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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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Tragedy of table turning(2)
「ちょ、あれって…!」
一瞬間が開いて、悲鳴と共に周りにいた女子生徒が集まってくる。続いて先生も駆け寄り、彼女の脚の上のスタンドをどかして様子を見ている。
「だ、大丈夫かな…。」
「スタンド…もろに脚に当たってたよな…。」
「か、馨くん!今、女の子が、走り高跳びで…。ど、どうしよう!」
美弥さんが馨君の方を振り返り、助けをもとめる。混乱している為に、わけもわからず馨君に頼ってしまう気持ちもわかるが、馨君は本から顔を上げない。
「先生も一緒なんだろ?だったらなんとかするだろ。」
「で、でもぉ。」
「無関係の僕達が出て行ってどうするの?落ち着きなよ。」
「し、失礼します!」
ちょうどその時、青ざめた顔の女の子が部室のドアを勢い良く開けた。驚いてボク達が見つめると、女の子は少したじろいだ様子で口を開いた。
「あの、オカルト研究部って、ここで合ってますよね?」
「そ、そうだよ。貴方は?」
「よ、良かった!こ、このチラシ見て来ました!二年四組の古賀比奈(こが ひな)です。」
彼女、古賀先輩が突き出したくしゃくしゃの紙を見ると、それは以前ボクがオカルト研究部に無理矢理入部させられた時のチラシだ。『怪奇現象、奇怪な事件にお困りの貴方!ご相談お受け致します!!』と書かれている。まさか本気にして来る人がいるとは…。
「あ!私が書いたチラシ!」
「よく残ってたな…。」
「ごめんなさい、くしゃくしゃで…。相談しようかずっと悩んでたから…。友達に無理言ってもらって来たんです。」
「ふーん。で、ここに来たって事は、何か奇怪な出来事でもあったんですか?古賀先輩。」
本を閉じて目を輝かせた馨君が古賀先輩を見る。馨君は興味のある人の時だけは決まって名前をすぐに覚える様だ。古賀先輩はその眼力に気圧されつつも、たどたどしく事情を語り出した。
「…一部の二年の女子の間で、『エンジェルさん』が流行ってるの、知ってる?」
「『エンジェルさん』って、コックリさんと似たような奴ですよね?」
「美弥、聞いた事あるの?」
「『エンジェルさん』は知ってるけど、二年で流行ってたのは知らなかったよ。」
「や、やっぱりそうだよね。私も、まゆちゃん達から聞くまで知らなかったし…。あ、その『エンジェルさん』はね、普通のとちょっと違うの。二年の子が誰かから聞いて広まったらしいんだけど、『お使いエンジェルさん』って言って、願い事を叶えてくれるの。」
「お使い、って?」
「私達の代わりに願い事を叶えてくれるのをお使いって例えてるんだって。」
古賀先輩の説明によると、『お使いエンジェルさん』とは、四人以上で行うこっくりさんだという。「エンジェルさん、私たちの願いを叶えてください。」と3回唱え、コインがイエスに移動したら成功らしい。その後自分たちの名前を名乗り、コインから手を離す。紙を人数分に破り、各自その紙切れを持ち帰り、 誰にも見られない様に両手に挟んで願い事をするというものだそうだ。
「願い事をして、エンジェルさんに帰ってもらう時は、四人で切り離した紙を元の形に合わせて、呼び出した時のコインを使って普通の『エンジェルさん』みたいに帰ってもらうって感じ…。他にも色々決まり事があるんだけど、だいたいこんな感じ。決まりを守らないと大変な事になるんだって。」
「なんか怪しいゲームですね…。」
「女子ってそういうの好きだよな。」
「それで、古賀先輩はその『お使いエンジェルさん』をやったんですか?」
「そ、そうなの!私と白川まゆちゃん、河内渚ちゃん、岩瀬萌香ちゃん、羽淵(はねふち)百合乃ちゃんで。こ、これがその時の紙の切れ端!」
鞄からコックリさんと同じような五十音と鳥居らしきものが書かれた紙切れを取り出す。
「ふーん、で、何があったんです?随分顔色が悪かったですけど。」
「う、うん…。…五人で『お使いエンジェルさん』をやったんだけど、その、私…コインをなくしちゃったの…!」
古賀先輩は泣きそうな顔で呟いた。その表情が、余程切羽詰まった状況なんだと物語っている。…しかし、いまいちわけがわからない。
「えっと、それじゃ終わらせられないって事ですよね?」
「…そうなの。このままじゃ、百合乃ちゃんまで…。」
「……あのさー古賀先輩。それだけじゃただの世間話なんですけど。」
馨君がしびれを切らした様子で脚を組み替えた。古賀先輩の説明もかなりわかり難いが、もろに態度に出しすぎじゃないだろうか。既に興味が薄れ始めているのが見て取れて、案の定古賀先輩は萎縮してしまっている。
「ご、ごめんなさい。えっと、わかりにくかったよね。『お使いエンジェルさん』は、お願いごとをしたら早く帰ってもらわないと勝手に悪さをし始めちゃうんだって。だから、一刻も早くコインを見付けなきゃ大変な事になの!」
「へー落とし物として職員室に届いてないんですか?」
「真面目に聞けよ馨。」
「うちは何でも屋さんじゃないんですよ。怪奇現象が起きてから出直して下さい。」
馨君が涼君に帰ってもらうように目で合図を送り、また本を読み出そうとした時、古賀先輩が叫ぶ様な声で言った。
「もう起きてるの!渚ちゃんも、萌香ちゃんも事故にあって…。さっき、まゆちゃんも走り高跳びで…!」
古賀先輩は目に涙を溜めてうつむいてしまった。
「え、走り高跳びって…。」
美弥さんが驚いた様子で声をあげる。同時に馨君も本を開こうとした手を止め、古賀先輩に目を戻した。
「さっき、スタンドが脚に倒れた人ですか?」
「グスッ…そう。三人とも、『お使いエンジェルさん』をやってから次々に酷い目に遭ってるの。こんな短期間に、偶然とは思えない…。さっき、まゆちゃんが失敗するのを見て確信したの!お願い、助けて!このままじゃ百合乃ちゃんまで!」
それを聞いた馨君は目の輝きを取り戻した。まるで新しいおもちゃを貰った子供の様に心底嬉しそうな顔で古賀先輩に言い放った。
「わかりました。僕達が絶対に『お使いエンジェルさん』を捕まえてみせます。」