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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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第七話 Pyrokinesis girl(8)

Pyrokinesis girl(8)

「三上先輩!」

 アイリスさんの部屋に入ると、そこには縛られて横たわる涼君と涼君の顔にライターの炎を近づけたまま驚いているアイリスさんがいた。加勢してくれた森野君が二人の間に割って入り、アイリスさんからライターを奪い取った。

「先輩!大丈夫ですか?…てめえこのアマ!この人が誰だかわかってんだろうなあ?!」

「やめろ森野…。というかなんでお前らが…?」

「涼の携帯に細工したんだよ。僕の携帯から遠隔操作できる様に。そしてGPSで位置確認しながらマイク起動して会話盗聴してた。」

「犯罪すれすれだけどね!ごめんね涼くん。」

 携帯をひらひらさせながら事もなげにいう馨君と全然悪いと思ってなさそうな美弥さんを見て呆れる涼君。しかし安心したのか、そのまま涼君は目を閉じて気を失ってしまった。

「涼くん!!だ、大丈夫!?」

 馨君を除くボク達は慌てて涼くんに駆け寄る。顔色は悪いが、呼吸も安定している。状況が把握出来ないのか、ボク達から離れるようにアイリスさんが後ずさる。

「っ…!なんです貴方達!どうやって入って来たんですの?!」

「相当急いで家中の窓を閉めたんだね。鍵がちゃんとしまってなかったよ。半分でもかかってないと時間をかければ道具を使わずに開けられるんだよ。」

「不法侵入には変わらないけどね…。」

「私の城に勝手に上がるなんて…!使用人は!?使用人は何をしているの!」

「お母さんのこと?さっき誰もいないって言ってたじゃないか。」

「そんな…。私を一人にするなんてありえませんわ。だって私はこの国の姫で…。」

「アイリスちゃん?」

 わけがわからない、と言った表情でキョロキョロするアイリスさん。その行動はどう見ても正常な状態には見えなかった。

「支離滅裂だな。僕が現実を思い出させてあげるよ。」

 そう言うと馨君は動揺するアイリスさんに近寄って、顔前に一枚の写真を突きつけた。

「まず第一の小火、人形が燃えたのはやっぱり偶然だったんだ。まあかなり特殊なケースだけどね。」

「…えっ……。」

「でも馨くん、三十センチも離れてた物が燃えるなんてありえないよ!」

「ありえるよ。材質によるけどね。彼女が持っていた人形はセルロイドで出来ていたんだ。君が持っていたのはこんな人形だったでしょう?」

 写真に写っている人形はつやつやとした肌で瞳も絵の具で描いた様なものだ。

「あ…。」

「セルロイド人形は戦前は日本でも流行した人形だ。ただ低温で発火しやすく、場合によっては摩擦や電球の明かりの熱だけでも発火するんだ。その取り扱いにくさから現在日本で取り扱ってる店はそうそうない。ただ外国だと未だに売ってる所もあるみたいだけどね。」

「じゃあ、炎の熱で発火したの?」

「多分ね。凄く燃えやすいから跡形も無く燃えてしまったんだ。」

「ち、ちが…!あれは自然発火現象で──」

「そして第二第三の小火。これは早乙女による犯行だ。本人も自供したしね。しかし、君はそこで思い込んだんだ。自分には火を起こす力があるって。」

 絶句しているアイリスさんに畳み掛ける様に馨君が続ける。

「もともとオカルトに興味があったんだろ?パイロキネシスを知っていても不思議じゃない。妄想癖も元からあったみたいだし。」

「でも、学校での小火は!?早乙女さんには無理だよね?」

「そうだよ。彼女の机に不自然に誰かが近寄ればいくら体育後で人が少ないとは言え不審に思う人がいるだろうね。」

「じゃあ…。」

「自分で付けたんだよ。無意識なんだろうけど。自分の机で何かやっていてもほとんどの人は気にしないからね。」

「!」

「自分でって…。でも、本当に誰も気付かないものなの?」

「誰もとは言ってない。…彼女の親友、カワバタさんは多分真っ先に気づいたんだろう。」

「馨くん川嶋さんだよ!」

「ま、りさんが…?」

「彼女はかなり早い段階から君が壊れ始めている事に気付いていたんだ。でも話を聞いてもらえず、どうする事も出来なかったんじゃないかな。君が自分で火をつけた所も黙って見ているしか出来なかった。彼女が僕達に助けてあげてと言っていたのは、自然発火現象からじゃない、君自身の妄想からって意味だったんだ。」

「…そん、な……麻里、さん…。……違う、違うわ……私はアイリス・プリムローズ、プリンセスなのよ…?」

 まるで自分に言い聞かせるようにブツブツとつぶやき始めるアイリスさん。この光景は前にも見た事がある。河童事件の犯人、平川君の時にそっくりだ。目も何処か別の所を見つめて必死に自分の世界に取りすがっている。やがて彼女は顔をあげ、引きつったような笑顔でボク達を見た。

「……そうよ、わかったわ。貴方達はあの魔女の仲間ですわね?私から王子様を奪う為に派遣されたんでしょう?私の炎で焼き尽くしてあげますわ──」

バシン!

 乾いた音が響き渡り、アイリスさんが倒れた。アイリスさん自身、何が起こったかわかっていないという顔だ。彼女の前には、先ほどまで涼君を介抱していた森野君が立っている。アイリスさんの頰が赤く腫れているのを見て、森野君が叩いたのだとわかった。




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