「いえいえ、今お茶出すからね!」
「あら、お構いなく。」
「それで、今日はもっと詳しく教えてくれるんだよね?えーっと、アイス…だっけ。」
「アイリスだろ。」
「ええ、もし皆様がよろしかったら今から家にご案内しますわ。現場をお見せします。」
「こんな大人数で行って大丈夫なの?水野さ──」
「アイリスですわ。構いません。お母様にも言ってありますの。」
水野さん、もといアイリスさんの言葉に従い、ボク達はアイリスさんの家にお邪魔することになった。アイリスさんの家は東中の近くで、洋風のおしゃれな一軒家だった。アイリスさんが玄関のドアを開けると、奥からお母さんらしき中年の女性が出てきた。
「お母様。こちらオカルト部の皆様ですわ。」
「ど、どうも。」
「あら、アイリスちゃんから話は聞いてますよ。部活なんですって?」
「はい。大人数ですみません。お邪魔します。」
「いいのよ。後でお茶とお菓子持っていくわね。」
ニコニコと対応してくれるアイリスさんのお母さん。おしゃれな巻き毛が何処と無くアイリスさんに似ている。
「アイリスちゃん、お母さんにもその呼び方されてるんだね。」
「だってこっちの方がしっくりくるんですもの。こちらが私のお部屋ですわ。」
アイリスさんに案内されるまま階段を上ると、突き当たりのドアの前に着いた。可愛らしい字で『アイリスの部屋』と書かれたコルク版の掛かったドアを開けると、ピンクと白で統一された部屋があった。…なんと言うか、アメリカ風の甘いスイーツで部屋をデコレーションしたっていう感じだ。
「うわあ可愛いお部屋だね!あ、このぬいぐるみ可愛いー!」
「落ち着かない部屋だね。」
「馨君!」
「男の人にとってはちょっと居心地が悪いですわよね。ごめんなさい。」
「いや、そんな事ない。馨も謝れよ。」
「そんな事より現場ってどこ?見た感じなんてことないけど。」
「見苦しいから隠してありますの。今お見せしますわ。」
アイリスさんは苦笑した後、机の前の壁に貼ってあるポスターを剥がす。そこには焦げた茶色のシミが広がっていた。
「最初の発火で、ここに置いてあった人形が燃えてしまったんですの。お気に入りだったのに。」
「うわあ…怖いね。」
「パイロ…なんとかってのは超能力なんだろ?火が操れるんじゃないのか?」
「超能力を題材にしたマンガや映画が流行ってるから勘違いしてる人も多いけど、超能力だからって自分の思い通りに操れるとは限らないんだよ。特にパイロキネシスは自分の意思とは関係なく火がついて家が全焼したり、時には自分自身が燃えてしまう事もある。」
「人体発火だね!」
「人体発火って超能力の一つなんだ…。」
「そうだよ。1951年のメアリー・リーサーの事件が有名かな。床や壁は殆ど無傷なのに、彼女はスリッパと足首だけを残して燃え尽きてしまったんだ。」
流暢に話す馨君の横でアイリスさんの肩が震えた。彼女の顔を見ると、眉を眉間にぎゅっと寄せて目を潤ませていた。今にも涙が零れ落ちそうだ。
「え、ちょ…!アイリスさん、泣いてる!?」
「えっ大丈夫か!?」
「だ…大丈夫ですわ…。私もそうなったらって、ちょっと想像したら、怖くなってしまって…。」
「馨、もうちょっと言い方に配慮しろよ。」
「お前が質問したからだろ、涼。」
「ちょっと休んだ方が良いよアイリスちゃん!ベットに座ろう?」
美弥さんに支えられながらベットに腰掛け、深呼吸を繰り返す。確かに自分がそんな能力に目覚めてしまったら気が気じゃないだろう。寝ている間に焼死してしまうかもしれないなんて、笑い事じゃない。その時、部屋のドアが開いて、彼女のお母さんが現れた。しかし、アイリスさんの様子を見てニコニコ顏が一気に青ざめた。
「お茶とお菓子を持ってきたんだけど…。何かあったの?アイリスちゃん。」
「なんでもありませんわお母様。そこに置いておいて頂戴。」
「ええ…。何かあったら言ってね。お母さん何でもするから。」
「心配ありませんよお母さん。彼女少し疲れているみたいです。僕達がついてますから大丈夫ですよ。」
紅茶とケーキを持ってきてくれたアイリスさんのお母さんに、馨君が爽やかな笑顔で対応する。そういえば馨君は大人に対してだけは八方美人なんだった…。キラキラしたものが周りに見えるくらい完璧なその微笑は、普段の馨君を知ってる側からするとすこぶる不気味だ。
「そう?アイリスちゃん、とっても感受性豊かで、繊細な子だから。皆さん気を使ってあげて頂戴ね?」
「はい。なので僕達で話を聞こうとしていた所なんですよ。」
彼女のお母さんは、馨君の(胡散臭い)笑顔と娘の顔を交互に見てから、少し考えた後、困った様に微笑んだ。
「…そうね。お友達同士の方が話しやすい事もあるわよね。それじゃあ皆さんゆっくりしていってね。」
「ええ。ありがとうございます。」
ドアが閉まり、階段を下りて行く音が聞こえなくなってから、馨君はいつもの仏頂面に戻った。
「過保護な親だね。神経使うよ。」
「お前のその変わりようを見たら余計心配されそうだな。」
「僕が誤魔化さなかったら余計に詮索されたかもしれないんだから感謝してよね。」
「アイリスちゃん、ちょっと落ち着いた?紅茶飲む?」
「ありがとうございますわ木下さん。…ええ。少し落ち着きましたわ。」
お母さんの用意した紅茶を飲んで一息着いた彼女は、落ち着いた様子で話し始めた。
「…初めは、お部屋でアロマキャンドルをつけた事からでした。最近流行っているでしょう?でもちょっと目を離している間に隣のお人形が燃えてしまったんですの。」
「それってただ燃え移っただけじゃないの?」
「そんな事ありませんわ!だって隣に置いてあったと言っても三十センチも離れてましたのよ?しかも、お人形だけが燃えて…まるで人体発火みたいに他の物は殆ど燃えずに……。」
そう言って彼女は口元を押さえた。また涙がこみ上げているようだ。よほど参っているらしい。しかし、今度は美弥さんに背中を摩られてすぐに気を取り直した。
「それが君の言うパイロキネシス?」
「…いいえ。それだけで終わらなかったんですの。友達の麻里さん、川嶋麻里さんのお家へ遊びに行った帰り、玄関を開けたら麻里さんのお家のゴミに火がついていましたの。幸い発見が早かったので大した被害にはならなかったのですが、もし放っておいたら家まで火が燃え移っていたかもしれないと…。」
「怖いね…。」
「麻里さんは私の一番の友人ですの。お人形もお父様がフランスで買ってきてくださった私のお気に入りでしたし、こんな立て続けに私の大事な物や人が燃えるなんておかしいですわよね?やっぱり私はパイロキネシスに目覚めてしまったんですわ!」
必死な様子のアイリスさんを無視して、馨君は顎に手を当てて何か考えている。
「…その燃えたっていう人形はないの?」
「え?ああ…燃え残りがあったのですけど、あまりにひどい状態なので捨ててしまいましたわ。」
「そう…。」
おざなりな返事をしながら机の前に立って何か調べる馨君。どこから出したのか虫眼鏡でくまなく観察したり携帯で写真を撮ったりしている。
「何かわかりそうなのか?」
「まだわからないよ。でももし本当にパイロキネシスだとしたら僕としては嬉しいけど、下手をしたら死んじゃうからね。」
「……そうですわよね。」
「アイリスさん…。」
「…よし!じゃあ私達でアイリスちゃんを警護しようよ!」
落ち込んだ様子のアイリスさんを見て美弥さんが元気いっぱいに立ち上がって言う。
「お家の中までは見張れないけど、一緒にいればもし火がついてもすぐに対応出来るでしょう?」
「い、良いんですの?木下さん…。」
「四人で分担すれば大した事ないよ!ね、馨くん!」
「いいよ。…もしかしたら自然発火の現場が見れるかもしれないし。痛っ!何すんだ涼。」
「言っていいことと悪いことがあるだろ。」
「もし本当に燃えたら笑い事じゃすまないからね。」
「皆さん…。ありがとうございますわ!」
少し元気を取り戻した様子でアイリスさんが微笑んだ。その日はアイリスさんの家の前で解散となり、帰り道、アイリスさんの警護について話し合った。
「やっぱり登下校は美弥さんはやめた方がいいよ。」
「この辺は不良が多いし、暗くなったら危ないからな。」
「えへへ。ありがとう二人共!じゃあ代わりにお昼休みは私が警護する!男子に囲まれてお昼するのは気がひけるだろうし。」
「そうだな。」
「授業中はどうするの?」
「授業中は義人に任せるよ。」
そう言って馨君は義人君にメールを打ち出した。なんだか今回はまるで探偵みたいな気分だ。美弥さんが張り切った声をあげる。
「よし!明日の朝から決行ね!三人ともよろしく!」