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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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Zodiac Murder(4)
…翌朝、部屋で学校の支度をしていると、下から母さんの呼び声がした。
「裕太ー!お友達が迎えに来たわよ~。」
「え、お友達って…。」
「おはようカキノボリ君。」
「柿本だろ。おはよう。」
「うわ!結城君、三上君!?」
「裕太のお友達が訪ねて来たのって何年ぶりかしら~。しかもこんなイケメン二人なんて!」
「いやあ僕も彼にこんな美しいお母さんがいるなんて知りませんでしたよ~。」
「んもうお世辞も上手なのねぇ~!ちょっと待ってて、今ケーキ持ってくるから。」
「お母さん朝からケーキだなんてそんな気を使わないでいいですよぉ。帰りにいただきますから!」
「もらう気満々!?」
「貰えるものは貰っておかないとね。」
「(みみみみ、三上君!?ゆゆ、結城君キャラ違い過ぎじゃない??!)」
「(……ああ、馨は大人には八方美人なんだ…)」
いつも仏頂面で近寄りがたい結城君が家の母親にキラキラの笑顔で話してるのを見るとなんだか薄気味悪い……。ルンルンの母さんに見送られ、角を曲がると、結城君はいつもの調子に戻った。
「(コホン)えー……何か?」
「「いや別に。」」
結城君はあまりのギャップで彼を凝視していたボク達を一瞥すると、何事もなかったように話し始めた。
「昨日調べたんだけど、なぜカキノモリ君が狙われたか何となくわかったんだ。」
「え!」
「どうやら星座だけでなく誕生日にも関係しているらしい。」
「誕生日?」
「詳細は放課後オカルト部で話すけど、第一の被害者、山里由梨江十五歳は九月六日生まれ。次に殺されたのは二年の戸田悠磨十六歳は十月五日生まれ。二人とも星座のちょうど真ん中あたりに生まれている。戸田悠磨の方は一日ずれてるけど。」
「それがなんなんだよ。」
「それは放課後オカルト部で話すよ。紹介したい人もいるし。」
「紹介したい人?」
「来ればわかるさ。」
放課後、三上君は掃除なので、ボクは結城君に連れられてオカルト研究部の部室に行った。中は想像よりも簡素で、てっきりドクロや十字架が陳列しているのかと思っていたボクは少しほっとした。
「もちろん本当は飾りたかったけどね。二人が駄目だって。」
「二人?」
「ああ、もうすぐ来るよ。」
結城君が言った通り、少しすると長髪の綺麗な女の子が入って来た。
「彼女は同じオカルト研究部の木下み──」
「うわぁ!!この人が馨くん達が言ってた柿本裕太くん!?ヘェ~良く来てくれたねぇ~!!私木下美弥(みや)!よろしくね~!」
「あ、はい……よろしく…。」
「ちょっと美弥!彼がひいてるだろ。そんな興奮するなよ。」
「え~だってこんな寂れた部室に来てくれる人なんてそうそういないんだもん!」
結城君が目をキラキラさせてボクに抱きついていた木下さんの手を離させてくれた。
「悪かったね…。美弥はいつもああなんだよ。」
「はぁ…。あの…二年生もいないんですか?」
「……裕太くん、ちょっとこっち来て。」
「え?」
木下さんはボクの手を取り隅の方へよると、口元を結城君から隠すようにしてボクに顔を近づけた。
「先輩達はみんな馨くんが怖くてほとんど来てくれないんだよ。」
「怖い…?まあ確かにかなり変わってて近寄りがたいですけど……。」
「普通の人にはまあそのくらいだけど、馨くんのオカルト好きは半端じゃないからね…。ミステリーサークルについて議論した時なんか先輩泣かせちゃったんだから!」
「おい美弥。変な事教え込むなよ。」
「はいは~い。それにしても嬉しいな~!あ、私のことは美弥でいいからね!」
「あ、はい!」
そのとき扉が開いて三上君が入って来た。
「なんだ、美弥も来てたのか」
「あ…りょ、涼くん…!!う、うん…。」
「(…な、なんか美弥さん突然しおらしくなってません?)」
「(ああ、美弥は涼が好きなんだよ。)」
「あ…ヘェ……。」
そうだよね……。彼女みたいな綺麗な人に好きな人がいない訳ないか…。
「ね、ねぇ涼くん?この前作ったクッキー食べてくれた?」
「えッッ!?……いや、まだ、というかその…。」
「ああ、この前のクッキーならここにあるよ。食べてあげたら?」
「なっ!?」
「…?(なんで三上君顔が引きつってるんです?)」
「(……一つ食べてみればわかるよ)美弥、ホシガキ君に一つあげるよ。」
結城君はそういいながら可愛らしくラッピングされたクッキーをボクに差し出した。見た目もこんがりと焼けていてとてもおいしそうだ。ボクはそれを受け取り、一つ口に入れてみると……──。
「ブッ……!?」
噛んだ瞬間口内に広がったとてつもない味に思わず吐き出しそうになった。砂糖と塩を間違えたとかそんな生易しいものじゃない、とにかく水道で口をすすごうと思った瞬間──
「あ、やっぱり、まずいかな…。」
「(まずいとかそういうレベルじゃないけどね。)」
「(てかわかってるくせに勧めるなよ。)」
「(僕が言わなかったら涼が食べるはめになったろ。ありがたく思えよ。)」
……まずい。美弥さんが涙で潤んだ瞳でボクを見つめている………。ここで吐き出すわけにはいかない!
ボグは必死でクッキーを飲み込み、精一杯の笑顔で言った。
「お、おいしいです……!」
そういうと、美弥さんはとたんにぱっと顔を輝かせ、嬉しそうにその場で飛び跳ねた。
「良かったぁ~!今回のは結構自信作だったんだ♪ありがとう裕太くん!」
「い、いえ…。」
「あれ?カタツムリ君まだ食べたそうな顔してるね?」(棒読み)
「えぇ!?」
「仕方ないな、俺の分もやるよ。一つ残らず食べてくれ。」(棒読み)
「は!?」
「え?え??本当に!?嬉しいな!本当は涼くんの為にと思ったんだけど、気に入ってくれたのなら全部あげるよ!」
「……ありがとうございます………。」
Zodiac Murder(5)
「…さて、それじゃあ説明するよ。ほら、カタツムリ君聞いてる?」
「だから柿本……もうどうでもいいや。」
結局全てクッキーを食べさせられて抗議をする気力さえなくなったボクを尻目に、結城くんは解説を初めた。
「おそらく、犯人は何かの危ない宗教信者で、神に生け贄を捧げていると考えられる。まあここまではみんな想像付くと思うけど。」
「うん!問題は狙われた子の共通点だよね?」
「そう。年齢も性別もバラバラ、唯一の共通点はこの北奎宿校の生徒というだけ。でももう一つ共通点があったんだ。」
「もったいぶらずにさっさと言えよ。」
「誕生日だよ。山里由梨江は九月六日生まれ、戸田悠磨は十月五日生まれなんだよ。」
「…それって共通点なんですか?」
「うん。犯人は十二星座に何かしら関係した犯行を行なっているみたいだからちょっと調べてみたら、プログレスに関係してるみたいなんだ。」
「プログレス…ってなんだ?」
「占星術の占い方の一つ。日本語だと進行法とも言うらしい。その中で最も一般的なのが一日一年法と言ったもので、一ヶ月の天体の進行をその人の一年の天体の進行として人の一生を占うんだ。地球が太陽の周りを回るにつれ、太陽は三十度ごとに変化する星座を移動して行く。例えば、涼は九月十五日生まれだろ?プログレス太陽が乙女座を通り過ぎるのは七日後の二十二日。つまり涼は七歳の時から天秤座の影響を受けてることになる。」
「それと二人に共通点があるの?それに裕太くんとも。」
「…山里由梨江は乙女座の真ん中から一日早く生まれている。戸田悠磨は二日早い。つまり今年の誕生日には二人とも次の星座の影響を受けるようになる。カキネグサ君もだ。この学校では君らが一番自分の星座の影響を受けている。影響を受ける星座が変わってしまうと効力が薄くなってしまうんじゃないかな。」
「で、でも、なんでウチの学校なんです?ほかにも世の中には同じ星座の人なんて沢山いるはずなのに…。」
「多分学校の位置だよ。涼、このあたりの地図出して。」
「…これか?」
結城君は涼君から受け取った地図を広げ、学校を指差しながら言った。
「北奎宿校は市では最も北の方向にある。涼、北にある星と言えば?」
「北…?え、と…──」
「北極星…かな?」
「さすがカキイロガミ君。それに比べてまったく涼は……。」
「悪かったな!だいたいお前はいつもそうやって──」
「北極星は一年中動かない。それに何か意味があるんじゃないかな。」
「無視かよ!」
「さすが馨くんだね!で、犯人は??」
「…………こ、今週中にはカキイロガミ君を襲いに現れるだろう。君以外にもまだ九人分も襲わなくてはならない訳だし。」
「目星付いてねーのかよ。」
「そういえば涼、美弥のクッキーまだ一袋分残ってるよ?」
「…わるかった。」
「犯人は放課後を狙っている。おそらく犯人は学校内で殺したいだろうし、絶対一人になるなよ。」
「……わかった。」
Zodiac Murder(6)
それから二日間、何事もなく過ごすことが出来た。その日の放課後、図書室で結城君達が来るのを待っていると、明子ちゃんと華代ちゃんが来た。
「あ、明子ちゃん、華代ちゃん…。」
「よぉ、裕太。…久しぶりだね。何やってんの?」
「あの…ゆ、結城君達を待ってて…その。」
「そんなおどおどしないでよ裕くん。」
「だ、だって一週間近く会わなかったし…。む、無視して怒ってるのかと…。」
「…はぁ。」
明子ちゃんは呆れた顔をした後、ボクの肩の上にポンと手を置いた。
「やっと友達出来たんだろ?だったら別にいいじゃん。」
「そうだよ?私達にずっとくっ付いてなくてもいいんだから。」
「え…。」
「小学校の時からお前はうじうじしていじめられてばっかで、可哀想だと思って守ってやってたけどさ、やっと一緒にいて楽しい友達が出来たんだろ?だったら気にすんなよ。」
「そんな後ろめたそうな顔しないで。」
「明子ちゃん…華代ちゃん…。」
「まあ、まさかあの変人と噂の結城と気が合うとは思わなかったけどな~。」
「そうだよね~。三上くんや木下さんは普通だけど。」
明子ちゃん達は今までのことをまったく気にする様子もなく、本当に今まで通りに接してくれた。どうせボクのことをパシリ程度にしか思っていないだろうと考えていた自分を恥ずかしく思った。
「えーっと、柿本裕太…だよな?」
「え?」
振り返ると、短髪の少年が立っていた。制服を着崩して、下に赤いTシャツを来ている。おまけに耳にはピアスがいくつかしてある。とっさに不良かと思い体がこわばったが、相手はそれに気づいたのか、あわてて笑顔で取り繕った。
「あ、いや別になんもしねぇよ!ただ涼と結城に頼まれたもんだからさ。」
「え?結城君達に?」
「あ、じゃあ私達はお邪魔みたいだから、ね?」
「そうだな。またな裕太。」
「うん。」
そういうと明子ちゃん達は図書室を出て行った。短髪のその少年は、すまなそうな顔をしながら言った。
「あ、悪ぃな…。話し中邪魔しちまって。」
「ううん別に…。で、君は…?」
「ああ!俺は江藤義人(あきと)!涼の幼なじみなんだ。今日は涼も結城も遅くなるから俺が代わりってわけ。」
「そうなんだ。あ、もう紹介されてるみたいだけど、ボクは柿本裕太。よろしくね。」
「おう!裕太だな?俺のことは義人でいいからな!んじゃそろそろ遅くなって来たし、帰るか。」
「うん。」
義人君はとても気さくな人のようだ。こんなボクを優しく気遣ってくれる。三上君とはまた違った優しさを感じる。図書室を出た後も面白い話をいろいろとしてくれた。
「へぇ…。じゃあ山里さんとかの誕生日を調べてくれたのは義人君だったんだ…。」
「そーなんだよ!ったく中学の頃から仲良かったからって涼も酷いぜ。おまけに結城も人使い荒いしさ~。俺アイツ苦手なんだよね。」
「あぁ…。そういえば、三上君と結城君て本当に仲がいいよね。やっぱり小さい頃から仲が良かったの?」
「ん?いや違うぜ?中三の三学期からだから一年も経ってないな。」
「えっ。そんなもんなの!?」
「まあ時間は関係ないんじゃねーかな。なんだ、そんなにアイツらのこと気になるのかよ?」
「いや…。だって、ボクあんなに仲のいい友達出来たことないし…。さっきの子、明子ちゃんも、仲良くしてくれたのは同情だった訳だし、人間てそういうものなのかなって思ってたから。」
「…ふーん。まあいいけどよ。って…ああっ!」
「なっ何?」
「やべぇ…忘れもんしちまった!ごめん裕太!先行っててくれ!」
「え、でも…。」
「すぐ追い付くからさ!頼むよ!ゼッッタイ持って帰んないといけないんだ!な!」
「わ、わかったよ。すぐ戻って来てね。」
「ああ!悪いな!じゃ!」
義人君は今来た道を急いで戻って行った。
「…はぁ。」
ボクは一人夕焼け空を見つめながら歩いた。ほんの一週間前は無機質な色にしか見えなかった赤が、今ではなんだか暖かくて、ちょっと切なく見える。心境の変化というのは本当にすごいものだ。結城君達と出会ってから、ボクの毎日はただの朝と夜の繰り返しだけじゃなくなった。…そう思うと、ボクを次のターゲットに選んでくれた殺人犯にちょっと感謝だな──。
ざり…
「!」
すぐ後ろでアスファルトを踏む音がした。義人君?違う、殺気を感じる。ついさっきまで誰もいなかったのに。いや、ずっと隠れていたんだろうか?でも、思い違いかもしれない。ボクは意を決して振り向いた。
「あ…。」
そこには、覆面をしてバットを持った男がいた。あの男だ。ああ、こんな時に本物に出会っちゃうなんて、なんてボクはついていないんだ!もう足が震えて走って逃げられそうにもない。男がバットを振り上げた。
ガッ!!…───。
頭部への衝撃とともに目の前が真っ暗になり、ボクは意識を手放した。
Zodiac Murder(7)
「う……?」
気がつくと、頭に鈍痛がした。どうやらまだ生きているようだ。あたりを見渡すと、薄暗いが学校の化学室にいるみたいだ。幸い男もどこかに行っているらしい。今がチャンスだと思い、起き上がろうとしたが、両手両足を縛られていて起き上がれない。口にもガムテープか何かが張られていて大声も出せそうにない。どうにか出来ないかと床を這いずり回っていると、不意にドアが開いた。あの男が戻って来た!男はボクを睨むと舌打ちをした。
「チッ。てめえ何勝手に動いてやがる!」
男の蹴りがボクの脇腹にヒットした。あまりの痛みに体を丸めると、男は鼻で笑った。
「ふん。そうやって大人しくしてりゃいーんだよてめぇは。儀式の準備が終わるまでせいぜい神に祈るんだな。」
そういうと男は祭壇の様なものを組み立て始めた。ああ、このまま助けが来なければボクは死ぬのか。まだ十五年と少ししか生きてないのに。せっかく素敵な人達と出会えたのに。母さん達にも全然親孝行できてないのに。そう思うと、ボクは恐怖よりも悲しみや寂しさで涙が出た。山里さんや戸田君もこんな気持ちだったんだろうか。なのにボクは軽い気持ちでこんな奴に感謝したいだなんて、馬鹿だ。
そうこうしているうちに、儀式の準備が終わったらしい。男は右手に前に襲われた時見た短剣を手にしていた。その短剣はよく見ると細かな装飾が施されたかなり古いもののようだ。男は覆面の下に薄気味の悪い笑みを浮かべなからがこちらに近寄って来た。
「心配すんな。お前は神の贄となるんだ。光栄なことなんだぞ」
「う、うー!んー!!」
必死に逃げようとするボクの肩を乱暴に掴み、仰向けにすると、口のテープをはがした。そしてボクの上に馬乗りになると、ブツブツと何かを唱えながらボクの首を徐々に締め上げて来た。本当にもう終わりだと思ったその時──。
ガン!
「おい!」
「「!?」」
不意に男の手が離れた。咳き込みながら見上げると、三上君が男の腕をひねり上げていた。
「柿本、大丈夫か。」
「み、三上君!?一体どこから?」
「くそっ!またお前かっ!」
「涼!」
次いで結城君や美弥さんが飛び出して来た。……ロッカーから。
「な、なんで皆そんなとこに…。」
「あ、ゆ、裕太君…!ち、違うんだよ!?け、決して馨くんがどんな儀式をするか見たいからってぎりぎりまで放っておいた訳じゃないからね!」
「美弥…。全部自白してる。」
「ぇえ!?あの、だから、違うんだって!だって言うこと聞いたら涼くんのブロマイドくれるって言うから!」
「お前どんな約束結んでるんだ!つかなんで勝手にそんなもん作ってるんだよ!」
「よく売れるんだよ。」
「そういうことじゃねー!」
「そんな事よりコイツの覆面とれよ。ほら。」
結城君はそういうといやがる男の覆面を無理矢理取った。…すると。
「え、ウソ…。」
「「田口!?」」
「…って誰だっけ」
「はあ!?てめぇ忘れんなよ結城!同じクラスだろうが!」
「……ふーん。まあいいけど。で、この祭壇は何?儀式って一体どんな?詳しく説明してもらおうか。」
「は、な、何言ってんだよお前!この状況わかってんのかぁ!?おめえらもなんとか言ってやってくれ──」
「…いい加減にして!!!」
「「「「!?」」」」
「か、柿本…?」
「冗談じゃないよ!人が殺されそうになったって言うのになんなんだよ!儀式が見たい?馬鹿な事言ってる暇があったらこれをほどいてよ!!」
「「「「………。」」」」
……あ。つい、叫んでしまった。自分でもこんなに感情が爆発するとは思わなかった。でも、なんだか吹っ切れてしまった。
「か、カキゴオリ君…?」
「ボクの名前は柿本裕太だよ!そんなに覚えられないならもう裕太でいい!」
「す、すみません…。」
「え、と…裕太…?すまん。今解くから。」
未だ口をあんぐりと開けている美弥さんと落ち込む結城君、おそるおそるボクの縄を解いてくれる三上君を尻目に、ボクは田口に近づいた。
「…どうしてこんな事したの?」
「はっ。お前に関係ないだろ。パシリの柿本。」
「関係なくないよ。田口は殺される恐ろしさなんて感じた事ないでしょ。ボクはぎりぎりで三上君達に助けてもらったから死ぬ事はなくてすんだけど、山里さんや戸田君は救われる事なく恐怖の中で息絶えていったんだよ。彼らをそんな風にした君には理由を話す義務があるはずだ。」
「…裕太くん。その人はいかがわしい儀式の為に人を殺す様な人だよ。まともじゃないよ…。」
「………んだ。」
「え?」
「いやだったんだ!!学校では宇都宮にこき使われて、逆らえばいじめられる…。成績もどんどん落ちて来てるし、相談できる様な相手もいない!不安と行き場のない怒りでどうにかなりそうだったんだよ!そんな時に教会の人に…。俺は、俺はああああ!」
田口はそのまま崩れるように座り込むと慟哭した。やがて、その声が初夏の夜に溶けてなくなるまで…。
またいつも通りの朝がやって来た。朝礼で昨日犯人が逮捕されたという発表があったことには、流石にみんな驚いていたようだけど、他人事で、まるで昨日のテレビ番組の話でもしている様な感じだった。
「裕太!」
「あ、義人君。どうしたの?」
「いや、昨日の事謝ろうと思ってさ…。ほんとごめん。」
そういうと義人君はすまなそうにお菓子の詰め合わせを差し出した。
「そんな、気を使ってくれなくても大丈夫だよ。もう気にしてないよ。」
「いや…。俺が結城達に頼まれてお前をわざと一人にした所為であんな危ない目に遭わせちまった訳だし。俺の気持ちだと思ってくれよ。」
「う、うん。ありがとう…。」
「おい、大丈夫か?まああんな事があったばっかりだもんな。具合悪いなら保健室までついてくぜ?」
「う、ううん。大丈夫だよ。」
「じゃあなんだよ。…あっ心配すんなよ!こう言っちゃなんだけどこの菓子は美弥の手作りじゃないからさ。」
「いや、そんなつもりじゃないよ。田口君の事をずっと考えてたんだ…。……田口君って、宇都宮達に脅かされていたり、不安な事を打ち明けられる友達がいないなんて、ボクとそんなに変わらない状況にいたんだなと思って……。ボクも、一歩間違っていたらもしかして…って思うとさ。なんか…。」
「裕太とアイツは全然違うと思うぜ。」
「え…?」
「だって、お前は相談できる仲間がいるじゃん。俺とか、な。」
「そうだよ裕太くん!」
「相談くらいなら聞いてやるよ。涼が。」
「また俺かよ!…ま、構わないけどな。」
「みんな…本当に有り難う。」
「お礼を言われる様な事はしてないよ。入部もしてくれた訳だし。」
「うん。そんな──……え?入部って…どういうこと?」
「あれ?言ってなかったの涼?」
「よくも白々しく…。はぁ、まあ今更だからな…これ。」
鞄から取り出したチラシをボクに渡してくれた。
「…これは、前にボクが書いた依頼の。」
「裏を見てみろ。」
チラシをひっくり返すと、裏側は真っ黒だった。…その時、ボクは悟った。
「…これって、カーボン紙。」
「ご名答。その裏にくっつけておいた入部届けはもう顧問に提出しちゃったからね。」
「ご、ごめんね裕太君。別に騙すつもりはなかったんだけど…。」
「すまん…。」
「─……ったく。アンタ達はやる事がえげつない事ばっかり。…いい加減うんざりだよ。」
「ゆ、裕太…?」
「今度こういう事やったら本気で怒るよ!馨君!涼君!」
きっとボクが怒ると思っていたのであろう、一瞬驚いた様な顔をされたが、次に見せてくれた彼らの笑顔はボクの新しい人生の幕開けの合図となったのだ。
ここからが、本当の始まり。
Fin
高校に入る直前に書いたものです。
一話で終わるつもりだったんですが、何となくシリーズ物になってしまいました…。
完結させたいです。
それではまた、次回作で。
Beautiful Vamrire(1)
「裕太、それ倉庫に持っておいてくれ。」
「うん!」
「裕太く~ん!世界妖怪事典の四巻持って来てだって~。」
「はーい。ちょっと待ってね!」
「裕太。終わったら煎茶入れて。」
「わか──って、それくらい自分でやってよ馨くん!」
あの陰惨な事件から約一ヶ月が経った金曜日。相変わらず学校の雰囲気は前のままだが、ボクの周りはずいぶんと変わった。特に、入る気のさらさらなかったオカルト研究部に入れられたことが一番大きいのだろう。毎日忙しいながら楽しい生活を送っている。それに、ボク自身もなんだか変われたみたいだ。少しだけど、前よりずっと堂々としていられる。
「そういえば馨くん、どうして突然妖怪の本なんて取り出して来たの?」
「あ、言われてみれば最近はUFOの本ばっかりだったよな。」
「…ふ。よく聞いてくれたね、美弥、涼。これを見て。」
そういうと馨くんは自慢げにボク達に一枚の紙を突きつけた。一番上には太字で“Johannes=Alfonnu”とあり、その隣には西洋人らしき綺麗な少年の写真が載っている。
「…調査書?」
「また義人に頼んだのか…。」
「じょ、ジョハンネ…?」
「『ヨハネス・アルフォンヌ』十六歳。出身地はルーマニアのブカレスト。来週の月曜日に僕らのクラスに転入してくる子だよ。」
「こんな学期のど真ん中に?珍しいね~。」
「で、そいつが一体なんなんだよ。」
「涼、僕の話聞いてなかったのか?ルーマニアと言えば?」
「あ、わかった!ドラキュラ伯爵だね!」
「ご名答、美弥。ドラキュラ伯爵、串刺し公とも呼ばれたワラキア公ヴラド三世、ヴラド・ツェペシュ。トルコ軍を串刺しにしてさらしたりとその残酷さから吸血鬼ドラキュラのモデルとなった人物だよ。」
「はぁ。」
「そのヴラド公の生まれ育った地と同じ育ちだぞ?」
「あのなぁ…。いくら出身地がルーマニアだからって、皆がみんな吸血鬼と関係があるわけないだろ。」
「でも可能性はゼロじゃないだろ。しかも彼の家はブカレストでもかなり古い家らしいし、望みはある!もし彼がもともと吸血鬼でなくても、別の吸血鬼によって吸血鬼化されているかもしれないし。涼には話したことあるけど、本物の吸血鬼は噛み付いて血を吸ったりはせず、毛穴から血を吸い上げるんだ!あ、ちなみに言っとくけど吸血鬼の倒し方はグランド・パレシオンと言って──んぐっ。」
いつものように自分の世界に入り込んで喋りまくる馨くんを口を塞いで涼くんが制してくれた。
「いい加減にしろって。そんなファンタジーな話がそこら辺に転がってるわけないだろ。」
「だからそれをこれから確かめるんだろ。ということで、今回の依頼は彼の素性を絶対暴くこと!いいな!?」
「ええっ?それって依頼されてたことなの!?」
「いや、僕からの依頼。」
「それってただのお前のわがままだろ。」
「ぅ…ぶ、部長の命令が聞けないのか?」
「職権乱用だよ…。」
「煩い!ともかくやるったらやるぞ!じゃ、今日は解散!涼、帰るぞ。」
「痛!引っ張るなって!」
そう言うと、馨くんは涼くんを引きずって行ってしまった。…ここに来てから彼らについての印象は結構変わったけれど、馨くんは特にそうだ。一見何を考えているかわからない(実際理解できないけど)不思議な雰囲気だが、妙に子供っぽい所があるようだ。
「あーもう待ってよ!もう、馨くんたらいっつも涼くん連れてっちゃうんだから!行こ、裕太くん!」
後に取り残されて不機嫌になった美弥さんは急いで帰りの支度をしてボクの手を掴んだ。一瞬ドキッとしたが、美弥さんは気づいていない。そう、ボクは彼女に淡いけど恋心を抱いているんだ。もちろん美弥さんは涼くんにぞっこんなのもわかってるし、叶わないことはわかっているけど…。
「ん?どうしたの裕太くん。早くしないと二人とも帰っちゃうよ!」
「あ、うん!何でもないよ!」
「そう?さ、急ご急ご!」
ボクは手を引かれるままに走り出した。