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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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第八話Albtraum(9)

Albtraum(9)

「皆さんの夢は何ですか?」

「……は…?」

「『この世の不思議を解明したい』『友達の為に役に立ちたい』『大好きなあの人を振り向かせたい』『誰にも負けない強い男になりたい』。夢は可能性です。願い、努力すれば叶わない事はない。皆さんそう教えられ、そう信じてきた筈です。しかし年をとるにつれてその夢がどんどんと遠くなってくる。やってはいけない事、出来ない事が増え、大人達は叶うと言っていた夢を否定して言うんです。『現実を見ろ』と。…一体何が現実なんでしょうか?」

 先生はメガネの奥でこんな冷ややかな瞳をしていたのか。先生は小川が流れるように落ち着き払って続けた。

「現実なんて誰も知らないのです。それこそ社会の秩序が創り出した悪夢なんですから。子供達はやがて悪夢に飲み込まれて大人になる。そしてこの社会は継続していくんです。ではどうしたら子供達は本来の道を歩めるんでしょうか。社会の秩序や常識から解放してあげれば良いのです。そのために特別な処置をして常識という枠を取り払ってあげようとしたのです。貴方方もご存知でしょう?多くの天才は常識にとらわれなかったから素晴らしい業績を上げる事が出来たんですよ。」

「っ!てめえ!」

「ダメだよ涼くん!」

 先生に掴みかかった涼君を美弥さんがなんとか止める。涼君は鬼気迫る目で先生を睨み、拳を握っているがなんとか抑え、数秒で手を離した。

「懸命です。教師を殴ったら間違いなく停学ですよ。」

「…アンタはそのわけのわからん目的の為にあいつらをおかしくしたのか…?あいつらがその後どうなったかわかってんのかよ!?」

 田口は少年院に入り、羽淵先輩はあれ以来引きこもっている。アイリスさんも引っ越した先で精神科に通院しているという。そして今回のアブダクションの被害者達も心に大きな傷を負っているんだ。涼君が怒るのは当然だ。ボクだって涼君が掴みかからなかったら怒鳴っていたかもしれない。

「この計画はまだ実験段階なのです。実験に失敗はつきものでしょう?もちろん、私も遺憾に思っていますが…。」

「この…っ!」

 その言葉に怒りが爆発しそうな涼君を美弥さんと二人で止める。その時の先生の目を見て来須先生が何故あんなに落ち着いているのかわかった。この人にとっては全ては実験の経過でしかないんだ。人を人として見ていない。その時黙って見ていた馨君が声をかけた。

「それで、僕達にどうして全部語る必要があるわけ?僕達がこの事を警察に話せばあんたらは終わりでしょ。」

「こんな突拍子もない話、証拠もないのに警察が協力してくれるわけありませんよ。今頃地下室も部下が片付けているはずです。」

「ならなんで?」

「私達は貴方の様な人材が欲しいんですよ。結城君。」

 そういうと先生は馨君に向かいあった。馨君と先生の視線が交差する。

「多くの人は規則や常識に囚われて自分の限界を定めてしまうものです。それが自身の可能性を潰しているとも知らずに。しかし貴方は違います。ただ反発したいだけの不良とも、大人に都合の良いだけの優等生でもない。貴方は目的の為に手段を選ばない数少ない本質的な人間なのです。」

「…アンタ、今まで僕達がしていた事見てたんだね。」

「勿論です。私の一番の目的は貴方です。どうですか?友愛協会に入れば貴方の個性を好きなだけ伸ばせます。貴方が大好きなオカルトを存分に研究できる。必要なら人でも金でも提供しましょう。貴方ならきっと人類の未知を既知に変える事ができます。」

 そう言って来須先生は馨君に手を差し伸べた。ボク達は先生の言葉に唖然とするばかりだ。全ての“実験”は馨君の力量を図る為だったっていうのか。すべて仕組まれていたなんて信じられない。同時に怒りまでこみ上げてくる。だが、馨君は先生の前に足を一歩出す。涼君がその腕を掴んだ。その顔は怒りと悲しみに満ちている。

「…お前、行くつもりなのか?こんな人を人とも思わねえ奴らのとこに。」

「馨くん。ダメだよ、そんなのおかしいよ!」

「…。」

 馨君は無言で涼君の手を振り払った。そうだ、馨君は言ってたじゃないか。自分は人の気持ちがわからないと。だが、そう思う前に感情の方が先回っていた。

「ふざけないでよ馨君!!」

「!?」

 気が付いたら大声が出ていた。だが、ボクの声は止まらない。怒鳴りながらも頭の隅で冷静なもう一人の自分が前にもこんな事があったと考えていた。

「確かに馨君は自分勝手で人の気持ちがわからないかもしれない!不法侵入したり拷問したり、そこらの不良よりずっと酷い事もするけど!でも、本当に自分の事だけしか考えてない人は羽淵先輩の自殺をとめたりしない!平川君を諭した時も、アイリスさんの机が燃えた時だってそうだ!最善じゃないかもしれないけど君はいつもみんなの事を考えてるよ!」

「裕太くん…。」

「馨君の言葉はむき出しで胸に刺さる。でもそれは馨君なりの優しさなんじゃないの?!君は自分で思ってるより優しい人間だよ!それなのにそんな集団に入ったら、馨君が馨君じゃなくなっちゃうよ!!」

 いつも出さない大声に自分の心臓が爆発しそうになる。言葉にしてから、ボクは自分の本心が掴めた気がした。…だが、無情にも馨君は表情を変えることなく冷たく言い放った。

「ばっかじゃないの?」

「……え?」

 そう言って馨君は来須先生の手を、払った。驚いた表情の先生をキッと見つめるとその口からはいつもの尖った言葉が飛び出した。

「なんでアンタらの協会なんかに入んなきゃいけないの?僕はオカルト現象を自作自演するような奴が大っ嫌いなんだ。夢を叶える手段は一つじゃないんだよ。自分の道は自分で決めるね!サッサとメガネ掛けて帰れよ友愛協会さん!」

 そう言い終わると怒り顏のままくるっとボク達の方を向いた。

「君達も僕への信用ないの?涼!美弥!裕太!お前達は僕が選んだオカルト現象の捜索要員なんだよ?自分から手放すわけないじゃないか!」

 馨君のその言葉に、なんだか安心してボクはどさりと椅子に座り込んでしまった。なんだ、やっぱりいつもの馨君じゃないか。ちょっとおかしいけど、決して人の道を外してるわけじゃない。思い切り怒鳴った自分が急に馬鹿らしくなった。

「…そうですか。貴方の気持ちはわかりました。潔く諦めましょう。」

「随分あっさりしてるね。半年近くかけてボク達を見張ってたクセに。」

「貴方の様な人間に強要は厳禁ですから。それに、どの道この町での実験は終了しました。私は今年度でこの学校を去り、また別の地区で活動をする予定です。」

「…あんた達の団体はどのくらいの規模なわけ?」

 馨君の問いに、来須先生は口角だけを上げて微笑んだ。

「私達は何処にでもいます。日本を、世界を裏から支える為にね。入会する気になったらいつでも呼んでください。」

「誰が入るか。ダサメガネ。」

 部室に下校時刻のチャイムと共に馨君の投げた本がぶつかる音が響いた。

「…馨!馨!」

「何興奮してんの?うるさい。」

「お、俺…初めて五十点取った!ほら!っ痛!」

「ほらじゃないよ!百点満点のテストで赤点が四十点以下だよ?ギリギリじゃないか!」

「今まで四十点代しか取ってなかったんだから凄いだろ!」

「本当お前に勉強教えるの嫌になるよ…。」

「ふふふ。涼君がそんなに興奮してるの初めて見たな。」

 ヨハネス君がおかしそうに笑った。あまり笑い事じゃないけど。無事テスト期間を終えたボク達は、テスト返却と終業式が終わった後もなんとなく教室でたむろしていた。

「涼…お前このままだと受験とかやばくね?」

「う、うるせえな義人。まだ一年なんだから心配ないだろ。」

「正直これからもっと難しくなってくると思うよ…。」

「…そ、そうなのか……。」

 ボクの言葉に肩を落とす涼君を見て、ヨハネス君と美弥さんが慌てて涼君をフォローする。

「だ、大丈夫だよ涼君!最悪馨君の助手にしてもらえばいいよ!」

「ちょっと、最悪ってどういう意味?」

「そうだね!馨くん将来安泰そうだし、家政夫さんになればいいよ!な、なんなら私の所に永久就職っていうのも…ってきゃああ恥ずかしい!」

「いやそれただのヒモだよ美弥さん!」

「永久就職?美弥って企業するのか?」

「あ、いや…えっと、永久就職ってのはね……もう、なんでもない!」

「つか毎日結城と一緒とか拷問だろ…。」

「何?義人はまた僕にいじめられたいのかな?」

「な、なんでもない!結城最高!ハイル結城!」

「なにそれ…。」

 来須先生とはその後一度も会っていない。先生の話ではおそらく三学期にはもうこの学校にはいないだろう。アブダクション、いや、彼らの犠牲になった人達も少しずつ心の傷を癒していっているという。ここからはボク達が介入するべき事じゃないけれど。とにかく、結局いつもと変わらない日常だ。

「ていうか君達部活辞めるんじゃなかったの?てっきりもうついて行けないとか言うと思ってたんだけど。」

「そ、それは…ちょっとは考えたけど…。」

「でも、オカルト部に入ってて良かった事の方が多かったし、やっぱり馨くんの事好きだなって!ね、裕太くん?」

「う、うん…。あんな事言っちゃったしね。」

「何それ。気持ち悪いな。」

「あははは。」

 窓の向こうの外は冬の乾いた風が吹き抜けている。きっと来年になっても、ボク達はこうして過ごしているんだろう。来須先生達がいなくなった事でもうこの街で妙な事件が起こる事は滅多になくなるはずだ。これからは平凡で穏やかな日常に戻るのだ。和やかに笑い合う皆の声を聞きながらボクはそんな事を考えていた。教室の隅にいる女子の声が聞こえるまでは。

「ねえ知ってる?銀漢橋に幽霊が出るんだって。」

「えーなにそれ。」

「ちょっと君達、その話詳しく教えてよ。」

「……。」

fin


…え、これで終わり?みたいに思われたらごめんなさい。
これにて『Albtraum』完結です。
当初からクライマックスシーンだけ考えてたのですがオチなんて考えつかなかった…。
いままで根気強くこの作品を読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。
感想をくださった方々感激しました。本当にありがとうございます。
また別の連載も始める予定ですのでそちらもよろしくお願いします。

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