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当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。
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Missing Days(4)
朝ごはんを食べたボク達は、早速美琴君を連れて山へ向かった。天狗の祠があるというのだ。
「にーちゃん達!こっちこっち!こっちに川があって涼しいよ!」
「待ってよー美琴くーん!馨くん大丈夫?」
「だ…大丈夫……だ…よ。」
山に詳しい美琴君について山を登る。しかし、流石子供の体力は底なしのようで、険しい道ばかり選んで進む。体力のない馨君はもうボロボロだ。
「ほら、荷物持ってやるよ。あとちょっとで川だって。」
「チッ…フィールドワークは苦手なんだよ…。こういうのは涼に任せるべきだった…。」
「自分で行きたいって言い出したんだろうが。」
もう少し登るとやっと川のほとりに出た。岩に当たって水しぶきがあがり、かなり涼しい。既に辿り着いた美琴君は川に足を浸して遊んでいる。
「馨にーちゃんおっせーよ!早くこっち来て遊ぼーぜ!!」
「美琴くん、馨くん疲れちゃったみたいだから私と遊ぼ!」
「えー、しょうがねーな。じゃあ美弥ねーちゃん、魚捕まえよ!いっぱい捕まえた方の勝ちね!」
「よーし!今年は負けないよ!」
そう言うと、美弥さんも荷物を置いて手ぶらで川に入って行った。って、手づかみで捕まえるのか!?野生児的過ぎて馨君じゃなくてもついていけないよ…。
「疲れた…。僕ここでしばらく休むよ。」
「大丈夫か?ほら水。」
「どうも。」
「昨日も体調悪くなったんですからね。気をつけてください。あ、帽子被っておくと良いですよ!」
そう言うと来須先生は自分のリュックから黒い野球帽を取り出した。
「ダサい。そんなの被りたくない。」
「そ、そんな!」
「と言うか、なんで持ってるのに先生被ってないんですか?」
「そ、それは…。」
「やっぱり自分でもダサいと思ってんだろ。」
「ち、違いますよ!わかりましたよ、私が被ります!」
「おばけナ○ター…。」
「酷いです!怖いです!結城君!」
その時後ろの岩陰から突然手が伸びて先生の帽子を奪った。
「ひぃああああああ!?お、お化け!?」
「あっははは!なんだよ今の声!」
岩陰からひょっこりと顔を出したのは美琴君だ。手に持った帽子をひらひらさせている。
「こ、こら!大人をからかっちゃいけません!心臓バクバクですよ!」
「そのくらいであんな声出す奴大人とは言わないよ。」
「結城君まで…!もう、返しなさい!」
「あ!」
来須先生が隙をついて美琴君から帽子を取り返す。まったく、とため息をつきながら来須先生が帽子をかぶろうとしたその時、
「ダメ!!被っちゃだめ!」
「!?」
突然の大声に驚く。大声を出した本人の美琴君も自分の声に驚いている。辺りに川の流れる音だけが響いた。ボクらの様子に気づいたのか、川で魚獲りをしていた美弥さんが戻ってきた。
「美琴くーん。…あれ、どうかしたの?」
「な、なんでもない!センセー、帽子被ってると禿げるんだぜ!じーちゃんが言ってた!」
「へっ?…ま、まだ私は禿げませんよ!」
「三十代からは気をつけないとね…。」
「ちょ、柿本君やめてくださいよ!」
「いーから遊ぼうぜ!にーちゃん達も!」
「待って。」
駆け出そうとした美琴君の腕を馨君が掴んだ。美琴君が不服そうな顔をした。
「もう十分遊んだだろ。いい加減天狗に攫われた話聞かせてよ。」
「えーー。まだ全然遊んでねーし!」
「話したら付き合ってやるよ。」
「うーん…。わかったよ。」
頬を膨らませて不貞腐れる美琴君だが、了解してくれた。意外に素直な子だ。ボク達に背を向け、川に小石を投げて遊びながら話し始める。
「…先週、夏休み入ったから友達と山の近くで遊んでたんだ。でも夕方になって、皆暗くなる前に帰っちゃってさ。俺の家山登ってちょっとのとこだし、近いから少しだけ一人で遊んでた。そしたら…。」
「て、天狗が出たんですか…?」
「…うん。いきなり現れて、『ボク、一人?』って。変だなって思ったけどそうだよって言ったら…。………えっと…。」
「覚えてないの?」
「お、覚えてるよ!そしたら、鳥みたいな翼をばさーって出してソイツ、俺を抱えて空を飛んだんだ!」
「ひぇえ…。」
「来須先生黙って。それで、どこに連れてかれたの?」
「……わ、わかんない。だって空飛んだ時びっくりして気絶しちゃったんだ。それで、気が付いたら次の日で、隣町の交番前に立ってた。」
「ええっ!?じゃあ美琴くん行方不明だったの!?」
「うん。かーちゃん達が騒いでた。でもあれは天狗だよ!羽生えてたし、着物みたいな変なの着て──!」
美琴君が川の反対側を見て固まる。目をいっぱいに見開いて、次に震え出した。異変に気付いた美弥さんが駆け寄ると、美琴君は目一杯に抱きついた。
「どうしたの美琴くん?!大丈夫?」
「あ、あいつが…。」
美琴君は顔を美弥さんのお腹に埋めながら先程見ていた木々の間を指差す。ボク達も目を凝らして指差す辺りを見回すが何もない。ただ緑の木々が目の前に広がるだけだ。
「…?なにもいないよ。」
「…本当?」
「うん。…きっと木と木の間が何かに見えただけだよ。」
美琴君はそれを聞いて恐る恐る顔をあげた。目尻にはうっすら涙が浮かんでいる。
「ねえ馨にーちゃん、俺本当に天狗に連れてかれたんだよ!信じてくれた?」
不安そうな様子に、馨君は何か思案顔で美琴君の様子を伺っている。しびれを切らした美琴君が声をあげる。
「ねえ!どうなの!?」
「…一応信じるよ。でも質問にも答えてね。」
「うん……ありがと。」
「さ、さて、天狗の祠は午後にして一旦戻ってお昼ご飯を食べましょう!お腹が空いたまま山を登ると危険ですからね。」
美琴君の状況を察してか、来須先生が提案する。ボク達はその提案に乗り、一度宿に戻った。
「昼間はご苦労様ねえ。外は暑かったでしょう?良かったらスイカどうぞ。」
「わあ!ありがとう叔母さん!」
午後、お昼をいただいて少し休んでいる間、女将さんがスイカを持って来てくれた。
「あ!俺も食べるー!」
「こら美琴!全くもう…。一緒して大丈夫?」
「はい!大丈夫です。」
美琴君はすっかり元気になった様だ。元気いっぱいにスイカにかぶりついている。
「ねえ叔母さん、美琴くんて先週行方不明になってたの?」
「え、ええ!そうなの!一日だけだけど遊びに行ったまま帰らなくて、次の日の朝方隣町の交番の前で発見されて…。」
「隣町って、かなり離れてるよね。電車か山を越えるかしないと行けないよ。」
「そうなの。…貴方達、なにか美琴から聞いたの?」
「いえ、天狗に攫われたとしか…。」
「また天狗って…。近所の人も協力してくれて探し回ったのにこの子は!」
「嘘じゃねーよ!天狗に詳しいにーちゃんも信じてくれたんだよ!」
「はあ…。ごめんなさいね、この子の戯れ言に付き合ってもらっちゃって。」
どうも女将さんは馨君が美琴君の相手をしてあげてるだけだと思ってる様だ。しかし馨君は涼しげな顔で返答する。
「いえ、まだ確証は無いですけど。」
「美琴、良かったわね、お兄さん達に相手してもらって。」
「なんで信じてくれないんだよ!昔はよく天狗に攫われた子がいたんだろ!?」
「それじゃ皆さん、ゆっくりしてくださいね。」
美琴君の言葉に全く聞く耳持たず、女将さんはいそいそと部屋を出て行ってしまった。
「かーちゃんのバカ…。ねえにーちゃん達、俺知ってること全部話すからかーちゃんを説得してよ!」
美琴君の必死な様子に、ボク達は少し戸惑ったが、馨君はリュックの中からノートとペンを取り出して美琴君に向き直った。
「もともとそのつもりだよ。君が体験した事全部聞かせてもらおうか。」