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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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あっという間にあの事件から一週間が経った。山里由梨江に関係ない生徒達は早々と事件について関心を示さなくなった頃のことだった。また死体が見つかったのだ。今度は二年の男子。五組の戸田悠磨(ゆうま)という。やはり絞殺で、今度は腎臓だけを抜き取られていた。
「またかよ…一体どうなってんだこの学校。」
「二人とも何の接点もないけど…一体なんなんだろうね。」
華代ちゃんの言った通りだった。二人に共通点は一切なく、ただ同じ学校の生徒というだけ。ボクはふとこの間の占星術の本を思い出した。そのことを明子ちゃん達に尋ねようとしたとき、見事なタイミングで着席のベルが鳴った。
「あ、じゃーな裕太!」
「う、うん。」
仕方なく教室に戻り、席に着くと、ちょうど担任の熊川が入って来た。日直が号令をかけ終わると、熊川はその糸のように細い目でボク達を見つめながら話し始めた。彼の話は長い割に無駄が多く内容が少ない。結局得たことは登下校は誰かと帰ることと興味本位で事件に首を突っ込むなってことだけだ。ホームルームが終わると、また教室は騒がしくなり、またいつも通りの一日が始まったようだった。
「よう柿本 おっはよー。」
「…あ、田口…おはよう。」
「ったく相変わらず会話のテンポ遅いんだよお前は。それよりさぁ、さっきの熊川の話聞いた?」
「う、うん…聞いたけど。」
「それでさ、お前友達いねーだろ?だからこれから俺らが毎日一緒に帰ってやるよ。」
「え…い、いい、ボク、明子ちゃん達が──」
「河井と沢田か。アイツらにもどうせパシられてるだけだろ?」
「でも…。」
「いいのか?断っちゃって。俺は別にいいけどよぉ、宇都宮はなんていうかなぁ?」
「……。」
「じゃ、帰りにな!逃げんなよー。」
「あっ……うん…。」
………また言えなかった。
ボクの返事を聞く前に田口は宇都宮達の所へ行った。宇都宮達はボクを見てくすくす笑ってる。ボクは無視して授業の用意を始めた。
キーンコーンカーン…
「きりーつ!令!」
「「ありがとうございました。」」
なんだか今日はぼうっとしている間に終わってしまった。授業の内容もよく覚えていない。朝からずっと戸田悠磨君のことが頭から離れない。いつまでたっても用意をする気配のないボクにじれたのか、田口達がよって来た。
「おい柿本!何やってんだ早く用意しろよ!」
「…え、あ、ごめ──」
「いーからさっさとこれ持てよ!」
そういってまたボクの机の上に無造作に鞄を積み上げる。
「じゃあな。俺達先昇降口行ってるから。」
「うん…。」
ボクはいそいそと用意をし、みんなの鞄を持って昇降口に行った。
「はぁ、はぁ…。ごめん、用意に手間取っちゃって。」
「わかったからさっさと来い。とろいんだよ。」
「…うん、ごめん。」
一緒に帰ると言っても、いつものようにみんなの家を回るだけ。最後の家を回ろうとした時、ボクは大切な事を思い出した。
「っあ!化学のプリント出してなかった!」
辺りを見回せば、既に日は落ち、辺りに人影はない。一瞬熊川の言葉が頭をよぎったが、ボクは化学は苦手なので、今日中にこのプリントを出さないと結構困る。ボクは意を決し、学校へ向かった。
「……着いた…。」
七時だが、まだ先生はいるはず。暗い廊下をそろそろと職員室に向かう途中、不意に後ろから足音が聞こえて来た。最初は気のせいだと思っていたが、どんどん近づいてくる。意を決して振り返ってみると、すぐ後ろに真っ黒い人影が立っていた。
「う、わぁあ!!?」
ボクは死にものぐるいで走り出した。相手もものすごいスピードで追いかけてくる。ボクはめちゃくちゃに走り回り、気がつくと三階の階段の近くにいた。どうやらあの人影はいないようだが、念のため階段下に隠れておくことにした。
「………。」
しばらくしても何の音もしない。ボクはほっとし、そっと階段下から出たが…──
「っ!?」
立ち上がろうとしたボクの目の前には、先ほどの真っ黒い人影。逃げようとしても足が震えて動けない。奴がゆっくりと右手を振り上げた。その手には、妙な短剣──。
殺される──…
「ひっ。」
ドカッ!
縮こまっていたボクの目の前に奴の持っていた短剣が落ちる。見上げると、影が不意に揺らいだ。そのまま倒れるかと思う所で短剣を拾い逃げて行った。
「……え?」
「おい、大丈夫か?」
暗くて顔は見えないが、聞き覚えのある声。
「君は…同じクラスの三上…くん?」
「ああ。お前は確か…柿本だよな。」
「うん…でも、どうして三上君が──」
「あーあーあー!何やってんだよ涼!」
三上君の後ろから懐中電灯を持って走って来たのは同じくクラスメートの結城 馨(かおる)君だ。しかし結城君はボクには目もくれず三上君につかみかかった。
「痛っ!何すんだよ馨!」
「それはこっちの台詞だよ!なんで犯人追わないんだよ!せっかく張り込んでたのに全部台無しだろ!」
「仕方ないだろ!人が襲われてたんだから!」
「はぁ?人?」
「あ…!さ、さっきはありがとう助けてくれて!危うく殺されるとこだったよ。」
「あ?誰アンタ。涼の知り合い?」
「クラスメートの柿本だろ。いい加減クラスメートの顔と名前くらい覚えろよ。」
話した事は無かったが、予想通り結城君はとても変わった人だ…。クラスでも何となく不思議な雰囲気を醸し出していて、三上君と以外はほとんど会話をしないらしい。本当に何を考えてるのかよくわからない。
「あの、えと…。ところで、張り込みとかなんとか言ってたけど、何の事なの?」
「ああ。それはさぁ、オカルト研究部の部活。犯人捕まえようと思って。」
「………はい?」
「馨がこの殺人事件にはオカルト的な何かがあると思うって言って聞かないんだ。まさか本当に犯人が現れるとは思わなかったんだが。」
……この二人(特に結城君)が何を言っているのかわからない。だって、連続殺人犯て、ものすごく危ないはずなのに。さっきだってボク、襲われたし。
「それでさぁ…カキノウチ君だっけ?」
「あ…柿本です。」
「そうそう。でさ、キミあいつの標的になったみたいだし、僕達に協力してくんない?」
「…え……?」
「おい馨!」
「涼は黙ってて。ね、いいだろ?」
「……だ。」
「ん?」
「嫌だよ!そんな遊び半分で危険な事!今日はたまたま運が良かったから何もなかったけど、もしかしたら死んじゃうとこだったのかもしれないんだよ!?…そんなの……もうこりごりだよ!!」
…とっさに言ってしまった。いつもの自分ならこんな感情に任せて怒鳴ってしまうことなんてないのに。はっとして黙ったが、その場にはいやな沈黙が残ってしまった。
「──…フーン、わかった。じゃあ勝手にするといいよ。」
「え…。」
「でもね、その言葉、そのままそっくり返すよ。」
「……どういう意味?」
「アイツ、確実にまた君を襲いにくるよ。今日はたまたま僕達がいたから何とかなったものの…次はどうなるかな?」
「馨!」
「だって本当の事だろ?彼一人じゃ今頃惨殺死体第三号が出来上がってた所だろうよ。ねぇ?」
「………」
「ま、気が変わったらいつでも言ってよ。協力してくれるなら代わりにボディーガードくらいしてあげるからさ。涼が。」
「俺かよ!」
「だって涼運動神経いいだろ?今日も犯人追っ払ったし。」
「だからって──」
「はいはい。あ、あとさぁカワノモト君。」
「柿本です!…何?」
「君、ちゃんと嫌って言えるんだね。人の言う事ほいほい聞いてるだけかと思ってたよ。」
「…!」
「じゃあまた明日学校で。涼、帰るよ。」
「ああ。…じゃあ、気をつけて帰れよ、柿本。」
ボクは返事を返すことも出来なかった。というか、動くことも出来ず、ただ二人が帰って行くのを見守っていた。変質者に追いかけられた恐怖や突拍子のない申し出への呆れなどの所為ではない、何か言葉にできない思いが胸の中いっぱいに詰まっている気分で、なんだか叫びたくなった。しばらくして、気持ちが落ち着くと、ボクは家路に着いた。