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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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第五話 Missing Days(3)


Missing Days(3)

「いや大丈夫。俺も君たちくらいの頃は友達と風呂ではしゃいだよ。君たち美弥ちゃんの友達だろ?」

「えっ、知ってるんですか?」

「俺美弥ちゃんの叔父、美国の弟なんだ。」

「じゃあ、美弥さんのもう一人の叔父さんですか?」

 気さくに微笑む男性は、来須先生よりも若そうだ。名前は飯綱真寿美(ますみ)さんというらしい。東京で会社員をしていて、今は実家この旅館に帰って来ているのだそうだ。その言葉に馨君が機敏に反応する。

「てことは、この地域の人なんですよね?この地域の天狗伝承について知っていることを教えてください!」

「えっ?」

「す、すみません…。ボク達オカルト研究部で、今回天狗について調べる予定で…。」

「オカルト研究部?あはは、面白い部活に入ってるんだね!そうだなあ、山から大きな音が聞こえて来たら天狗の仕業だとか、山で鳥を食べたら天狗に怒られるからいけないとも言われてたかなあ。」

「『天狗倒し』ですね!山で鳥肉を食べて祟られた逸話も読んだ事があります!元々天狗は『アマツキツネ』と呼ばれ、彗星の事を表していたらしいけど、時代が移り変わるうちに翼の生えた狐になり、その後修験道の影響を受けて山伏姿になり、室町時代頃からは今ではメジャーな鼻高天狗のイメージが一般的になったけど江戸時代には鳶と混交されたりもして──…」

 キラキラした目で聞かれてもいない天狗のうんちくを話し出す馨君。本当に、どこに行っても馨君は馨君だな。

「──山の神として信仰される一方、仏教を害する仏敵のイメージのせいか僧侶と対決して負ける話や高慢な僧侶が天狗になるとも言われているね。天狗が寺の稚児を攫うっていうのも敵対する一派が稚児を攫った事の比喩だとか──っぷは!水かけるなよ涼!」

「もう良い加減にしろ。お前が語ってどうするんだよ。」

「はは。君、俺より詳しそうだね。ああそう言えば、昔はこの辺りで子供がよく天狗に攫われたって聞いたな。」

「神隠しですね!『サバ喰った』と叫ぶと戻ってくるという話もありますけどそういう習慣は!?」

「馨君ちょっと落ち着きなよ…。」

「…そうだね。続きは風呂から出た後にしてあげるよ。」

 真須美さんに言われて、ボク達は温泉を満喫してから揃って上がり、男湯から出たところで美弥さんが待っていた。

「美弥さん、お待たせ。」

「ううん!私も今出たとこだもん。でも男子随分長かったね。」

「覗かなかった?」

「の、覗いてないよ!」

「おう美弥ちゃん、元気にしてた?」

 その言葉に美弥さんが顔をあげた。とたんに目を見開いて興奮した様に頰を染める。

「ま、真寿美くん!!うわ、凄い久しぶり!真寿美くんもお風呂だったんだね!」

「ああ。たまたまこの子達と風呂で会ってね。大っきくなったなあ美弥ちゃん。」

 真寿美さんは優しく美弥さんの頭を撫でる。美弥さんはちょっと恥ずかしそうだ。

「も、もう!私もう子供じゃないんだから!恥ずかしいよ!」

「ああ、そうだったね。もう十六歳だったか?早いなあ。」

 感慨深そうに美弥さんを見つめる真寿美さん。随分会わなかったのだろうか?

「本当に久しぶりに会ったって感じなんだな。」

「うん!真寿美くん、東京の会社に勤めてからお盆も全然帰って来なくなっちゃって…。でも今年は帰って来れたんだね!それにお盆前だし…。」

「…はは、先週ね。たまには帰って来ないとお袋達にも悪いしさ。有給とお盆休み合わせて今年はこっちにいるつもりだよ。さ、こんな所で話してないで部屋に戻りなよ。もう夕飯の時間だ。」

「はーい!」

 その後、美弥さんも含めて部屋で山で採れたという旬の食材をふんだんに使った夕飯を食べ、就寝した。馨君のことだから夜中になにかしたがるかと思っていたが、特にそう言うこともなく、明日は山を探索すると意気込んで眠ってしまった。

 翌朝。

 ドスン!

 いきなり布団の上から衝撃が走り、ボクは心臓が止まりかけた。

「なっ…?!」

「えっ!美弥ねーちゃんじゃない!」

 寝起きで何が何だかわからないまま起き上がると、そこには小さな男の子、美琴君の姿があった。

「み、こと君…?なんで…。」

「昨日こっちにいたから絶対美弥ねーちゃんだと思ったのに…。まーいいや、ちっさいにーちゃん!今日は遊んでくれんだろ?」

「ちっさいにーちゃんて…。」

「うるさ…。何?」

「うーん…。」

 美琴君の声に馨君も目が覚めたらしい。涼君は唸っただけでまだ目をつむったままだ。馨君は美琴君の顔を見てうんざりした顔をした。

「あ!目つきの怖いにーちゃんとデカいにーちゃん!」

「…僕達ね、子供の相手なんてしてる暇なんてないんだよ。遊んで欲しかったら昨日の眼鏡が隣の部屋にいるから。」

「えーーー!ヤダ!美弥ねーちゃん昨日皆で遊んでくれるって言ってたじゃん!」

「美弥が言っただけで僕は知らないよ。とにかく今日は山で天狗の痕跡を探すんだ。ほら涼いつまで寝てんだよ!」

「ぎゃあ!ちょ、踏むなよ馨!」

 そう言って馨君は涼君を踏んづけて顔を洗いに部屋を出ようとした。しかしそれを遮るように美琴君が声をあげた。

「それ真寿美にーちゃんが言ってたけどにーちゃん天狗に詳しいの?ねえ!俺天狗に攫われたことあるよ!その話してあげるから遊んでよ!」

 襖を開けようとした馨君の手が止まる。あ、絶対興味持ってる。

「…子供の嘘に付き合える程僕も大人じゃないんだけど。」

「嘘じゃないよ!先週だよ!真寿美にーちゃんもかーちゃん達も知ってるもん!」

 今だにボクの上に乗っかったまま話す美琴君は、嘘をついているようには見えなかった。馨君も彼の顔を見て確信したのか、しっかりと美琴君の顔を見て言い放った。

「…僕の質問に詳しく答えてもらうからね。嘘だったら許さないよ。それから、遊ぶって言っても僕達の行くとこについてくるだけだから。」

「やった!!」



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