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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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第四話 Tragedy of table turning(5)


Tragedy of table turning(5)



「へえー!なるほどねえ。」

 後日、日直の仕事で会議に出られなかった美弥さんに昼休みの事を話すと、妙に嬉しそうな顔をされた。

「どうしたの?美弥さん。」

「なんかさ、馨くんて実は羽淵先輩の事が好きなんじゃないかな!」

「!?」

 ……何を言い出すんだ、美弥さん。涼君があまりに驚いてお茶を噴き出しそうになっている。一体今の話のどの部分から馨君が羽淵先輩が好きかもしれないと推測出来るんだろう。

「な、なんでそう思うの?」

「うーん。だって、馨君て普通の人には八方美人じゃない?そうじゃない態度を取る人って、私達みたいな親しい人か、どうでも良いような他人が多いと思うの。」

「あー確かに。」

「でも、だったら羽淵先輩はどうでも良い相手に入るんじゃないか?」

「違うよ涼くん!羽淵先輩は生徒会長だよ?利己主義な馨くんが先輩にわざわざ嫌われるような態度を取るのは変だもん。私が馨くんだったら、部活動の事で文句言われないためにもごまをすろうと思うよ。」

「随分な言いようだな…。」

「うーん、確かにその方が自然だね。でもそれで好きって事になるの…?」

 ボクの問いに、美弥さんは得意げな表情をすると、探偵ドラマの主人公のように部室をゆっくりと歩き回りながら話し始めた。

「親しいわけでもない、どうでも良いわけでもない。では何故馨くんがあんな態度を見せるのか?そう!もう一つ馨くんが素の態度を見せる相手がいるの!」

 そう言って美弥さんはビシッと効果音が出そうな勢いで涼君を指差した。

「な、なんだよ。」

「涼くん、義人くんの話だと、馨くんとは最初に会った時からあんな態度だったんだよね?何故だと思う?」

「さ、さあ。」

「ふふん、なぜなら!馨くんは初めから涼くんと仲良くなるつもりだったから!」

「はあ…。」

「つまり、強い興味を抱いている相手には素の態度で接するんだよ。と言うことは、馨くんは羽淵先輩に強い興味を抱いているってこと!」

「…そういうものか?」

「ただ神社の娘だから興味があるって可能性もあると思うけど…。」

「もうっ。男の子は鈍感なんだから!それに、あの馨くんが女の子に向かって『可愛い』って言ったんだよ?私言われたことないのに!これはまさしく恋だよ!!」

「(言葉の綾ってやつじゃないかなあ…。)」

「興味深い意見だな美弥!」

「ふあっ!?」

 キマった、とでも言いたげな表情で美弥さんがポージングした瞬間、美弥さんの真後ろの扉が開いた。美弥さんが驚いて飛び退くと、中に入ってきたのは義人君だ。

「もしそうなら結城の弱みを握る絶好のチャンスだぜ!」

「義人くん!もう、脅かさないでよー。」

「よう美弥!元気にしてたか?」

「義人…久し振りだな。」

 にこにこする義人君の様子から、どうも体調は良好らしい。以前、馨君に説明するのも憚られる様な目に遭ったと言うのに、本当にタフだと思う。事情を知ってるボクと涼君は複雑な表情で義人君を迎えた。

「おう!暫く振りだよなー涼、裕太。結城に酷い目にあってないか?」

「お前程じゃないよ。」

「え?」

「そっそれより、どうしてここに来たの?」

「ああ!結城に言われて岩瀬萌香の方に聞き込みに行ってたんだ。んで、その報告。」

 そう言うと義人君はソファーにどかっと腰掛け、資料を広げ始めた。

「馨君待たなくていいの?」

「いーよいーよ。部活なのに来てないあいつが悪いだろ。結城には後でお前らが説明しといて。」

「馨くんが一番聞きたがってるのにー。」

「悪りいな!…でも、なんか結城に会うと調子出ねぇんだよ。なんか、身体が固まると言うか…。」

 義人君の表情がことの深刻さを物語っている。蛇に睨まれたカエルという事だろうか。馨君の恐ろしさが体に刻み込まれてるらしい。可哀想なので馨君にはボク達から説明してあげよう。

「んじゃ話すぞ!しっかり聞けよ?あ!テープレコーダーで録音も可だぜ!」

「良いから話せよ。」

「ハイハイ。…あれは、二日前の放課後…──」

     *     *     *

「どうもこんにちは!オレの事覚えてます?この前の合コンで会ってるんすけど。」

「知らない。つーか誰?」

 下校中のターゲット、岩瀬萌香先輩を引き止めることに成功。まあこのくらいは朝飯前だな!しかし、彼女はじとっとした目でオレを見る。おっかしいな。このテの女は大体合コンの相手なんて覚えてないんだけど。

「え、え~?忘れちゃったんですか?」

「知らないって。何、アンタ。ナンパ?」

 岩瀬先輩はふてぶてしく髪をいじり始めた。こいつ、顔は可愛いけど性格悪そうだ…。オレがやってる事も大概だけど。だがこうなったら仕方ない。オレは禁断の手段、プランBに変更した!

「あはは。バレました?はは、先輩美人だから…。ちょっとそこのファミレスでお茶でもどうすか?」

 先輩は髪をいじる手を止めてこちらをみた。おっ、さっきよりは怪しんでなさそうな目だ。

「…ふーん。いいよ。」

「ま、マジすか!じゃあ──。」

「隣のスタバがいい。」

「あ……はい。」

 くそ、だからプランBは嫌なんだ。コーヒー一杯五百円なんてやってられるか。つか、こいつが頼んだキャラメルなんちゃらってなんだあれ、七百円もすんだぜ。高校生には厳しいよ。

「アンタ一年だよね。ひょっとしてアタシの事知ってた?」

「ま、まあ…。綺麗な人だなーと。」

「ふーん。よく見てるね。」

 ターゲットはご機嫌だ。我ながら歯の浮く様な事を言ってる気がするが、ここは我慢だな!

「いや、先輩美人なんで目立ちますから。よくオレとデートしてくれましたね。」

「あはは。今こんなんだしね。あーでも普段は同じ学校の男と遊ばないよー。後がめんどいから。」

 だから合コンの話が通用しなかったわけだ。そういや三年に彼氏がいるんだよな。バレるとマズイってわけか。…この女、遊び慣れてるぜ。ってそれより、上機嫌なうちに本題に移行だ。

「そう言えば、その包帯と絆創膏、どうしたんすか?折角綺麗な顔なのに。」

「…っとにね、あの野郎のせいで…っ!」

 やべ、いきなり過ぎたか?焦るオレを尻目に岩瀬先輩は興奮した様子で額のデカい絆創膏を押さえた。

「あ!すんません!嫌な事聞いちゃって。」

「…いいから、話させて。…二週間くらい前の事なんだけど。雅彦、あーカレシなんだけど、そいつがいきなり話があるとか手紙寄越してきたの。」

「へえ…。今時古風っすね。」

「本当に。普段手紙なんて書かないクセにさ。しかもクラスの女子経由で。自分で渡せっての!」

「お、落ち着いて下さい!どこに呼び出されたんですか?」

「…屋上の扉の前の階段の踊り場。人が来ないからだと思う。そこであいつが言い出したのは、別れ話!本当ふざけてると思わない?!アタシがどれだけ尽くしてやったと思ってんだか!」

 岩瀬先輩がテーブルを叩いた。客の目が痛い。雅彦先輩の気持ち、わかります。こう言う奴って、大概自分が正しいと思ったら曲げないからな。

「え、ええ。先輩を振るなんて最低な男ですね。」

「そう思うよね!?だからアタシも頭にきちゃってさ、言い合いになったわけ。そしたらあの男、腕を掴んだアタシを突き飛ばしやがって…。」

「そ、それで階段から落ちたんですか?」

「そう!吹っ飛んじゃって、首も下手したら折ってたって言われたわ。それよりムカつくのが顔よ!おでこのこれ、四針も縫ったんだけど!アタシの顔に傷付けるなんて…!」

 紙カップを握りつぶしながら怒りに震えている。振った男も下手したと思うが、女って怖えな…。

「で、でも命が無事で良かったっすよね!首折ってたら、こんな風に過ごせませんよ。」

「良くないわよ!おでこに痕が残るかもしんないの!それに、あいつが手紙で呼び出したせいでクラス中に話が広まっちゃったし。もう学生生活終わりよ。」

 女子のネットワークは凄いからな。大抵の噂話なんかは女子に聞けばわかる。この様子じゃもともと人気がある方でもないだろうし、暫くは苦労するだろうな。

「仲良かった渚は交通事故で昏睡状態だし、まゆも脚やっちゃって入院。アタシの居場所なくなっちゃった。」

 およそ相手の心配をしてない言い方だ。女子ってグループにこだわるから、それが壊れるのを異様に怖がるんだよな。美弥は知らないけど。

「たて続けっすね。なんか理由があるんですかね。」

「知らないわよ。ね、それより興奮したら喉乾いちゃった。もう一杯買ってきて。」

「は、はい…。」

     *     *     *

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