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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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番外編2(8)
ボクが気付いたと同時くらいに涼君が森野君の右手を蹴り上げた。ナイフは岐路を外れ川の方へ飛び、涼君は怯んだ森野君の襟首を掴むと足払いで地面に転ばせた。襟首を掴まれたまま転ばされたので特に怪我も無いようだ。ナイフが川に落ちる音のみが響く。
「うぐっ…!」
「…これで満足か?」
「…はっ。何処までオレをバカにするつもりだよアンタ。子供扱いすんじゃねえ。」
森野君はそう言いながらももう抵抗する気は無いようだ。武器も奪われ、押し倒されたこの状況では勝ち目は無いと悟ったのだろう。ボク達が橋の下に降りると、森野君は悔しそうな、何処か諦めた様な表情で涼君から目をそらしていた。
「結局犬じゃ神様には勝てないって事ですね。くそ…っ…。もう放して下さいよ。」
「…お前は何が目的なんだ。」
「だから言ったじゃないですか。大黒天さんとお手合わせしたかっただけだって。」
「ちげえよ。それにしては妙に焦ってただろ。それにコケにするだとか、一体どういう事だ?」
「…。…中学でも三上先輩の噂はまだ流れてるんですよ。喧嘩で負け知らず、破壊神だとかね。」
「…。」
「うわあ黒歴史。」
「うるせえ馨!」
「…オレは今の不良どもをまとめて来た。一部の高校生だって言いなりに出来るくらいにな。なのに何もしていない名前だけの元番長がいつまでも居座ってもらっちゃ迷惑なんですよ。だからアンタを倒してあいつらに見せ付けてやるんだ。このままじゃ面子丸潰れなんでね。」
先程とは違い、森野君の瞳は飢えた獣のようにギラギラと光っていた。きっと普段の小動物の様な動きに対したこの姿からまさに『狂犬』というあだ名が付いたのだろう。しかし、その姿は何処か焦燥感に駆られているような、さみしげな様子だった。
「…それって君が本当にしたい事なの?」
「か、馨君…。」
「…はあ?何が言いたいんですか。」
「結局その面子ってのに振り回されてるだけにしか見えないけど?その調子じゃ余程自分に自信がないんだね。まあ、チワワの狂犬じゃ仕方ないか。」
「うっせえ!!てめえに何がわかるんだよ!どうせ使い古しの倫理観でお説教したいだけだろうが!」
ああ、また馨君のストレートな物言いだ。森野君が噛み付くように怒鳴りながら近寄る。しかしその様子はまるで怖がる子犬が威勢を張っている様だと思った。
「非行に走るなとか言いたいわけじゃないよ。君は結局自分の気持ちから逃げてるだけだろ。面子とかそういうの保てないとナメられそうで怖くて周りに振り回される。まるで苛められっこと同じだよ。そういう所が見ていてイライラするってだけ。」
「だ、黙れぇええ!!」
小刻みに震えていた森野君が遮るように絶叫した。ボクにはそれは逆に馨君の言葉を肯定しているように聞こえたんだ。しかし次の瞬間、森野君は飄々とした様子の馨君に殴りかかっていた。危ない!拳が馨君に届く、と思ったがそれはすんでの所で止まっていた。見ると、涼君が森野君の手首を掴んでいる。
「っ放せよ!!」
「暴力にうったえるのはやめろ!…俺のせいでお前に嫌な思いをさせた。それはごめん。でも、お前は見ていて痛々しいよ。そうやって相手や自分を追い詰めるな。」
「っ!」
「俺も常識を押し付けるつもりはない。好きにしたら良いと思う。…だから、その、本当に今のままでいいか、もっと自分を見つめ直してみたらどうだ。辛いなら話きいてやるから。」
涼君が森野君を優しく見つめる。こういう時の涼君は本当に優しくて、抱えているものを全て吐き出したくなる。森野君もそれを感じたのか、強張っていた体から力が抜けて行くのがわかる。
「…うるさいですよ。なんでオレが勝手にやってんのに謝るんだよ。馬鹿じゃねー、の…?先輩ヅラ、すんなよ…!」
森野君は弱々しい声で抗議した。でも、それはもはや抗議とは言えず、なんだか安心したような声だった。俯いた彼から嗚咽が聞こえて来たので、ボク達はそれ以上何も言わず、そこを立ち去った。