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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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おいでよ!十楽寺探偵事務所 第三夜(5)

「…これでいいの?九ちゃん。」

「バッチリだよ!さっすが三子ちゃん。俳優…じゃなくて女優になれるね!」

 島田の出て行ったバーの厨房から十楽寺とレイがひょっこり顔をのぞかせた。十楽寺はニコニコと褒め言葉を言い、レイは小さく拍手を送っている。先程まで島田の相手をしていた三子は困った顔でタバコを吸う。

「調子良いんだから。よくわかんない嘘付くのにウチの店使わないでよね?」

「だって本当の事あの人に伝えても面倒な事になるだけだし…。こんな事三子ちゃんにしか頼めないんだよぉ。でもありがとね?」

「ヤダもう上手いんだから!」

「ぐふっ!」

 上目遣いでお礼を言った十楽寺は三子に肩を思い切りはたかれてカウンターまで吹っ飛んだ。十楽寺がカウンターに腰をしたたかに打ち付けている事など気にもとめず三子は体をくねらせて照れている。

「アタシ九ちゃんみたいな童顔ホスト系ってタイプじゃないんだからね!でもそういう不意打ち卑怯よ!」

「イタタ、そっちも不意打ちは卑怯だと思うよ…。」

「あら、それよりナナちゃんは?一緒じゃないの?」

「……。」

「二人ともちょっとは心配してよー!」

 騒ぐ十楽寺を無視してレイが眠るジェスチャーをしてみせた。家で寝てるといいたいらしい。

「ふふん、うちの子にあんまり夜更かしさせられないからね!先におうちに返しました!」

「なんで偉そうなのよ…。てかよく言うわね、昨日夜中に連れ回したんでしょう?」

「だって不動金縛って時間かかるからその間島田さんの気を引いててもらいたくて…。レイちゃんには難しいもんね?」

 こくりと頷くレイ。変装時以外は口を一切きかないレイは島田の気を引くのは難しいと言うことで奈々美が駆り出されたのだ。

「しかし昨日はびっくりしたよねー。普通の人間なら動けないどころか息も満足に出来なくなる術なのに動けるんだもん。人と妖怪が一体化するとそこらの妖怪よりずっと強くなっちゃうんだから。これだから人に取り憑く妖怪は厄介だよ。」

「でもどうせそのおもちゃで殴って倒したんでしょ?つくづくむちゃくちゃな設定ね。」

 半ば呆れ気味に三子が十楽寺のステッキを指差した。どうやら三子は十楽寺の妖怪退治という職業に半信半疑でいるようだ。

「マジカルヘヴンステッキですー!これには密教最強の武器、金剛杵と同じだけの力があるんだからね!」

「ハイハイ。それにしても人間に取り憑くなんて妖怪って迷惑な存在ねえ。」

「全部じゃないよー?中には強い欲望を持った人に取り憑いて力を増す奴がいるってだけ。島田さんは彼女に振られた怒りが原因かな?実態のない妖怪は人に憑けば実態を持てるしね。なんでか知らないけど妖怪には強い者に惹かれる本能があるみたい。レイちゃんに惹かれたのも多分そのせいだよ。だからマジカルヘヴンステッキで殴ってからは目が覚めたんだ。」

「あら、それじゃレイちゃんてなんなの?」

 レイの後ろに腕を回して肩を組むとニッコリ笑って口元に人差し指を当てた。レイもその十楽寺の様子を見て真似る。

「ふふふ、それはヒミツだよ。ねえレイちゃん?」

 二人の仕草を見た三子は大して興味もなさそうに一つあくびをするとタバコを消した。

「まあ良いわ。あんた達も家に帰んなさいよ。九ちゃんの所為で朝まで起きてたからアタシ眠いのよ。一回店閉めて寝たいの。」

 三子の言葉に十楽寺が窓の外を見る。もう太陽が昇り出していた。ビルの間から見える空には幾重にも色を重ねた複雑で美しい朝焼けが広がっていた。


fin

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