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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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番外編2(3)
「どうしたの?裕太くん。」
「あ、いや、…ぼ…僕もマドレーヌ食べたいなーと思って…。」
「(裕太…。)」
「(勇者だな…。)」
馨君と涼君が憐れむような眼でボクを見つめている。未来の後輩と好きな人の為、ボクは自らを犠牲にしたのだ。
「もう裕太くんたら!そんなに食べたかったんだね!えへへ。でもまだあるから大丈夫!それに、未来の後輩くんにあげないのは失礼だよ!」
「(未来の後輩くんの為に言ってるのに…。)あはは…。そうだよね…。」
「はい、森野君どうぞ!」
美弥さんは戸棚にある一番新品の湯呑みにお茶を注いで手渡した。
「ありがとうございます。部室に電気ポッドがあるなんていいですね!」
「えへへ。本当はダメなんだけどね。内緒だよ?あ、このマドレーヌ私が焼いたの!良かったら、どうかな。」
「わあ!美味しそうですね!いただきます!」
森野君は無邪気にマドレーヌに手をのばす。美弥さんのお菓子は味に似合わず見た目が普通なのが本当に厄介だ。ボク達は心配でついつい森野君の動作を目で追ってしまう。マドレーヌが口に入る。
「どう、かな?」
「…はい!美味しいです!料理が上手な女性って素敵ですね!」
食べた。確かに確認した。しかし、彼は全くもって普通のお菓子を食べたような仕草しかしない…。美弥さんを除くボクらは密かに動揺した。
「や、やだ!森野君てお世辞上手いんだね!でもありがとう。」
「お世辞じゃありませんよ!ですよね、柿本先輩。」
「う、うん。」
「じゃあそれを食べたら解散でいいかな。僕この後予定があるんだ。」
「あ、すみません。わかりました。また後日、今度はもっと早めにお邪魔させていただきますね!」
そのあと、美弥さんの提案で彼を校門まで見送り、部室を片付けてボク達は帰路に着いた。美弥さんと分かれ道で別れ、ボク達はさっきの事を話しだした。
「…森野君てさ、涼君達の母校の生徒だよね。」
「裕太、知ってたのか。」
「大方義人が話したんだろ。どこまで聞いたの?」
「あ、いや…。えっと、三学期に馨君が転校してきた事くらいだよ。」
不意に馨君がボクに顔を近づけてあの冷たい眼でボクをじっ、と見つめた。背筋が凍る。
「聞こえなかった?どこまで、聞いたの?」
「えーと、その…。」
「言えば義人だけにしてやる。」
「……涼君と馨君がなんで仲良くなったか、とかです…。」
「…あいつ、人のプライバシーを好き勝手に…!」
「…シメるか。」
涼君は頭を抱え、馨君は何時もの倍黒いオーラを発散している。ああ、義人君、ごめんなさい。しばらく会えなくなるんじゃないかな。
「…裕太は他に言ってないよな?」
「い、言ってないよ涼君!誓うよ!」
「まあ過ぎた事は良しとしてあげるよ。で、じゃあなんで彼と関わりたくないかわかるよね。」
「うん。下手をすると、周りに涼君が元不良だって知られちゃうから、だよね。」
「でもあいつ、見た目も不良に見えないし、名乗っても特に反応しなかったし、深く関わらなければいい気がするけどな。」
「そうとも言えないけど。妙な視線で一瞬涼を見ただろ。インド神話が好きってのも『大黒天』の事を言ってるとしか思えない。」
「えっあれそういう意味だったのか。」
「本当自分の事なのに気づかないとか流石だよ。」
「そ、そんなの一々気にしねーよ!大体そのあだ名俺が考えたわけじゃない。」
「ま、知ってるだけの生徒ならわざわざ来ないだろう。多分あれは自分の存在を僕達に知らしめたかったんじゃないかな。」
「一体何を考えてるんだろう…。」
「さあね。でもただ者じゃないよ。だって…。」
「だって?」
「…美弥のマドレーヌを平気な顔で食べたんだぞ。」
「「(…確かに。)」」
その後、ボク達は道を別れ、それぞれの家路についた。ボクはあの後渡されたマドレーヌを鞄から取り出しながら、先程の会話を思い出す。
「…もしかして、今日は本当に上手く出来てたのかな?」
もしそうなら、これほど嬉しいことはない。明日は感想を聞かれた時、本心から美味しかったと答えることができるのだから。ボクは淡い期待を胸に、思い切ってそれを口に入れた。
「………うん、そんな事あるわけないか。」
ボクは急いで飲み物を取りに行った。