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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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Albtraum番外編1(1)

今回は、馨と涼にスポットを当てた作品です。
本編に関係なく書いたのですが、ちょっと関係してしまいました…。
しかし長い。本編より長い気がするものです。
基本設定を見ればとばしていただいても構いません。
気になる!という方は、どうぞごらんくださいませ。



番外編1(1)



 東奎宿中学校にて、三学期のことだった。この中学校は地元で一番不良が多い公立中学として有名である。そんな所に、しかも三学期に転入生が来るというのは非常に稀なことだ。

「起立ー。礼ー。」

「おはようございまーす。」

 まばらな生徒の挨拶の声。いくら不良が多いとはいえ、普通の中学校である。ちゃんとした生徒も多く存在している。

「おいお前たち新学期なんだからもっとはっきり声だせー。中学校最後の学期なんだぞ。」

「最後だからみんなやる気ないんすよ先生。もうすぐ受験だし。」

「勉強で来なくなる子も増えるよねー。」

「ったく。えー、始業式でも説明があったが、転入生を紹介する。結城馨君だ。」

「結城です。ほんの少しの間だけですがよろしくお願いします。」

 紹介を受けた結城馨は人当たりの良さそうな笑顔で気さくに挨拶をした。

「こんな時期に転入生って珍しいよねー」

「ねーちょっと格好よくない?頭良さそうだしー。」

「おい静かにしろー。結城は家庭の事情で今年からこの街に引越してきたそうだ。仲良く頼むぞ。」

「仲良くって言ってもあと数ヶ月だけどねー。」

「ほんと最近の中学生はドライだな…。じゃ、結城。そこの三上の隣の席…ってまたサボりか。その窓から二番目の一番後ろがお前の席だ。」

「わかりました。」

 結城が席に着くと教師は出席を取り始めた。すると、結城の右隣の席の男子生徒が小声で結城に話しかけた。

「結城くん。これからよろしくな。」

「あ、うん。よろしくね。」

「それとさ、結城くんの左隣の席。そこの席のやつには関わらない方がいいぜ。」

「ああ、先生がまたサボりかって言ってたね。えと、三上くん?」

「そうそう。そいつこの中学の番長気取ってんだ。喧嘩超強くてキレるとすっげえ怖いらしいぜ。他の奴らも一目置いてるよ。」

「ふーん。そんなに有名なんだね」

「この辺りの不良の間じゃ『大黒天』とか言われて知らない奴いないよ。噂じゃ高校生のヤバイのとも繋がりあるって聞くし。」

「大黒天?インドの破壊神のシヴァってこと?」

「詳しいな!それそれ。三上に喧嘩売って勝った奴がいないから破壊神だってさ。不良って変な知識ばっか持ってるよなー。」

「おいうるさいぞそこ!休み時間になってから話せ!」

「すんませーん!まあ、だいたい授業サボってるから会わないとは思うけどさ、目ぇつけられたらヤバイよ。」

「そうなんだ…。ありがとう。」

「じゃあ午後からは普通に授業だからな。一端解散ー。」

 教師の声と共に生徒達は弁当を手に各々散り、教室は更に騒がしくなった。

「これから授業かよー。面倒だな。」

「そうだね。あ、僕お昼売店で買ってくる。」

「おう。あ、俺の名前斉藤っていうんだ!良かったら一緒に昼飯くわない?ってあれ、もういない…。」

 男子生徒、もとい斉藤が見回すと、そこには結城の姿はもうなかった。



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Albtraum番外編1(2)


番外編1(2)



 屋上には、三上涼が一人寝そべって空を見上げていた。冬の肌寒い風が吹くが、彼はここが好きだった。ほとんど人が来ず、遠くから生徒たちの微かな声が聞こえるだけで、ただ広い空が広がる屋上に一人でいるのは、まるで別の世界にいるように感じた。涼が一人ぼんやりと空を眺めていると、不意に人の気配がした。

「屋上でサボりとか青春だねー。」

 涼は少し驚きつつ、身を起こして相手を見た。そこには先程と打って変わって無愛想な態度の結城の姿があった。

「…なんだよ。誰?」

「結城馨。今日3年のクラスに転入してきた。」

「俺になんか用?」

「別に。教室うるさいからここで昼にしようと思って。」

 そういうと結城は屋上の床に腰をおろし、焼きそばパンを食べ始めた。涼は普段なら追い返すところを、結城の飄々とした態度に少しあっけに取られて制止することが出来ず、仕方なく姿勢をもどした。

「…お前、今みたいな言い方してると不良に絡まれるぞ。細くて弱そうだし。」

「ご忠告どーも。心配しなくても外面良いから大丈夫。この時期に問題起こして内申下げるような事しないし。」

「喧嘩売ってんの?」

「え、何が?」

「……別に。」

「あれ。ねえ、お昼持ってないの?もう売店じゃ売り切れだったよ。」

「…あっそ。」

「もしかして買い忘れたの?ごめんね僕これしか持ってないから分けてあげられないや。」

「……。」

「あ、それとも昼抜いてそうやってるのが恰好いいとか思ってるならやめた方がいいよ。リアル厨二病は君が思ってる以上に超ダサいから。」

「あのさ、俺がさっき言ったこと覚えてる?」

「『あっそ』?」

「…あんたさあ俺が喧嘩ふっかけて来るとは思わねーのかよ。どーみても不良だろ。」

「それはないよ。」

「何で。」

「君本当は喧嘩嫌いでしょ。」

「……は?」

「あ、もうすぐ時間だ。」

 そういうと結城はそそくさと片付けてドアへと歩いて行った。しかし、不意に立ち止まると涼の方を振り返った。

「あ、それと。大黒天とか言われてる割には覇気がないんだね。三上涼くん。」

「えっ。」

「じゃ、またね。」

 結城はそれだけいうと、今度こそすたすたとドアに向かって歩き始めた。まさか自分の事を知っていると思わなかった涼は呆然とその姿をしていたが、結城がドアを閉める直前に怒りがこみ上げてきた。

「なんなんだよ…。もう来んな!!」

 しかし、結城は気にするそぶりもなく、屋上を後にした。



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Albtraum番外編1(3)


番外編1(3)



 放課後、涼は小学校時代からの友人の江藤義人とダラダラと時間を潰していた。義人は自分のメモ帳を見つめている。

「結城馨ねー。今年親の仕事の都合でこの街に引越して来て涼のクラスに転入してきたんだと。特に不良だったって話もねーし、他の生徒の話じゃ人当たりの良い優等生らしいぜ。」

「ふーん。相変わらずよく調べてるよな。」

「『情報通の義人』だからな!転校生だろうと調べておくに決まってるだろ。まあしかし、転校生とはいえお前に話しかけるとは、やるよな結城馨。」

「喧嘩売ってるようにしか思えねえ。妙に飄々として取り付きにくいし。」

「そんなに嫌ならちょっとやっちまえば?そうすりゃもう寄って来ないだろ。」

「…わざわざ殴る必要はないだろ。次は追い返す。」

「涼が口で言い負かすってのは無理だと思うけどな……。」

「…うっせえ。」

「あ、今自分でもちょっとそう思っただろ。」

「黙れ。そして帰れ。」

 そういうと涼は立ち上がり、荷物をまとめはじめた。

「あ、もう帰んのか?」

「ああ。妹家に一人だし。」

「妹思いだなー。あ、そういや最近先輩達とはどうなんだ?」

「…別に。」

「お前なぁ。そろそろあの人達と縁切った方がいいぜ。裏ではヤクとか相当ヤバイ事やってるらしいからな。そのうち取り返しつかないことに巻き込まれたらどうすんだ?」

「…うっさい。自分でなんとかする。お前は変な真似すんなよ。じゃあな。」

「お、おう。…ったく、本当は優しい奴なのにな。」

 当時涼は南奎宿高の不良達と多少繋がりがあった。腕が立つ所を買われて他の派閥の不良同士の喧嘩に駆り出されたり、時たま遊びに誘われていた。

「下手に俺が手を出しても涼に迷惑かけるだけだ。見守るしか出来ないってのが悔しいな…。しかし、結城馨ねぇ。もう少し調べてみるか。」

 そういうと義人もカバンを無造作に掴み、家に帰って行った。

 翌日の昼、屋上のドアが開いた。

「やあ三上くん。君って屋上好きなんだね。なんとかと煙は高いとこが好きってやつ?」

「うぜえ帰れ。」

「こんなとこで寝ると風邪引くよ。あ、ごめんなんとかは風邪引かないんだよね。」

「…まじで殴った方が早いか。」

「え?聞こえないんだけど。外なんだからはっきり言ってくんなきゃ聞こえないよ。」

「あーうるさい!お前と話すと調子狂うんだよ!いても良いから話しかけんな!」

「……わかったよ。」

「……。」

「……。」

「……何でガン見してんだよ。逆にいたたまれねーよ!」

「…三上くんが話しかけんなって言ったんじゃないか。うざ。」

「~~っ!はあ、もういいよ。てかお前なんでここに来るんだ?静かじゃねーだろ。」

「……。」

「それに、三上には関わるなってクラスの奴に言われなかったか?」

「……。…あ、そろそろ時間だ。じゃあね。」

「は?おい…」

 てっきり皮肉が返ってくるとおもっていたのに、少し言葉に詰まったような態度をとられ、涼も強く問うことが出来なかった。結城は早々と屋上を出て行った。

 しかし、それからも、毎日結城は昼休みに屋上にやって来た。どうして屋上に来るかについてはお互いはなすことはなかった。結城は来る度に涼に妙な話題の振り方をし、涼を振り回していたが、それもおなじみとなっていた。



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Albtraum番外編1(4)


番外編1(4)



「おはよー。今日はお昼買い忘れなかった?三上くんて気取ってるわりに案外ドジだよね。」

「その減らず口も慣れた。さっさと食って帰れ。」

「人と食べると栄養の吸収率が上がるんだよ。むしろ感謝して欲しいんだけど。」

「はいはい。つか、お前も飽きないな。わざわざ教室から遠い屋上来るとか。友達いねーの?」

「うわー。毎日屋上で一人の人に友達の心配されるとは。心外だよ。」

「まじで殴っていいか?」

「冗談だよ。みんな受験でそれどころじゃないって感じさ。ぶっちゃけうるさいっていうより空気重たくて居づらいよ。」

「ふーん。」

「…。三上くんは進路どうするつもり?」

「は?なんだよいきなり。」

「なんとなく。サボってるわりに学校来てるのって一応出席日数気にしてるんでしょ。」

「…以外と目敏いんだな。」

「一応頭はいいんで。私立の推薦受けるし。」

「自分で頭良いとかいう奴初めてみたわ。」

「事実だからね。」

「ナルシストかよ。」

「まあ、頭の良い僕から言わせて貰えば、南高の奴らとはつるむのやめた方が良いよ。」

 瞬間、気まずい空気が二人の間に流れる。涼が一番触れて欲しくない話題だ。その状況を形容するかのように、屋上に冬の冷たい風が吹いた。

「…お前には関係ない。」

「そんなに守りたい関係?力を利用されてるだけでしょ。」

「口出しするな。俺の問題だ。」

「その『俺の問題』いつになったら解決させる気?」

「なっ…。」

「中二からつるんでるらしいね。いや、つるんでるとも言えないか。相手からしたら喧嘩が強いから重宝してる道具って感じだろうね。ねえ、いつまで道具やってるつもりなの?」

「っ!」

 それを聞いた涼は凄い勢いで結城の胸ぐらを掴み無理やり立ち上がらせ、怒りを抑えた口調で結城に忠告した。

「いい加減にしろ。たかだか数日で親友ヅラしてんじゃねーよ。それ以上言ったら殴るぞ。」

「いい加減にするのは君だろ。人に言われる度にそうやって逃げて来たのか。力ばっかで心はまるで貧弱だね。現実見ろよ!自分の現状無視しながらつまんない顔してここにいて何になるんだ?なあ?」

「っ」

「殴りたいなら殴れよ。僕は自分が間違った事を言った覚えはない。それに、殴られるのが怖くて思ってることを伝えないなんてしない。」

 結城の強い眼差しに気圧され、涼は手を放し、後ずさった。

「君のためとか言って意見を押し付けるつもりはないよ。本心からあいつらとつるんでいたくて、ここでぼんやりしてたいなら何も言わないさ。」

「……。」

「ただ、自分から目を逸らして現実逃避してる君は最っ高にダサいよ。」

「…っ」

「…時間過ぎちゃった。じゃ、またね。」

 結城は服を整えると何事もなかったように帰って行った。あとに取り残された涼はしばらく佇んでいたが、急に屋上が酷く居心地の悪い場所に感じ、荷物を掴んで家に帰ることにした。屋上のドアを乱暴に開けて出ようとすると、目の前に何度か話したことのある不良生徒が驚いた顔で立っていた。どうやら彼もドアを開けようとした所だったようだ。

「…何。今機嫌わるいから今度にしてくれ。」

「あ、いや!三上に用があるって…南高の先輩が…。」

「……。」

「いつも通り放課後公園に来いってさ…。じゃあな!」

 そういうと彼は逃げるよう下の階へ降りて行った。涼の機嫌が悪いのを察したのだろう。その後ろ姿を見ながら涼は結城の言った言葉を思い出していた。

「俺は…何がしたいんだ。…ムカつく。」

 小さくつぶやくと家路についた。



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Albtraum番外編1(5)


番外編1(5)



 翌朝。

「よー涼!おはよー。」

「義人…。おはよう。」

「なんだ?元気ねーな!まあお前いつもあんま元気ないけど。なんかあったのか?」

「なんでもねーよ。」

「ふーん。あ、おい!あれって…。」

「あ?」

 涼が前を見ると少し遠くに南奎宿高校の不良達がいた。彼らは不敵な笑みを浮かべながらこっちへやって来た。

「義人。お前は先に行ってろ。」

「は?おいお前何したんだよ!あいつら怒らせたのか?」

「いいから行け!!」

 そういうと義人の背を強く押した。その時、不良の一人が涼に話しかけてきた。

「よお三上~。昨日はどうしたんだよ?」

「俺たち公園で待ってたんだぜ?すっぽかすなんてひでーじゃん。」

「……。」

「何黙ってんだよ。おい!」

 不良の一人が涼の肩を乱暴に掴もうとした時、リーダー格の不良、靏見(うつみ)がそれを制した。

「なあ三上、今から付き合ってくんねえ?尤も、お前に選択権ないけどな。」

「…今から学校なんすけど。放課後じゃ駄目すか。」

「てめえ調子乗ってんじゃねーぞ!」

「涼!」

「…あ?何こいつ?」

「義人!先行けっつってんだろ!」

「あー三上の友達かー。来ないとコイツどうにかしちゃうかもよ?」

「…っ。いいっすよ。行きます。」

「ちょ、涼!」

「おー友達想いだねぇ。んじゃ、義人くん?コイツ借りるから。学校に言ったらどうなるかわかってるよな?」

「……はい。」

 義人は去って行く不良達と涼の背中を見つめることしかできなかった。役に立たないどころか足手まといになってしまう自分が悔しくて、そこから動くことができなかった。




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