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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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Midnight UMA(1)
「あっつい!!」
部室に美弥さんの叫びが響く。七月、ここ最近は猛暑が続いていて、部室も窓を開けていても蒸し蒸しとしているのだ。冷房は学校側で使える日にちが決まっているので、もう少し日にちが経たないと使えないという決まりになっている。それにしても、この暑さだ。もう少し臨機応変に対応してもらいたい。水枕を首に当てた馨君が如何にもうざったそうに美弥さんの方を見た。
「そう言って涼しくなるなら大歓迎だね。どんどん言ってよ。」
「だって耐えられない暑さなんだもんー。座ってるだけで汗だくってちょっとおかしいよ!ね、裕太くん!」
「そ、そうだね…。」
「異常気象を僕に訴えられてもね。」
「ていうか馨くん暑いのによくセーター着てられるね。半袖だって辛いのに。」
「サマーセーターだから良いんだ。」
「そういう問題なの?」
「あー暑さで溶けちゃうよー。団扇じゃ足りないー。」
「ちょ、美弥さん!そのカッコは駄目だよ!」
美弥さんはブラウスの第二ボタンまで開けて扇ごうとしたポーズできょとんとしている。む、胸が見えそうだ…。慌ててボクは目を逸らす。
「あ、大丈夫だよ!一応タンクトップ着てるから!」
「そ、そういう事じゃないよ!」
「おい、アイス買ってきたぞ。好きなのとれよ。」
「りょりょ涼くん!?あ、ありがとう!!?」
美弥さんは涼君を目にすると急いで胸元を隠した。やっぱり涼君だと気にするのか。ボクって男として意識されて無いのかなあ…。
「ちゃんと果肉入りのやつ買ってきただろうな。」
「はいはい…。みかんの奴だろ。」
「流石涼くん、以心伝心だね!」
「前に別の買って来たら散々文句言われたからな…。」
「買い直させなかっただけ譲歩したつもりだけどね。」
「相変わらずな馨君だね…。」
涼君の買ってきてくれたアイスに口を付け、冷たさとさっぱりした甘さを楽しんでいると、少し体の熱が取れたように感じた。外からの風も僅かながら汗を冷やしてくれる。やっと落ち着いたボク達は、ようやく部活を始められる気持ちになった。馨君が喜びを隠せないと言った様子でホワイトボードの前に立つ。
Midnight UMA(2)
「今日からは、最近の『噂』について調査していこうと思う。」
「噂?」
「もしかして、河童の事?」
「ああ。」
「なんだそれ。」
「カッパって、あの妖怪の事?」
「あれ、裕太くんも涼くんも知らないの?最近この辺りで河童に襲われたって噂があるんだよ。階段で突き飛ばされたとか、水を頭からかけられたとかね。」
「なんだその噂…。河童ってそんな事するのかよ。」
「現在はキャラクター化していてひょうきんなイメージだが、河童は結構恐ろしい妖怪なんだぞ。沼に潜んでいて牛馬など家畜を引きずり込んで食べるという説話もある。」
「ええ…想像出来ないな。」
「牛馬どころじゃない。尻子玉って聞いたことあるだろう?河童は人間の尻子玉が大好物なんだ。人間にあうと尻子玉を抜こうとするらしい。」
「それよく聞くよね!でも尻子玉って何なのかなあ。」
「尻子玉が人間のどの器官の事を表しているのかは定かじゃない。だが、どうも内臓を指しているという説が有力なんだ。」
「えっ。それって…。」
「尻子玉は尻にあるそうだからな。肛門から内臓を抜き取るって事だね。生きたまま。」
「怖!そんな怖い妖怪だったの!?」
「中には大工を手伝ったとか、河童の妙薬をくれるとか、人間に友好的な河童もいるみたいだが、この地域ではいい話は聞かないね。」
「この辺りって河童の伝説多いのか?」
「お前地元だろ。ったく涼は…。僕が聞いた話だけでも三つあるぞ。」
「私も聞いた事あるよ!悪さばっかりする河童がお侍さんに腕を切られちゃったお話知ってる!」
「あ、ボクもそれ聞いた事ある。でもただのお伽話だと思ってたよ。」
「まあよくある妖怪退治譚だからな。それ以外にも尻子玉を強請る河童と相撲で決着をつける話、河童と女が結婚する話なんかもある。」
「そういえば何処かで聞いた事あるな…。」
「どの話も河童は人に悪さをする妖怪として語られているね。『河盛市郷土史研究』によれば、河盛市がまだ村だった頃、村を横断している銀漢川の水害が酷く、水神として河童を祀っていたそうだが、後に都から伝来した淤加美神(おかみのかみ)という日本神話の水神に信仰が移ってしまった事により、河童が妖怪に零落したという説が最も有力とある。つまり、祀ってくれなくなった事で河童が怒っているってわけだね。」
「よくそんな資料見つけて来るね…。」
「ということで、この地域には河童が棲息している可能性が高い!しかも、目撃情報もある。これはオカルト研究部として調査しない手はないだろ!」
「迷惑な噂がたったもんだな。」
「でも、今回はちょっと本物っぽくない?面白そうだよ!」
「決まりだな。明日から聞き込み調査だ!」
Midnight UMA(3)
「──…って事になったんだ。」
「ふーん。」
明子ちゃんはジュースを飲みながらあまり興味無さげに相槌をうった。今日は聞き込み調査のため、明子ちゃんと華代ちゃんとお昼を一緒にする約束をしたんだ。でも、明子ちゃんはあんまりこういう話が好きじゃない様子だ。
「オカルト研究部って本当よくわかんない事やってるんだな。」
「あはは…。殆ど馨君のためだけにある部活だからね…。」
「でも、確かに最近聞くよねその噂。南高の生徒が襲われたんだっけ。えーっと、河島君て子。」
「華代ちゃん知ってるの?」
「華代だけじゃなくて女子の間じゃ結構話が出てるよ。ま、女子ってそういう都市伝説みたいなの好きだからな。」
「そうなんだ…。詳しく教えてくれない?」
「ふふ。裕くんたらすっかりオカルト研究部員ね!いいよ。あたしが聞いた話だと…──」
先週の金曜日の深夜、南奎宿高一年生、河島直也は一人、タバコを吸いながら家に向かって歩いていた。周知の事実ではあるが、南高はかなり荒れている。彼もその不良生徒のうちの一人だ。不良同士の会合の後か、それとも別の用事か、街灯もまばらな道を悠々と進む。
河島はふと、公園を抜けて近道をしようと思いついた。天の川公園という林と一体となっているその公園を一直線に抜けると、彼の家はすぐそこなのだ。剥き出しの土の道や凸凹の急な階段があり、夜は特に歩きにくいが、そこをよく利用する彼は気にしなかった。自分を付け狙う存在がすぐ近くにいる事も知らず…。
「……?」
木の葉や小枝を踏みしめながら進む。しかし、パキパキと階段を降りる自分の足音とは明らかにずれた音がする。風で木々がしなっているんだろうか?それにしては不自然だ。しかし、気付いた時には既に遅かった。姿をはっきり確認する暇もなく、河島の身体は宙を舞った。最後に見たのは、不気味な緑色の光る目だった。
「──…っていう話を華代ちゃんから聞いたよ。」
「こ、怖過ぎだよ裕太くん…。その後その子どうなっちゃったの?」
「足首捻った程度だって。」
「誇張表現し過ぎだろ…。」
「華代ちゃんがこうやって話すと盛り上がるよって言ってたんだ。」
「変わった友達だね。」
「お前に言われたくないだろうけどな。痛っ!」
「殴られたいならそういえよ涼。」
放課後、ボク達は各々集めた情報を報告もとい部活のため部室に集まった。ボクはオカルト部と明子ちゃん達以外に殆ど友達がいないので、さっきの話しか聞いて来れなかったけど…。馨君がメモした紙を読み上げる。
「集まった話から河童の特徴をあげると、『目が緑色に光る』、『背が低く小柄』、『人に怪我をさせる』って感じだな。他にも空を飛んだとかあり得ない速さで走り去ったとかあるけど、一例しかないし、噂に尾ひれが付いただけと思った方が良いな。」
「なんか如何にもって感じだね!今回は本当に本物の河童なんじゃない?」
「美弥もそう思うか!これは本格的に準備をしないといけなくなりそうだな!」
「カメラ必要だね!」
「なんか盛り上がってるね…。」
「全くな…。」
「なんだよお前達。まだ疑ってるのか?」
「普通に考えて河童なんかいるわけないだろ。だいたい、やってる事はしょうもない悪戯じゃないか。」
「フン、これだから常識人は。お前みたいなのがガリレオを裁判にかけるんだよ。」
「なんだよそれ?意味わかんねーよ。」
「本当お前に説明するの疲れるな…。つまり、常識にしがみ付いてばかりいると真実を見落とし兼ねないって事だ!大体、河童じゃない理由は何処にあるんだよ。あるなら聞かせてもらいたいね。」
「う…。わかったよ。悪かった。」
殆ど馨くんに気圧されて涼君が折れてしまった。まあ、仕方ないよね。涼君が馨君に口で勝てるわけがないだろうし。
「じゃ、次は学校外に聞き込みに行くか。部室片付けて行くぞ。」
「へえ!珍しいね。自分達で情報集めに行くなんて。いつもは義人くんに頼むのに…。」
「……ああ、義人ね。」
「…彼にはしばらく休んでもらう事にしたんだ。使い物にならなくなってるから。」
「えっ?」
Midnight UMA(4)
馨君と涼君があからさまに質問した美弥さんから目をそらす。しかも、返答までの妙な間はなんだ?明らかに義人君に悪い事があったような言い方だ。
「(…馨君、義人君に何かしたの?)」
「(君に余計な話をした罰だよ。)」
「(そ、それって馨君達の中学の時の…?)」
「(わかってるなら聞くなよ。ま、心配しなくても身体に痕が残るような事はしてないから。)」
「(そ、そうですか…。)」
「義人くん風邪引いちゃったのかなあ。心配だね、涼くん。」
「そ、そうだな。」
「さ、無駄話はやめて行くぞ。涼、やれよ。」
「…わかったよ。」
馨君と涼君が意味深な会話をしている。何のことだろう?ボク達は片付けをすると南高へ向かった。
「まずは階段から突き落とされた南高のカワハギ直也だな。」
「河島だろ。」
南高は市の真南にあり、北高とは真逆の方向にある。ボクは南高の生徒が怖くて今までこの辺りに来た事はなかったから少し不安だ。下校時刻なのもあって、多くのガラの悪そうな生徒達が出て来る。しかも、こっちは北高の制服でとても目立つ。因縁でも付けられたらどうしよう…。
「…あ、いた。丁度帰るとこか。」
馨君が見ている方向を見ると、ピアスを付け、髪を染めた猫背の少年がいた。如何にも不良少年と言った出で立ちだ。少年、もとい河島君もこっちに気づいた様で、怪訝そうにこちらを見ている。ボクは怖くてつい目をそらしてしまった。そんな様子を見兼ねたのか、ここで待つように指示をして馨君と涼君は物怖じせず彼に近付いて行く。
「君がカジワラ君?」
「は?ちげーよ。お前誰?」
「いや、なんでもない。河島だよな。」
「んだよ…──って、み、三上!?」
河島君はさっきまでの不機嫌そうな態度とは打って変わって冷や汗をかき、目が泳いでいる。涼君は中学時代は有名な不良だったんだ。無理もないんだろう。きっと彼の頭は何か涼君を怒らせる様な事をしたんじゃないかとか、どうやって切り抜けようかとかでいっぱいなんだろうな。
「中学以来だな。久しぶり。」
「そ、そうだな。み、三上は、北高行ったんだよな。元気そうじゃん。」
「ありがとう。」
涼君が逃げられないようにか、さりげなく河島君の肩に手を掛けるのが見える。微笑んではいるが、目には以前田口を睨んだ時の様に有無を言わせない迫力があり、威圧的だ。もしかしたらさっき二人が話していたのはこの事だったのかもしれない。ボクなんかじゃあの時点で口も聞けなくなりそうだな。河島君の顔が徐々に青くなっていっているのがわかる。
「…。…あ、あのさ、俺、なんかした、か…?」
「教えてもらいたい事があるんだ。」
「なに…?」
「河童の事だよ。君、河童に襲われたんだろ?」
「は…?…あ、ああ…、あれか。わかった。お、教えるからさ、そこのマックいかね?」
「いいよ。裕太、美弥、マック行くよ。」
「はーい!行こ!裕太くん。」
「う、うん…。」
ボク達はすぐ近くのマックに入り、六人席のテーブルに腰掛けた。周りは南高の生徒だらけで、非常に騒がしい。でも、ここなら変な話をしても誰にも不審がられないだろうな。河島君は無理矢理涼君の隣に座らされていたたまれなそうだ。
「…ふーん。じゃあ噂と大して食い違いはないわけか。」
「ねえねえ河島くん!目が光るってどんな風に光ったの?」
「知るかよ…。」
「お前見たんだろ?」
「な、なんかぼんやりって感じでよくわかんねーけどどっかで見たことあるような色だった。で、でも一瞬だからマジでわかんねーんだって三上!」
「色?黄緑色だったんだよね。」
「ああ…。あとは全身真っ黒だったと思う。な、俺が知ってんのはこれくらいだよ。もういいだろ?てか、なんでこんな事聞くんだ──」
「そうだな。涼、美弥、裕太。次行こう。…ああ、カザマ君?僕達が聞いた事他に言うなよ。言ったら…。」
馨君が涼君に視線だけ向けてから、河島君に不気味に微笑んだ。
「…怖~い神様からの天罰があるかもよ。」
Midnight UMA(5)
「河島君、倒れそうなくらい蒼くなってたね。」
「風邪でも引いたんじゃない?」
「よく言うよな…。」
「まあまあ、涼君…。」
「仕方ないよ、東中の番長さんって本当に怖がられてたんだもんね。涼くんて本当に凄い…。」
「本当に──…え?」
その瞬間美弥さんを除くボク達は完全に固まった。
「…美弥、知ってるの?その事。」
「え?涼くんが元東中の番長さんで、『大黒天』って呼ばれてたって事?あ、馨くんが転入して来たあの話感動だよね!友情だね!」
「ど、何処で…。」
瞬間馨君がボクの方を見る。ボクは全力で首を横に振った。ボク達が美弥さんを見ると、彼女は得意げな表情をしている。
「ふふん、義人くんの前で林檎握り潰したら教えてくれたんだ!」
「…それ、『誰にも言うな』って言われなかった?」
「……あ。で、でも!馨くん達は知ってるんだからセーフだよね!?」
「(アウトだよ…。)」
「はあ…。義人の奴。」
「ご、ごめんね涼くん!私絶対他に言わないから!だって、皆私には秘密にしてるんだもん。ズルいよ!」
「美弥は今みたいに簡単に人にペラペラ喋るからだよ!」
「うう、いひゃいよう馨きゅん~。どうへなら涼きゅんに~。」
美弥さんは馨君に頬をつねられて痛がっている。確かに美弥さんだけに秘密にしてしまったのは申し訳なかったな。涼君への気持ちが変わってしまったら、と思っていたけど、その心配もなさそうだ。
「結城先輩。何こんなとこで女性に手をあげてるんですか。」
「あ!森野きゅん!」
いつの間にかボク達は東中の近くまで来てしまったようだ。以前、オカルト部に見学に来た東中の森野君が友人を数人連れてこちらにやって来た。馨君は美弥さんの頬から手を離し、森野君に向き直る。
「ああ、チワワ君か。後ろに取り巻き連れて随分仰々しいね。」
「森野だよ。もやし野郎に体型について言われたくないですよ。」
「もう、言い合いしちゃダメだよ!」
「いい加減目立つぞ。」
「三上先輩!はいっすみません!」
馨君に敵意に満ちた表情を向けていた森野君がガラッと表情を変えて涼君を見る。森野君は東中の現番長で、元番長の涼君を最初は敵視していたけれど、色々あって今は尊敬?しているみたいだ。
「い、樹。三上先輩ってマジであの…?」
「ったりめーだ。お前ら迷惑掛けんじゃねーよ。」
「ま、マジかよ!!本物とかやべえな!」
「お前、あんま騒いで怒らせたらどーすんだよ!」
「……。」
少年達が騒ぐ様に、涼君は呆れ顔だ。森野君はちょっと得意そうな顔をしている。こうやってみると、彼も中学生らしい子供っぽさがあってなんだか微笑ましいな。
「そうだ。君らカジマ君とオクラ君、フジツボ君って知ってる?」
「川上君、小沢君、淵本君ね。」
「は?何ですかいきなり。」
「おい、樹。この人は?」
「結城先輩。いちいちウザい先輩だよ。あとこっちは空気の柿本先輩。それとこの人はお菓子作りが得意な木下先輩。」
「えへへ。よろしくね!」
「(お菓子作りが得意、だって…?!)」
「めっちゃ可愛いじゃんか!オレ江上って言います!よろしくっす!」
空気って…。何だか地味にショックを受けるな。でも、さっき言った川上君達も河童に襲われたと噂になっている子達だ。皆東中の生徒らしい。とても教える気なんてなさそうな様子の彼らに見兼ねた涼君が口を開いた。
「悪いけど、教えてくれないか?コイツ頑固なんだ。」
「み、三上先輩…。お前ら!何先輩にお願いさせてんだよ!」
「痛っ!え、俺らのせい!?」
「ごめ、ゴメンって樹!」
「はあ…。」
ひとしきり大騒ぎすると、森野君達は川上君達の事を話してくれた。