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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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第六話 Specter of school festival(5)


Specter of school festival(5)

 目の前の扉が開くと、馨君と涼君が立っていた。ホッとしたのも束の間、馨君はボクを押し退けて大きな戸棚の下の段の前に立った。

「か、馨君?」

「…ここだ。涼。」

 途端、戸棚がカタカタ音を立て始めた。涼君が馨君の隣に立つ。

「そ、そこに幽霊が!?」

「だったら良いんだけど。」

 そう言うと馨君は勢い良く戸棚の引き戸を引いた。

「!?」

 中には、カメラを片手にうずくまった太った男が、酷い顔をしてこちらを見上げていた。

「ひ…あ、ああ…っ。」

「へえ。ここに隠れて盗撮してたんだ。貸せよ。」

 馨君は顔中から色んな体液を噴出している男からカメラを奪いとって映像を見ている。横目で涼君が嫌悪感を露わにした目でその映像をちらりと見た後、同じ目をその男に向けた。

「最低だな。」

「ひっ…。う、ぅうう!!」

 男は声にならない声を発しながら転げるように戸棚から出ると、扉に向かって突進したが、あっさりと涼君に襟首を掴まれると床に引きずり倒された。なおも起き上がろうとする横顔スレスレで床を踏みつけられ、白い顔が更に白くなった。今の涼君はスーツと相まって不良も裸足で逃げ出す怖さだ…。

「逃げられると思ってんのか?ふざけるなよ。」

「す、すみませ…。」

「あんた今回が初めてじゃないね。去年も一昨年もここで盗撮してたでしょ。」

「ど、どういうことなの?馨君。」

「文化祭の幽霊、もとい気色悪い視線て言うのはコイツが犯人なんだよ。文化祭の日しか現れないというのは文化祭の日は外からの出入りが自由になるから。それに視線を感じた人間は女子ばかりだ。静かで比較的人の出入りが少ないこの調理室に隠れて時々入ってくる女子を盗撮してたってわけだろ。」

「うぅ…。」

 男はTシャツをびっしょりと濡らしながら縮こまる。

「気色悪い変態。こんなもの撮って何処かで売りさばいてたわけ?人間のクズだね。」

「ぅ、う、う、うるさいんだよ…。このリア充どもめ…。ちょっと顔が良くて社交的だからって調子乗りやがって、自分の彼女が盗撮された気分はどうだよ、へへへ…!」

 下卑た笑顔を向けられる。気持ち悪い。全然懲りてないんだな…。と言うか彼女って何のことだ?

「はあ?彼女?…ああ、なるほどね。そっかー。残念、今回のおにーさんの収穫はゼロだよ。御愁傷様!」

 なにか合点がいったのか、いかにも憐れんだ表情を作って馨君が言う。ボク達は何のことだかわからず馨君の顔を見た。

「は、何言って──」

「ほら、これがこの可愛いウエイトレスの普段の姿。」

 そう言うと馨君はボクのポケットから財布を抜き取り学生証を男に見せた。なんでどこに入ってるか知ってるんだ…。そんな疑問より、学生証を見た男の細い目が限界まで見開かれた事にボクは驚いた。急に男の呼吸が荒くなる。

「バカな…ッ!あり得ない!こ、こんな事ッ……!」

「残念だったねおにーさん。あんたが鼻の下伸ばして見てたのはコスプレJKじゃなくてDKだったんだよ。それとも男の娘萌え?」

 呆れるボク達に構わず、男はその巨体を揺らし悶え続けている。なんか正直複雑な気分だ。男で悪かったな。

「……裕太、馨の言ってることが全然わからないんだが。なんでダイニングキッチンの話してるんだ?」

「涼君、DKはダイニングキッチンじゃなくて男子高生の略だよ。JKは女子高生の事で、男の娘萌えは…ボクにもよくわからないよ。」

 「う、うそだ…!そんな!お、お、俺は男に萌えてたって言うのか!あの細い腰も、小ぶりなヒップも…!」

「あ、これコルセットです。」

「ぎああああああ!!」

「こら君達!木下さんに全部押し付けてなにやってるんです!あれだけ調理室に籠るなと言ったのに──!?」

 騒ぎを聞きつけたのか、来須先生と美弥さんが入ってきた。男を見て先生はぽかんとした。



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