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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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Pyrokinesis girl(3)
翌朝、寒い中無理矢理起きて学校とは反対側のアイリスさんの家へ行く。眠気と戦いながらようやく玄関の前に着くと、馨君がすでに待っていた。
「馨君、おはよう。涼君はまだ?」
「ああ裕太。涼は遅れるって。あいつ朝苦手なんだって。」
はあ、とため息をつきながら携帯の画面を見せる。涼君からのメールだ。件名に『今出る 遅れ』と書かれていて本文が何もない。よっぽど慌てて送ったんだな…。
「という事で置いていこうと思う。もちろん無言で。」
「馨君は朝から元気だよね…。」
「僕朝は得意なんだ。」
そう言いながらインターホンを鳴らす。そう言えばアイリスさんに迎えに行くと伝えてないけど、朝突然押しかけちゃって大丈夫なのかな。不安が少しよぎったが、ガチャリとドアの開く音で我に帰った。
「はい…あら、昨日のオカルト部の…。」
「あ、柿本です。」
「結城です。朝早くすみません。娘さんを迎えに来たのですが、いらっしゃいますか?」
「まあ、アイリスちゃんを?もしかして貴方逹どちらかアイリスちゃんの彼氏…!?」
「いえ、部活の一環です。」
左手を口元に当てて驚くアイリスさんのお母さんにすかさず馨君が笑顔でばっさり否定する。
「そ、そうなの…。…でもごめんなさい。アイリスちゃん、あの後具合が悪くなってしまって…今日はお休みさせようと思ってるのよ。」
お母さんは少し暗い顔をして馨君から目をそらした。昨日は少し元気が出たようだったのに…。お母さんの顔を眺めると、顔色が優れないのは朝早いからだけではなさそうだ。
「…何かあったんですか?」
「まあ、ちょっとね。大したことじゃないのよ。気にしないで。」
困ったように微笑んで話を打ち切ろうとするアイリスさんのお母さんだが、馨君がそれを阻止するように彼女の目を鋭い目で見つめる。
「良ければ話していただけませんか?僕達、彼女の悩みを解決してあげたいんです。」
良ければ、なんて言っているけど有無を言わせない眼光でお母さんに詰め寄っている。悩みを解決してあげたいだなんて嘘も良いとこだ。しかし、アイリスさんのお母さんは悩んだ後、馨君の視線に耐えられなくなったのか、口を開いた。
「…そう、ね。実はね、昨日の夜遅くに、うちの玄関の植え込みに火がつけられたのよ…。アイリスちゃんの部屋から見えたみたいですぐに気付いたから、なんてこともなかったんだけどね。でもそれを見た後あの子倒れるように伏せってしまって…。」
悲痛な表情で語るお母さんの様子に見入ったまま、馨君は何か考えてるようだ。って、それどころじゃない!
「その現場見せてもらえませんか?」
「えっ。」
「ちょっと馨君!そろそろ行かないと遅刻するよ?」
「うるさいな。せっかく重要な証拠が──」
「いい加減にしなよ!…お母さんの気持ちも汲み取ってあげなよ。」
滅多に出さないボクの大声に目を見開く馨君。…流石に言いすぎたかな。でも、お母さんは自然発火じゃなくて放火を疑っているだろうし、怖がっているに決まっている。面白半分に首を突っ込んではダメだ。
「…わかったよ。失礼言ってすみませんでした。明日、また迎えに来ても宜しいでしょうか?」
「いいえ、こちらこそアイリスちゃんを気遣ってくれてありがとうね。大丈夫よ。さ、遅れちゃうから今日はこれで。」
「はい。お邪魔しました。」
「行ってらっしゃい。」
お母さんに見送られながら、ボク達はアイリスさんの家を後にした。馨君が石を蹴りながら歩く。その横顔が不貞腐れて見えて、ボクはおずおずと謝る。
「さっきは大きな声出してごめん。」
「別に気にしてないよ。確かにあの場で無理強いして警戒されたらこれからやり難くなるもんね。我ながらちょっと先走り過ぎたよ。」
そういうつもりだったわけじゃないんだけどな…。まあ納得してくれるなら良いのかな…?
「馨!なんで先に行くって言ってくれなかったんだよ!」
一時間目と二時間目の間の小休憩、職員室から戻った涼君が馨君に詰め寄った。ボク達から連絡がなかったので涼君は走ってアイリスさんの家まで行ってから学校に来たせいで遅刻したのだ。普段から成績が危ない彼が一時間目の途中に入ってきたのを目にした先生が、渋顏で授業の後職員室に来るように言い渡した時から、ボクは酷い罪悪感に囚われていた。
「ごめん涼君!ボクがメールしていれば…。」
「裕太のせいじゃない。馨が無視したからだ!」
「うるさいな。お前の足ならあの時間で間に合っただろ。逆に聞くけど何してたわけ?」
「…返事がないからお前も寝坊してるのかと思って馨と裕太の家まで行ってた。」
つまり学校と間逆の方向のアイリスさんの家まで行き、それから戻って馨君の家とボクの家を回って来たって事か。その行動力にある意味驚かされる。
「やっぱり馬鹿だな。」
「だったら電話してくれれば良かったのに。」
「あっ…。」
「今更気付いたのかよ。」
「う、うるせえな!焦ってたんだよ!」
恥ずかしいのかそっぽを向く涼君を見て、ボクと馨君はため息をついた。その時、一部始終を見ていたらしいヨハネス君が爽やかに微笑みながらボク達の会話に入ってきた。
「またオカルト部の部活?今度は何をしてるの?」
「ヨハネス君。実は四組の水野さんから依頼されてて…。」
「ああ、アイリスさん?彼女もオカルトとか好きだもんね。」
「ヨハネス、仲良いのか?」
「最近少しね。美術部で絵のモデルを頼まれた時に。」
なんてことない様子で答えるけれど、なかなかない体験だ。さすが外国人のイケメンともなるとモデルまで誘われるのか。
「ミーハーっぽいもんね。あの子。」
「彼女が誘って来たわけじゃないよ。部長さんに頼まれて…。それに彼女彼氏と別れたばかりだって聞いてたし。」
「えっ。そうなの?」
そんな情報義人君なら知らないはずなさそうなのに、何も言ってなかったな。
「親友の川嶋さんにしか言ってなかったみたいだよ。別れたからって川嶋さんが教えてくれたんだけどね。」
「それいつ頃なのか聞いた?」
「え?うーん、付き合い始めはいつからかわからないけど、別れたのはつい最近の話らしいよ。でも話してる感じからそんなに長く付き合ってたわけじゃないみたいだったかな。」
ゆっくり思い出しながら話してくれるヨハネス君。まさかこんな所から情報を聞き出せるとは思ってもみなかった。馨君が身を乗り出してヨハネス君に詰め寄る。
「別れたストレスから能力が発現したのか…?同じ学校の生徒?どんな男か聞いた?」
「そ、そこまではわからないよ。…でも川嶋さんもよく知らないみたいだよ。アイリスさんの言ってることも魔法がどうとか前世がなんとかって…ぼくにはよくわからなかったんだ。その辺りは馨君の分野じゃないかな?」
「は、魔法…?」
そこで授業開始の鐘が鳴ってしまい、結局話は打ち切られてしまった。その後、昼休みに馨君に連れられてボクと涼君は四組に来ていた。ボク達に気づいた義人君が笑顔で声をかけてくる。
「おっ!ようお前ら!お昼奢ってくれんだよな──」
「カワバタってどの子?」
「は…?」
「川嶋麻里、だろ。」
「なんだよ…。結局その為に来たのかよ。おーい麻里ー。」
義人君はげんなりした顔をしつつも川嶋さんを呼んでくれた。それにしても、女子なのに下の名前で呼ぶほどに仲がいいのか。気さくな義人君ならではなのかな。
「どうしたの?義人君…。」
女子のグループから抜けて来たのはセミロングの大人しそうな眼鏡の女の子だ。
「オカルト部の奴らが話があるって。んじゃ、どーせ俺はお邪魔だろ?じゃあな。」
「待ちなよ義人。」
不貞腐れて去ろうとする義人君の肩に手を乗せる馨君。驚いて振り返る義人君に馨君が財布を取り出してみせる。その瞬間義人君の瞳がパッと期待に輝きだした。
「いつも本当に助かるよ。僕も悪いと思ってるんだ。」
まさかお昼代を出してあげるのか…?その期待に応えるように馨君が微笑みながらゆっくりと財布を開く。
「結城…!……いや、別に大した事じゃないしさ。まさかお前が奢ってくれるなんて──」
「それとは関係ないんだけど追加でアリスだっけ?の元彼の情報もお願い。あとアドレス変えるからこっち登録しておいて。」
そう言って馨君は開いた財布からアドレスを書いた紙を取り出す。その瞬間、義人君の堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた気がした。馨君に掴み掛かろうとした所を涼くんがあわてて止める。
「ふっざけんなマジで!!からかうのもいい加減にしろよ!?情報取るのにどんだけ大変な思いすると思ってんだ!」
「ちょ、義人落ち着け!明日は絶対奢るから!」
「でも大した事じゃないんでしょ?」
「お前も煽るなよ!」
「もういい!絶対ぐうの音も出ないくらい調べ尽くしてやるから!!覚えてろよ結城!!!」
そういうと義人君は手渡された紙を思いっきり破き捨てて去っていった。破ったら連絡出来ないんじゃないのかな…。と言うか、あんなに怒りながらも、それでもちゃんと調べる事を約束してくれる義人君を素直に尊敬してしまう。
「お前なあ…。」
「何?ちょっと意欲を煽ってやろうと思っただけだよ。」
「馨君いつか本当に友達なくすよ…。」
「あ、あの…。」
「あ、ごめん呼んでおいて。川嶋さんだよね…?」
「…君達、オカルト部なんだよね?アイリスの事聞きにきたの?」
どうやら川嶋さんはアイリスさんから多少ボク達の事を聞いているらしい。
「わかってるなら話は早いね。早速彼女とその元彼について聞きたいんだけど。」
「…うん。でもここじゃ話しづらいから…。」
「ならオカルト部の部室に行こう。そこなら誰も来ないよ。」