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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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Albtraum(5)
翌日、ボク達は一抹の不安を抱きながら教会の前までやってきた。冬の日照時間は短い。一度来た事があるからと案内を任されたボクだけど、少し迷ってしまって辺りはもう薄暗くなってしまった。木々に囲まれた建物は大きな怪物のようなシルエットを作り出していて余計に不気味だ。その時不意に何かが肩に触れて体が強張る。
「ひっ!」
「裕太くん大丈夫?具合悪いの?」
見るとボクの隣に立っていた美弥さんが心配そうな顔でボクの顔を覗き込んでいる。涼君もボクの顔を見て驚く。
「顔真っ白だぞ。少し休んだ方が良いんじゃないか?」
そんなに酷い顔をしていたんだろうか?自分の顔をさわりながら心配させまいと慌てて笑顔を取り繕う。
「だ、大丈夫だよ。ちょっとこの教会が怖くて…。」
「怖いのは『キョウカイ』なんじゃないの?裕太。」
「え?」
馨君の一言にボクは動揺した。馨君の言葉の意味がわからない。
「それってどういう意味?」
「裕太、河童の噂の前にもキョウカイって言葉聞いた事があっただろ。」
「ど、どこで?」
「覚えてないの?じゃあ無意識に記憶に残ってたんだね。君がオカルト部に入った時の事だよ。」
その言葉にボクは一瞬にして自身が殺されかかった連続殺人事件の事、そして田口の事を思い出した。事件の後ぼんやりとしていた当時の記憶がはっきりとしてくる。
「…そうだ。田口だ。田口がボクを殺しかけた後に『キョウカイの人に』って言ったんだ!」
「正しくは『協会の人』だよ。多分殺されかけた恐怖とその言葉が繋がって無意識のうちにトラウマになったんじゃない?あの事件も宗教儀式みたいなのをやろうとしてたし。」
馨君の言葉に驚いた。確かにボクは異様に教会や宗教に悪印象を持っていた。幸い怪我も殆どなく、立ち直ったつもりでいたが、田口に殺されかけた強い恐怖がそういう形で尾を引いていたのかもしれない。
「キョウカイって…もしかして、ここって田口くんの事件まで関係あるの!?」
「さあね。裕太はここで待ってても良いよ。」
馨君はボクの返事を聞かずに扉に向かう。日は更に傾き、木々に隠れてより一層建物を不気味に演出するが、ボクにはもう取り立てて恐ろしくは感じなくなっていた。まだ心配そうにボクの様子を伺っている二人に向かって言った。
「…ううん。原因がわかって少し怖くなくなったよ。ボクも行く。」
扉を開けると、中はオレンジ色の薄明かりに照らされていた。床一面にワインカラーの絨毯が敷き詰めてあって、長椅子が並んでいる。奥の赤子を抱いた白い女性の像の目の前には祭壇らしきものがある。ドラマでよくある結婚式の場面が浮かんだ。
「マリア様の像だね。見た所普通の教会にしか見えないよ?」
「ていうか、勝手に入って良いのか?誰かに見つかったらヤバいだろ。」
「ボクが来た時は若い男の人がいたよ。」
「鍵が開いてたんだから入っていいんだろう。お前たちも何か宇宙人に繋がる手がかりはないか探せ!」
「教会に宇宙人と繋がる手がかりなんてあるかよ…。」
「でもアブダクションに遭った人達はみんなこの近くをうろついてたんだから、少なくともアブダクションとここは何か関係があるはずだよ!」
「そうだ。それにキリスト教と宇宙人は関係性があるよ。宇宙人が人間を作ったという説はキリスト教の創造論に基づいてるんだからな。」
「創造論って何?」
「生物の起源の解釈の一つだよ。日本じゃ進化論が一般的だけど、欧米では未だに神に創造されたという創造論が根強い人気を誇ってるんだ。」
「人気って…。進化論て証明されてるんじゃないの?」
「結局今の科学じゃ絶対的な証明ができないんだ。神なんてもっと証明出来ない存在が作ったと考えるよりも妥当だろうって言われてるだけさ。そしてこの創造論における神っていうのが超高度な文明を持った宇宙人であると考えている学者もいる。四大文明の一つであるメソポタミア文明を作ったシュメール人がその宇宙人だとも言われてるね。キリスト教の元となったユダヤ教はメソポタミア文明を色濃く受け継いだゾロアスター教に強く影響を受けている。つまりキリスト教は宇宙人の神話に基づいているとも言えるね!」
「それはちょっと飛躍しすぎじゃない?」
「それだけじゃないよ。キリスト教で言われる天使からも宇宙人を暗示するものがある。天使といえば今は幼児や人間の姿で知られているけど、その多くは元は土着の神で、異形の姿をしているものがほとんどなんだ。その中でも智天使と呼ばれる天使達の姿は車輪に目が沢山付いた姿と言われていて、それはさながらアダムスキー型宇宙船と──」
「もういい!長いしわけがわからん!」
ガタン!
涼君がいつもの様に馨君の口を手で塞いだ。しかし、その力でよろめいた馨君が母子像の子供の頭を思い切り掴んでしまった。大きな音が講堂に響き渡る。瞬間ボク達は青ざめた。
「や、ヤバいよ馨君!壊したら洒落にならないよ!」
「わかってるよ!涼が押すから!」
「わ、悪い!てか、何処か壊れてないよな?」
「皆!ちょっと、ちょっと見て!!」
興奮した様子の美弥さんを見てボク達は更に焦るが、直ぐに彼女が何に興奮しているか気付いた。
「これは…。」
「地下に続く階段だよ!きゃー映画みたい!」
「さっきまで無かったよな?」
「僕が像を掴んだせいかも。秘密の地下室か…。下にはきっと宇宙船か人間のクローンが大量に保管されてるに違いない!行くぞお前達!」
「ラジャー!裕太くんも行くよ!」
「え!ちょっと!」
「お、おい!勝手に進んで大丈夫なのかよ!」
「勝手になんて行かないよ。涼が先頭で盾してね。」
「そういう事じゃ──…っておい、押すなよ!」
結局馨君と美弥さんに引っ張られて地下階段を降りてしまった。しかし、通路は暗すぎて何も見えない。これじゃ何も見つからないんじゃないかと思った時、急に前が少し明るくなった。馨君がライターを灯したのだ。
「うわあ馨くん不良だね。」
「うるさいな。持ってるに越した事は無いだろ。涼、そこに燭台があるから火を移してきて。」
「これか?」
わずかな光が通路を照らし出した。ライターよりは明るいが細い地下通路を更に不気味に演出しただけなきがする。ボクの気持ちとは裏腹に美弥さんが興奮した声を上げた。
「わああますます冒険気分になるね!横からゾンビとか出てきそう!」
「や、やめてよ美弥さん…。」
「おい、なんか開けた所に出たぞ。」
涼君が燭台を上げて示す。奥行きからして部屋の様だ。馨君が涼君から燭台を受け取り、壁に設置されているフックの様な物にかけてくれたおかげで部屋の全体像が見えた。しかし見えた事でここがとても居心地のいい物ではないことがわかった。
「なにこの部屋…。」
部屋の全面は本棚がみっちりと並んでいて、真ん中にはぽつんと椅子が設置されている。その椅子と言うのはただの椅子ではなく、歯医者で座らされる様な色々な器具が付いた不気味な物だ。床にはその椅子を取り囲む様に三角形の文様が描かれている。宇宙人もキリスト教も関係ないが絶対関わってはいけない物だという事は一目でわかる。後ずさりするボク達とは逆に馨君がその椅子に近づいた。
「ちょちょちょっと馨くん!」
「これ、拷問用の椅子だ。ほら、ベルトが付いてる。これで手足と頭を固定するんだよ。」
「馬鹿触るなよ!」
涼君に止められそうになりながらも馨君は興味深々だ。椅子とその近くの本棚を隈なく探っている。入り口付近で部屋を見ていた美弥さんがボクの隣で少し残念そうな顔をした。
「なんだかイメージと違うね!宇宙人て言うからもっと近未来的なの想像してたのに。床のレイアウトは何かな?」
「いや、そういう問題じゃないんじゃないかな…。って、この文様何処かで見た事ある気がする…。」
「やっぱり?私も──」
「誰だお前達!?」