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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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第六話 Specter of school festival(1)


Specter of school festival(1)


「文化祭!馨くん!文化祭だよ!」

 美弥さんの声が小さい部室に反響した。それなのに馨君は本から顔を上げずに湯飲みを涼君にずいっと近づける。

「涼、お茶。」

「自分で淹れろよ。……危ないから湯飲みを置け。」

 文句を言いながらもちゃんとお茶を淹れてあげる涼君。まるでお母さんみたいだ。ついでにボクの湯のみにもお茶を注いでくれる。しかし、その様子が更に気に入らなかったのか美弥さんが馨君の耳元に顔を近づけて思い切り息を吸い込んだ。

「ぶー…んぐ!?」

「うるさい。鼓膜破ける。」

「聞こえてるなら返事してよもう!ねえ!文化祭の準備しようよ!他の部活みんな出し物決めて企画書提出してるよ?」

 フグみたいに頬を膨らませる美弥さん。怒っているのはわかるけど、ちょっとかわいい。

「……涼、しょっぱいものが食べたい。」

「はあ?……煎餅しか持ってないぞ。」

「ジジくさ!スナックとかにしてよ。」

 そう言いながらも用意された煎餅を食べる馨君。それにしてもこの用意の良さはもはやお母さんを越えて専属の召使いの域じゃないだろうか。そう思いながらボクも煎餅をつまむ。美弥さんの顔が茹で蛸のように真っ赤になった。

「もおおお!なんで返事してくれないの!?ていうかなんで皆も聞いてくれないの!」

「…あのさあ、オカルト部が文化祭で何出すっていうの?言っとくけどお化け屋敷なんて嫌だよ?時間かかるし四人じゃ準備出来ないよ。」

「そういうのじゃなくてもいいもん!陸上部だって食べ物売るって言ってたもん!ねえ涼くんも裕太くんもなんか言ってよ!」

「いや…。」

「正直馨君に賛成かな…。」

 同じように目を逸らすボク達。馨君の言うとおりだ。オカルト部なんて人に楽しんでもらうような活動をしてるわけじゃない。喫茶店や屋台なんて美弥さんの事だから自分のお菓子を出したいって言い出すに決まってる。そんな事になったら大変だ。というか、何より馨君が接客に向いてるとはまったく思えない。確実にいろんな問題が起きるに決まってる。危険は冒さないに限るよ。しかし、案の定美弥さんの頬がまた膨らんだ。

「なんで!?せっかくの文化祭なのに!人生でそんなにないよ!」

「クラスの出し物で我慢しろよ。」

「やだ!演劇やることになったんだけど私木の役なんだもん。立ってるだけだよ?」

「それは良かったじゃない。今時木の役なんて出来る方が珍しいよ。小学校じゃ登場人物全員主人公が当たり前の時代だからね。」

「屁理屈ばっかり!」

 精一杯怒りの表情を作っていた美弥さんが、急に何か閃いたかの様な顔をした。嫌な予感がする。

「フフフ…馨くん、『文化祭の幽霊』って知ってる?」

「ちょ、美弥さん!」

「…なにそれ?」

「文化祭の日にだけ現れる幽霊だよ!旧校舎に、もう使われてない調理室があるでしょ?あそこに入ると誰かに見られている気がするんだって。嫌な感じがして振り返っても誰もいないの。でも、時々黒い何かが机と机の間を通り過ぎるのが見えるんだって!でも明らかに普通の人間サイズじゃないし、音も立てないんだって。ね?不思議でしょ?」

「どうせ気のせいだよ。もうその話はやめて座れ。」

 ああ、なんて話を振るんだ。馨君の目の色が明らかに変わった。まずいと思った涼君が美弥さんを止めようとするが美弥さんは喋るのをやめない。

「気のせいじゃないんだって!先輩の中にも何人か見てる人がいるらしいよ!なんでも昔調理室で事故が起こって酷い火傷を負った女生徒の幽霊なんじゃないかって…。」

「やろう。オカルト部の出し物。」

 本を閉じて馨君が明瞭な声で言い放った。やっぱりそうなるよね…。ガッツポーズをする美弥さんを横目にボクと涼君はため息を吐いた。

「ええっ!?オカルト部、出し物やるんですか?!」

「なんですかその驚き方。嫌なんですか?アンタ顧問でしょ。」

 来須先生に許可をもらう為職員室に来たは良いが、案の定先生も青い顔をした。馨君に問題を起こされて一番困るのは先生なんだから仕方ない。来須先生は馨君から目を逸らした。

「い、いえ、そういうわけじゃ…。」

「目を見て言えよ。」

「ひいいっ。」

「馨、先生怖がらせるなよ。」

 馨君の目の威圧感が凄い。これじゃあどっちが上かわからないな。というか、最近来須先生に対してますます馨君の態度が悪くなっている気がする。

「そ、それで何をするんですか?あ、お化け屋敷はダメですよ!費用がかかりますから!」

「心配しなくても先生が怖がる様なのはやりませんよ!安心してくださいね!」

「ほっ…。ってそうじゃなくて!では何を?」

「実はまだ決まってなくて…。」

「えっ。じゃあなんでいきなり…。」

「とりあえず、旧校舎の調理室を使いたいんです!」

「調理室ですか?あそこはダメですよ。文化祭中は例年他の出し物で使う物置き場になる予定です。それに小さいですし、他の空き教室の方が…。」

 言いかけた所で、馨君の射る様な視線に黙ってしまった。美弥さんが身を乗り出して来須先生に迫る。

「お願い先生!どうしてもあそこが使いたいんです!じゃないとせっかく馨くんが乗り気になってくれたのに…。」

「そ、そう言われましても…。私だって出来ることならそうしてあげたいんですが、これは文化祭実行委員の先生が決めてる事なので私がどうこう出来るものじゃないんですよ…。」

 来須先生は申し訳なさそうに眉尻をさげた。本当にどうしようもないようだ。すると、なにか思案していた馨君が不意に顔を上げた。

「出し物をやれば、調理室に荷物を置いて良いんですよね?」

「え、ええ…。ただし旧校舎の教室を使う生徒だけですけど。」



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