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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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Albtraum 番外編3(2)


Albtraum番外編3(2)

「義人君、聞いてきたよ。」

「おうサンキューな裕太!それでどうだった?」

「明子ちゃん達に協力して貰った結果、一組の子で噂を初めて聞いたのは一番古くて二週間前だって。美弥さんによると二組も大体同じくらい。」

 あれから三日。裕太に協力して貰って噂の出どころを探り続けている。この場合、重要なのは『誰から聞いたか』じゃない。伝言ゲームのように一本線じゃない分、誰が一番最初に聞いたかを割り出すのは至難の技だ。しかも時間が経てば経つ程人の記憶は曖昧になっていく。噂の出どころを探るのに一番良いのは『いつ頃聞いたか』だ。噂は波紋状に広がってくものだからな。時期で絞るのが手っ取り早い。

「成る程な。三組は一週間と数日前で、四組と五組は一番情報が遅くてまだ一週間も経ってないか…。犯人は一組か二組だな。」

「二年や三年の可能性はないの?」

「それはないな。いくら俺の顔が広くても二年と三年で名前が出る程じゃねえ。あと、犯人は女子だな。」

「なんで?」

「噂の広がり方が早いからだよ。知ってるか?女子ってのは1日に男子の倍近くも多く喋るんだぜ。特に噂話はな。」

「へえー。」

 裕太の尊敬の視線を受けながら俺は思考を巡らせた。毎日の様に情報集めをしてたせいでこの学年じゃ俺の名前を知らない奴の方が少ない。これじゃ絞りようがないな。

「そういえば、どうして義人君の名前は出回るのに彼女の名前は出てこないんだろうね。」

「え?」

「だって不自然じゃないかな?女子の噂なら普通彼女の名前の方から広まりそうなのに。」

 確かにそうだ。噂は自分と近しい人のものほど興味をひくものだ。いくら俺が女子と近しい関係でも女子の名前が出ないのはおかしい。それどころかいやに噂が均一化している。まだ新鮮な噂だというのになぜ尾鰭がつかないのか。

「わかったぜ。真犯人がよ…!」

「こんなところに呼び出してどうしたの?義人君。」

 屋上を訪れたその人物は、セミロングの艶やかな髪をなびかせながら俺に話しかけた。

「理由はわかってんだろ?本城怜香。」

「……。なんのことかわかんないよ。また何か情報提供して欲しいの?」

 俺から視線を逸らしたまま怜香は話す。心なしか少し早口になっている。嘘をついてるのがバレバレだぜ。

「ごまかすなよ。俺に彼女ができたって噂を流したのはお前だろ?」

「…どうしてそう思うの?」

「一番最初に噂が立ち始めたのは二週間前。二組の女子の間でだ。そして二週間前の出来事と言ったらそう、怜香!お前が涼を呼び出した頃だ。他にめぼしい出来事は起きていない。お前が一番怪しいんだよ。」

「…。」

「俺の推理はこうだ。実は涼を呼び出した理由は告白じゃなかったんじゃないか?いや、涼への告白ではなく、涼に俺への思いを伝えてもらうためだった。だが涼が来なかったために作戦を変え、俺に彼女ができたという噂を立てることで俺の気を引くことが目的だったんだ!」

 ビシッと人差し指を突き出して推理を述べる。決まった。我ながら名推理っぷりに自分を褒めたくなる。それにしても俺が好きならはっきり面と向かって言ってくれればいいのに。俺なら即オーケーだぜ!しばらく俺が心の中で自画自賛していると、怜香がくすりと笑った。

「義人君探偵みたい。でも半分間違ってるよ。」

「えっ。」

 怜香は一度俺をまっすぐ見つめると、深いため息をついてフェンスにもたれかかった。

「ここまで気づかれちゃったから義人君だけには教えてあげる。私、結城君が好きなの。」

「……は?…まさか、ユウキってあの目つきの悪い性悪ドS野郎のことじゃないよな?」

「何言ってるの?三組で成績が学年一位の結城君だよ。」

 怜香は恥ずかしそうに顔を赤くしながら答えた。だからそれが目つきの悪い性悪ドS野郎なんだよ!…と言ってやりたいところだが、とりあえず我慢して続きを聞く。

「…でも、結城君てほら、人を惹きつけない不思議なオーラがあるでしょう?だから一番仲の良さそうな三上君を呼び出して手紙を渡してもらおうとしたんだけど来てくれなくて…。それから色々考えたの。結城君てオカルト研究部でしょう?それに義人君とも仲が良くてよく噂を聞き出してるって聞いたから、義人君にまつわる不思議な噂を流したら興味を持ってくれるかと思って…。」

「まあ、まんまと結城達に相談に行ったけど…。」

「でも私と義人君が噂になったら困るから彼女のことは伏せたの。でもまさか義人君が先に調べ出しちゃうなんて思わなかったなぁ。ねえ、義人君!本当のこと話したんだから結城君との中取り持つの手伝ってくれない?」

「お断りだ!」

「…て感じでさ、ほんと迷惑だよ。」

「馨君相手じゃまず無理だろうね…。」

 オカルト部の部室で裕太と俺は深いため息をついた。都合のいいことに結城達はまだ来ていない。裕太をお茶をすする。

「なんでボク達ってモテないんだろうね。」

「おいはっきり言うのやめろ!希望捨てるなよ!」

「その言い方もどうかと思うんだけど…。」

「暗いオーラ出してるとますますモテなくなるよ。」

 その声に驚いて扉を見ると見慣れた三人が立っていた。結城がニヤニヤしながら俺たちを見つめる。相変わらずむかつく顔だ。

「うるせえ!お前には関係ないだろ!」

「何荒れてるんだよ義人。」

「三人ともどこに行ってたの?」

「そうそう、聞いてよ裕太くん!実は涼くんが二組の本城さんて子に告白されてたの!それを断りに行ってたんだよ。」

「えっ!三人で?」

「やめろよ美弥…。」

「涼くんが女子と話してるの見つけて馨くんと物陰に隠れて見てたんだけどね、なんか好きな人がいるとかなんとか…。」

「だから、俺の勘違いだったんだ。もうその話はやめてくれ。」

「良かったー。私心配しちゃったよ。」

「ま、恋愛できる人物はこの中じゃ当分いなそうだね。」

 そう言って結城は愛読している雑誌『モー』のUFO特集を開いた。まるで他人事だと言いたげな結城のすました横顔が普段以上に腹立たしかった。

fin

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