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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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第四話 Tragedy of table turning(11)


Tragedy of table turning(11)

「……ごめんね、比奈。」

 驚いて羽淵先輩に目を向けると、大粒の雫を瞼に溢れさせながら、精一杯の笑顔を作っているのが見に入った。そして、震える手でナイフを自らの首に押し当てようとしている。

「羽淵先輩!」

 止めようと動こうとして躊躇した。興奮しているのに下手に止めに入ったら勢いで切ってしまうかもしれないからだ。でもこのままじゃどの道…。一体どうしたらいいんだ!

ガラ!

「ゆ、結城君ー。あの靴紐の件ですけどー。」

ドンっ!

「っ!?」

 間の抜けた声の後、突如ナイフが彼女の手から落ちた。一体何が起きたか彼女自身もわかっていない様子だ。数秒後、彼女の後ろの扉から入って来た来栖先生がぶつかったのだと気付いた。

「あ、すみません…。羽淵さ…ん?ちょ、ナイフ!?」

「いいから抑えろ来栖!!自殺されたいのか!」

 馨君の怒号に来栖先生と羽淵先輩が我に返る。しかし、一瞬早く事情を察知した来栖先生が羽淵先輩を取り押さえた。

「は、羽淵さん!あなた何てことを…!」

「離せ!!離してよ!比奈にこれ以上嫌な思いをさせたくないの…──!」

「……羽淵先輩、今日も学校来てないって…。」

 普段元気な美弥さんの声が暗く沈んでいる。無理もない。あれから一週間、一度も彼女は学校に来ていない。あの後すぐに一連の事故の真相は学校側に知られたが、証拠がない事、なにより羽淵家は地元の有力者である為、先輩はなんの処分も受けずに登校する権利を受けたという。しかし、なによりも彼女の心のショックが大きかったらしく、家に引きこもったまま誰にも会わない生活を送っていると言う。

「そっか…。」

「……本当は、罰を受けられた方が救われたのかもしれないね。」

「うん…。きっと馨君はその為に羽淵先輩にあんな事実を突きつけたんだと思うよ。」

 確かに、あんな酷い状況になるくらいなら言わない方が良かったのではないかと思う。でも、知らないままでいれば古賀先輩と羽淵先輩の仲はずっと歪んだまま続いて行くことになったかもしれないのだ。もっと酷い形でそれが露呈したら、羽淵先輩は本当に命を絶っていたかもしれない…。なんにしても、ここからは彼女達の問題なんだ。

「ボク達が落ち込んでても仕方ないよ。それに、美弥さんには、え、笑顔が似合うって言うか…。」

「え?えへへ。ありがとう裕太くん!」

 美弥さんはボクににっこりと笑いかけてくれた。その笑顔と自分の言葉に赤くなる。羽淵先輩には悪いけど、ちょっといい雰囲気にボクは緊張してしまう。これは、距離を縮める絶好のチャンスかもしれない!

「それに、羽淵先輩の事で一番落ち込んでるのは馨くんかもしれないもんね!」

「え?」

「だって、好きな人を救ってあげられなかったんだよ?」

「…あ、羽淵先輩が好きって話まだ続いてたの?」

「まだ疑ってるの裕太くん!?だってオカルトにしか興味なかった馨くんがあそこまでしたんだよ?羽淵先輩の為に!馨くん不器用だからあんな風にしかできないんだよ!」

「本当かなあ…。って、その馨君はどうしたの?」

「心配ないよ!涼特派員を向かわせてありますので!」

 親指を勢い良く突き出す美弥さん。その様子に若干呆れながら、元気な美弥さんを見てボクは安心した。

「と言うことで屋上に様子を見に行こう!」

「えっ!ちょ、ちょっと引っ張らないで!」

「(美弥に馨を慰めて来いって言われたけど、一体どうしたらいいんだ…。ていうか本当に馨は羽淵先輩が…──)」

「…何そこで難しい顔してんの涼。バカの癖に。」

「えっ!…気付いてたのか。グラウンド見てるのかと思ったぞ。」

「地面に影が映ってんだよ。で、何。屋上になんか用?」

「いや、その…馨がいるって言うから…。」

「はあ?」

 馨君がムカついた表情で涼君の方を見つめている。相当機嫌悪そうだな…。貯水タンクの影からこっそり様子を伺う。二人の会話が聞き取れる範囲なのでバレないかヒヤヒヤするが、馨君は気付いてないようだ。

「(イライラしてるな…。)な、なんでもない!あ、これ飲むか?果汁百パーセントの林檎ジュース。好きだろ。」

「…どうも。」

 怪訝な顔をしつつも、馨君がジュースを受け取ると、二人は住宅街を見下ろすように並んだ。しばらく沈黙が続く。見るからに気まずい感じだ…。

「…あー。好きといえば、その…元気出せよ。」

「は?何が。」

「何がって…。そんな気に病むなって事だよ。」

 要領を得ない言い方だ。なんだ『好きといえば』って…。美弥さんもやきもきしている。だけど、涼君なりの気遣いなんだろう。下手な言い方すると馨君怖いからな。馨君は最初涼君の顔を訝しんで見ていたけど、不意に伏し目がちに街並みに目を移した。その表情は何処か沈んでる。えっ!まさか本当に…?

「…別に、いつものことだよ。」

「えっ!?そうだったのか……?」

「は?涼だって知ってるだろ。」

「えっ…。…すまん、気づかなかった。」

「(いつもの事…?)」

「(し、信じられないよ…馨くんがそんな恋多き少年だったなんて…!誰に恋してたんだろ?前田さんかな?それとも川嶋さん?)」

 美弥さんも大興奮だ。ボクも馨君の発言に驚きを隠せない。と言うより、美弥さんの推理が当たってた事が驚きだ。更に聞き耳をたてる。

「友達甲斐のないヤツ。」

「わ、悪かったって!そうだよな、お前もそういうの興味あったんだな…。」

「…?うん。……。」

「……。」

 またもや沈黙。涼君は必死になにを言おうか考えているようだ。ここからでも涼君の焦りが伝わってくる。今の馨君じゃ、なんて声をかけていいかわからなくて当然だ。貯水タンクの影から、まるで別人のように真剣で大人っぽい横顔が見えた。

「……まあ…その、話くらい聞くよ。そうだ、この後うちに来るか?夕飯食べてけよ。」

「ああ、そうしようかな。」

「暖が喜ぶよ。あいつ最近お前の話よくするんだ。」

「ふーん。じゃあ暖ちゃんに話聞いてもらおうかな。お前より僕の趣味よくわかってるかも。」

「え?」

「前にお前の家に行った時、凄くオカルトに興味を持ってくれてね。真剣に僕の話を聞いてくれたんだ。彼女は見込みあるよ。」

 得意そうに語る馨君。ああ、そういう事か…。

「……馨。お前、羽淵先輩の事で落ち込んでたんじゃ…。」

「は?お前が『好きといえば』って話を振ったんじゃないか。なんで先輩の話が出てくるんだよ。」

 つまり、馨君にとって『好きといえば』オカルトだったわけだ。涼君が妙な話の振り方するから変な勘違いが生まれてしまったのか。隣で美弥さんが残念そうな顔で溜め息を着く。

「えー、なんだぁ。結局いつもと変わんないよう。」

「ははは…。」

「そこの二人も、さっきからこそこそ何やってんだよ。」

「わっ!?馨くん!気付いてたの?」

「影が見えてるって言っただろ。早く涼の家行くぞ。」

「ボク達も行っていいの?」

「ああ、別にいいよ。」

 みんなで屋上から出て行くボク達。ふと、一番後ろを歩いていた美弥さんが呟いた。

「じゃあどうして馨くん、羽淵先輩の家が見える屋上に来たんだろ。」

Fin


ちょっと悲しいお話にしたくて作りました。
最初は美少女いっぱい出そう!って思っていただけなのになんか全員救われねえ……。
明るい話題に戻すと、私は、今回エンジェルさんをやった女の子達の中では岩瀬萌香ちゃんが一番お気に入りです!一番明るい(?)から!
羽淵ちゃんも好きです。彼女のいっぱいいっぱいな感じが皆さんに伝わったら良いなあ…。
しかし、最後駆け足な上に自分でも納得のいかない終わり方……。
本当は白川まゆちゃんも古賀比奈ちゃんもラストに出てくる予定だったんですが、思いつく内容があまりにゲスかったのでやめました。伏線が回収しきれていない…!
精進します。ここまで読んで下さった皆さんありがとうございました。

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