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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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番外編2(6)
「昨日は大変だったね!怪我とかしなかった?」
「うん。大丈夫だったよ。涼君があっという間に倒してくれたし。凄いんだ、本当に一瞬で転ばせちゃうんだよ!」
「別に大した事はしてねーよ。」
「私も涼君の戦うとこ見てみたかったなあ。」
翌日の放課後、掃除当番の馨君を除くボク達は部室に集まっていた。昨日の事を美弥さんが興味津々と言った様子で話を聞いてくる。しかし、涼君は本当に凄い。男に気付いてから襲いかかってくるまで僅かの間に判断し、これまた数秒で動けなくさせてしまうのだから。改めて本当に喧嘩が強かったんだと思い知らされた。
「それにしても馨くん遅いねー。もう随分時間経ってるのに。」
「馨君が珍しいよね。」
「こんにちはー。」
「あ!森野くん!」
ドアの方に森野君が立っていた。この間と同じように小動物のような動きでぺこりとお辞儀をして微笑んだ。
「見学に来てくれたの?」
「ああ、実はそのつもりだったんですが、ちょっと用事が出来てしまって…。でもどうせなので少しお顔を見せてからにしようかと思ったんです。」
「そう…。」
森野君はこのタイミングで一体何故来たのだろうか…?真意が全くわからない。しかし彼は涼君の近くによると微笑んでいった。
「三上先輩と結城先輩って東中出身だったんですよね!友達に聞いて知りました!同じ中学出身なんて嬉しいです。改めてよろしくお願いしますね?」
そういうと森野君は涼君の手を取って握手をした。涼君は少し警戒したような態度を取ったが、不意に驚いた表情のあとしっかりと森野君を見つめた。
「…わかった。」
「嬉しいです。あ、それじゃあ急いでるんで、僕はこれで失礼します!」
「またねー!」
森野君を見送ったあと、涼君がいきなり立ち上がった。
「どうしたの?涼くん。」
「俺もちょっと用事を思い出した。暖に頼まれてた事があったんだ。」
その様子から、ボクは何と無く森野君に何か言われたんだとわかった。握手の際にメモか何か渡されたのかもしれない。
「…馨君に言う?」
「いや、大丈夫だ。…悪いな。じゃあまた明日。」
「うん。またね!涼くん!」
涼君は鞄を肩にかけると部室を出て行った。馨君に森野君に何か言われた事を伝えるか聞いたつもりだが、美弥さんには帰る旨を伝えるかと思われた様で好都合だ。 しかし、ボクは涼君が心配だった。森野君が何故あんな事をしたのかわからないが、例えどんな理由であっても涼君はその優しさで受け止めようとしてしまうのではないか。そしてそれは必ずしも良い結果をもたらすとは限らないのではないか。しかし、今の僕には森野君どころか涼君を止める勇気さえなかった。
「──…で、森野について何がわかったの?義人。」
「ったく相変わらずな態度だな結城!ほら調査書。」
「ありがと。」
「…先に言っとくけどな、森野樹(いつき)は相当ヤバい!なるべく関わらない方がいいぜ。」
「…──っ!これ…。」
「あ!馨くんこんなとこにいた!もう遅いよー。」
「義人君と一緒だったんだね。」
「美弥、裕太。悪かったね。今行くよ。」
「涼くんも帰っちゃったし、次森野くんが来た時のために何か用意しない?」
「ちょ、美弥さん!」
「…涼が帰ったの?いつ?」
「え?森野くんが帰ったすぐあとだから、4時前くらいかな…。涼くんが伝えなくていいって言うからてっきり知ってるのかと思ったんだけど…。」
「えっ!森野ここ来てたのかよ!?」
「義人くんも森野くんの事知ってたの?」
「…っ!」
「えっちょっと馨くん!?どこ行くの??」
「今日部活中止!二人は家に帰れ。」
「馨君!…涼君が言わなくていいって。」
「……馬鹿が。」
馨君はそのまま走って昇降口まで行ってしまった。
番外編2(7)
河川敷。
「きっちり四時。来てくれたんですね、三上先輩。」
「…。」
「三上先輩って僕とあんまり口きいてくれませんよねー。僕嫌われてるのかな?」
「…森野。あの写真を学校に貼ったのはお前なんだろ。」
「ああ、そうですよ。案外噂になってなくて残念。それがどうかしましたか?」
「…っ。何故そんな事をするんだ?俺がお前に何かしてしまったなら、謝らせてくれ。」
「……。信じられないですよ。あの大黒天と呼ばれた男が謝らせてくれだなんて。」
「どういう事だ?」
「あー、もしかして僕が三上先輩に恨みがあると勘違いしてるんですか?違いますよ。むしろ逆っていうか、貴方に憧れてるんです。」
「は…?」
「僕こう見えて中学で番長やってるんです。つまり、そういう意味でも三上先輩の『後輩』ってわけですよ。それで一度お会いしてみたいなと思って。」
「…何が目的なんだよ。」
「ここに呼び出された時点でわかってるでしょう?お手合わせ願いたいんですよ!」
そういうと手にした廃材を横から思い切り脚に向けて振り抜く。が、反射的によけられてしまった。
「あーやっぱり凄い運動神経ですね。普通の奴なら今の絶対当たってますよ。夜襲かけて確かめさせたけど腕は鈍ってませんね。」
「あれもお前の仕業かよ。…そんな事して何になるんだ。」
「…先輩も知ってると思いますけど、僕達の世界って案外ジンクスみたいなのが多いですよね。どっかの原始民族みたいに首領を倒した者が新しい首領になれる、とか。」
「俺はもうそういう関わりはない。いい加減にしてくれ。迷惑かけたくない奴らがいるんだ。」
「…結城先輩達ですか。随分丸くおなりになって。そういうの反吐が出るわ!」
再び殴りかかる。今度は息をつく暇も無く連続で。それは腹や脚など避けにくく更にダメージの大きい箇所ばかりだ。攻撃の一つ一つが重く徐々に体力を削って行く。
「っ…なんで避けないんですか。つーかなんで攻撃して来ないんです。」
「…俺はもう意味なく人を殴りたくないだけだ。だが、それじゃお前が困るんだろ。ならお前の気が済むまで付き合ってやる。」
「…ふっざけんな。ナメてんじゃねーよ!お前までオレをコケにする気か!?」
激昂し、先程よりも更に激しく殴りかかる。その動きは早く、ガードしきれず少し体制を崩した所を素早く反応して蹴りを入れられる。ざりざりと土を踏む音と土煙りが橋の下に広がった。
「くっ…!」
「はあ、はあ…。どうしたんですか。ガードばっかじゃモタないですよ。一応これでもトップなんで。オレよりデカイ奴も相手してるんです。」
「なら俺に構う必要ないだろ。お前は十分強いよ。」
「腑抜けた事言ってんじゃねーよ。……なんでアンタが『大黒天』でオレが『狂犬』なんだ。」
「?」
チャキ、とサバイバルナイフを出す音がした。至近距離からの攻撃だが咄嗟にかわしその右手を抑える。しかし、すぐにその体制を利用して殴りつけられ、二人は距離をとった。薄暗闇に不適な笑みが浮かぶ。
「…これなら少しは本気出せますよね?」
「森野…。」
「虚しくないの?『狂犬』君。」
「「っ?!」」
涼君と森野君が上を向く。馨君が橋の上から二人を見下ろしていたんだ。そして、ボクも。馨君の後を追ってきたんだ。
「裕太。言うなって言ったろ。」
「ゴメン…。」
「なんで裕太が謝ってんの?悪いのはそこのチワワだろ。」
馨君が森野君を指差す。森野君は憎々しげにこちらを睨みつけた。
「チッ…さっきのどういう意味だよ。オレが虚しいだと?どういう意味か説明して下さいよォ結城先輩!」
「随分化けの皮が剥がれたねー森野樹。そのままの意味さ。無抵抗の人間に刃物向けて何がお手合わせだよ。」
「うるせえな。てめーに関係ねえだろ。ああそうだ、三上先輩!オレを倒さないとこいつら二人どうなるかわかんないよ。ほら、かかってきて下さいよ。」
「…もうやめろよ。お前は何に必死になってるんだ?」
「うるせえ!調子コクのもいい加減にしろ!」
森野君はナイフを振りかぶると涼君に突進した。が、いきなりナイフを持ち替える。視線も一瞬だがこちらに向けられた。その時ボクは確信した。森野君はナイフをこちらに投げるつもりだ。
「か、馨君危ない!」
「!?」
番外編2(8)
ボクが気付いたと同時くらいに涼君が森野君の右手を蹴り上げた。ナイフは岐路を外れ川の方へ飛び、涼君は怯んだ森野君の襟首を掴むと足払いで地面に転ばせた。襟首を掴まれたまま転ばされたので特に怪我も無いようだ。ナイフが川に落ちる音のみが響く。
「うぐっ…!」
「…これで満足か?」
「…はっ。何処までオレをバカにするつもりだよアンタ。子供扱いすんじゃねえ。」
森野君はそう言いながらももう抵抗する気は無いようだ。武器も奪われ、押し倒されたこの状況では勝ち目は無いと悟ったのだろう。ボク達が橋の下に降りると、森野君は悔しそうな、何処か諦めた様な表情で涼君から目をそらしていた。
「結局犬じゃ神様には勝てないって事ですね。くそ…っ…。もう放して下さいよ。」
「…お前は何が目的なんだ。」
「だから言ったじゃないですか。大黒天さんとお手合わせしたかっただけだって。」
「ちげえよ。それにしては妙に焦ってただろ。それにコケにするだとか、一体どういう事だ?」
「…。…中学でも三上先輩の噂はまだ流れてるんですよ。喧嘩で負け知らず、破壊神だとかね。」
「…。」
「うわあ黒歴史。」
「うるせえ馨!」
「…オレは今の不良どもをまとめて来た。一部の高校生だって言いなりに出来るくらいにな。なのに何もしていない名前だけの元番長がいつまでも居座ってもらっちゃ迷惑なんですよ。だからアンタを倒してあいつらに見せ付けてやるんだ。このままじゃ面子丸潰れなんでね。」
先程とは違い、森野君の瞳は飢えた獣のようにギラギラと光っていた。きっと普段の小動物の様な動きに対したこの姿からまさに『狂犬』というあだ名が付いたのだろう。しかし、その姿は何処か焦燥感に駆られているような、さみしげな様子だった。
「…それって君が本当にしたい事なの?」
「か、馨君…。」
「…はあ?何が言いたいんですか。」
「結局その面子ってのに振り回されてるだけにしか見えないけど?その調子じゃ余程自分に自信がないんだね。まあ、チワワの狂犬じゃ仕方ないか。」
「うっせえ!!てめえに何がわかるんだよ!どうせ使い古しの倫理観でお説教したいだけだろうが!」
ああ、また馨君のストレートな物言いだ。森野君が噛み付くように怒鳴りながら近寄る。しかしその様子はまるで怖がる子犬が威勢を張っている様だと思った。
「非行に走るなとか言いたいわけじゃないよ。君は結局自分の気持ちから逃げてるだけだろ。面子とかそういうの保てないとナメられそうで怖くて周りに振り回される。まるで苛められっこと同じだよ。そういう所が見ていてイライラするってだけ。」
「だ、黙れぇええ!!」
小刻みに震えていた森野君が遮るように絶叫した。ボクにはそれは逆に馨君の言葉を肯定しているように聞こえたんだ。しかし次の瞬間、森野君は飄々とした様子の馨君に殴りかかっていた。危ない!拳が馨君に届く、と思ったがそれはすんでの所で止まっていた。見ると、涼君が森野君の手首を掴んでいる。
「っ放せよ!!」
「暴力にうったえるのはやめろ!…俺のせいでお前に嫌な思いをさせた。それはごめん。でも、お前は見ていて痛々しいよ。そうやって相手や自分を追い詰めるな。」
「っ!」
「俺も常識を押し付けるつもりはない。好きにしたら良いと思う。…だから、その、本当に今のままでいいか、もっと自分を見つめ直してみたらどうだ。辛いなら話きいてやるから。」
涼君が森野君を優しく見つめる。こういう時の涼君は本当に優しくて、抱えているものを全て吐き出したくなる。森野君もそれを感じたのか、強張っていた体から力が抜けて行くのがわかる。
「…うるさいですよ。なんでオレが勝手にやってんのに謝るんだよ。馬鹿じゃねー、の…?先輩ヅラ、すんなよ…!」
森野君は弱々しい声で抗議した。でも、それはもはや抗議とは言えず、なんだか安心したような声だった。俯いた彼から嗚咽が聞こえて来たので、ボク達はそれ以上何も言わず、そこを立ち去った。
「義人もいい迷惑だな。中学の偵察までさせられて。」
「情報収集の仕事与えてやってるんだから文句ないだろ。お前も大した怪我なくて良かったな。」
「ああ…。つーかお前はなんで来るなって言ったのに来たんだ。場所も言わなかったのに。お前こそ危なかっただろ。」
「場所は東中の連中が溜まりそうなとこを虱潰しに探したんだよ。涼は無茶するだろうからね。案の定反撃する気なかっただろ。青春漫画かお前。」
「…迷惑かけて悪かった。」
「…。僕まで青春漫画に巻き込まないでよ。キモい。」
「なんだよその言い方は…。俺だっていつまでもお前の世話になりたくないんだ。写真の事も、馨がいなきゃ本当の事がばれてたかもしれないし、お前に頼りっぱなしだったから…。」
「あー本当手間のかかる奴だよなお前は。喧嘩強いだけで馬鹿だもんね。」
「悪かったな…。」
「…別にいいんじゃない?ま、下僕を守るのが主人の務めだからね。」
「下僕じゃねーよ!なんだその設定。」
「助けて頂いてありがとうございます御主人様、って言ったら今回の事は帳消しにしてやるよ。言わないなら写真の事バラす。」
「はあ!?お前何言ってんだよ!SMプレイはよそでやれ!」
「そんな事言っていいと思ってんの?ほら早く言えよ。バラされたいならいいけど。」
「脅迫だろそれ!絶対言わないからな!」
「あーまた馨くん達が戯れてるー!私も入れてー。」
「涼君も大変だね。」
「裕太には関係ないよ。ねえ美弥、丁度良いとこに来たね。実はこの写真──」
「ちょ、マジで言うなよ馨!」
あれから数日、森野君は高校に来る事はなく、普段通りの生活を送っていた。義人君によると今でも東中の番長を続けているらしいが、以前よりもだいぶ大人しくなったらしい。東中で不良の喧嘩が減ったと言っていた。きっと何か思う事があって、彼なりに自分に決着を付けつつあるんだと思う。ボクは森野君の震える小さな背中を見てから密かに心配していたが、どうやら大丈夫そうだと思い、ほっとしていた。その時、不意に部室の扉が開いた。
「こんにちは!三上先輩!皆さん!」
「えっ森野君!?」
扉を開けたのはなんと森野君だった。この間と打って変わってまたあの無邪気な微笑みを浮かべている。ていうか、なんで涼君だけ別で呼んだんだ?
「…あれ、森野君。なんでまた来てるのかな。もしかして馬鹿?」
「あははは。結城先輩も相変わらず減らず口ですねー。部活見学ですけど来ちゃいけませんか?」
「来てもらいたくないなあ。ここは子供の遊び場じゃないんでね。部長命令で出入り禁止にするよ?」
にこやかに微笑む馨君と森野君の間にバチバチと火花が散っている。こうやってみるとなんだかこの二人は性格が似ているのかもしれない。しかし、毒を吐く馨君を無視して不意に森野君が涼君に近寄る。ていうか、ちょっと近すぎるんじゃないかな。涼君の手を強引に握り顔の前に持って行っている。なんだか瞳もキラキラと輝いてみえる。涼君もその様子に若干引いてるようだ。
「三上先輩!お手合わせありがとうございました。この間は僕の完敗です。」
「えっ、ああ…別に。」
「先輩の言葉、胸にしみました。なんだか余計に憧れちゃいます。此れからはもっと自分と向き合って、もっと強くなってみせますね。今は手下どもに誰が上か身に刻んでやってるんです。」
「(手下って…。)そ、そうか…。根詰めすぎるなよ。」
「はい!先輩を目標にします!」
森野君はまるでアイドルでも前にしているような様子だ。涼君が居心地悪そうに目線をそらしている。この間と凄いギャップだ…。
「な、なんかこの前と随分違うね…。」
「…あー。一周回って変な方向に行っちゃったみたいだね。優しい言葉かけられて、羨望や憎しみが憧れとか愛情になっちゃったんじゃない?」
「ええっ!森野くんって涼くんが好きなの!?ダメダメ!絶対駄目だよそんなのっ!」
「涼が森野君と付き合う前に告白するんだな。」
「うわあんそんなの無理だよー!」
「美弥さん冗談だよ…。」
こうしてこの騒動は一応決着がついた。少し賑やかになった部室に射し込む光は、夏の気配を匂わせている気がした。
Fin
ご愛読ありがとうございました。
この話は、適当に絵を描いてた時に“森野樹”像が出来上がったので、
せっかくなら登場させようと思い書いたものです。
誤字脱字ありましたらすみません。ではまた。