[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
番外編2(3)
「どうしたの?裕太くん。」
「あ、いや、…ぼ…僕もマドレーヌ食べたいなーと思って…。」
「(裕太…。)」
「(勇者だな…。)」
馨君と涼君が憐れむような眼でボクを見つめている。未来の後輩と好きな人の為、ボクは自らを犠牲にしたのだ。
「もう裕太くんたら!そんなに食べたかったんだね!えへへ。でもまだあるから大丈夫!それに、未来の後輩くんにあげないのは失礼だよ!」
「(未来の後輩くんの為に言ってるのに…。)あはは…。そうだよね…。」
「はい、森野君どうぞ!」
美弥さんは戸棚にある一番新品の湯呑みにお茶を注いで手渡した。
「ありがとうございます。部室に電気ポッドがあるなんていいですね!」
「えへへ。本当はダメなんだけどね。内緒だよ?あ、このマドレーヌ私が焼いたの!良かったら、どうかな。」
「わあ!美味しそうですね!いただきます!」
森野君は無邪気にマドレーヌに手をのばす。美弥さんのお菓子は味に似合わず見た目が普通なのが本当に厄介だ。ボク達は心配でついつい森野君の動作を目で追ってしまう。マドレーヌが口に入る。
「どう、かな?」
「…はい!美味しいです!料理が上手な女性って素敵ですね!」
食べた。確かに確認した。しかし、彼は全くもって普通のお菓子を食べたような仕草しかしない…。美弥さんを除くボクらは密かに動揺した。
「や、やだ!森野君てお世辞上手いんだね!でもありがとう。」
「お世辞じゃありませんよ!ですよね、柿本先輩。」
「う、うん。」
「じゃあそれを食べたら解散でいいかな。僕この後予定があるんだ。」
「あ、すみません。わかりました。また後日、今度はもっと早めにお邪魔させていただきますね!」
そのあと、美弥さんの提案で彼を校門まで見送り、部室を片付けてボク達は帰路に着いた。美弥さんと分かれ道で別れ、ボク達はさっきの事を話しだした。
「…森野君てさ、涼君達の母校の生徒だよね。」
「裕太、知ってたのか。」
「大方義人が話したんだろ。どこまで聞いたの?」
「あ、いや…。えっと、三学期に馨君が転校してきた事くらいだよ。」
不意に馨君がボクに顔を近づけてあの冷たい眼でボクをじっ、と見つめた。背筋が凍る。
「聞こえなかった?どこまで、聞いたの?」
「えーと、その…。」
「言えば義人だけにしてやる。」
「……涼君と馨君がなんで仲良くなったか、とかです…。」
「…あいつ、人のプライバシーを好き勝手に…!」
「…シメるか。」
涼君は頭を抱え、馨君は何時もの倍黒いオーラを発散している。ああ、義人君、ごめんなさい。しばらく会えなくなるんじゃないかな。
「…裕太は他に言ってないよな?」
「い、言ってないよ涼君!誓うよ!」
「まあ過ぎた事は良しとしてあげるよ。で、じゃあなんで彼と関わりたくないかわかるよね。」
「うん。下手をすると、周りに涼君が元不良だって知られちゃうから、だよね。」
「でもあいつ、見た目も不良に見えないし、名乗っても特に反応しなかったし、深く関わらなければいい気がするけどな。」
「そうとも言えないけど。妙な視線で一瞬涼を見ただろ。インド神話が好きってのも『大黒天』の事を言ってるとしか思えない。」
「えっあれそういう意味だったのか。」
「本当自分の事なのに気づかないとか流石だよ。」
「そ、そんなの一々気にしねーよ!大体そのあだ名俺が考えたわけじゃない。」
「ま、知ってるだけの生徒ならわざわざ来ないだろう。多分あれは自分の存在を僕達に知らしめたかったんじゃないかな。」
「一体何を考えてるんだろう…。」
「さあね。でもただ者じゃないよ。だって…。」
「だって?」
「…美弥のマドレーヌを平気な顔で食べたんだぞ。」
「「(…確かに。)」」
その後、ボク達は道を別れ、それぞれの家路についた。ボクはあの後渡されたマドレーヌを鞄から取り出しながら、先程の会話を思い出す。
「…もしかして、今日は本当に上手く出来てたのかな?」
もしそうなら、これほど嬉しいことはない。明日は感想を聞かれた時、本心から美味しかったと答えることができるのだから。ボクは淡い期待を胸に、思い切ってそれを口に入れた。
「………うん、そんな事あるわけないか。」
ボクは急いで飲み物を取りに行った。
番外編2(4)
それから数日、特に変わったこともなく、部室でだらだらする日々を続けていたある日、学校に着くと妙に廊下が騒がしい。ボクは気になって近づいてみると生徒達の会話が聞こえてきた。
「ねえ、これってマジなのかな?」
「どうだろ。でも本物っぽいよね。」
「でもそんな風には見えないけどなあ。三上って。」
…三上?もしかして涼君に何かあったんだろうか。一瞬森野君の顔が浮かぶ。何があるのかと気になり周りの生徒に割り込もうとした時、後ろから肩を叩かれた。
「おっす裕太。おはよ。」
「明子ちゃん!おはよう。ねえ、一体何があったの?」
「なんだお前まだ見てないのか。なんか三上の写真が一年の廊下に貼られてるらしいよ。」
「えっ、どんな?」
「中学の時のみたいだけど…。まあ、見てこいよ。」
そう言われ、ボクは生徒達の間を縫って写真が見える所まで近づいてみた。その写真には、この間の森野君と同じ学ランを着崩して高校生らしき男達と殴り合っている涼君が写っていた。顔も判別ができる程度には写っている。これはやはり、不良時代の写真のようだ。ボクはまずいと思いその写真を咄嗟に隠そうとしたその時。
「あ。これ、文化祭の時の写真じゃん。」
振り向くと、馨君と涼君が立っていた。涼君は青い顔をしているが、馨君は平然としている。先程の馨君の言葉に、野次馬根性を露わにした生徒達が注目する。
「えっ。結城、この写真の事知ってんのか?」
「うん。僕中学一緒だったし。これ、中学の時の文化祭でクラスで作った映画の一場面だよ。」
「えー!私本当に三上クンが不良だったのかと思っちゃったよお。」
「バカじゃなのー。三上くんがそんなわけないじゃん!」
馨君が事もなげに言い放つ。ここまではっきり言い切られてしまうと疑う気持ちなど薄れてしまう。しかも、涼君は元々評判もいい方なのだ。皆の感心は既に写真から外れている。
「まあ上手く演技できてた所を切り取って来たみたいだからねー。仕方ないんじゃない?ねえ涼。」
「え、ああ…。」
「なんだあ。じゃあなんでこんな写真出回ってるんだろ?」
「さあ?涼に恨みでも持ってる奴の仕業じゃないかな。」
「三上モテるもんなあ。振った女の仕業じゃね?」
「そんな奴いねーよ。」
「そういえばミナの元彼、涼クンのせいで振られたとか言ってるらしいよー。」
「えー!アタシそんなつもりじゃないよ!でもアイツならやりそう…。」
「ともかく、こんな写真外しちまおうぜ。このままじゃ気持ち悪いだろ。」
僅かな間にこの写真の出来事を信じる者は誰もいなくなっている。今は、誰がこんな事をしたのかについて感心が移行していた。生徒達は各々色んな推理をしながら廊下からばらけていく。ボク達も教室に戻った。
「凄いよ馨君!よくあんな簡単に誤魔化せたね。」
「ありがとな、馨。」
「別に対した事ないよ。謎が多すぎる事実ってのはちょっとそれらしい根拠を付けてやれば勝手に妄想で膨らんでいくものだよ。もう既に写真の真偽なんて皆どうでもいいのさ。涼も何か聞かれたら適当に合わせておけよ。」
「わかった。」
「皆さん席に着いて下さい。HRを始めます。」
担任の熊川のかけた声により、ボク達は一旦話を中断した。その後、滞りなく授業も終了し、放課後となった。ボクは授業もそこそこに、本当に誰が何のためにあんな事をしたのかずっと考えてた。ここ最近の出来事から考えるに森野君の仕業であるとは思うが、どうやって高校に入ったのか。以前の殺人事件の犯人の田口は、この学校の生徒だったから可能だったけど…。
「…でも、一体だれがあんな事。」
「まあ、十中八九あのチビ中学生だろうね。」
「あ、馨君。」
「帰るぞ。ほら、涼も。」
「ああ。」
涼君は女子達に映画の事について根掘り葉掘り聞かれて疲れた様子だった。しかし、返答につまる度に馨君が上手く答えていたから殆ど馨君との会話になってしまい、女子達は少し不満だったようだ。こういう所はなんだかんだ面倒見がいいなあと感心してしまう。
番外編2(5)
「…でも、朝勝手に中学生が入るわけにはいかないよ。うちの制服だって持ってないだろうし。」
「多分ここに仲間がいるんだろ。涼を挑発してるつもり、かな。思った以上にお前に執着してるようだね。」
「……。」
涼君は悲しそうな、悔しそうな顔をして写真に目を落とした。
「…あの頃は頻繁に喧嘩してて、正直誰を殴ったかも覚えてないんだ。もし、その中の誰かの弟だとしても、俺にはわからない…。」
「涼君…。別に涼君を責めてるわけじゃないよ。それにそれを恨んでいたとしてもこんな事するのはおかしいよ。」
「やっほー!何の話してるのー?」
「「っ!?」」
美弥さんが元気に教室に入ってきた。美弥さんには事情を説明するか話したのだが、結局黙っておく事になった。美弥は口が軽いから、と馨君は言っていたが、おそらく涼君を慕っているからだろう。知らなくても良い事を知ってしまうせいで、美弥さんの気持ちを壊してしまうべきではないという判断だ。と、ボクが勝手に思っているだけだけど。ボクだって、それは本望ではないのだ。涼君が慌てて写真を隠そうとするが、見られてしまった。
「あっこの写真!涼君が映画で主役の不良番長やった奴なんだよね!格好良いなあ…。」
「ああ、うん…。」
「高校生のボスに足を洗いたいって言いに行って制裁を受けて、そのまま命を落としちゃうんだってね…。最後に親友の転入生くんが橋の下で川に花を流すシーンで終わるなんて切ないよー。」
「……そ、そうだな。」
何か言いたそうな表情で涼君が馨君を見つめる。面倒見がいい訳じゃなくてただ面白がってただけだったのかな…。
「馨くんはなんの役だったの?」
「僕は照明。」
「(転入生お前じゃねえのかよ。)」
「(そこまでいったら流石に不自然だろ。)」
「でも嬉しいな。二人はあんまり昔の話してくれないから。」
「…。」
「美弥は女子中だったんだっけ?」
「うん!稲見女学院て中高一貫のとこだよー。高校はレベルが下がるからってここに来たの!」
「美弥さんて私立だったんだね。」
「勉強出来たんだな。」
「涼くんひどい!これでも成績いい方なんだよ?」
「涼はいつも首の皮一枚だからな。」
「うるせーな!」
「よ、良かったら、わ、わ私と二人で、べべ勉強会、とか…──」
「(正直僕が教えて首の皮一枚だからそれはやめた方がいいよ。)」
「ええっ!?そっかぁー。」
「おい今なんて言ったんだ。」
「な、なんでもないよー!」
美弥さんが真っ赤になりながら涼君の背中を思いっきり叩いた。
「痛っ!?」
「あ!ここ曲がらなきゃ。じゃあまた明日ね!」
「また明日!」
美弥さんと別れ、ボク達は薄暗い道を歩き出した。やはりあの美弥さんの涼君への恋心を壊してしまうことは出来ないとボクは思う。確かにボクは美弥さんが好きだ。本当は振り向かせたい、なんて思っている。でも、あの涼君に向ける潤んだ瞳も、真っ赤になった顔も含めて好きなんだ。我ながら恥ずかしい事を思っているなあと思ってしまう。
「裕太も報われないねー。」
「へっ!?」
「顔に出てるよ。」
「何、何が何が出てるっていうの!?!?」
「動揺し過ぎなんだけど。」
「何の話だよ?」
「涼も恨まれても文句言えないって話。」
「はあ?っ…!」
涼君が左側に何かを気付いた瞬間、バットを振り上げた男が突っ込んできた。ボクと馨君を庇う様に涼君は男の前に出ると、瞬く間にバットを持つ手を塞ぎ、勢いを利用して男を転ばせた。尚も襲いかかって来ようとする男の鳩尾に蹴りを入れると、男はうずくまり、抵抗をやめた。それまでの流れはあまりに自然でボクの思考は追いつかない。涼君は息ひとつ乱さずバットを拾い上げた。
「な、何…?」
「暴漢か?ったく最近この辺りは物騒だな。馨、警察に連絡してくれ。」
「わかった。…!馬鹿!何で押さえておかないんだよ!」
その声で男のいた方向を見ると、男が腹を押さえながら夜道を走って近くの角を曲がって行くのが見えた。既に日は暮れて、一度見失っては見つけられない。ボク達は仕方なく、近くの交番に報告とバットを渡し、その日は帰った。
番外編2(6)
「昨日は大変だったね!怪我とかしなかった?」
「うん。大丈夫だったよ。涼君があっという間に倒してくれたし。凄いんだ、本当に一瞬で転ばせちゃうんだよ!」
「別に大した事はしてねーよ。」
「私も涼君の戦うとこ見てみたかったなあ。」
翌日の放課後、掃除当番の馨君を除くボク達は部室に集まっていた。昨日の事を美弥さんが興味津々と言った様子で話を聞いてくる。しかし、涼君は本当に凄い。男に気付いてから襲いかかってくるまで僅かの間に判断し、これまた数秒で動けなくさせてしまうのだから。改めて本当に喧嘩が強かったんだと思い知らされた。
「それにしても馨くん遅いねー。もう随分時間経ってるのに。」
「馨君が珍しいよね。」
「こんにちはー。」
「あ!森野くん!」
ドアの方に森野君が立っていた。この間と同じように小動物のような動きでぺこりとお辞儀をして微笑んだ。
「見学に来てくれたの?」
「ああ、実はそのつもりだったんですが、ちょっと用事が出来てしまって…。でもどうせなので少しお顔を見せてからにしようかと思ったんです。」
「そう…。」
森野君はこのタイミングで一体何故来たのだろうか…?真意が全くわからない。しかし彼は涼君の近くによると微笑んでいった。
「三上先輩と結城先輩って東中出身だったんですよね!友達に聞いて知りました!同じ中学出身なんて嬉しいです。改めてよろしくお願いしますね?」
そういうと森野君は涼君の手を取って握手をした。涼君は少し警戒したような態度を取ったが、不意に驚いた表情のあとしっかりと森野君を見つめた。
「…わかった。」
「嬉しいです。あ、それじゃあ急いでるんで、僕はこれで失礼します!」
「またねー!」
森野君を見送ったあと、涼君がいきなり立ち上がった。
「どうしたの?涼くん。」
「俺もちょっと用事を思い出した。暖に頼まれてた事があったんだ。」
その様子から、ボクは何と無く森野君に何か言われたんだとわかった。握手の際にメモか何か渡されたのかもしれない。
「…馨君に言う?」
「いや、大丈夫だ。…悪いな。じゃあまた明日。」
「うん。またね!涼くん!」
涼君は鞄を肩にかけると部室を出て行った。馨君に森野君に何か言われた事を伝えるか聞いたつもりだが、美弥さんには帰る旨を伝えるかと思われた様で好都合だ。 しかし、ボクは涼君が心配だった。森野君が何故あんな事をしたのかわからないが、例えどんな理由であっても涼君はその優しさで受け止めようとしてしまうのではないか。そしてそれは必ずしも良い結果をもたらすとは限らないのではないか。しかし、今の僕には森野君どころか涼君を止める勇気さえなかった。
「──…で、森野について何がわかったの?義人。」
「ったく相変わらずな態度だな結城!ほら調査書。」
「ありがと。」
「…先に言っとくけどな、森野樹(いつき)は相当ヤバい!なるべく関わらない方がいいぜ。」
「…──っ!これ…。」
「あ!馨くんこんなとこにいた!もう遅いよー。」
「義人君と一緒だったんだね。」
「美弥、裕太。悪かったね。今行くよ。」
「涼くんも帰っちゃったし、次森野くんが来た時のために何か用意しない?」
「ちょ、美弥さん!」
「…涼が帰ったの?いつ?」
「え?森野くんが帰ったすぐあとだから、4時前くらいかな…。涼くんが伝えなくていいって言うからてっきり知ってるのかと思ったんだけど…。」
「えっ!森野ここ来てたのかよ!?」
「義人くんも森野くんの事知ってたの?」
「…っ!」
「えっちょっと馨くん!?どこ行くの??」
「今日部活中止!二人は家に帰れ。」
「馨君!…涼君が言わなくていいって。」
「……馬鹿が。」
馨君はそのまま走って昇降口まで行ってしまった。
番外編2(7)
河川敷。
「きっちり四時。来てくれたんですね、三上先輩。」
「…。」
「三上先輩って僕とあんまり口きいてくれませんよねー。僕嫌われてるのかな?」
「…森野。あの写真を学校に貼ったのはお前なんだろ。」
「ああ、そうですよ。案外噂になってなくて残念。それがどうかしましたか?」
「…っ。何故そんな事をするんだ?俺がお前に何かしてしまったなら、謝らせてくれ。」
「……。信じられないですよ。あの大黒天と呼ばれた男が謝らせてくれだなんて。」
「どういう事だ?」
「あー、もしかして僕が三上先輩に恨みがあると勘違いしてるんですか?違いますよ。むしろ逆っていうか、貴方に憧れてるんです。」
「は…?」
「僕こう見えて中学で番長やってるんです。つまり、そういう意味でも三上先輩の『後輩』ってわけですよ。それで一度お会いしてみたいなと思って。」
「…何が目的なんだよ。」
「ここに呼び出された時点でわかってるでしょう?お手合わせ願いたいんですよ!」
そういうと手にした廃材を横から思い切り脚に向けて振り抜く。が、反射的によけられてしまった。
「あーやっぱり凄い運動神経ですね。普通の奴なら今の絶対当たってますよ。夜襲かけて確かめさせたけど腕は鈍ってませんね。」
「あれもお前の仕業かよ。…そんな事して何になるんだ。」
「…先輩も知ってると思いますけど、僕達の世界って案外ジンクスみたいなのが多いですよね。どっかの原始民族みたいに首領を倒した者が新しい首領になれる、とか。」
「俺はもうそういう関わりはない。いい加減にしてくれ。迷惑かけたくない奴らがいるんだ。」
「…結城先輩達ですか。随分丸くおなりになって。そういうの反吐が出るわ!」
再び殴りかかる。今度は息をつく暇も無く連続で。それは腹や脚など避けにくく更にダメージの大きい箇所ばかりだ。攻撃の一つ一つが重く徐々に体力を削って行く。
「っ…なんで避けないんですか。つーかなんで攻撃して来ないんです。」
「…俺はもう意味なく人を殴りたくないだけだ。だが、それじゃお前が困るんだろ。ならお前の気が済むまで付き合ってやる。」
「…ふっざけんな。ナメてんじゃねーよ!お前までオレをコケにする気か!?」
激昂し、先程よりも更に激しく殴りかかる。その動きは早く、ガードしきれず少し体制を崩した所を素早く反応して蹴りを入れられる。ざりざりと土を踏む音と土煙りが橋の下に広がった。
「くっ…!」
「はあ、はあ…。どうしたんですか。ガードばっかじゃモタないですよ。一応これでもトップなんで。オレよりデカイ奴も相手してるんです。」
「なら俺に構う必要ないだろ。お前は十分強いよ。」
「腑抜けた事言ってんじゃねーよ。……なんでアンタが『大黒天』でオレが『狂犬』なんだ。」
「?」
チャキ、とサバイバルナイフを出す音がした。至近距離からの攻撃だが咄嗟にかわしその右手を抑える。しかし、すぐにその体制を利用して殴りつけられ、二人は距離をとった。薄暗闇に不適な笑みが浮かぶ。
「…これなら少しは本気出せますよね?」
「森野…。」
「虚しくないの?『狂犬』君。」
「「っ?!」」
涼君と森野君が上を向く。馨君が橋の上から二人を見下ろしていたんだ。そして、ボクも。馨君の後を追ってきたんだ。
「裕太。言うなって言ったろ。」
「ゴメン…。」
「なんで裕太が謝ってんの?悪いのはそこのチワワだろ。」
馨君が森野君を指差す。森野君は憎々しげにこちらを睨みつけた。
「チッ…さっきのどういう意味だよ。オレが虚しいだと?どういう意味か説明して下さいよォ結城先輩!」
「随分化けの皮が剥がれたねー森野樹。そのままの意味さ。無抵抗の人間に刃物向けて何がお手合わせだよ。」
「うるせえな。てめーに関係ねえだろ。ああそうだ、三上先輩!オレを倒さないとこいつら二人どうなるかわかんないよ。ほら、かかってきて下さいよ。」
「…もうやめろよ。お前は何に必死になってるんだ?」
「うるせえ!調子コクのもいい加減にしろ!」
森野君はナイフを振りかぶると涼君に突進した。が、いきなりナイフを持ち替える。視線も一瞬だがこちらに向けられた。その時ボクは確信した。森野君はナイフをこちらに投げるつもりだ。
「か、馨君危ない!」
「!?」