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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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第八話Albtraum(2)

Albtraum(2)

「アブダクション?」

 長い脚を折って椅子に座ったヨハネス君が発した聞き慣れない言葉に、馨君以外のボク達の頭上にはハテナマークが浮かんだ。しかし、馨君の瞳が例のごとく輝き出した事でそれがオカルト用語だと気付く。

「うん、最近中高生の間でアブダクションに遭ったって噂の人が何人かいるらしいんだ。馨君が好きそうだと思って知らせに来たんだけど…。」

「余計な気をまわさなくても…。」

「というか、アブダクションて何?」

「アブダクションていうのは、主にエイリアンや未確認生物によって誘拐される事だよ。首にチップを埋め込まれたとか、解剖されかけたって話も聞くね。アメリカのヒル夫妻誘拐事件なんかが有名なんじゃないかな。で、詳しくは!?」

「みんな何の前触れもなく一、二日行方不明になったあと帰って来るんだって。でも、少し態度がおかしいらしい。人によって違うみたいだけど、終始何かに怯えてる人もいれば、ずっと部屋にひきこもって紙に数字の羅列を書いてる人もいるって。」

「それXファイルで見たことある!宇宙からのメッセージを受信しちゃうみたいな?」

「うん。それでみんなエイリアンに攫われて何かされたんじゃないかって噂してるんだ。」

「本人達はなんて言ってるの?」

「それが、聞いてもその間の事は何も答えてくれないんだって。無理に聞く事も出来ないし…。ね、不思議でしょ?」

 困ったように微笑むヨハネス君。正直そこまで詳しく知ってる彼も不思議な気がするが、そこに突っ込んではいけない気がして黙って聞く事にした。馨君が顎に手を当てながら答える。

「確かにね。アブダクションは大体本人が体験談を語る場合が多い。その殆どが妄想か注目を集めたいだけの嘘だと言われてるけどね。」

「統合失調症の患者がよく言うよね、宇宙人に埋め込まれたチップから脳に指令が送られてくる、とか。」

「くわしいね、ヨハネス君。」

「ちょっと母国でね。」

 軽く濁されたが、その言葉尻にはこれ以上は聞かないで欲しいという圧力みたいなものを感じた。最近テレビでみただけだが、彼の母国であるルーマニアは最近まで政治が不安定で、貧富の差もかなり激しかったらしい。両親が日本に働きに来るくらいなんだから彼は裕福な方なんだろうけど、ヨハネス君もきっと苦労してきてるんだろう。

「面白そうじゃん。もしかしたら本物の宇宙人の証拠が掴めるかもしれない!」

「おい、アイリスの件はいいのかよ。」

「義人に任せればいいよ。ヨハネス君、アブダクションに遭ったって子の名前と日にちはわからない?」

「うーん、三人くらいしか聞いてないな…。」

「知ってる限りで良いから教えてよ。」

 そう言いながら馨君はヨハネス君の話す様々な情報をこと細かにメモ帳に記入し始めた。ヨハネス君がもう知ってる事は何もないという頃には、下校時刻の十分前になっていた。

「もうこんな時間だよ馨くん!帰ろう?」

「そうだな。後は義人に調べさせよう。」

「酷使させ過ぎじゃないか?」

「情報収集が生き甲斐なんだから別にいいだろ。教室閉めるから早く準備して。」

 広げた荷物を片付け、五人ぶんの湯のみを洗っているとヨハネス君も手伝ってくれた。何と無く気まずくて、つい思っている疑問をぶつけてしまった。

「…ヨハネス君、どうして今回こんなに協力してくれるの?」

「え?うーん、そうだなぁ…。」

 困っているというより、なんと答えようか考えてるそぶりを見せた。

「この町は穏やかで人も優しくて気に入ってるんだ。だから物騒な事はやっぱり起きて欲しくないなって思って。君たち、事件を解決するの得意でしょう?」

「そ、そんなつもりないけど…。実際は馨君に振り回されてるだけだよ。」

「ふふふ、でも最終的には解決してるじゃない。」

「ちょっと二人ともいつまで洗ってるの?ドア閉めるよ。」

「あ、ごめん!」

 慌てて片付ける手を早める。隣でヨハネス君も片付けながらボクに向かって微笑んで見せた。

「頑張ってね、事件解決。」



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