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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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第八話 Albtraum(1)


Albtraum(1)

「……うん、そう。…よろしく。」

 部室のソファに足を組んで馨君が電話をしている。その表情はどこか険しい。その雰囲気を感じ取ってか、美弥さんが小声でボク達に話しかけた。

 「電話の相手、義人くんだよね。なんの話してるのかな。」

「多分、アイリスの事だと思う。まだ調べさせてるらしい。」

「…なんだか、オカルト絡みじゃなかったのに妙に熱心だよね。」

 確かに、おかしくなってしまったアイリスさんの事を思えば納得出来ない気持ちもわかる。彼女をあんな風にした犯人が別にいるのなら見つけたいとも思う。でも、今馨君から感じるのは、そう言った正義感や使命感とは別物のように思われる。

「何コソコソ喋ってんの?言いたい事があるならはっきり言いなよ。」

「…アイリスちゃんの事で調べてるのって…その、犯人について?」

「うん。義人に彼女の詳しい身辺調査をさせてる。ただ日にちが経っているぶん、なかなか情報が集まらないらしい。」

「そうなんだ…。」

「……はっきり聞けば?どうしてまだ調査してるのかって。イライラするなあ。」

 馨君はそう言って持っていた湯のみを音を立ててテーブルに置いた。飛び散った緑茶を拭くついでに涼君が切り出した。

「乱暴に置くなよ。……なんでまだ調査してるんだ?調査しても、…もう元通りにはならないだろ。」

「別に僕は誰かの為に調査してるんじゃない。大体犯人がわかっても逮捕できるわけでもないし。」

「じゃあなんで?」

「純粋な興味だよ。どうしてこんな事をしたのか。彼女を壊す事自体が目的だったのか、それとも何か他の目的の副産物だったのか。もし前者なら犯人はそれによって何を得たのかな。…ただそれが知りたいんだ──痛!」

 涼君が馨君の頭を拳骨で殴った。珍しい、普段の涼君は平手で軽くはたくくらいしかしないのに。馨君も抗議の目を向けた。

「何すんだバカ涼!」

「フキンシンだ!実際に人が傷ついてるんだぞ!」

「…はあ?不謹慎の字も書けないクセに偉そうな事言うなよバカ!誰かを助けるためなら良くて個人的興味ならいけないってわけ?このエセ利他主義者!」

「っ…!リタって誰だよ!今はアイリスの話だろ!」

「他人の利益ばかり優先する奴って意味だよ!もう一回中学行ってこいよお前!」

「あーまた喧嘩になっちゃった。」

 噛み合わない言い争いを続ける二人を見て美弥さんが椅子の背に盛大にもたれかかった。ボクも呆れてお茶を飲む。一頻り言い合った後、馨君が突然不敵な笑みを浮かべて涼君を見た。

「ていうかさあ、もうすぐ二学期の期末テストだけどそういう態度とって良いと思ってんの涼?」

「う、……それとこれは別だろ!」

「本当に別かな?僕の機嫌を損ねて勉強教えてやらなかったらお前は赤点必須だよ。それでも関係ないの?」

「そ、それは……。」

「赤点とったら冬休みは補習だったよね?言っとくけど補習は付き合わないから。まあそれでもいいなら関係ないけど。」

「…ッ。…悪かったよ!殴ったのはやり過ぎた。」

「そう思ってるにしては誠意に欠けるなあ。」

「…何をすればいいんだ?」

 さっきまでの不機嫌はどこへやら、楽しそうにじろじろ涼君を見る馨君。今日も加虐欲求が炸裂しているようだ。それに付き合う涼君も大概だけど。

「うーん、人間椅子なんてどうかな?」

「はあ?!」

「りょ、涼くんの背中に腰掛けるの!?そ、そんなの…!でも、ちょっとイイかも…。」

「ちょっとやり過ぎだよ。」

「別に僕はどっちでも良いけどね。選ぶのは涼、君だよ。今言う通りにして快適な冬休み過ごすのと補習、どっちがいいの?」

「っ…!」

 このくらいのやりとりは何時もの事だ。ただの遊びみたいなものだからボクも美弥さんも本気で止めたりしない。部室の中だけでとどめておけばの話だけど。

「失礼します。馨君、いるー?…!……あ、ごめんお邪魔だったよねまた今度来るね。」

「待てヨハネス!違うんだ、これはそういうのじゃないんだ!」

「何言ってるの涼?自分でやりたいって言ったんじゃないか。」

 春のそよかぜのような爽やかな笑顔で入って来たヨハネス君も、四つん這いになって馨君(何故かボクと美弥さんも)を乗せた涼君を見た瞬間くるりと踵を返した。

「補習が嫌だからだ!いいから降りろ!」

「私、もうちょっと乗ってたかった…。」

「もう沢山だ!て言うか三人は流石に重い──痛っ!」

 涼君の頭を掴んでひょいと立ち上がると、馨君はヨハネス君に近寄った。

「で、僕に何か用?ヨハネス君。」


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