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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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番外編2(5)
「…でも、朝勝手に中学生が入るわけにはいかないよ。うちの制服だって持ってないだろうし。」
「多分ここに仲間がいるんだろ。涼を挑発してるつもり、かな。思った以上にお前に執着してるようだね。」
「……。」
涼君は悲しそうな、悔しそうな顔をして写真に目を落とした。
「…あの頃は頻繁に喧嘩してて、正直誰を殴ったかも覚えてないんだ。もし、その中の誰かの弟だとしても、俺にはわからない…。」
「涼君…。別に涼君を責めてるわけじゃないよ。それにそれを恨んでいたとしてもこんな事するのはおかしいよ。」
「やっほー!何の話してるのー?」
「「っ!?」」
美弥さんが元気に教室に入ってきた。美弥さんには事情を説明するか話したのだが、結局黙っておく事になった。美弥は口が軽いから、と馨君は言っていたが、おそらく涼君を慕っているからだろう。知らなくても良い事を知ってしまうせいで、美弥さんの気持ちを壊してしまうべきではないという判断だ。と、ボクが勝手に思っているだけだけど。ボクだって、それは本望ではないのだ。涼君が慌てて写真を隠そうとするが、見られてしまった。
「あっこの写真!涼君が映画で主役の不良番長やった奴なんだよね!格好良いなあ…。」
「ああ、うん…。」
「高校生のボスに足を洗いたいって言いに行って制裁を受けて、そのまま命を落としちゃうんだってね…。最後に親友の転入生くんが橋の下で川に花を流すシーンで終わるなんて切ないよー。」
「……そ、そうだな。」
何か言いたそうな表情で涼君が馨君を見つめる。面倒見がいい訳じゃなくてただ面白がってただけだったのかな…。
「馨くんはなんの役だったの?」
「僕は照明。」
「(転入生お前じゃねえのかよ。)」
「(そこまでいったら流石に不自然だろ。)」
「でも嬉しいな。二人はあんまり昔の話してくれないから。」
「…。」
「美弥は女子中だったんだっけ?」
「うん!稲見女学院て中高一貫のとこだよー。高校はレベルが下がるからってここに来たの!」
「美弥さんて私立だったんだね。」
「勉強出来たんだな。」
「涼くんひどい!これでも成績いい方なんだよ?」
「涼はいつも首の皮一枚だからな。」
「うるせーな!」
「よ、良かったら、わ、わ私と二人で、べべ勉強会、とか…──」
「(正直僕が教えて首の皮一枚だからそれはやめた方がいいよ。)」
「ええっ!?そっかぁー。」
「おい今なんて言ったんだ。」
「な、なんでもないよー!」
美弥さんが真っ赤になりながら涼君の背中を思いっきり叩いた。
「痛っ!?」
「あ!ここ曲がらなきゃ。じゃあまた明日ね!」
「また明日!」
美弥さんと別れ、ボク達は薄暗い道を歩き出した。やはりあの美弥さんの涼君への恋心を壊してしまうことは出来ないとボクは思う。確かにボクは美弥さんが好きだ。本当は振り向かせたい、なんて思っている。でも、あの涼君に向ける潤んだ瞳も、真っ赤になった顔も含めて好きなんだ。我ながら恥ずかしい事を思っているなあと思ってしまう。
「裕太も報われないねー。」
「へっ!?」
「顔に出てるよ。」
「何、何が何が出てるっていうの!?!?」
「動揺し過ぎなんだけど。」
「何の話だよ?」
「涼も恨まれても文句言えないって話。」
「はあ?っ…!」
涼君が左側に何かを気付いた瞬間、バットを振り上げた男が突っ込んできた。ボクと馨君を庇う様に涼君は男の前に出ると、瞬く間にバットを持つ手を塞ぎ、勢いを利用して男を転ばせた。尚も襲いかかって来ようとする男の鳩尾に蹴りを入れると、男はうずくまり、抵抗をやめた。それまでの流れはあまりに自然でボクの思考は追いつかない。涼君は息ひとつ乱さずバットを拾い上げた。
「な、何…?」
「暴漢か?ったく最近この辺りは物騒だな。馨、警察に連絡してくれ。」
「わかった。…!馬鹿!何で押さえておかないんだよ!」
その声で男のいた方向を見ると、男が腹を押さえながら夜道を走って近くの角を曲がって行くのが見えた。既に日は暮れて、一度見失っては見つけられない。ボク達は仕方なく、近くの交番に報告とバットを渡し、その日は帰った。