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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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第七話 Pyrokinesis girl(4)


Pyrokinesis girl(4)

「──…アイリスがおかしくなり始めたのは早乙女昴(すばる)君と別れた頃からなの。別れる時もかなりもめたみたいで、アイリスは数日の間は落ち込んでたわ。」

「そのサオダケって男はこの学校の生徒?」

「いいえ。…でもどんな人か私もよく知らないの。アイリスがいつもはぐらかすから。」

「意外と秘密主義な子なんだね。」

「最初の頃はうきうきしながら話してくれてたんだけどね。だんだん教えてくれなくなって…。………多分、あまりいい人じゃないみたい。」

「どうしてわかるの?」

「それは…アイリスの態度を見ていればわかるよ。付き合った直後はあんなに嬉しそうにしてたのに、どんどんため息ばかりになって…。」

 自分のことの様に辛そうに語る川嶋さん。確かに、親友に危機が迫っているんだから仕方がないだろう。同情的な眼差しを向けるボクと涼君の横で、馨君が何か逡巡している様な仕草をしている。

「…ねえ、リスの部屋の机に置いてあったっていう人形ってどんなのか知らない?」

「アイリスだろ。…フランス土産のってやつか。」

「えっ?…ああ、どんなって言っても……。アンティークっぽい感じだったかなあ。あ、でも陶器じゃなかったと思う。軽くて肌がつるつるしてたと思うけど…。」

「ふぅん……。」

 それきりまた黙ってしまった。何を悩んでいるのか聞こうとした瞬間、授業開始の予鈴が鳴った。

「もうそんな時間か。」

「急がないと…。川嶋さん、ありがとう。」

 部室は授業用の教室とは別の校舎だ。急いで部室を閉めて教室に向かうボク達に向かって、最後に川嶋さんが声をかけた。

「ねえ、アイリスを助けてあげてね!私の言う事は信じてくれなくて、オカルト部だけが頼りなの。お願いね!」

 まっすぐボク達を見つめ、懇願する彼女の細い体が強く印象に残った。

 翌日、今日はアイリスさんも少し元気を取り戻したのか、訪れたボク達を笑顔で迎えてくれた。朝は昨日の事があるので、馨君には余計な事を言わないようきつく言ったせいか、無難な会話で乗り切ることができ、何事もなく昼休みの時間になった。この時間は美弥さんに任せる予定なのでのんびりと昼ご飯の用意を持って義人君の所に行こうとしていると、突如隣のクラスから悲鳴が聞こえた。クラスがどよめく。

「…なに、今の悲鳴?」

「四組の方からだよな…。」

「涼、裕太、行くぞ!」

「えっ…ちょっと!」

 クラスメイトにじろじろ見られるのも気にせず、馨君はボク達の腕を掴んで四組まで引っ張っていく。四組は人の壁が出来ていて中が見えない。体育の後なのか皆体育着姿で一点を見つめている。馨君に連れられて無理矢理分け入ると、特徴的な巻き毛のツインテールの後ろ姿が見えた。そして何か焦げ臭い臭いが…。

「っ!おい、大丈夫か!?」

 彼女の机には火の付いた授業用のノートがあった。まさかここで自然発火が…!?ボクが驚いている間に涼君が制服の上着を脱いでその上に被せた。

「被せるだけじゃダメだ、擦れ!君達も見学してないで手伝えよ!」

「お、おい誰か水持って来い!」

「消化器、消化器持って来いよ!」

 放心するアイリスさんの前で数人の男子達のおかげで火はすぐに消えたが、彼女の机の上は水やら消火剤やらでめちゃくちゃになってしまった。今、彼女は美弥さんに慰められながら保健室のベットに座っている。

「…大丈夫?何があったの?」

「わかりませんわ。気が付いたら火がついてましたの。」

「あんなに人がいたのに…。」

「…ええ、でも大丈夫ですわ。鞄の中は無事でしたし。それより三上さん、私の為に上着を駄目にしてしまってごめんなさい。でもおかげで助かりましたわ。本当にありがとうございます。」

「ああ、別に気にしないでくれ。予備が家にあるから。」

「流石涼くん、男らしい!」

「からかうなよ。」

 美弥さんは憧れの眼差しで本心を言うが、涼君には伝わらないらしい。冗談を言われたんだと勘違いしている涼君をアイリスさんも優しい眼差しで見つめながら微笑んでいる。だいぶ落ち着いたらしい。携帯を開きながら一連の様子を見ていた馨君が、急に携帯を閉じて涼君に詰め寄る。

「今日は彼女が心配だから涼一人で送ってあげなよ。ボクと裕太用事出来ちゃったから。」

「は?」

「えっ?聞いてな──」

 馨君が目で合図を送ってくる。何か意図があるらしい。よくわからないが合わせた方がいいようだ。

「──ああ、うん。そうだったよね…。」

「そ、そうなのか…?」

 納得してくれて助かるけど、こんな不自然なやりとりで納得して大丈夫なのか涼君…。

「うん。それとさ、…──。」

 ふいに馨君が涼君に耳打ちする。涼君はそれを聞くと赤面した。涼君があんなに顔に出すなんて珍しい。一体何を吹き込まれたんだろう…?

「は!?なっ、なんで…!」

「良いから。詳細は後で話す。」

「え?なになにどうしたの涼くん!?」

「美弥達にも後で話す。昼休みも終わるし、じゃあ僕達はこれで失礼するよ。」

「え、ええ。お見舞いありがとうございますわ。」

 そう言って馨君は一方的に話を打ち切って保健室を出て行こうとするので、ボク達もそれに続いた。保健室を出ると、扉の横に女の子が立っている。ボク達が出てきたのに気づくと、彼女はこちらを向いた。

「あ、川嶋さん!川嶋さんもアイリスちゃんのお見舞い?」

「う、うん…。アイリスは大丈夫そう?」

「まあまあ元気そうだよ。どうして部屋に入らないの?」

「…なんでもないの。ありがとう。それとこれ、制服渡してあげて。」

 そう言って川嶋さんは美弥さんにアイリスさんの制服を渡して教室に戻って行った。そういえば四組は体育だったせいかアイリスさんも体育着だった。

「どうして自分で渡さないんだろう?喧嘩してるのかな?」

「……。良いから渡して来なよ美弥。これから今日の予定を話すから。」



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