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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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Albtraum番外編2(1)

またまた番外編で失礼します。
今回もオカルトがあまり関係ないストーリーですが、
新キャラ登場の回です。お楽しみいただけたら幸いです。



番外編2(1)



 暖かい、から徐々に暑いに変わりつつある今日この頃、ここ最近は特に目新しいものもなく、部室でのんびりする日が続いていた。今日は馨君を除くボク達で美弥さん自作のお菓子を目の前にお茶という名の心理戦を繰り広げていた。特に今日はマドレーヌだ。こういうしっとりしたお菓子の時はクッキーの倍後味が恐ろしい。馨君はというと、早々に美弥さんの鞄から覗くラッピングを見て、『ツチノコ生態学』を読み耽ることに徹し不戦勝だ。部費で買ったという電気ポッドから嬉々としてお茶を用意してくれる美弥さんをよそ目に、ボクと涼君は互いをちらりとみると、さも平静を装った。

「…もうすぐ夏だねー。」

「そ、そうだな。そろそろ長袖も暑くなるな。」

「ボク、夏になると暑くて寝付けなくなるんだよね。」

「わかるー!私も冷えピタ貼って寝たりするよ!」

「俺もなかなか眠れなくて、朝寝坊したりするよ。」

「あ、えと。良かったら、私、朝電話して──」

「あーなんだか喉乾いちゃったな!ボク飲み物買いに行ってくるね!」

 ガシッ

「っ!」

「何言ってんだよ裕太。お茶なら目の前だぞ。」

 しまった!つい美弥さんが涼くんに目覚ましコールするのを阻止するためとは言えあまりに不自然な事をしてしまった!この流れじゃお茶を飲まないのは不自然だ。しかし飲めば必然的にお菓子に手を伸ばさなくてはならない。というか勧められる!涼くんが哀れむような、しかしチャンスだという顔でボクを見る。

「あ、あーそういえばそうだよね。ボクなに言ってるんだろう。」

「うふふ。裕太くんたらー。」

 くっ、これはもう回避出来ないな。しかし、何とか時間稼ぎをしたい。うまくやれば涼君も巻き添えに出来るかもしれない。ボクは差し出されたお茶を一気飲みして、少し冷静になった。

「そういえば、涼くんは喉乾かないの?さっきから全然飲んでないよね。」

「え。いや、うん。俺は全然!」

「そうなの?凄い汗出てるじゃん。」

 冷や汗なのはわかってるけどね。死なば諸共だ!

「本当だ!涼くん大丈夫?」

「ほら、飲みなよ。お菓子もあるよ?」

 もう逃げられないよ。涼君を見ると、悔しそうな表情の後、美弥さんのニコニコ顏を見て観念したように湯呑みを手にとった。ボクは束の間の勝利を喜んだが、結局自分も食べなきゃならない状況にいることを思い出し、お茶のおかわりを貰った。

「今日はとっても上手く焼けたと思うの!どうかな?」

 期待と不安が混じった瞳で見つめる美弥さん。とても食べないなんて選択を出来るわけがない。ボク達は湯呑みを手にぎこちない表情をしていた。美弥さんは既にお茶を飲みながらお菓子を食べている。正直、このお菓子を美味しく食べられる彼女の舌がとても心配だ。ああ、本当に、何か手立てはないだろうか…。ボクは最後の抵抗と言わんばかりに周りを見回した。その時、教室の扉が控えめな音を立てて開いた。

「あのぉ、ここがオカルト研究部、ですか?」



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Albtraum番外編2(2)


番外編2(2)



 そこには学ラン姿の華奢な男の子が立っていた。普段義人君以外の誰かが訪ねて来るなんてないので、ボク達はびっくりして彼の方を見た。しかも、うちの高校はブレザーだ。他校の生徒かな?と思って何か返事をしようと思っていると、馨君が読んでいた本を閉じ、その男の子の方に向き直った。

「そうだよ。君は?」

「あ、えっと、僕学校見学で来ました。東中の森野です。」

 森野君はぺこりと頭を下げた。中学生が受験校を見学に来た、ということなのだろう。なんとも小動物のような動きをする男の子だ。ボクはその小さな肩幅を見て、つい半年程前は自分も中学生だったのに、なんだか急に大人になった気がした。

「え!来年ここ受験するの!?しかもオカルト部入ってくれるの!?」

 美弥さんが興奮気味に彼に話しかけた。森野君はにこりと笑い、相槌をうった。

「はい!オカルト結構好きなんです。」

「うわあ嬉しいな!入る前から興味持ってくれるなんて!私木下美弥。よろしくね!」

「木下先輩ですね。よろしくお願いします!えっと、そちらは…。」

「あ、僕は柿本裕太だよ。よろしくね!」

「はい!柿本先輩!えっと…。」

 森野君は馨君と涼君を見て名前を聞きたそうにしている。涼君は言いにくそうに目をそらしつつ口を開いた。

「俺は…。」

「僕は結城馨だよ。ここの部長。よろしくね、モリヤマ君。」

「あはは。森野ですよ!よろしくお願いしますね結城先輩!」

「君はどんなジャンルが好きなの?UFO?UMA?それともフリーメイソンとか都市伝説?ああ、七不思議や伝承とかもいいよねえ。僕はちなみにこの中だと最近は伝承に凝ってるんだ。ツチノコの伝承とかとても興味深いよ──」

「馨くん!いきなりそんな事言ったら引かれちゃうよ!」

「はいはい。」

「いいえ!結城先輩って博学なんですね!僕はそうですね、そんなに詳しくないですけど、仏教とか、インド神話、なんて興味ありますよ。」

 一瞬、森野君が涼君を鋭く見たような気がした。しかし、すぐにあどけなく微笑んだ。

「先輩は、なんて仰るんですか?」

「……三上…。」

「よろしくお願いします、三上先輩!もしここに受かったら来年から仲良くして下さいね!」

「あ、ああ。」

「せっかく来てくれた所悪いんだけど、僕達今日はこれで部活を終了するつもりなんだ。また後日でいいかな。」

 馨君が有無を言わせない雰囲気で森野君に言い放った。もちろんまだ部活動を終了するつもりはなかった。恐らく、馨君もさっきの森野君の目を見て何か感じたのだろう。

「ダメ!」

「…美弥。部長命令なんだけど。」

「そんなの感じ悪いよ!せっかく来てくれたんだし、お茶ぐらい出してあげよう?」

 美弥さんの真剣な瞳を見て、馨君も観念したのか、ちょっと目をそらして溜め息をついた。こういうところは馨君も美弥さんに勝てないらしい。

「まあ、そうだね。お茶くらいならね。」

「いいんですか?じゃあお言葉に甘えさせてもらいます!」

「あっいや、ちょっと待って!」

 咄嗟に制してしまった。お茶するということはつまり、あのマドレーヌを食べると言う事だ。流石に来年後輩になってくれそうな子にこれはまずいと思ったのだ。以前ヨハネス君に食べさせてしまったことを思い出す。しかし、上手い言い訳をしないと美弥さんを悲しませる事になる…。



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Albtraum番外編2(3)


番外編2(3)



「どうしたの?裕太くん。」

「あ、いや、…ぼ…僕もマドレーヌ食べたいなーと思って…。」

「(裕太…。)」

「(勇者だな…。)」

 馨君と涼君が憐れむような眼でボクを見つめている。未来の後輩と好きな人の為、ボクは自らを犠牲にしたのだ。

「もう裕太くんたら!そんなに食べたかったんだね!えへへ。でもまだあるから大丈夫!それに、未来の後輩くんにあげないのは失礼だよ!」

「(未来の後輩くんの為に言ってるのに…。)あはは…。そうだよね…。」

「はい、森野君どうぞ!」

 美弥さんは戸棚にある一番新品の湯呑みにお茶を注いで手渡した。

「ありがとうございます。部室に電気ポッドがあるなんていいですね!」

「えへへ。本当はダメなんだけどね。内緒だよ?あ、このマドレーヌ私が焼いたの!良かったら、どうかな。」

「わあ!美味しそうですね!いただきます!」

 森野君は無邪気にマドレーヌに手をのばす。美弥さんのお菓子は味に似合わず見た目が普通なのが本当に厄介だ。ボク達は心配でついつい森野君の動作を目で追ってしまう。マドレーヌが口に入る。

「どう、かな?」

「…はい!美味しいです!料理が上手な女性って素敵ですね!」

 食べた。確かに確認した。しかし、彼は全くもって普通のお菓子を食べたような仕草しかしない…。美弥さんを除くボクらは密かに動揺した。

「や、やだ!森野君てお世辞上手いんだね!でもありがとう。」

「お世辞じゃありませんよ!ですよね、柿本先輩。」

「う、うん。」

「じゃあそれを食べたら解散でいいかな。僕この後予定があるんだ。」

「あ、すみません。わかりました。また後日、今度はもっと早めにお邪魔させていただきますね!」

 そのあと、美弥さんの提案で彼を校門まで見送り、部室を片付けてボク達は帰路に着いた。美弥さんと分かれ道で別れ、ボク達はさっきの事を話しだした。

「…森野君てさ、涼君達の母校の生徒だよね。」

「裕太、知ってたのか。」

「大方義人が話したんだろ。どこまで聞いたの?」

「あ、いや…。えっと、三学期に馨君が転校してきた事くらいだよ。」

 不意に馨君がボクに顔を近づけてあの冷たい眼でボクをじっ、と見つめた。背筋が凍る。

「聞こえなかった?どこまで、聞いたの?」

「えーと、その…。」

「言えば義人だけにしてやる。」

「……涼君と馨君がなんで仲良くなったか、とかです…。」

「…あいつ、人のプライバシーを好き勝手に…!」

「…シメるか。」

 涼君は頭を抱え、馨君は何時もの倍黒いオーラを発散している。ああ、義人君、ごめんなさい。しばらく会えなくなるんじゃないかな。

「…裕太は他に言ってないよな?」

「い、言ってないよ涼君!誓うよ!」

「まあ過ぎた事は良しとしてあげるよ。で、じゃあなんで彼と関わりたくないかわかるよね。」

「うん。下手をすると、周りに涼君が元不良だって知られちゃうから、だよね。」

「でもあいつ、見た目も不良に見えないし、名乗っても特に反応しなかったし、深く関わらなければいい気がするけどな。」

「そうとも言えないけど。妙な視線で一瞬涼を見ただろ。インド神話が好きってのも『大黒天』の事を言ってるとしか思えない。」

「えっあれそういう意味だったのか。」

「本当自分の事なのに気づかないとか流石だよ。」

「そ、そんなの一々気にしねーよ!大体そのあだ名俺が考えたわけじゃない。」

「ま、知ってるだけの生徒ならわざわざ来ないだろう。多分あれは自分の存在を僕達に知らしめたかったんじゃないかな。」

「一体何を考えてるんだろう…。」

「さあね。でもただ者じゃないよ。だって…。」

「だって?」

「…美弥のマドレーヌを平気な顔で食べたんだぞ。」

「「(…確かに。)」」

 その後、ボク達は道を別れ、それぞれの家路についた。ボクはあの後渡されたマドレーヌを鞄から取り出しながら、先程の会話を思い出す。

「…もしかして、今日は本当に上手く出来てたのかな?」

 もしそうなら、これほど嬉しいことはない。明日は感想を聞かれた時、本心から美味しかったと答えることができるのだから。ボクは淡い期待を胸に、思い切ってそれを口に入れた。

「………うん、そんな事あるわけないか。」

 ボクは急いで飲み物を取りに行った。



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Albtraum番外編2(4)


番外編2(4)




 それから数日、特に変わったこともなく、部室でだらだらする日々を続けていたある日、学校に着くと妙に廊下が騒がしい。ボクは気になって近づいてみると生徒達の会話が聞こえてきた。

「ねえ、これってマジなのかな?」

「どうだろ。でも本物っぽいよね。」

「でもそんな風には見えないけどなあ。三上って。」

 …三上?もしかして涼君に何かあったんだろうか。一瞬森野君の顔が浮かぶ。何があるのかと気になり周りの生徒に割り込もうとした時、後ろから肩を叩かれた。

「おっす裕太。おはよ。」

「明子ちゃん!おはよう。ねえ、一体何があったの?」

「なんだお前まだ見てないのか。なんか三上の写真が一年の廊下に貼られてるらしいよ。」

「えっ、どんな?」

「中学の時のみたいだけど…。まあ、見てこいよ。」

 そう言われ、ボクは生徒達の間を縫って写真が見える所まで近づいてみた。その写真には、この間の森野君と同じ学ランを着崩して高校生らしき男達と殴り合っている涼君が写っていた。顔も判別ができる程度には写っている。これはやはり、不良時代の写真のようだ。ボクはまずいと思いその写真を咄嗟に隠そうとしたその時。

「あ。これ、文化祭の時の写真じゃん。」

 振り向くと、馨君と涼君が立っていた。涼君は青い顔をしているが、馨君は平然としている。先程の馨君の言葉に、野次馬根性を露わにした生徒達が注目する。

「えっ。結城、この写真の事知ってんのか?」

「うん。僕中学一緒だったし。これ、中学の時の文化祭でクラスで作った映画の一場面だよ。」

「えー!私本当に三上クンが不良だったのかと思っちゃったよお。」

「バカじゃなのー。三上くんがそんなわけないじゃん!」

 馨君が事もなげに言い放つ。ここまではっきり言い切られてしまうと疑う気持ちなど薄れてしまう。しかも、涼君は元々評判もいい方なのだ。皆の感心は既に写真から外れている。

「まあ上手く演技できてた所を切り取って来たみたいだからねー。仕方ないんじゃない?ねえ涼。」

「え、ああ…。」

「なんだあ。じゃあなんでこんな写真出回ってるんだろ?」

「さあ?涼に恨みでも持ってる奴の仕業じゃないかな。」

「三上モテるもんなあ。振った女の仕業じゃね?」

「そんな奴いねーよ。」

「そういえばミナの元彼、涼クンのせいで振られたとか言ってるらしいよー。」

「えー!アタシそんなつもりじゃないよ!でもアイツならやりそう…。」

「ともかく、こんな写真外しちまおうぜ。このままじゃ気持ち悪いだろ。」

 僅かな間にこの写真の出来事を信じる者は誰もいなくなっている。今は、誰がこんな事をしたのかについて感心が移行していた。生徒達は各々色んな推理をしながら廊下からばらけていく。ボク達も教室に戻った。

「凄いよ馨君!よくあんな簡単に誤魔化せたね。」

「ありがとな、馨。」

「別に対した事ないよ。謎が多すぎる事実ってのはちょっとそれらしい根拠を付けてやれば勝手に妄想で膨らんでいくものだよ。もう既に写真の真偽なんて皆どうでもいいのさ。涼も何か聞かれたら適当に合わせておけよ。」

「わかった。」

「皆さん席に着いて下さい。HRを始めます。」

 担任の熊川のかけた声により、ボク達は一旦話を中断した。その後、滞りなく授業も終了し、放課後となった。ボクは授業もそこそこに、本当に誰が何のためにあんな事をしたのかずっと考えてた。ここ最近の出来事から考えるに森野君の仕業であるとは思うが、どうやって高校に入ったのか。以前の殺人事件の犯人の田口は、この学校の生徒だったから可能だったけど…。

「…でも、一体だれがあんな事。」

「まあ、十中八九あのチビ中学生だろうね。」

「あ、馨君。」

「帰るぞ。ほら、涼も。」

「ああ。」

 涼君は女子達に映画の事について根掘り葉掘り聞かれて疲れた様子だった。しかし、返答につまる度に馨君が上手く答えていたから殆ど馨君との会話になってしまい、女子達は少し不満だったようだ。こういう所はなんだかんだ面倒見がいいなあと感心してしまう。



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Albtraum番外編2(5)


番外編2(5)



「…でも、朝勝手に中学生が入るわけにはいかないよ。うちの制服だって持ってないだろうし。」

「多分ここに仲間がいるんだろ。涼を挑発してるつもり、かな。思った以上にお前に執着してるようだね。」

「……。」

 涼君は悲しそうな、悔しそうな顔をして写真に目を落とした。

「…あの頃は頻繁に喧嘩してて、正直誰を殴ったかも覚えてないんだ。もし、その中の誰かの弟だとしても、俺にはわからない…。」

「涼君…。別に涼君を責めてるわけじゃないよ。それにそれを恨んでいたとしてもこんな事するのはおかしいよ。」

「やっほー!何の話してるのー?」

「「っ!?」」

 美弥さんが元気に教室に入ってきた。美弥さんには事情を説明するか話したのだが、結局黙っておく事になった。美弥は口が軽いから、と馨君は言っていたが、おそらく涼君を慕っているからだろう。知らなくても良い事を知ってしまうせいで、美弥さんの気持ちを壊してしまうべきではないという判断だ。と、ボクが勝手に思っているだけだけど。ボクだって、それは本望ではないのだ。涼君が慌てて写真を隠そうとするが、見られてしまった。

「あっこの写真!涼君が映画で主役の不良番長やった奴なんだよね!格好良いなあ…。」

「ああ、うん…。」

「高校生のボスに足を洗いたいって言いに行って制裁を受けて、そのまま命を落としちゃうんだってね…。最後に親友の転入生くんが橋の下で川に花を流すシーンで終わるなんて切ないよー。」

「……そ、そうだな。」

 何か言いたそうな表情で涼君が馨君を見つめる。面倒見がいい訳じゃなくてただ面白がってただけだったのかな…。

「馨くんはなんの役だったの?」

「僕は照明。」

「(転入生お前じゃねえのかよ。)」

「(そこまでいったら流石に不自然だろ。)」

「でも嬉しいな。二人はあんまり昔の話してくれないから。」

「…。」

「美弥は女子中だったんだっけ?」

「うん!稲見女学院て中高一貫のとこだよー。高校はレベルが下がるからってここに来たの!」

「美弥さんて私立だったんだね。」

「勉強出来たんだな。」

「涼くんひどい!これでも成績いい方なんだよ?」

「涼はいつも首の皮一枚だからな。」

「うるせーな!」

「よ、良かったら、わ、わ私と二人で、べべ勉強会、とか…──」

「(正直僕が教えて首の皮一枚だからそれはやめた方がいいよ。)」

「ええっ!?そっかぁー。」

「おい今なんて言ったんだ。」

「な、なんでもないよー!」

 美弥さんが真っ赤になりながら涼君の背中を思いっきり叩いた。

「痛っ!?」

「あ!ここ曲がらなきゃ。じゃあまた明日ね!」

「また明日!」

 美弥さんと別れ、ボク達は薄暗い道を歩き出した。やはりあの美弥さんの涼君への恋心を壊してしまうことは出来ないとボクは思う。確かにボクは美弥さんが好きだ。本当は振り向かせたい、なんて思っている。でも、あの涼君に向ける潤んだ瞳も、真っ赤になった顔も含めて好きなんだ。我ながら恥ずかしい事を思っているなあと思ってしまう。

「裕太も報われないねー。」

「へっ!?」

「顔に出てるよ。」

「何、何が何が出てるっていうの!?!?」

「動揺し過ぎなんだけど。」

「何の話だよ?」

「涼も恨まれても文句言えないって話。」

「はあ?っ…!」

 涼君が左側に何かを気付いた瞬間、バットを振り上げた男が突っ込んできた。ボクと馨君を庇う様に涼君は男の前に出ると、瞬く間にバットを持つ手を塞ぎ、勢いを利用して男を転ばせた。尚も襲いかかって来ようとする男の鳩尾に蹴りを入れると、男はうずくまり、抵抗をやめた。それまでの流れはあまりに自然でボクの思考は追いつかない。涼君は息ひとつ乱さずバットを拾い上げた。

「な、何…?」

「暴漢か?ったく最近この辺りは物騒だな。馨、警察に連絡してくれ。」

「わかった。…!馬鹿!何で押さえておかないんだよ!」

 その声で男のいた方向を見ると、男が腹を押さえながら夜道を走って近くの角を曲がって行くのが見えた。既に日は暮れて、一度見失っては見つけられない。ボク達は仕方なく、近くの交番に報告とバットを渡し、その日は帰った。



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