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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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第二話 Beautiful Vampire(1)


Beautiful Vamrire(1)



「裕太、それ倉庫に持っておいてくれ。」

「うん!」

「裕太く~ん!世界妖怪事典の四巻持って来てだって~。」

「はーい。ちょっと待ってね!」

「裕太。終わったら煎茶入れて。」

「わか──って、それくらい自分でやってよ馨くん!」

 あの陰惨な事件から約一ヶ月が経った金曜日。相変わらず学校の雰囲気は前のままだが、ボクの周りはずいぶんと変わった。特に、入る気のさらさらなかったオカルト研究部に入れられたことが一番大きいのだろう。毎日忙しいながら楽しい生活を送っている。それに、ボク自身もなんだか変われたみたいだ。少しだけど、前よりずっと堂々としていられる。

「そういえば馨くん、どうして突然妖怪の本なんて取り出して来たの?」

「あ、言われてみれば最近はUFOの本ばっかりだったよな。」

「…ふ。よく聞いてくれたね、美弥、涼。これを見て。」

 そういうと馨くんは自慢げにボク達に一枚の紙を突きつけた。一番上には太字で“Johannes=Alfonnu”とあり、その隣には西洋人らしき綺麗な少年の写真が載っている。

「…調査書?」

「また義人に頼んだのか…。」

「じょ、ジョハンネ…?」

「『ヨハネス・アルフォンヌ』十六歳。出身地はルーマニアのブカレスト。来週の月曜日に僕らのクラスに転入してくる子だよ。」

「こんな学期のど真ん中に?珍しいね~。」

「で、そいつが一体なんなんだよ。」

「涼、僕の話聞いてなかったのか?ルーマニアと言えば?」

「あ、わかった!ドラキュラ伯爵だね!」

「ご名答、美弥。ドラキュラ伯爵、串刺し公とも呼ばれたワラキア公ヴラド三世、ヴラド・ツェペシュ。トルコ軍を串刺しにしてさらしたりとその残酷さから吸血鬼ドラキュラのモデルとなった人物だよ。」

「はぁ。」

「そのヴラド公の生まれ育った地と同じ育ちだぞ?」

「あのなぁ…。いくら出身地がルーマニアだからって、皆がみんな吸血鬼と関係があるわけないだろ。」

「でも可能性はゼロじゃないだろ。しかも彼の家はブカレストでもかなり古い家らしいし、望みはある!もし彼がもともと吸血鬼でなくても、別の吸血鬼によって吸血鬼化されているかもしれないし。涼には話したことあるけど、本物の吸血鬼は噛み付いて血を吸ったりはせず、毛穴から血を吸い上げるんだ!あ、ちなみに言っとくけど吸血鬼の倒し方はグランド・パレシオンと言って──んぐっ。」

 いつものように自分の世界に入り込んで喋りまくる馨くんを口を塞いで涼くんが制してくれた。

「いい加減にしろって。そんなファンタジーな話がそこら辺に転がってるわけないだろ。」

「だからそれをこれから確かめるんだろ。ということで、今回の依頼は彼の素性を絶対暴くこと!いいな!?」

「ええっ?それって依頼されてたことなの!?」

「いや、僕からの依頼。」

「それってただのお前のわがままだろ。」

「ぅ…ぶ、部長の命令が聞けないのか?」

「職権乱用だよ…。」

「煩い!ともかくやるったらやるぞ!じゃ、今日は解散!涼、帰るぞ。」

「痛!引っ張るなって!」

 そう言うと、馨くんは涼くんを引きずって行ってしまった。…ここに来てから彼らについての印象は結構変わったけれど、馨くんは特にそうだ。一見何を考えているかわからない(実際理解できないけど)不思議な雰囲気だが、妙に子供っぽい所があるようだ。

「あーもう待ってよ!もう、馨くんたらいっつも涼くん連れてっちゃうんだから!行こ、裕太くん!」

 後に取り残されて不機嫌になった美弥さんは急いで帰りの支度をしてボクの手を掴んだ。一瞬ドキッとしたが、美弥さんは気づいていない。そう、ボクは彼女に淡いけど恋心を抱いているんだ。もちろん美弥さんは涼くんにぞっこんなのもわかってるし、叶わないことはわかっているけど…。

「ん?どうしたの裕太くん。早くしないと二人とも帰っちゃうよ!」

「あ、うん!何でもないよ!」

「そう?さ、急ご急ご!」

 ボクは手を引かれるままに走り出した。


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