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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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「比奈。アンタ『お使いエンジェルさん』って知ってる?」
「し、知らない…。」
「エンジェルさんってあるじゃない?こっくりさんみたいな奴。そのエンジェルさんにお願いごとをすると、何でも叶えてくれるんだって!」
「私達の『お使い』してくれるから、『お使いエンジェルさん』。」
「ね、やってみようよ。」
「……いいよ。」
Tragedy of table turning
夏休み開け、まだ暑くて、ボク達は部室でだらけてばかりいる。最も、忙しくしている時の方が珍しいくらいなんだけど。最近はただお茶を飲んで雑談するだけになっている。
今も、馨君は本に夢中だし、ボクと美弥さんと涼君は窓から校庭を眺めながらお茶しているだけだ。
「陸上部はすごいねー。こんな暑いのに校庭で練習してる。」
「ボク達なんかクーラーのついた部屋でだらけてるだけなのにね。」
「来須先生に見られたら流石に怒られそうだな。」
「ふふ、でもきっと馨くんに言い負かされちゃうよ。」
「あり得そう…。あ、華代ちゃんだ。」
校庭では、陸上部や野球部が走っている。運動部は準備運動の一環として、校庭の外周を走るようだ。その一群の中に、華代ちゃんの姿もあった。汗をかきながら走る彼女は、いつもの柔らかい表情ではなく、ややきりっとしている。
「沢田さん、だよね。裕太君と仲良いんだっけ。」
「うん。明子ちゃんの親友で、ボクとも仲良くしてくれてるんだ。」
「へー…。」
美弥さんが意味深な笑顔でボクの顔を覗き込む。急に顔を近づけられてとっさに目をそらしてしまう。
「な、何?」
「裕太くん、ああいう女の子がタイプなの?」
「ええっ!なんでいきなり!?」
「だってだって、幼馴染みの女の子とか、その親友とか、ありがちじゃない!」
「それは漫画の話だよ美弥さん…。」
「えー!じゃあ河井さん?それともクラスの──」
「ち、違うって!」
ついつい必死に否定してしまう。これじゃあ逆に疑われそうだ…。でも、好きな人に好きな子探しされるなんて、複雑だ。美弥さんが探る様な目でボクを見る。
「やっぱり怪しー。沢田さんなんでしょ!」
「そ、そうじゃないってば!」
「へー、どの子だ?」
「ちょっと!涼君まで興味持たなくていいよ!」
「ほら、前から五番目の──って、もう準備運動終わったんだね。走り高跳びの準備してる!」
校庭に目を移すと、彼女達は各々の種目の練習に別れて準備をしていた。華代ちゃんは専門の走り高跳び用のスタンドやマットを用意している。
「ほら、準備終わったみたい。あの二番目に並んでる女の子。」
軽く身体を慣らした後、さっそく本番に入るようだ。ボク達が見守る中、先頭に並んでいた女の子が勢い良く走り出した。バーまでの短い距離を、全力で走るのが見える。バーの手前で、思い切り踏み込み、跳んだ。軽やかに弧を描く彼女の身体。しかし、背中がバーに当たるのが見えた。続いて、金属の激しい音と共にバランスを崩したスタンドが傾く。そのままマットに倒れ込んだ彼女の脚の上に、倒れた。
Tragedy of table turning(2)
「ちょ、あれって…!」
一瞬間が開いて、悲鳴と共に周りにいた女子生徒が集まってくる。続いて先生も駆け寄り、彼女の脚の上のスタンドをどかして様子を見ている。
「だ、大丈夫かな…。」
「スタンド…もろに脚に当たってたよな…。」
「か、馨くん!今、女の子が、走り高跳びで…。ど、どうしよう!」
美弥さんが馨君の方を振り返り、助けをもとめる。混乱している為に、わけもわからず馨君に頼ってしまう気持ちもわかるが、馨君は本から顔を上げない。
「先生も一緒なんだろ?だったらなんとかするだろ。」
「で、でもぉ。」
「無関係の僕達が出て行ってどうするの?落ち着きなよ。」
「し、失礼します!」
ちょうどその時、青ざめた顔の女の子が部室のドアを勢い良く開けた。驚いてボク達が見つめると、女の子は少したじろいだ様子で口を開いた。
「あの、オカルト研究部って、ここで合ってますよね?」
「そ、そうだよ。貴方は?」
「よ、良かった!こ、このチラシ見て来ました!二年四組の古賀比奈(こが ひな)です。」
彼女、古賀先輩が突き出したくしゃくしゃの紙を見ると、それは以前ボクがオカルト研究部に無理矢理入部させられた時のチラシだ。『怪奇現象、奇怪な事件にお困りの貴方!ご相談お受け致します!!』と書かれている。まさか本気にして来る人がいるとは…。
「あ!私が書いたチラシ!」
「よく残ってたな…。」
「ごめんなさい、くしゃくしゃで…。相談しようかずっと悩んでたから…。友達に無理言ってもらって来たんです。」
「ふーん。で、ここに来たって事は、何か奇怪な出来事でもあったんですか?古賀先輩。」
本を閉じて目を輝かせた馨君が古賀先輩を見る。馨君は興味のある人の時だけは決まって名前をすぐに覚える様だ。古賀先輩はその眼力に気圧されつつも、たどたどしく事情を語り出した。
「…一部の二年の女子の間で、『エンジェルさん』が流行ってるの、知ってる?」
「『エンジェルさん』って、コックリさんと似たような奴ですよね?」
「美弥、聞いた事あるの?」
「『エンジェルさん』は知ってるけど、二年で流行ってたのは知らなかったよ。」
「や、やっぱりそうだよね。私も、まゆちゃん達から聞くまで知らなかったし…。あ、その『エンジェルさん』はね、普通のとちょっと違うの。二年の子が誰かから聞いて広まったらしいんだけど、『お使いエンジェルさん』って言って、願い事を叶えてくれるの。」
「お使い、って?」
「私達の代わりに願い事を叶えてくれるのをお使いって例えてるんだって。」
古賀先輩の説明によると、『お使いエンジェルさん』とは、四人以上で行うこっくりさんだという。「エンジェルさん、私たちの願いを叶えてください。」と3回唱え、コインがイエスに移動したら成功らしい。その後自分たちの名前を名乗り、コインから手を離す。紙を人数分に破り、各自その紙切れを持ち帰り、 誰にも見られない様に両手に挟んで願い事をするというものだそうだ。
「願い事をして、エンジェルさんに帰ってもらう時は、四人で切り離した紙を元の形に合わせて、呼び出した時のコインを使って普通の『エンジェルさん』みたいに帰ってもらうって感じ…。他にも色々決まり事があるんだけど、だいたいこんな感じ。決まりを守らないと大変な事になるんだって。」
「なんか怪しいゲームですね…。」
「女子ってそういうの好きだよな。」
「それで、古賀先輩はその『お使いエンジェルさん』をやったんですか?」
「そ、そうなの!私と白川まゆちゃん、河内渚ちゃん、岩瀬萌香ちゃん、羽淵(はねふち)百合乃ちゃんで。こ、これがその時の紙の切れ端!」
鞄からコックリさんと同じような五十音と鳥居らしきものが書かれた紙切れを取り出す。
「ふーん、で、何があったんです?随分顔色が悪かったですけど。」
「う、うん…。…五人で『お使いエンジェルさん』をやったんだけど、その、私…コインをなくしちゃったの…!」
古賀先輩は泣きそうな顔で呟いた。その表情が、余程切羽詰まった状況なんだと物語っている。…しかし、いまいちわけがわからない。
「えっと、それじゃ終わらせられないって事ですよね?」
「…そうなの。このままじゃ、百合乃ちゃんまで…。」
「……あのさー古賀先輩。それだけじゃただの世間話なんですけど。」
馨君がしびれを切らした様子で脚を組み替えた。古賀先輩の説明もかなりわかり難いが、もろに態度に出しすぎじゃないだろうか。既に興味が薄れ始めているのが見て取れて、案の定古賀先輩は萎縮してしまっている。
「ご、ごめんなさい。えっと、わかりにくかったよね。『お使いエンジェルさん』は、お願いごとをしたら早く帰ってもらわないと勝手に悪さをし始めちゃうんだって。だから、一刻も早くコインを見付けなきゃ大変な事になの!」
「へー落とし物として職員室に届いてないんですか?」
「真面目に聞けよ馨。」
「うちは何でも屋さんじゃないんですよ。怪奇現象が起きてから出直して下さい。」
馨君が涼君に帰ってもらうように目で合図を送り、また本を読み出そうとした時、古賀先輩が叫ぶ様な声で言った。
「もう起きてるの!渚ちゃんも、萌香ちゃんも事故にあって…。さっき、まゆちゃんも走り高跳びで…!」
古賀先輩は目に涙を溜めてうつむいてしまった。
「え、走り高跳びって…。」
美弥さんが驚いた様子で声をあげる。同時に馨君も本を開こうとした手を止め、古賀先輩に目を戻した。
「さっき、スタンドが脚に倒れた人ですか?」
「グスッ…そう。三人とも、『お使いエンジェルさん』をやってから次々に酷い目に遭ってるの。こんな短期間に、偶然とは思えない…。さっき、まゆちゃんが失敗するのを見て確信したの!お願い、助けて!このままじゃ百合乃ちゃんまで!」
それを聞いた馨君は目の輝きを取り戻した。まるで新しいおもちゃを貰った子供の様に心底嬉しそうな顔で古賀先輩に言い放った。
「わかりました。僕達が絶対に『お使いエンジェルさん』を捕まえてみせます。」
「古賀先輩、ちょっと不安そうな顔してたね。」
「まあ、助けて欲しくて来たのに馨が変な返事するからだろ。『エンジェルさん』を捕まえてどうすんだよ。」
「何言ってんの涼。むしろそれ以外に無いだろ。うちは慈善活動部じゃないんだよ。正直古賀先輩とかどうでもいい。」
「でも実際に祟られてる人が三人もいるんでしょ?助けてあげようよ馨くん!」
確かにそうだ。先輩の話だと一番最初に河内先輩が交通事故に遭い、一命を取り留めたものの現在も意識が戻っていない。岩瀬先輩は階段から落ちて額を切った上に首の骨を折りかけ、そして先程の白川先輩。彼女は陸上部のエースで、今回脚を痛めたようだが、今後どのように選手生命に響くかわからない。三人ともとても軽いとは言えない怪我を負っているのだ。
「捕まえられたら必然的に助かるでしょ。」
「適当だな…。」
「それより、『お使いエンジェルさん』についてだ!話を聞いていて思ったけど、これは本格的な降霊術だよ。実際に呼び出してしまった可能性が高いね。」
「馨君、こっくりさんて降霊術なの?」
「エンジェルさんやこっくりさんは『table turning』と言う明治期に西洋から伝来した降霊術だ。初期は三本の竹の棒を組んで三脚のようにし、その上に桶を被せ、それを数人が囲んで桶に手を乗せて質問する、という方法だったらしい。」
「それってどうやって答えを聞くんだ?」
「答えがイエスの場合などは不思議と手に力が入って桶を傾かせたらしいよ。その時の音から『こっくり』さんと呼ばれるようになったんだ。そのうち『狐狗狸』と当て字されたそうだよ。」
「聞いたことある!動物霊を呼ぶから狐、狗、狸って書くんだって!」
「鳥居から呼び出すことからも稲荷神を連想して狐だと思っている人は多いみたいだね。地方では『お狐さん』とも呼ぶらしい。僕の見解としては、昔からこれを行なって錯乱状態になったりトランスに陥る人が多かったからだと思う。昔はそういう状態を『狐に憑かれた』と言っていたんだ。」
「じゃあ、実際は違うの?」
「さあね。正直、こっくりさんに関しては僕は信じてないし。」
「えっ!そうなのか!?」
涼君が驚くのも無理はない。オカルト全般を盲信する馨君が、有名なこっくりさんを信じてないなんて…。
「なんだよ涼。僕は別にオカルトならなんでも信じてるってわけじゃないよ。」
ムッとした様子で馨君が告げる。てっきりそうだと思い込んでいたボク達は面食らってしまった。
「何驚いてんの?僕はちゃんと調べてから真偽を決めたいんだ。その上で殆どのこっくりさんは偽物だと判断してるだけ。」
「どうして?だって実際に本当の事を当てたりするよ!」
「それって、『誰々の好きな人は?』とか、『私の将来は?』とかだろ。大体無意識に自分の思っている通りの答えを自分や他の人が出してるんだよ。占いと大して変わらないね。それにいつもコインを自分で動かしているわけじゃないから勝手に動いていると思うだけだ。そもそも、こっくりさんにする質問て、大体誰もが答えをわかっている様なものばかりだろ。」
「今回は随分と正論だね。」
「初期のこっくりさんは特にそれがわかりやすい。人は無意識に自分の真意を表現してしまうからね。腕や手に力が入って桶を動かしてしまうんだろう。」
「えー!でも、さっき言ってた様におかしくなっちゃう子とかもいるっていうよ?こっくりさん禁止の学校とか!」
どうも、美弥さんはこっくりさんを信じていた様だ。執拗に馨君に詰め寄っている。
「確かにね。禁止された事でエンジェルさんという呼び方で流行ったともいうし。でも、こっくりさんの怪異現象は大体そう言った集団パニックみたいなものばかりだ。実際、行うのは小学生や中学生みたいな多感な時期の子供が多い。普段から何か悩みを抱えている状況で、その独自の緊張から錯乱を起こす場合も多いだろうね。同じような子が何人も出るのは、心理学で言う情動伝染かな。目の前の人の気持ちが伝染してしまう事があるらしい。同じ緊張状態なら尚更ね。」
「う…。」
美弥さんが言葉に詰まる。馨君の見解はとても理にかなっている。確かに、かなり調べた上でこっくりさんを信じていない様だ。馨君は更に続ける。
「大体、幽霊が好きな子当てられる方が不可解だよ。仮に管狐みたいな高等な霊だとして、子供の遊び半分で喚びだせたら呪術者なんて必要ないだろ。」
「うーん。じゃあ、どうして古賀先輩の言ってる事を信じたの?」
美弥さんの質問に、馨君は目を煌めかせる。
「今回のは普通のこっくりさんとは違う。『お使い』、つまりエンジェルさんを使役してるんだ。どちらかと言うと式神を呼び出すのに近いよ。さっき言った管狐みたいに、高等な霊を喚んで使役してるのかもしれない。それなら動物霊と関連するし、本物のこっくりさんに会えるかもしれないぞ!」
「でも、今子供の遊び半分で喚び出せるわけがないって言ったじゃないか。」
「普通の子供なら、ね。」
「?」
「とりあえず義人に連絡して五人の様子をもっと詳しく調べさせる。」
そういうと馨君は携帯で義人君に連絡を入れた。
Tragedy of table turning(4)
翌日の昼休み、ボク達は馨君に呼ばれ、何故か会議室で行われる合同部活動会議に出席していた。
「それでは、これより今週の合同部活動会議を始めます。出席を取りますので呼ばれた部活動の人は返事を──…」
生徒会長が明瞭な声で始めの挨拶をする。合同部活動会議とは、週に一度、昼休みに各部活の部長が集まって行う会議の事だ。各部活動の向上の為のもので、一応生徒会長と副会長も出席する公式の集まりだけど、週に一回も集まれば話すことも特になく、生徒会長が事務的に近況報告をして終わるような形だけのものらしい。馨君に呼ばれて無理矢理出席させられたが、何をしていいかわからず手持ち無沙汰だ。仕方が無いから黙々と昼食のパンを食べながら生徒会長の様子をぼんやり眺めていた。朝礼で遠目でしか見たことのなかったが、長いストレートヘアを後ろに下ろした背の高い彼女はとても利発そうで、いかにも『生徒会長』といった雰囲気だ。ただ、柔和な表情の副会長と違い、どこか神経質そうな瞳と事務的な態度が、人を寄せ付けない雰囲気をはらんでいる。
「──…では、特に質問もないようなので、本日はこれで解散いたします。ありがとうございました。」
彼女の一言に、生徒達が一斉に雑談しながら席を立っていく。ボク達もそのまま帰るのかと席を立つと、馨君に上着を引っ張られた。
「どこ行く気だよ裕太。」
「えっ。会議終わったから…。」
「僕がただ会議に参加させる為だけにお前達呼んだと思う?」
「俺毎回参加させられてるんだけど。」
「涼は一応副部長扱いだから。それより、生徒会長!」
馨君に呼ばれ、生徒会長がこちらを振り返る。自分を呼んだ相手が馨君だとわかると、彼女は眉間に少しシワを寄せた。
「…何ですか、結城君。部活動の質問なら会議中にして下さい。」
「相変わらず僕にはトゲがあり過ぎませんか?生徒会長としても先輩としてもどうかと思いますよ。」
「貴方に言われたくないわね…。もうちょっと後輩らしく可愛げのある態度とったらどうなの?」
「貴女こそもう少し愛想よく振舞った方が可愛いですよ。ただでさえ僕よりデカイんですから。」
「なっ……!」
「ちょ、馨君!」
馨君の言葉に会長の顔が引きつる。まずい。女性にそんなストレートな悪口は絶対に避けるべきだ。彼女の瞳にみるみる怒りが満ちて行く。必死に怒りを押し殺した様子で彼女が口を開いた。
「…今のはセクハラよ。結城君。」
「か、馨!謝れ!すみません、悪気はないんです。」
どうやら、生徒会長と馨君は大分仲が悪いらしい。飄々とする馨君に対し、彼女は険悪なムードを隠す気すらないみたいだ。この調子だと、恐らく馨君は今までも随分生徒会長に迷惑をかけて来たようだ。涼君の必死な様子になんとか怒りを抑え込んだ彼女は気を取り直した様子で続けた。
「もういいわよ。…全く、貴方達の問題行動を誰が許してあげてると思ってるの?」
「す、すみません!部費の件は本当にありがとうございました。」
「本当にね。三上君、貴方ももう少ししっかり結城君を見張っててくれない?本に部費を使うならまだしも、カツラや制服なんて、いつから貴方達は演劇部になったのかしらね。」
「活動内容に文句言われる筋合いはありませんが。」
「馨!なんでお前はそういう言い方しか出来ないんだよ!」
またもや彼女の顔が険しくなる。涼君が慌てて馨君を怒るが彼女の機嫌は治らない。それにしても、カツラや制服って、河童の噂の時に使ったものの事だろう。犯人の平川君を騙す為に馨君と美弥さんが変装したんだ。確かに、不審に思われても仕方ない買い物だよな…。ボクまで申し訳なくなってくる。
「結城君。生徒会長は生徒を健全な方向へ導く義務があるんです。その為には部活動の把握も必要です。ただでさえ問題行動が多いのだから、これ以上問題があるようなら部活動停止に──」
「へえ、じゃあ『お使いエンジェルさん』は健全な遊びなんですか?羽淵百合乃生徒会長。」
『お使いエンジェルさん』という言葉を聞いて、生徒会長、羽淵先輩の顔色が変わった。
「えっ。羽淵ってあの古賀先輩の言っていた…?」
「…比奈から聞いたのね。何?今度はこっくりさんについて調べてるの。あんなのくだらないただのごっこ遊びじゃない。」
本当に困った子、と呟き視線を外す羽淵先輩に馨君が詰め寄る。
「本当にくだらないごっこ遊びなんですか?古賀先輩が言うにはあの遊びを行った女子のうち、三人が大きな怪我をしているそうですが。」
「だから何?彼女達は本当に気の毒だと思うけど、生徒会長として出来るだけのことはしてるつもりよ。」
「あの…、羽淵先輩も一緒に『お使いエンジェルさん』をやったんですよね?三人とは友達じゃなかったんですか?」
「…いいえ、私は大して仲良くなかったわ。彼女達は比奈とよく一緒にいたけど。」
「じゃあ、古賀先輩の繋がりで参加したんですね。」
「ええ。それに、一応推奨されていない遊びですもの、監視役として参加したわ。」
「そんなことより!羽淵先輩、貴女が本当にエンジェルさんを喚び出したんじゃないんですか?」
「…どういう事よ。」
「羽淵って苗字、凄く珍しいですよね。『はぶち』や『はねぶち』と読む場合は全国にありますが『はねふち』と読む場合は少ないそうですよ。調べてみたら、先輩の苗字ってこの地域だけのものだそうですね。以前は河盛村で絶大な権力を持っていた神社の家系だとか。」
「…そうよ。だから何?」
「先輩の神社では毎年神降ろしの儀式をして今年の吉凶を占う行事があるんですよね。巫女の血を継いでいる貴女がこっくりさんという降霊術を行えば、計らずも霊を喚び出してしまう可能性もあるんじゃないですか?」
この辺りの大きな神社といえば、河盛神社の事だろう。水神様を祀っているという比較的有名な神社だ。まさか先輩がそこの神主さんの家系だったとは…。結城君のまくし立てに、羽淵先輩は眉間を押さえて呆れた。
「はあ…。結城君、漫画の読み過ぎじゃないの?私が霊感少女だとでも思っているようだけど、そんな力ないわよ。それに、そんな馬鹿げた詮索は酷い怪我をした彼女達に失礼だわ。」
そういうと、先輩は踵を返して部屋を出る準備をし始めた。
「…古賀先輩や貴女も、エンジェルさんに狙われるかもしれないんですよ。」
「もうその話は終わりよ。教室を閉めるから早く出て行きなさい。もうすぐ午後の授業が始まるわ。」
半ば強引にボク達は会議室から出され、その後は羽淵先輩は話してくれなかった。