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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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Midnight UMA(9)
「でも、放って置いたら森野君達も襲われるかもしれないよ。」
「それは愉快だね。僕を馬鹿にした罰だ。」
「性格悪いなお前…。」
「そっか!馨くん、ここで犯人を見つけたら森野くんに借りを作れるよ!襲われた子達は森野くんの手下なわけだし。」
「…。」
「言われっぱなしでいいの?馨くんの凄いところ見せ付けてやろうよ!」
少しの沈黙のあと、馨君は本を置いてソファーから立ち上がった。
「…そこまで言うならいいよ。」
「やった!さすが馨くんっ!」
まさかこんな簡単な事で動いてくれるなんて…。馨君も意外と単純なんだな。美弥さんもよく馨くんの扱いを知ってるなあ。そんな事を思ってると、馨君は帰る準備をし出した。
「そうと決まったら東中に行くぞ。さっさと片付けてやる。」
「東中の生徒が犯人なのか?」
「多分ね。でも今日は現れないはずだ。今まで奴が出たのは金曜日だけだから。」
「そういえばそうだね…なんか関係あるの?」
「この手の変質者は大体自分のルールがあるんだよ。そうそう変えないさ。部室閉めるぞ。あと涼、森野の番号知ってるなら連絡しろ。」
東中に着くと、校門前に森野君と以前一緒にいた友人達がいた。まだ生徒が多く残っているようで、校門から多くの生徒が見える。
「なんか用ですか結城先輩。」
「HRってまだ終わったばかりだよね。てかさ、森野君にしか連絡してないはずなのに随分人数が多いね。一人じゃ来られないの?」
「相変わらずムカつくなアンタ…。用件を言えよ!」
「噛み付くなよ。みんな見てるよ?昨日聞いた話なんだけどさあ、犯人がわかったから教えてあげようと思って。」
「えっマジっすか。」
「すげえ、さすが三上先輩の友達っすね。」
「チッ…。名探偵気取りですか。どうせ下らない話でしょう。」
「ああそうだね。下らない犯人さ。弱そうな不良に目星つけて子供騙しのしょうもない悪戯して喜んでる馬鹿だよ。それも、自分のクラスや虐められた不良に意趣返ししてるつもりなんだろうね。」
「おい馨、声大きいぞ。目立つだろ。」
「あの!じゃあ樹のクラスの奴なんすか!?」
「やっぱ河童なわけなかったんだな。」
「そうだよ。私刑にでもなんでもしなよ。僕は明日から天の川公園で目撃される小人調査の予定があるから失礼。」
そういうと馨君はくるっと後ろを向いて帰ろうとした。一体なにしに来たんだろう…。これじゃあ森野君の気を逆なでしただけじゃないのかな。
「…ちょっと待ってください。そいつの名前は?」
「…。」
「…はっ。なんだよ。わかってねーんじゃん。名探偵気取ってたワリに大した事ないですね!その程度の推理ならオレでも出来そうだな!わざわざ教えてくれてどうもありがとうございましたー。」
森野君は勝ち誇ったような顔をしたけど、馨君は何も言わず天の川公園の方へ歩いて行ってしまった。ボク達もよくわからないまま馨君の後を追う。
「馨、何しに来たんだよ。意味わかんねえ。」
「だろうね。別に森野に会うことが目的だったわけじゃないから。」
「えっ?じゃあどうして森野君に連絡したの?」
「東中の番長さんが北高生の集団と話してたら目立つだろ?しかも校門で。それが狙い。」
「わかった!犯人にさっきの会話を聞かせたかったんだね?」
「だからあんなに目立つところで大声で話したのか…。」
「そう。襲われた奴らの家はみんな同じ地域だし、森野のクラスメイトを調べて家の近い奴を見つける方が確実だけど、面倒だし、森野に聞くのはムカつく。」
「確かにねえ。義人くんもいないしね!」
「そもそも、どうして河童じゃなくて人間だって気づいたの?」
「今から見せる。もっとも、明るいうちはよくわからないだろうけど。」
ボク達は馨君が昨日調査した天の川公園に来ていた。しばらく馨君について行くと、南高の河島君が突き落とされた階段の近くの茂みに着いた。
「…これが光る目の正体だよ。」
Midnight UMA(10)
馨君が指差す地面を見る。一見普通の地面にみえるけど、よく見ると、何か黄色いペンキの様なものがついている枯葉が幾つかと、すぐ近くの木の幹にはこすった様な黄色い後がある。これが光る目の正体って…どういう事だろう?
「…これって何?」
「これが昨日の夜に撮った写真。」
馨君が携帯の写メを見せる。そこには、黄緑色に光る枯葉と木が写っていた。
「あ、蛍光塗料!」
「ご名答裕太。明るいところじゃ黄色く見えるだけだけど、暗くすると黄緑色に光るんだ。カワハギ君が言ってたよね、見たことのある色だったって。蛍光塗料の光は色んな所に使われているし、独特の色だ。しかも現場の近くに零れているのを見ると、河童の噂と無関係じゃないだろうね。」
「でも、これをここで目の周りに塗ったのかな。」
「額に塗ったんじゃないかな。どう塗ったかはわからないけど、前髪で隠れたりすれば人間は単純だから、暗い中で光る部分を目だと勘違いするよ。」
「でも、なんでこんなもの顔に塗るんだ?」
「儀式だと思うよ。金曜日しか人を襲わない事と同じさ。何か自分の中でルールがあるんだ。不良しか狙わないのは制裁を加えているつもりか、何かコンプレックスがあるのかもね。まあ僕はプロファイラーじゃないからわからないけど。」
「恨みがあるからじゃないの?」
「個人の恨みとは違うと思うよ。襲われた奴らは特に仲が良かったわけじゃない。共通点は家が近い事、華奢な体格って事くらいだ。」
「なら、なんで森野のクラスメイトだってわかったんだ?」
「第一被害者から第三被害者まですべて森野のクラスメイトだ。最初は誰でも慎重になるだろ?犯人は多分手近にいる人間からターゲットを絞ったんだ。同じクラスの人間三人が襲われたってことはクラスメイトの可能性が高い。少なくとも、東中の生徒だろう。そして三回も上手く行って調子に乗った犯人は高校生にも手を出すことにした。それが先週だね。そして高校生の方にも河童の噂として流れたってわけだ。」
確かに、筋が通ってる。でも、そうだとしたらまたおかしな考えの異常者なんじゃないだろうか。いくら中学生とはいえ、そんな人にまた関わらなきゃいけないというのは正直怖い。馨君にまかせて、本当に大丈夫なんだろうか…。
「でも、どうして校門で森野と話す必要があったんだ?」
「森野のクラスって事は、当然面識があるはずだ。不良ばかり襲うあたり、あいつも候補に近い。強くて手が出せないにしろ、舎弟のカワシモ君達を襲った分当然動向に気を配っているだろう。そこであんな目立つ所で自分の話をされていれば絶対に注意を向ける。それで挑発したんだ。」
「川上な。なんで挑発する必要があるんだよ。」
「明日になればわかるはずだ。さて、帰りながら明日の予定を説明するぞ。」
「えっ!本当に小人調査するの?」
「小人ね…。ある意味そうなるかも。」
「?」
「とりあえず、明日、涼と美弥、裕太は一旦──」
金曜日の夜十一時手前、道路の灯りがわずかに届く、暗い天の川公園を歩く人影が一つ。発光の弱い、今にも電池が切れてしまいそうな懐中電灯片手に一人しんとした公園の奥の方に進んでいく。時折茂みを照らしたり、立ち止まったりして、本当に小人探しをしているように見える。しかし、ついに懐中電灯の灯りが薄れ、消えてしまった。カチカチとスイッチをいじるが付かない。ふと、後ろに視線を感じて振り返ると、緑色の光の尾を引きながら小柄な人影が棒を振りかざして突進してきた。
「い、いやあああ!」
「?!」
小柄な人物は一瞬何が起こったのかわかっていない様子だ。彼は棒を持って突っ込んだは良いが、相手にタックルを食らって尻餅をついたのだ。彼の顔に懐中電灯の灯りが当てられる。彼はさぞ驚いた事だろう。そこには自分が狙ってた人物と同じ格好をした女の子が立っていたんだから。
Midnight UMA(11)
「身長150センチの小人捕獲成功。よくやったよ美弥。」
「もう!ひどいよ馨君!怖かったんだからね。」
「僕と身長が一番近かったのは美弥だったんだから仕方ないだろ。それにお前じゃ心配ないよ。涼に相手の倒し方教えてもらってた時は凄く嬉しそうだったし。」
「だって涼くんに手とり足とり教えてもらえるなんてそうないもん!」
「練習台になってたこっちの身にもなって欲しいけどな…。」
「そんな事言ってる場合じゃないよみんな…。」
「っ……!」
「おっと、逃げるなよ。裕太、こいつの後ろに立て。中学生のクセに大胆な事するねー君。でもわかりやすい馬鹿で良かったよ。」
「…な、なんで…、なんで!?こいつら帰ったはずじゃなかったのかよ…!」
「やっぱり放課後以降ずっとつけてたんだね。君みたいな奴は歪んだ自尊心を持っている場合が多い。僕に大声で貶されて耐えられなかったんだろ?それに僕の容姿を見て襲えると思ったわけだ。」
「だから一旦放課後ここに集まって、私の服装を見せてから馨君以外帰ったように見せかけて入れ替わったの。」
少年は怯えを含んだような瞳で憎らしそうにボクたちを睨んだ。その顔はまだあどけなく、小柄な体格の普通の中学生にしか見えなかった。額には馨君が言ったように蛍光塗料が塗られている。前髪が長くて全ては見えないけど、横に一本線を引いているように見える。少年はうわずった声で怒鳴った。
「…っくそ!なんで邪魔するんだよ!森野とつるんで、お前らも北高のクセに不良なんだろ!天罰食らわせてやる!」
「天罰?中二病かよ。てことはその額の線は神様のつもり?金曜日ってのは何かな、キリストの処刑された日か。」
「…そうだよ。イエス様がその身をもって人類の罪を引き受けて下さった日だ。なのにこの地域は腐ってる!不良どもが闊歩して、だから、このイエス様に感謝し、自分達の罪を再確認するべき日に俺が粛清してやるんだ。この俺が…!」
さっきまでと打って変わって陶酔した様な様子で少年が語る。一体何を言ってるかわからない。不気味すぎる。ボクは無意識に後ずさりしてしまった。
「さすが馬鹿が考えそうな事だね。何が粛清だよ。怖くて本当に強い奴は襲えないんだろ?しかも後ろから小突くのが精一杯なくせに。」
「…うるさい。」
「天罰?警察にも相手にされてないよ。自己満足に使われるイエス様も哀れだね。」
「ぅうるさい!」
「馨!あんまり刺激するなよ!」
「黙れよ涼。こいつのプライド滅茶苦茶にしてやらなと気が済まないんだ。」
「それってただの八つ当たりじゃ…。」
「何?裕太。」
「いえ…。」
「俺は間違ってない俺は間違ってない俺は間違ってない…。俺は選ばれた人間なんだ!主が奴らに罰を与えるよう俺に天使を遣わして下さったんだよ。」
「ふーん。じゃあその額のは天使の輪ってわけね。」
「そうだ!これを書くと天使様が俺に力を与えて下さるんだ。」
「それは面白いね。だったらその力でこの状況をなんとかしてみたら?」
「っ…!それは…。」
「か、馨くん…。これ以上はもうやめようよ。可哀想だよ。」
「美弥、君達が犯人を見つけようって言ったんだよ?君もさあ、神様に縋って自分自身の欠陥から目を逸らすのやめたら?」
「…けっかん?お、俺が間違ってるっていうのか!?」
「知るかよ。でも、間違ってないならなんで自己暗示かけるみたいに唱える必要があるの?」
「…ちがう、違う違う違う!俺は、俺はそんな事ない…俺は…。」
少年は頭を抱えてうずくまり、必死に耳を抑えようとしている。こんなに取り乱す様は見ていて痛々しい。馨君が更に続ける。
「神を信じる事は悪い事じゃない。心の平安にも通じるよ。でも君は信じてるんじゃない。縋り付いてるだけだ。自分の鬱憤を神になすり付けて無理矢理正当化しようしてるだけ。」
「ちが、ちがう…違うったら…。ぅう…。」
少年は項垂れてしまった。嗚咽が聞こえる。泣いているんだろうか…。
「だ、大丈夫か…?おい、馨…。」
「僕は事実を言っただけだ。こいつも本当はわかってるだろ。」
「……ぃんな、わかってない…。俺の事、なんにも。」
見ると、少年がうなだれたまま震えた、小さな声で話し始めた。
「直接苛められてなくても、誰にも相手にされないのがどんなに辛いか…。周りは嫌な不良ばっか、本当は私立に行くはずだったんだ。俺はあんな奴らとは違うのに…。クラスにいてもいなくても同んなじ…こんな気持ちアンタにわかるのかよ!?」
「さっぱりわからないね。」
「馨くん!」
「…ほ、ほらね、みんな俺の事なんてどうでもいいんだ。誰も必要としてくれないんだよ…。」
「ウザい奴だな。そりゃあそうさ。自分から何も行動してないんだから。大抵の人は他人に興味なんてないんだよ。」
「……。」
キツい言い方だが、少年はさっきと違って馨君の言葉をきちんと受け入れているようだ。黙ったまま項垂れている。
「…でも、不良達を襲ったのは天使でも神でもなく君自身だ。」
「…!」
「今度はその力を別の方向で使ってみれば?」
「…俺、の力……。」
少年はぼんやりと先ほど振りかぶっていた棒を見つめた。その表情はどこか憑き物が落ちたような、中学生らしい表情に戻っていた。
Midnight UMA(12)
「おーっす久しぶりだな裕太!」
「義人君!?も、もう大丈夫なの?」
「え?ああ、一週間学校休んでたもんな。なんか記憶ないけど元気だぜ!」
「よ、良かったね。(あまりの恐怖に脳が処理したのかな…。)」
「ありがとな!それよりさ、河童事件の話聞いたぜ。結城が解決したんだってな。」
「ああ、うん。」
あの後彼は不良達に謝って回ったらしい。馨君に言われて涼君の話もしたらしく、制裁も加えられず、今は普段通りの生活を送っていると森野君が言っていた。知らぬ間に馨君に解決されていたことがシャクだったらしく、ぴりぴりしていたけど、大した事にならず解決して本当に良かった。
「でも後で来須先生に怒られちゃったけどね。」
「ダサ眼鏡に言われても怖くねーけどな。あ、なんか聞いたんだけどよ、その犯人の子、えーっと平川正一って言うらしくて、数ヶ月前から銀漢川の近くの教会に通ってたらしいぜ。」
「え、教会…?」
「知ってんのか?」
「うん。一度河童調査の時見つけたんだ。ボクは少し苦手な雰囲気だったな…。」
教会…。あの落ち着いた男の顔が浮かぶ。とても独特な雰囲気の所だ。彼、平川君も彼処に通ううちにおかしくなってしまったんだろうか…。きっとあの男やキリスト教が悪いわけじゃないんだろうけど、なんだか余計に嫌な印象がついてしまった。
「やっぱ宗教ってこえーな。あ、…でさ、聞きたい事があんだよ。」
「え、何?」
義人君はまるでいたずらの計画を話すよう子供の様にわくわくした様子で、ボクに顔を近づけた。
「犯人騙すために美弥と結城が途中で入れ代わったんだろ?」
「う、うん。」
「て事は当然、帰ったように見せかけるとこから入れ代わってたんだよな?」
「…あー、うん。」
義人君が更に嬉々とした様子で続ける。ボクは彼が聞きたい事が薄々わかってしまい目を逸らした。
「…じゃ、やっぱ結城も変装したんだよな?美弥に。」
「…。」
「そうなんだな!?お前、あいつのスカート姿見たのか?!やっべー超面白えじゃん!オレも見たかった──っ!」
馬鹿笑いしていた義人君が殺気を感じて固まる。続いて、壊れた人形みたいな動きで後ろを振り返る。ボクにはさっきからずっと見えていたよ。彼を睨む馨君と哀れんだ目をした涼君が。
「義人は口は災いの元って言葉、知らないのかな?」
「…ボクは一言も見たと言ってないからね。」
「裕太…。この、薄情者が…!」
「また来週まで、お別れだよ。」
放課後の部室に義人君の叫び声が響き渡った。