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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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Zodiac Murder(6)
それから二日間、何事もなく過ごすことが出来た。その日の放課後、図書室で結城君達が来るのを待っていると、明子ちゃんと華代ちゃんが来た。
「あ、明子ちゃん、華代ちゃん…。」
「よぉ、裕太。…久しぶりだね。何やってんの?」
「あの…ゆ、結城君達を待ってて…その。」
「そんなおどおどしないでよ裕くん。」
「だ、だって一週間近く会わなかったし…。む、無視して怒ってるのかと…。」
「…はぁ。」
明子ちゃんは呆れた顔をした後、ボクの肩の上にポンと手を置いた。
「やっと友達出来たんだろ?だったら別にいいじゃん。」
「そうだよ?私達にずっとくっ付いてなくてもいいんだから。」
「え…。」
「小学校の時からお前はうじうじしていじめられてばっかで、可哀想だと思って守ってやってたけどさ、やっと一緒にいて楽しい友達が出来たんだろ?だったら気にすんなよ。」
「そんな後ろめたそうな顔しないで。」
「明子ちゃん…華代ちゃん…。」
「まあ、まさかあの変人と噂の結城と気が合うとは思わなかったけどな~。」
「そうだよね~。三上くんや木下さんは普通だけど。」
明子ちゃん達は今までのことをまったく気にする様子もなく、本当に今まで通りに接してくれた。どうせボクのことをパシリ程度にしか思っていないだろうと考えていた自分を恥ずかしく思った。
「えーっと、柿本裕太…だよな?」
「え?」
振り返ると、短髪の少年が立っていた。制服を着崩して、下に赤いTシャツを来ている。おまけに耳にはピアスがいくつかしてある。とっさに不良かと思い体がこわばったが、相手はそれに気づいたのか、あわてて笑顔で取り繕った。
「あ、いや別になんもしねぇよ!ただ涼と結城に頼まれたもんだからさ。」
「え?結城君達に?」
「あ、じゃあ私達はお邪魔みたいだから、ね?」
「そうだな。またな裕太。」
「うん。」
そういうと明子ちゃん達は図書室を出て行った。短髪のその少年は、すまなそうな顔をしながら言った。
「あ、悪ぃな…。話し中邪魔しちまって。」
「ううん別に…。で、君は…?」
「ああ!俺は江藤義人(あきと)!涼の幼なじみなんだ。今日は涼も結城も遅くなるから俺が代わりってわけ。」
「そうなんだ。あ、もう紹介されてるみたいだけど、ボクは柿本裕太。よろしくね。」
「おう!裕太だな?俺のことは義人でいいからな!んじゃそろそろ遅くなって来たし、帰るか。」
「うん。」
義人君はとても気さくな人のようだ。こんなボクを優しく気遣ってくれる。三上君とはまた違った優しさを感じる。図書室を出た後も面白い話をいろいろとしてくれた。
「へぇ…。じゃあ山里さんとかの誕生日を調べてくれたのは義人君だったんだ…。」
「そーなんだよ!ったく中学の頃から仲良かったからって涼も酷いぜ。おまけに結城も人使い荒いしさ~。俺アイツ苦手なんだよね。」
「あぁ…。そういえば、三上君と結城君て本当に仲がいいよね。やっぱり小さい頃から仲が良かったの?」
「ん?いや違うぜ?中三の三学期からだから一年も経ってないな。」
「えっ。そんなもんなの!?」
「まあ時間は関係ないんじゃねーかな。なんだ、そんなにアイツらのこと気になるのかよ?」
「いや…。だって、ボクあんなに仲のいい友達出来たことないし…。さっきの子、明子ちゃんも、仲良くしてくれたのは同情だった訳だし、人間てそういうものなのかなって思ってたから。」
「…ふーん。まあいいけどよ。って…ああっ!」
「なっ何?」
「やべぇ…忘れもんしちまった!ごめん裕太!先行っててくれ!」
「え、でも…。」
「すぐ追い付くからさ!頼むよ!ゼッッタイ持って帰んないといけないんだ!な!」
「わ、わかったよ。すぐ戻って来てね。」
「ああ!悪いな!じゃ!」
義人君は今来た道を急いで戻って行った。
「…はぁ。」
ボクは一人夕焼け空を見つめながら歩いた。ほんの一週間前は無機質な色にしか見えなかった赤が、今ではなんだか暖かくて、ちょっと切なく見える。心境の変化というのは本当にすごいものだ。結城君達と出会ってから、ボクの毎日はただの朝と夜の繰り返しだけじゃなくなった。…そう思うと、ボクを次のターゲットに選んでくれた殺人犯にちょっと感謝だな──。
ざり…
「!」
すぐ後ろでアスファルトを踏む音がした。義人君?違う、殺気を感じる。ついさっきまで誰もいなかったのに。いや、ずっと隠れていたんだろうか?でも、思い違いかもしれない。ボクは意を決して振り向いた。
「あ…。」
そこには、覆面をしてバットを持った男がいた。あの男だ。ああ、こんな時に本物に出会っちゃうなんて、なんてボクはついていないんだ!もう足が震えて走って逃げられそうにもない。男がバットを振り上げた。
ガッ!!…───。
頭部への衝撃とともに目の前が真っ暗になり、ボクは意識を手放した。
Zodiac Murder(7)
「う……?」
気がつくと、頭に鈍痛がした。どうやらまだ生きているようだ。あたりを見渡すと、薄暗いが学校の化学室にいるみたいだ。幸い男もどこかに行っているらしい。今がチャンスだと思い、起き上がろうとしたが、両手両足を縛られていて起き上がれない。口にもガムテープか何かが張られていて大声も出せそうにない。どうにか出来ないかと床を這いずり回っていると、不意にドアが開いた。あの男が戻って来た!男はボクを睨むと舌打ちをした。
「チッ。てめえ何勝手に動いてやがる!」
男の蹴りがボクの脇腹にヒットした。あまりの痛みに体を丸めると、男は鼻で笑った。
「ふん。そうやって大人しくしてりゃいーんだよてめぇは。儀式の準備が終わるまでせいぜい神に祈るんだな。」
そういうと男は祭壇の様なものを組み立て始めた。ああ、このまま助けが来なければボクは死ぬのか。まだ十五年と少ししか生きてないのに。せっかく素敵な人達と出会えたのに。母さん達にも全然親孝行できてないのに。そう思うと、ボクは恐怖よりも悲しみや寂しさで涙が出た。山里さんや戸田君もこんな気持ちだったんだろうか。なのにボクは軽い気持ちでこんな奴に感謝したいだなんて、馬鹿だ。
そうこうしているうちに、儀式の準備が終わったらしい。男は右手に前に襲われた時見た短剣を手にしていた。その短剣はよく見ると細かな装飾が施されたかなり古いもののようだ。男は覆面の下に薄気味の悪い笑みを浮かべなからがこちらに近寄って来た。
「心配すんな。お前は神の贄となるんだ。光栄なことなんだぞ」
「う、うー!んー!!」
必死に逃げようとするボクの肩を乱暴に掴み、仰向けにすると、口のテープをはがした。そしてボクの上に馬乗りになると、ブツブツと何かを唱えながらボクの首を徐々に締め上げて来た。本当にもう終わりだと思ったその時──。
ガン!
「おい!」
「「!?」」
不意に男の手が離れた。咳き込みながら見上げると、三上君が男の腕をひねり上げていた。
「柿本、大丈夫か。」
「み、三上君!?一体どこから?」
「くそっ!またお前かっ!」
「涼!」
次いで結城君や美弥さんが飛び出して来た。……ロッカーから。
「な、なんで皆そんなとこに…。」
「あ、ゆ、裕太君…!ち、違うんだよ!?け、決して馨くんがどんな儀式をするか見たいからってぎりぎりまで放っておいた訳じゃないからね!」
「美弥…。全部自白してる。」
「ぇえ!?あの、だから、違うんだって!だって言うこと聞いたら涼くんのブロマイドくれるって言うから!」
「お前どんな約束結んでるんだ!つかなんで勝手にそんなもん作ってるんだよ!」
「よく売れるんだよ。」
「そういうことじゃねー!」
「そんな事よりコイツの覆面とれよ。ほら。」
結城君はそういうといやがる男の覆面を無理矢理取った。…すると。
「え、ウソ…。」
「「田口!?」」
「…って誰だっけ」
「はあ!?てめぇ忘れんなよ結城!同じクラスだろうが!」
「……ふーん。まあいいけど。で、この祭壇は何?儀式って一体どんな?詳しく説明してもらおうか。」
「は、な、何言ってんだよお前!この状況わかってんのかぁ!?おめえらもなんとか言ってやってくれ──」
「…いい加減にして!!!」
「「「「!?」」」」
「か、柿本…?」
「冗談じゃないよ!人が殺されそうになったって言うのになんなんだよ!儀式が見たい?馬鹿な事言ってる暇があったらこれをほどいてよ!!」
「「「「………。」」」」
……あ。つい、叫んでしまった。自分でもこんなに感情が爆発するとは思わなかった。でも、なんだか吹っ切れてしまった。
「か、カキゴオリ君…?」
「ボクの名前は柿本裕太だよ!そんなに覚えられないならもう裕太でいい!」
「す、すみません…。」
「え、と…裕太…?すまん。今解くから。」
未だ口をあんぐりと開けている美弥さんと落ち込む結城君、おそるおそるボクの縄を解いてくれる三上君を尻目に、ボクは田口に近づいた。
「…どうしてこんな事したの?」
「はっ。お前に関係ないだろ。パシリの柿本。」
「関係なくないよ。田口は殺される恐ろしさなんて感じた事ないでしょ。ボクはぎりぎりで三上君達に助けてもらったから死ぬ事はなくてすんだけど、山里さんや戸田君は救われる事なく恐怖の中で息絶えていったんだよ。彼らをそんな風にした君には理由を話す義務があるはずだ。」
「…裕太くん。その人はいかがわしい儀式の為に人を殺す様な人だよ。まともじゃないよ…。」
「………んだ。」
「え?」
「いやだったんだ!!学校では宇都宮にこき使われて、逆らえばいじめられる…。成績もどんどん落ちて来てるし、相談できる様な相手もいない!不安と行き場のない怒りでどうにかなりそうだったんだよ!そんな時に教会の人に…。俺は、俺はああああ!」
田口はそのまま崩れるように座り込むと慟哭した。やがて、その声が初夏の夜に溶けてなくなるまで…。
またいつも通りの朝がやって来た。朝礼で昨日犯人が逮捕されたという発表があったことには、流石にみんな驚いていたようだけど、他人事で、まるで昨日のテレビ番組の話でもしている様な感じだった。
「裕太!」
「あ、義人君。どうしたの?」
「いや、昨日の事謝ろうと思ってさ…。ほんとごめん。」
そういうと義人君はすまなそうにお菓子の詰め合わせを差し出した。
「そんな、気を使ってくれなくても大丈夫だよ。もう気にしてないよ。」
「いや…。俺が結城達に頼まれてお前をわざと一人にした所為であんな危ない目に遭わせちまった訳だし。俺の気持ちだと思ってくれよ。」
「う、うん。ありがとう…。」
「おい、大丈夫か?まああんな事があったばっかりだもんな。具合悪いなら保健室までついてくぜ?」
「う、ううん。大丈夫だよ。」
「じゃあなんだよ。…あっ心配すんなよ!こう言っちゃなんだけどこの菓子は美弥の手作りじゃないからさ。」
「いや、そんなつもりじゃないよ。田口君の事をずっと考えてたんだ…。……田口君って、宇都宮達に脅かされていたり、不安な事を打ち明けられる友達がいないなんて、ボクとそんなに変わらない状況にいたんだなと思って……。ボクも、一歩間違っていたらもしかして…って思うとさ。なんか…。」
「裕太とアイツは全然違うと思うぜ。」
「え…?」
「だって、お前は相談できる仲間がいるじゃん。俺とか、な。」
「そうだよ裕太くん!」
「相談くらいなら聞いてやるよ。涼が。」
「また俺かよ!…ま、構わないけどな。」
「みんな…本当に有り難う。」
「お礼を言われる様な事はしてないよ。入部もしてくれた訳だし。」
「うん。そんな──……え?入部って…どういうこと?」
「あれ?言ってなかったの涼?」
「よくも白々しく…。はぁ、まあ今更だからな…これ。」
鞄から取り出したチラシをボクに渡してくれた。
「…これは、前にボクが書いた依頼の。」
「裏を見てみろ。」
チラシをひっくり返すと、裏側は真っ黒だった。…その時、ボクは悟った。
「…これって、カーボン紙。」
「ご名答。その裏にくっつけておいた入部届けはもう顧問に提出しちゃったからね。」
「ご、ごめんね裕太君。別に騙すつもりはなかったんだけど…。」
「すまん…。」
「─……ったく。アンタ達はやる事がえげつない事ばっかり。…いい加減うんざりだよ。」
「ゆ、裕太…?」
「今度こういう事やったら本気で怒るよ!馨君!涼君!」
きっとボクが怒ると思っていたのであろう、一瞬驚いた様な顔をされたが、次に見せてくれた彼らの笑顔はボクの新しい人生の幕開けの合図となったのだ。
ここからが、本当の始まり。
Fin
高校に入る直前に書いたものです。
一話で終わるつもりだったんですが、何となくシリーズ物になってしまいました…。
完結させたいです。
それではまた、次回作で。