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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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第七話 Pyrokinesis girl(9)

 

Pyrokinesis girl(9)


「御託は良いんだよ。この変態女!さっきからずっと訳わかんねえ話しやがって。何があったか知らねえけどてめえがやった事は許される事じゃねーんだよ!てめえこそ焼き尽くすぞ!」

「ちょ、ちょっと森野君落ち着いて…。」

「おめえもしゃしゃってんじゃねえよ空気!」

「す、すみません!」

 森野君のあまりの気迫につい謝ってしまった。と言うか完全に『狂犬』モードで怖くて近寄れない。アイリスさんも先ほどの危ない雰囲気はどこかへ行って涙目で森野君を見上げている。そんなアイリスさんに向けて馨君がどこから持ち出したのかノートを突き出した。表紙には『アイリス・プリムローズ』と書いてある。それを見ると、アイリスさんの目の色が変わった。

「それ…!返して!」

「口調変わってますよお姫様。君のキャラクターは全部このノートに書いた話の設定なんだよね?って事はこのノートが君のアイデンティティーを形成してるわけだ。…返して欲しかったら質問に答えて。」

「なに?返して!お願い!それがないと私…!」

 必死に伸ばしてくる手を避けて馨君はアイリスの目を見据える。

「ねえ、ここ最近今まで関わった事のなかった人と関わらなかった?特に大人。」

「わからないわ…私はプリンセスだもの、みんなが私を羨むんですのよ…?だからお願い、返してちょうだい…。」

 支離滅裂な事をブツブツと呟くアイリスさん。完全に妄想の世界に入ってしまっている。痺れを切らした馨君が彼女の肩を掴んで無理矢理目を合わせる。

「そう言う事を聞いてるんじゃない!僕達に相談して来た時はまだ正常の範囲内だった。いくら元から妄想癖があったってこんな短時間で自分が誰だかわからなくなるなんてありえないんだ!誰かが君に何かしたんだろ!?」

「か、馨くん乱暴しちゃダメだよ!」

 誰かがアイリスさんをこんな状態にした…?一体なんの為にそんな事をするんだ。どういう事なのか聞こうとした瞬間森野君が馨君からノートを奪い取った。

「…っ森野!」

「なんだか知らねえけどコイツはこれが大事なんだな?だったらまどろっこしい事やってんじゃねえよ。」

「やめて!返して!!

「先輩に薬なんて盛りやがって…。おまけにライターなんて持ち出して、根性焼きでもするつもりだったのか?この程度ですんで良かったと思えよ!!」

 そう言って森野君は躊躇なくノートを破き捨てた。瞬間、アイリスさんは大きな瞳を溢れんばかりに見開き、次に口を大きくあけた。しかし、あまりのショックのせいかそこから大きな声が出る事はなく、吐息ほどの微かな悲鳴を発して失神してしまった。

「あ、アイリスさん!」

「大丈夫!?」

「…っおいチワワ!何勝手な事してんだよ!これじゃあもう話聞けないじゃないか!」

「なんで僕が悪いんですか?この女が三上先輩に睡眠薬なんて盛るからいけないんじゃないですか!睡眠薬大量摂取なんて、下手したら死ぬんですよ?」

「今の睡眠薬はせいぜい頭痛や体の力が抜ける程度で死なないんだよ!今もただ寝てるだけだ!ッたく、体力派が要ると思ったけどこれならお前なんて連れてくるんじゃなかった!」

「っ…!んだとこの野郎!!」

「ちょ、ちょっと二人とも本当に落ち着いて!!」

 森野君が馨君の胸ぐらを掴むのをなんとかとめる。森野君が凄い目で睨んでくるが止めないわけにいかない。一度つばを飲んで気持ちを落ち着けると、二人の目を見て言葉を放つ。

「いい加減にしなよ二人とも!こんなとこで喧嘩してる場合じゃないよ!涼君も倒れてるし、アイリスさんのお母さんが帰って来たらなんて説明するか考えないと──」

「ただいまー。アイリスちゃーん?………!なに、これ…ど、どう言う事なの?!」

 その後は本当に大変だった。帰宅したお母さんに不法侵入の事を謝り、なんとか掻い摘んで事情を説明するも倒れている涼君と睡眠薬を見つけられてパニックを起こされ、なだめながらもう一度説明をした。やっとわかってもらえてお互いに謝り合う形になったが、今度はアイリスさんが目覚めて訳のわからない事を言い出してまた森野君がキレそうになるのを落ち着かせるも収集がつかず、とりあえずその日は帰らされた。

 その日以降アイリスさんが登校する事はなく、次に彼女の名前を聞いたのは担任からは転校したと聞かされた時だった。なんでも、彼女の父親は銀行の重役らしく、世間体を考えて警察はおろか、学校にも事情をきちんと説明せず転校したとのことだ。内心、彼女は元に戻るのか心配していたけれど、その後は全くわからない。川嶋さんにも口を利いてもらえなくなった。



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