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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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第三話 Midnight UMA(11)


Midnight UMA(11)

「身長150センチの小人捕獲成功。よくやったよ美弥。」

「もう!ひどいよ馨君!怖かったんだからね。」

「僕と身長が一番近かったのは美弥だったんだから仕方ないだろ。それにお前じゃ心配ないよ。涼に相手の倒し方教えてもらってた時は凄く嬉しそうだったし。」

「だって涼くんに手とり足とり教えてもらえるなんてそうないもん!」

「練習台になってたこっちの身にもなって欲しいけどな…。」

「そんな事言ってる場合じゃないよみんな…。」

「っ……!」

「おっと、逃げるなよ。裕太、こいつの後ろに立て。中学生のクセに大胆な事するねー君。でもわかりやすい馬鹿で良かったよ。」

「…な、なんで…、なんで!?こいつら帰ったはずじゃなかったのかよ…!」

「やっぱり放課後以降ずっとつけてたんだね。君みたいな奴は歪んだ自尊心を持っている場合が多い。僕に大声で貶されて耐えられなかったんだろ?それに僕の容姿を見て襲えると思ったわけだ。」

「だから一旦放課後ここに集まって、私の服装を見せてから馨君以外帰ったように見せかけて入れ替わったの。」

 少年は怯えを含んだような瞳で憎らしそうにボクたちを睨んだ。その顔はまだあどけなく、小柄な体格の普通の中学生にしか見えなかった。額には馨君が言ったように蛍光塗料が塗られている。前髪が長くて全ては見えないけど、横に一本線を引いているように見える。少年はうわずった声で怒鳴った。

「…っくそ!なんで邪魔するんだよ!森野とつるんで、お前らも北高のクセに不良なんだろ!天罰食らわせてやる!」

「天罰?中二病かよ。てことはその額の線は神様のつもり?金曜日ってのは何かな、キリストの処刑された日か。」

「…そうだよ。イエス様がその身をもって人類の罪を引き受けて下さった日だ。なのにこの地域は腐ってる!不良どもが闊歩して、だから、このイエス様に感謝し、自分達の罪を再確認するべき日に俺が粛清してやるんだ。この俺が…!」

 さっきまでと打って変わって陶酔した様な様子で少年が語る。一体何を言ってるかわからない。不気味すぎる。ボクは無意識に後ずさりしてしまった。

「さすが馬鹿が考えそうな事だね。何が粛清だよ。怖くて本当に強い奴は襲えないんだろ?しかも後ろから小突くのが精一杯なくせに。」

「…うるさい。」

「天罰?警察にも相手にされてないよ。自己満足に使われるイエス様も哀れだね。」

「ぅうるさい!」

「馨!あんまり刺激するなよ!」

「黙れよ涼。こいつのプライド滅茶苦茶にしてやらなと気が済まないんだ。」

「それってただの八つ当たりじゃ…。」

「何?裕太。」

「いえ…。」

「俺は間違ってない俺は間違ってない俺は間違ってない…。俺は選ばれた人間なんだ!主が奴らに罰を与えるよう俺に天使を遣わして下さったんだよ。」

「ふーん。じゃあその額のは天使の輪ってわけね。」

「そうだ!これを書くと天使様が俺に力を与えて下さるんだ。」

「それは面白いね。だったらその力でこの状況をなんとかしてみたら?」

「っ…!それは…。」

「か、馨くん…。これ以上はもうやめようよ。可哀想だよ。」

「美弥、君達が犯人を見つけようって言ったんだよ?君もさあ、神様に縋って自分自身の欠陥から目を逸らすのやめたら?」

「…けっかん?お、俺が間違ってるっていうのか!?」

「知るかよ。でも、間違ってないならなんで自己暗示かけるみたいに唱える必要があるの?」

「…ちがう、違う違う違う!俺は、俺はそんな事ない…俺は…。」

 少年は頭を抱えてうずくまり、必死に耳を抑えようとしている。こんなに取り乱す様は見ていて痛々しい。馨君が更に続ける。

「神を信じる事は悪い事じゃない。心の平安にも通じるよ。でも君は信じてるんじゃない。縋り付いてるだけだ。自分の鬱憤を神になすり付けて無理矢理正当化しようしてるだけ。」

「ちが、ちがう…違うったら…。ぅう…。」

 少年は項垂れてしまった。嗚咽が聞こえる。泣いているんだろうか…。

「だ、大丈夫か…?おい、馨…。」

「僕は事実を言っただけだ。こいつも本当はわかってるだろ。」

「……ぃんな、わかってない…。俺の事、なんにも。」

 見ると、少年がうなだれたまま震えた、小さな声で話し始めた。

「直接苛められてなくても、誰にも相手にされないのがどんなに辛いか…。周りは嫌な不良ばっか、本当は私立に行くはずだったんだ。俺はあんな奴らとは違うのに…。クラスにいてもいなくても同んなじ…こんな気持ちアンタにわかるのかよ!?」

「さっぱりわからないね。」

「馨くん!」

「…ほ、ほらね、みんな俺の事なんてどうでもいいんだ。誰も必要としてくれないんだよ…。」

「ウザい奴だな。そりゃあそうさ。自分から何も行動してないんだから。大抵の人は他人に興味なんてないんだよ。」

「……。」

 キツい言い方だが、少年はさっきと違って馨君の言葉をきちんと受け入れているようだ。黙ったまま項垂れている。

「…でも、不良達を襲ったのは天使でも神でもなく君自身だ。」

「…!」

「今度はその力を別の方向で使ってみれば?」

「…俺、の力……。」

 少年はぼんやりと先ほど振りかぶっていた棒を見つめた。その表情はどこか憑き物が落ちたような、中学生らしい表情に戻っていた。


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