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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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番外編1(9)
その後、病院で診察を受けた涼は胃が少し傷ついていたことが判明し、一週間入院する事になった。原因は結城とサボって喧嘩したということにして二人で口裏を合わせた。中学では、あの三上涼を入院させたという事で結城は一躍有名人となったが、体育時の絶望的運動神経のなさに噂はあっという間に風化して行った。真相を知っているのは二人の周りのごく一部の人間だけである。
「よう涼。入院生活はどうだ?」
「ああ、義人。まあまあだよ。」
「そうか…。ごめん、俺、何にも出来なくて…。」
「別に、お前のせいじゃない。むしろ義人に何もなくて良かった。」
「…なんかお前、変わったな。前より元気になったっていうか、柔らかくなったんじゃねえか?」
「…馨のおかげかも、な……。」
「結城?お前ら、いつの間にそんな仲良くなったんだよ。」
「それは…。」
「何さぼってんだ涼。国数英のドリル各二十ページずつ終わったんだろうな?」
「えっ。結城じゃん!なんで?」
「馨、いま義人が来てるから…。」
「終わったんだろうな?」
「…い、いや……まだというか…。」
「…ふーん。じゃあお仕置きされたいの?本当ドMだよねぇ。」
結城はそういいながら涼の腹をぐいっと押した。
「痛え!!ま、まじでそれはヤバい…か、ら…!」
「ならドリルと参考書を開け!僕がこの大問を解いてる間にあと三問はやれ。」
「わ、わかった…。わかったから手をどけてくれ!」
結城はさらりと涼に背を向けると病室の机で数学の問題を解き始めた。涼は渋々参考書と数学のドリルを開く。あまりの二人の変化に義人はしばらく呆気に取られていたが、やっと正気を取り戻すと、次々と疑問が湧き出してきた。
「へ?え、どうなってんの?!なんで結城がここで勉強してるんだ?つか、何?涼までいきなり勉強とか、一体どうしたんだよ?!」
「うるせえ義人!はやく三問解かないと馨に酷い目に合わされるんだ!」
「はあ??」
「あーもう半分解けたなあ。後は代入して計算するだけかなー。」
「待て馨!見直ししててくれ!」
「無駄口たたいてないでさっさとやれ!」
「わかっただろ義人。今話しかけるなら馨にしてくれ!」
「あ、ああ。えと、結城?」
「え、誰君?いたの?」
「いや、さっきからな…。俺はB組の江藤義人。何度か学校で会ったことあると思うんだけどさ。…てか、涼からも聞いてたけど学校とキャラ全然違うのな。」
「ああ、涼の友達か。まあね。私立の推薦控えてたから良い子を演じてたんだ。でももう推薦も駄目になっちゃったし、先生にもこっ酷く叱られて演じるの嫌になったから。」
「へ、へえ。じゃあ、涼を虐めながら勉強させてるのは?つかお前らどういう関係?」
「失礼な言い方だなあ。家庭教師してやってるんだよ。北高に受からせる為にね。僕と同じとこ。」
「北高って涼が?!あと一ヶ月ないのに無理だろ!俺が言うのもなんだが涼は馬鹿だぞ!」
「おい義人。聞こえてんだけど。」
「確かに涼は馬鹿でドジで間抜けだが、言われた事は従順に守れるし、根気もある。僕がつきっきりで教えてやれば可能性はあるよ。」
「馨…。素直に喜ぶ気になれない褒め言葉本っ当にありがとな!」
「事実だから。」
「(間に入れねえ…。)それにしても、なんで涼を北高に入れたいんだ?」
「僕の下僕にするため。」
「えっ。」
「冗談だぞ義人!つか馨が言っても冗談に聞こえねーけど。」
「(本気かと思うわ…。)」
「本当は僕の趣味に手伝わせる為だよ。僕は全く運動神経がないし、体力もないから。だから涼が一番適任だと思ったんだ。」
「だから屋上に通ってたってわけか。学校でも妙に人当たりいいし、変な奴だと思って調べてたが、そういう事かよ。」
番外編1(10)
「僕を調べてたのか。まあね。どんな奴か確かめたかったから。」
「お前…涼を利用するために取りいってんだろ!南高の奴らから涼を救ったって聞いてたけど最低だな!」
「義人!よせ。あんまり大きな声出すなよ。病院だぞ。」
「涼はいいのかよそれで!?利用するために近づかれたんだぞ?」
「…ああ。」
「涼!」
「どんな理由でも助けられた事にかわりはない。ここまで俺を導いてくれたのは馨だ。俺は馨を信じてる。」
「なんで…。」
今まで気だるそうにしていた涼の久しぶりのまっすぐな瞳を見て義人は口をつぐんだ。それを見計らったかのように結城がノートを閉じた。
「さあ終わった。三問は出来たか?」
「えっ!ま、まてよ。今さっきまで話してて…。」
「だから見直しと答え合わせまで全部終わらせてから言ってるんだよ。何甘えてんの?…おい、まだ二問目の途中じゃないか。罰としてそれ終わったら漢字書き取り百回な。」
「まじかよ…。」
「君に無駄に出来る時間は一秒もないんだよ。口答えする暇あったら頭を働かせろ!」
義人はいたたまれなくなって病室を出た。親友が自分の知らない間に変な奴に好き勝手されているところを見ていたくなかった。それに、それを何とか出来る頭もない自分が悔しくて、とてもその場にいられなかったのである。仕方なく帰ろうとした時、廊下に結城が出てきた。
「待ちなよエジマ君。」
「なんだよ…。つか江藤なんだけど。」
「君に弁明しておこうと思ってね。」
「は?弁明?何の為にだよ。お前が言った事は事実だろ?」
「そうだよ。でも多分君は誤解してると思って。」
「誤解だと?」
「確かに僕は涼の力を利用しようと思ってる。これからもね。でも彼と過ごすうちに打算だけじゃなく、純粋に仲良くなりたいと思ったんだ。」
「…。」
「僕はこの通りあまり良い人付き合いが出来ない。うわべだけ取り繕うのは得意だけどね。でもそんな僕を信頼してくれている涼を、僕も同じくらい信頼してる。あの不良どもと違って道具として見ているわけじゃない。」
「…なんでそんな事俺にいう必要があるんだ。」
「一応涼の友達として君とも仲良くなりたいからさ。よろしくね。」
「……。よろしく。」
未だ結城は何を考えているかわからなかったが、どうも嘘をついているようには見えなかった。義人は渋々差し出された結城の手を握り、握手をした。
「良かった。誤解は解けたみたいだね。」
「まだ完全に信頼したわけじゃねーよ。でも、涼を助けたわけだし、な。あ!涼をいじめるのはやめろよ。入院長引いたらどうすんだ!」
「一種の思いやりだよ。…でも。」
妙に結城が口ごもり、神妙な表情をした。義人は怪訝に思って結城の顔を覗き込む。
「で、でも何だよ?」
「…あの日、普段あんだけ気取ってた涼が地面に這いつくばって泣いてる所見てから、何だか妙に心がざわつくんだ。」
「え、な…。涼が泣いたって…!?なあそれどういう事だ?教えてく──」
「もっと泣かせてやりたいってね。」
「──!」
「…じゃ、また。」
一瞬結城が恐ろしい微笑みをしたように見えたが、すぐに病室に戻って行ってしまった。義人はぞっとしてそのまま動けずにいた。
「ハッ…。…やっぱあいつ、絶対アブねえ!」
義人は一瞬涼の元へ戻ろうと思ったが、どうしても結城がいると思うと行く気にはなれず、そのまま出口へ向かった。『情報通』として、二人に何があったのか調べ尽くす決意を胸に秘めて。
番外編1(11)
「はあ、そういう理由で仲良くなったってわけなんだね。」
「二人には絶対言うなよ!コンボで殺されるからな!」
義人君は興奮した様子でボクに言った。今日はたまたま馨君達が資料集めと言って図書館に行ってしまっているので、ボク達は留守番がてら珍しく二人で部室でお茶をしてたのだ。
「言わないよ。ボクだって馨君怖いし。というか、どうやったらそこまで調べられるの?本人しかわかんない所とか幾つかあったよね。」
「『情報通』を舐めちゃいけねーよ裕太。そりゃあ企業秘密だぜ!ま、ちょっと脚色もしてるけど…。」
「はは、でもその行動力に感心するよ。」
「まあ情報通のプライドってやつ?涼達について行くため勉強しまくりながら南高に潜入したり、マジであの時は死にそうだった…。」
「へえー。」
ボクはお茶を啜りながら適当に返事をした。実際たった一ヶ月でこの学校に入れるまでに学力を延ばした義人君と涼君も相当だと思う。三年間塾に通いながらひいひい言っていたボクからしたらなんだか嫉妬してしまう。
「まあ素直に結城の教え方の上手さは尊敬するよ。隣でちょこちょこ聞いてた俺もそれで随分助かったし。ただ涼は相当な目に遭ってたけどな…。」
遠い目をする義人君の様子からして何と無く察したボクは、ちょっとだけ結城君に教えてもらおうと思った事を後悔した。それにしても、涼君が不良だったとは。本当に信じられない事だ。僕は西中出身の上、不良とはなるべく距離をとって生活していたから『大黒天』なんて全く知らなかった。
「あれ、でもそんなに有名な不良だったのに今はみんな全然知らないってなんだか不思議だね。」
「ああ。そもそも一応そこそこのレベルの北高に不良が少ないってのもあるけど、何より東中から来た生徒がほとんどいないからだろうな。みんなほとんどここよりレベルの高い私立か、南高に行っちまったんだ。ま、それも見越して結城はここを選んだのかもなあ。」
「そっか。馨君てやっぱりいい人だよね。」
これでずっと気になっていた二人の不思議な関係が理解できた。馨君があんなに無茶な事が出来るのも、お互いを強く信頼し合っているからできることなんだろう。
「ま、俺はいけすかないけどね!涼もなんであんな奴について行けるんだか。」
きっと義人君は二人が急に仲良くなってしまって寂しいのだろう。本来なら幼馴染で親友の自分が何とかしてやりたかったのに、全て馨君に役を持っていかれてしまった気分なんじゃないかな。しかし、決して義人君がいけないわけじゃないとボクは思う。
「でも、思った事をそのまま実行出来るのが馨君の魅力なんじゃないかな。だから涼君だけでなくボクや美弥さんも馨君のそばにいるんだよ。義人君もなんだかんだいいながらね。」
「はっ!俺はそんな事ねーよ!あのドSっぷりといい人をナメた態度といい俺は大っ嫌いだね。それに俺オカルトとか苦手だし。」
「ふーん。じゃあ今すぐ部室出ていって二度と来ないでくれる?」
ボク達がびっくりしながら振り返ると後ろには図書館から戻ってきた馨君達が立っていた。
「げっ。結城!」
「何?二人で僕の悪口大会?お望みならそのドSっぷり披露してあげるよ。」
「ちっ違うよ!!ちょっと話の流れでそういう方向に行っちゃっただけで…。」
「そ、そうそう!てかそんな酷いこと言うなよー。俺たち友達だろ?」
「君は“涼の”友達であって僕の友達じゃないし。はい留守番ご苦労様ーどうぞ御引き取り下さーい。」
「友達の友達は友達でいいだろ!つかなんだよ今日は気が立ってんな!」
「目当ての本が見つからなかったんだとさ。図書館ハシゴさせらた身にもなれよ。」
後ろで静観していた涼君は、そういいながら重たそうな鞄を机に置いた。おそらく本が沢山入っているのだろう。美弥さんがちょっと困ったように微笑みながら説明を入れてくれる。
「そうなのー。『ツチノコ生態学』なんて、まあ、図書館にそうそう置いてないよね。」
「リクエストしといたんだ!そしたら取りにくるのが遅くて先に借りられてたんだよ。ったく。」
「そんなの誰が借りるんだか。」
「お前はツチノコのロマンをわかってないんだよ。ツチノコは昭和に始めて発見されたわけじゃない、江戸時代にはツチコロビという名で既に認識されていて、坂を得体の知れない何かが転がってくる事を──」
「それ今日二回目だから!疲れたから休ませろよ。大体なんで目当ての本見つからなかったのにこんなに沢山本借りたんだよ。」
「腹いせ。」
「もう馨くんたらイライラするとすぐ涼くんに八つ当たりしちゃうんだからー。」
「ちゃんと後で全部読むからいいだろー。」
「そういう問題じゃねーよ!はあ…。」
どうやら重たい本を涼くんに持たせていじめたかっただけらしい。半ば呆れて諦め顏の涼君とすまし顔の馨君。そんなすごい過去があったなんて知った所為かいつもよりもなんだか楽しそうに見える。ちらりと横目で義人君をみると、仏頂面をしながらも二人を眺めてる。二人の関係が微笑ましいような羨ましいような複雑なこの気持ちは、義人君の気持ちにちょっと近いのかな。なんて思いながらも、この空間に一緒にいられる事を嬉しく感じながらボクはお茶をすすった。
Fin
今回、番外編という形にしたのはオカルトが全然関係なかったからです。
脳内設定をそのまま文章にしたので、自己満足の作品です。
ご愛読ありがとうございます。
それでは、また。
またまた番外編で失礼します。
今回もオカルトがあまり関係ないストーリーですが、
新キャラ登場の回です。お楽しみいただけたら幸いです。
番外編2(1)
暖かい、から徐々に暑いに変わりつつある今日この頃、ここ最近は特に目新しいものもなく、部室でのんびりする日が続いていた。今日は馨君を除くボク達で美弥さん自作のお菓子を目の前にお茶という名の心理戦を繰り広げていた。特に今日はマドレーヌだ。こういうしっとりしたお菓子の時はクッキーの倍後味が恐ろしい。馨君はというと、早々に美弥さんの鞄から覗くラッピングを見て、『ツチノコ生態学』を読み耽ることに徹し不戦勝だ。部費で買ったという電気ポッドから嬉々としてお茶を用意してくれる美弥さんをよそ目に、ボクと涼君は互いをちらりとみると、さも平静を装った。
「…もうすぐ夏だねー。」
「そ、そうだな。そろそろ長袖も暑くなるな。」
「ボク、夏になると暑くて寝付けなくなるんだよね。」
「わかるー!私も冷えピタ貼って寝たりするよ!」
「俺もなかなか眠れなくて、朝寝坊したりするよ。」
「あ、えと。良かったら、私、朝電話して──」
「あーなんだか喉乾いちゃったな!ボク飲み物買いに行ってくるね!」
ガシッ
「っ!」
「何言ってんだよ裕太。お茶なら目の前だぞ。」
しまった!つい美弥さんが涼くんに目覚ましコールするのを阻止するためとは言えあまりに不自然な事をしてしまった!この流れじゃお茶を飲まないのは不自然だ。しかし飲めば必然的にお菓子に手を伸ばさなくてはならない。というか勧められる!涼くんが哀れむような、しかしチャンスだという顔でボクを見る。
「あ、あーそういえばそうだよね。ボクなに言ってるんだろう。」
「うふふ。裕太くんたらー。」
くっ、これはもう回避出来ないな。しかし、何とか時間稼ぎをしたい。うまくやれば涼君も巻き添えに出来るかもしれない。ボクは差し出されたお茶を一気飲みして、少し冷静になった。
「そういえば、涼くんは喉乾かないの?さっきから全然飲んでないよね。」
「え。いや、うん。俺は全然!」
「そうなの?凄い汗出てるじゃん。」
冷や汗なのはわかってるけどね。死なば諸共だ!
「本当だ!涼くん大丈夫?」
「ほら、飲みなよ。お菓子もあるよ?」
もう逃げられないよ。涼君を見ると、悔しそうな表情の後、美弥さんのニコニコ顏を見て観念したように湯呑みを手にとった。ボクは束の間の勝利を喜んだが、結局自分も食べなきゃならない状況にいることを思い出し、お茶のおかわりを貰った。
「今日はとっても上手く焼けたと思うの!どうかな?」
期待と不安が混じった瞳で見つめる美弥さん。とても食べないなんて選択を出来るわけがない。ボク達は湯呑みを手にぎこちない表情をしていた。美弥さんは既にお茶を飲みながらお菓子を食べている。正直、このお菓子を美味しく食べられる彼女の舌がとても心配だ。ああ、本当に、何か手立てはないだろうか…。ボクは最後の抵抗と言わんばかりに周りを見回した。その時、教室の扉が控えめな音を立てて開いた。
「あのぉ、ここがオカルト研究部、ですか?」
番外編2(2)
そこには学ラン姿の華奢な男の子が立っていた。普段義人君以外の誰かが訪ねて来るなんてないので、ボク達はびっくりして彼の方を見た。しかも、うちの高校はブレザーだ。他校の生徒かな?と思って何か返事をしようと思っていると、馨君が読んでいた本を閉じ、その男の子の方に向き直った。
「そうだよ。君は?」
「あ、えっと、僕学校見学で来ました。東中の森野です。」
森野君はぺこりと頭を下げた。中学生が受験校を見学に来た、ということなのだろう。なんとも小動物のような動きをする男の子だ。ボクはその小さな肩幅を見て、つい半年程前は自分も中学生だったのに、なんだか急に大人になった気がした。
「え!来年ここ受験するの!?しかもオカルト部入ってくれるの!?」
美弥さんが興奮気味に彼に話しかけた。森野君はにこりと笑い、相槌をうった。
「はい!オカルト結構好きなんです。」
「うわあ嬉しいな!入る前から興味持ってくれるなんて!私木下美弥。よろしくね!」
「木下先輩ですね。よろしくお願いします!えっと、そちらは…。」
「あ、僕は柿本裕太だよ。よろしくね!」
「はい!柿本先輩!えっと…。」
森野君は馨君と涼君を見て名前を聞きたそうにしている。涼君は言いにくそうに目をそらしつつ口を開いた。
「俺は…。」
「僕は結城馨だよ。ここの部長。よろしくね、モリヤマ君。」
「あはは。森野ですよ!よろしくお願いしますね結城先輩!」
「君はどんなジャンルが好きなの?UFO?UMA?それともフリーメイソンとか都市伝説?ああ、七不思議や伝承とかもいいよねえ。僕はちなみにこの中だと最近は伝承に凝ってるんだ。ツチノコの伝承とかとても興味深いよ──」
「馨くん!いきなりそんな事言ったら引かれちゃうよ!」
「はいはい。」
「いいえ!結城先輩って博学なんですね!僕はそうですね、そんなに詳しくないですけど、仏教とか、インド神話、なんて興味ありますよ。」
一瞬、森野君が涼君を鋭く見たような気がした。しかし、すぐにあどけなく微笑んだ。
「先輩は、なんて仰るんですか?」
「……三上…。」
「よろしくお願いします、三上先輩!もしここに受かったら来年から仲良くして下さいね!」
「あ、ああ。」
「せっかく来てくれた所悪いんだけど、僕達今日はこれで部活を終了するつもりなんだ。また後日でいいかな。」
馨君が有無を言わせない雰囲気で森野君に言い放った。もちろんまだ部活動を終了するつもりはなかった。恐らく、馨君もさっきの森野君の目を見て何か感じたのだろう。
「ダメ!」
「…美弥。部長命令なんだけど。」
「そんなの感じ悪いよ!せっかく来てくれたんだし、お茶ぐらい出してあげよう?」
美弥さんの真剣な瞳を見て、馨君も観念したのか、ちょっと目をそらして溜め息をついた。こういうところは馨君も美弥さんに勝てないらしい。
「まあ、そうだね。お茶くらいならね。」
「いいんですか?じゃあお言葉に甘えさせてもらいます!」
「あっいや、ちょっと待って!」
咄嗟に制してしまった。お茶するということはつまり、あのマドレーヌを食べると言う事だ。流石に来年後輩になってくれそうな子にこれはまずいと思ったのだ。以前ヨハネス君に食べさせてしまったことを思い出す。しかし、上手い言い訳をしないと美弥さんを悲しませる事になる…。