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Panta rhei

当ブログは管理人、三枝りりおのオリジナル作品を掲載するブログです。

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Albtraum番外編1(4)


番外編1(4)



「おはよー。今日はお昼買い忘れなかった?三上くんて気取ってるわりに案外ドジだよね。」

「その減らず口も慣れた。さっさと食って帰れ。」

「人と食べると栄養の吸収率が上がるんだよ。むしろ感謝して欲しいんだけど。」

「はいはい。つか、お前も飽きないな。わざわざ教室から遠い屋上来るとか。友達いねーの?」

「うわー。毎日屋上で一人の人に友達の心配されるとは。心外だよ。」

「まじで殴っていいか?」

「冗談だよ。みんな受験でそれどころじゃないって感じさ。ぶっちゃけうるさいっていうより空気重たくて居づらいよ。」

「ふーん。」

「…。三上くんは進路どうするつもり?」

「は?なんだよいきなり。」

「なんとなく。サボってるわりに学校来てるのって一応出席日数気にしてるんでしょ。」

「…以外と目敏いんだな。」

「一応頭はいいんで。私立の推薦受けるし。」

「自分で頭良いとかいう奴初めてみたわ。」

「事実だからね。」

「ナルシストかよ。」

「まあ、頭の良い僕から言わせて貰えば、南高の奴らとはつるむのやめた方が良いよ。」

 瞬間、気まずい空気が二人の間に流れる。涼が一番触れて欲しくない話題だ。その状況を形容するかのように、屋上に冬の冷たい風が吹いた。

「…お前には関係ない。」

「そんなに守りたい関係?力を利用されてるだけでしょ。」

「口出しするな。俺の問題だ。」

「その『俺の問題』いつになったら解決させる気?」

「なっ…。」

「中二からつるんでるらしいね。いや、つるんでるとも言えないか。相手からしたら喧嘩が強いから重宝してる道具って感じだろうね。ねえ、いつまで道具やってるつもりなの?」

「っ!」

 それを聞いた涼は凄い勢いで結城の胸ぐらを掴み無理やり立ち上がらせ、怒りを抑えた口調で結城に忠告した。

「いい加減にしろ。たかだか数日で親友ヅラしてんじゃねーよ。それ以上言ったら殴るぞ。」

「いい加減にするのは君だろ。人に言われる度にそうやって逃げて来たのか。力ばっかで心はまるで貧弱だね。現実見ろよ!自分の現状無視しながらつまんない顔してここにいて何になるんだ?なあ?」

「っ」

「殴りたいなら殴れよ。僕は自分が間違った事を言った覚えはない。それに、殴られるのが怖くて思ってることを伝えないなんてしない。」

 結城の強い眼差しに気圧され、涼は手を放し、後ずさった。

「君のためとか言って意見を押し付けるつもりはないよ。本心からあいつらとつるんでいたくて、ここでぼんやりしてたいなら何も言わないさ。」

「……。」

「ただ、自分から目を逸らして現実逃避してる君は最っ高にダサいよ。」

「…っ」

「…時間過ぎちゃった。じゃ、またね。」

 結城は服を整えると何事もなかったように帰って行った。あとに取り残された涼はしばらく佇んでいたが、急に屋上が酷く居心地の悪い場所に感じ、荷物を掴んで家に帰ることにした。屋上のドアを乱暴に開けて出ようとすると、目の前に何度か話したことのある不良生徒が驚いた顔で立っていた。どうやら彼もドアを開けようとした所だったようだ。

「…何。今機嫌わるいから今度にしてくれ。」

「あ、いや!三上に用があるって…南高の先輩が…。」

「……。」

「いつも通り放課後公園に来いってさ…。じゃあな!」

 そういうと彼は逃げるよう下の階へ降りて行った。涼の機嫌が悪いのを察したのだろう。その後ろ姿を見ながら涼は結城の言った言葉を思い出していた。

「俺は…何がしたいんだ。…ムカつく。」

 小さくつぶやくと家路についた。



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Albtraum番外編1(5)


番外編1(5)



 翌朝。

「よー涼!おはよー。」

「義人…。おはよう。」

「なんだ?元気ねーな!まあお前いつもあんま元気ないけど。なんかあったのか?」

「なんでもねーよ。」

「ふーん。あ、おい!あれって…。」

「あ?」

 涼が前を見ると少し遠くに南奎宿高校の不良達がいた。彼らは不敵な笑みを浮かべながらこっちへやって来た。

「義人。お前は先に行ってろ。」

「は?おいお前何したんだよ!あいつら怒らせたのか?」

「いいから行け!!」

 そういうと義人の背を強く押した。その時、不良の一人が涼に話しかけてきた。

「よお三上~。昨日はどうしたんだよ?」

「俺たち公園で待ってたんだぜ?すっぽかすなんてひでーじゃん。」

「……。」

「何黙ってんだよ。おい!」

 不良の一人が涼の肩を乱暴に掴もうとした時、リーダー格の不良、靏見(うつみ)がそれを制した。

「なあ三上、今から付き合ってくんねえ?尤も、お前に選択権ないけどな。」

「…今から学校なんすけど。放課後じゃ駄目すか。」

「てめえ調子乗ってんじゃねーぞ!」

「涼!」

「…あ?何こいつ?」

「義人!先行けっつってんだろ!」

「あー三上の友達かー。来ないとコイツどうにかしちゃうかもよ?」

「…っ。いいっすよ。行きます。」

「ちょ、涼!」

「おー友達想いだねぇ。んじゃ、義人くん?コイツ借りるから。学校に言ったらどうなるかわかってるよな?」

「……はい。」

 義人は去って行く不良達と涼の背中を見つめることしかできなかった。役に立たないどころか足手まといになってしまう自分が悔しくて、そこから動くことができなかった。




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Albtraum番外編1(6)


番外編1(6)



 涼は橋の下の河原に連れて来られていた。ここは登下校時刻以外はほとんど人目につかない場所である。不良達は橋の真下にある柱に涼を追い詰め、さらに人に見えないようにしてから、涼に尋ねた。

「なあ三上。昨日なんで来なかった?俺達の伝言聞いたんだろ?」

「……。」

「…黙ってちゃわかんねえだろ。何とかいえよ。」

「俺たちお前のせいで喧嘩負けるとこだったんだぜ。ま、靏見さんのおかげでなんとかなったけどさあ。」

「靏見さんが優しくしてる間に答えた方が身のためだぜ三上~。綺麗な顔が見る影なくなっちゃうよ~。」

「流石に『大黒天の三上』もボクシングやってた靏見さん相手は無理だろ?」

「…俺、もうあんたらとつるむの辞めます。いきなりですいません。」

「…は?」

「おい、マジで調子のんなよ。はいそうですかっていうとでも思ってんのか?」

「…俺は、自分を認めてくれて、必要としてくれる存在が欲しかった。でも、あんたらとつるんでても周りに迷惑かけるだけなんだよ…。だからすみません。もう関わらないで下さい。」

「意味わかんねえ事言ってんじゃねーよ!!そんな簡単な話じゃない事くらいわかんだろ!」

「…良いよ。抜けさせてやるよ。」

「ちょ、靏見さん!?」

「え、いいんすかぁ?裏切り行為っすよ!」

「あーいいよ。ただし、それなりの誠意見せてくれたらな?」

「……。…何すればいいんすか。」

「俺たちに好きなだけ殴らせろよ。昨日のすっぽかしの罰含めてさ。」

「おーそれいいっすね!丁度ストレス溜まってたし。」

「あの三上殴れるとかいいな!ちゃーんと俺たちが良いって言うまで耐えられたら許してやるよ。」

「…わかりました。」

「いいねーカッコつけちゃってさあ!やっちゃいましょうよ靏見さん!おい三上!避けるなよ!」

「お前黙れ。…マジでいいんだな?手加減しねーよ。」

「はい。」

 靏見は上着を脱ぐと強力な右ストレートを涼の顔面に叩き込んだ。が、涼はとっさに腕で顔をガードした。しかし、ボクシング経験者の高校生の渾身の一撃に体は吹っ飛んだ。

「くっ…!」

「いきなり顔って…。」

「マジすげえ!流石靏見さん!」

「おいおいガードしてんじゃねーよ三上!オラァ!」

 続いて別の不良が転がった涼の背中を蹴る。それを皮切りに皆思い思いの部位を蹴ったり踏みつけたりしだした。涼は反射的に顔と腹をかばう姿勢をとって耐え続けた。

「ははっ!こんな縮こまりやがって、大黒天の三上が聞いて呆れるなあ!」

「でも本当に抵抗して来ねえとつまんねえな。」

「なーいい加減降伏したらどうだよ。今ならまだもう一回仲間にしてやるぜ?」

 靏見がいうと涼は顔をあげ、靏見の方を睨み不敵に笑ってみせた。

「ぜってー嫌だ。」

「っ!」

 とっさにカッとなった靏見は涼の顔を蹴りあげた。しかし涼は持ち前の反射神経で顔をガードし直撃を防ぐ。それに更にムカついた靏見は仲間に命令した。

「おい、コイツの体起こせ。羽交い締めにしろ。」

「了解っすー。」

 二人がかりで羽交い締めにして立たせると靏見は満足した。涼に近寄り、顎を掴んで無理やり目線を合わさせる。

「思ったより満身創痍ってわけじゃねえなあ三上。お顔も綺麗なままじゃん。上手く大事な所守れるのは流石だよ。ま、そりゃあまだ降伏する気にはならねえよな!!」

 そういいながら靏見は涼の鳩尾を殴った。流石に腕を両方塞がれているので完全には防げなかったが、腹筋に力を込め、重心を上手く移動するることで多少ダメージを減らした。しかし、先程よりも大分ダメージを受けてしまった。

「うぐっ…!」

「コイツ…靏見さんのパンチ受けて立ってられんのかよ…。」

「化け物だな…。」

「ふん。でも今のは流石に堪えたみたいだなあ。いつまで耐えられるか楽しみだよっ!」

 靏見は連続して涼の腹を殴った。涼は流石に耐えられず、吐いてしまった。

「がはっ…!ゴホ、ゲホ…はぁ、はぁ……。」

「うわ、コイツ吐きやがった。汚ねえー。」

「ここまで意識保ってられるとはなー。」

「ちょ、おい血ぃ混じってんぞ。やばくね?」

「はあ、はあ…いい加減降参しろよ。死にてーのか。」

「三上!『許してください。お願いします。』って言えよ!」

「…もう俺に関わらないで下さい。お願いします。」

「っ…!ちげえっつってんだろッッ!!おちょくってんのか!!」

「う、靏見さん!もうこれ以上はやばいっすよ!」

 靏見がもう一度、今度は力一杯涼の腹を殴ろうとした時、後ろで鈍い音がした。



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Albtraum番外編1(7)

「…なんだ?」

「それ以上は本当にやめた方が良いですよ南奎宿高校三年靏見翔太先輩。殺人犯になりたいんですか?」

「…ゆう、き?」

 そこには、何処からか拾ってきた鉄パイプを手にした結城の姿があった。どうも取り巻いていた不良の一人を殴ったようだ。殴られた不良は頭をさすっている。

「いってー。何しやがんだてめえ!」

「…また三上の友達か。お前は友達に恵まれてるねぇ。でも、そんなもやしみたいな体で俺たちに勝てると思ってんの?」

「…やめろ結城……。お前の腕力じゃ…武器があっても、怪我するだけ、だ…。早く帰れ……。」

「三上くんこそ喋るなよ。内臓傷付いてんだから。無理すると本当に死ぬよ?」

「いいねえ。親友のピンチに駆けつけるなんて、感動の友情物語だよ。ならお前が代わりに殴られる?」

「やめろ…!そい、つは…関係ないんだ!」

「…上等ですよ。どーぞ。」

「結城!」

「おー威勢がいいねえ!じゃあハンデとしてその鉄パイプで反撃してもいい事にしてやるよ。おい、三上はそこに転がしとけ。」

「は、はい!」

 不良達は涼を人目に一番付かない所に放ると、結城に近づいてきた。普段冷静な結城も緊張しているのか、鉄パイプを握る手が震えている。

「おいおいボク~手が震えてるぜ?喧嘩は初めてかなあ。」

「嘆くなら三上なんて化け物とお友達になっちゃった自分を嘆けよ~。」

「結城…。逃げ、ろ…!俺に構わないでくれ…内申、下げたくないんだろ?」

「…三上くん、馬鹿なの?今他人の事心配してる場合じゃないでしょ。それに、せっかくちゃんと自分と向き合った君をこんなとこで亡くしたくないし。」

「…はっ、なんだよそれ。そいつら、お前に…敵う相手じゃねーんだって……。」

「そう言って行動しないんじゃ、何も守れないんだよ!集中してんだから話しかけんな死に損ない!」

「っ!」

「ごちゃごちゃおしゃべりしてんじゃねーよ。オラ、行くぞ!」

 不良の一人が結城に襲い掛かった。結城は鉄パイプを盾にして辛うじて攻撃を防ぐが、体制を崩して転ぶ。

「うっ!」

「弱え~な!お前本当に三上の友達かよ!」

「俺たち相手にするくらいだからそれなりの強さだと思ったけど、やっぱただのガキじゃん。拍子抜けだな。」

「ほらボクちゃん立ちなよ~。かかっておいで~。」

「……そうやって油断してると負けますよ?」

「は?」

 結城は地面の砂を一番近くにいた不良の顔にぶつけ、目を潰すと、素早く立ち上がり遠心力で鉄パイプを相手のわき腹めがけて思い切り振った。とっさの事に不良はなす術なくその場にうずくまる。

「ぐああ!」

「お、おい大丈夫か?!」

「心配ないですよ。いくら遠心力付けてるって言っても僕の力なんで骨は折れてないと思います。柔らかいとこ殴ったし。でも、ナメてると痛い目みますよ?」

「てめえ…ちょっとうまく行ったからって調子乗ってんじゃねーぞ!!」

 カッとなった不良の一人が結城を蹴り上げた。結城は鉄パイプで防ごうとしたが、威力で鉄パイプは飛ばされてしまう。そこにすかさず次の蹴りを結城に入れた。鉄パイプを飛ばされた事で次の行動が取れなかった結城はもろに攻撃を受け、細い体が吹っ飛ぶ。

 ガン!

 鈍い音がした。

「結城!!」

「っ…。………。」

「…え、ちょ、今変な音しなかったか?」

「お、俺そんな本気で蹴ってねーよ!な、なあ…大丈夫か?」

「大丈夫かってお前がやったんだろ。…おい、立てよ!」

「う、ああ!コイツ血が、血がこんな出てんぞ!!」

 不良達がコンクリートの柱に寄りかかる結城の体を揺さぶるが全く反応がない。口からは血が流れている。

「結城!結城!!返事しろよ!」

「これ、ヤバイだろ…靏見さん!」

「……っぁ…」

「靏見さん!!」

「…み、三上!俺たちは今までもこれからもなんの関わりもない!いいな?」

「は、はあ?!ふっざけんな!」

「うるせえ!いいか、お前らが勝手に喧嘩したんだ!誰かに俺たちの名前言ってみろ、ただじゃすまねえからな!!」

「あっ靏見さん、待ってくださいよー!」

「三上!絶対言うなよ!!」

 靏見は声を裏返らせながら怒鳴ると、逃げるように河原から出て行き、不良どももそれを追いかけて行った。涼は追いかけて捕まえる力も残っておらず、這いずりながら結城に近寄った。



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Albtraum番外編1(8)


番外編1(8)



「結城!おい、目を開けろよ…!」

「……。」

「だから逃げろって言ったのに…俺なんかに関わるから…。結城…。」

「…。」

「な、あ…頼むから………グスッ」

「…何泣いてんだよ。キモい。」

「え…?」

 涼が顔を上げると結城が目を開けて迷惑そうな顔をしていた。

「へ、なんで…。」

「近いよ。ちょっとどいて。」

「お、お前…頭打ったんじゃ…?お、俺、死んだのかと思って…」

「君達不良って本当頭悪いよねぇ。なんで頭打って口から血が出るんだよ。てか脈くらい確認したらいいのに。ま、そのおかげで助かったんだけど。」

「あ…お前、もしかして……。」

「そう。演技だよ。口の中にあらかじめケチャップ入った袋いれといて、倒れた拍子に噛みちぎったの。まああの音は割と本当に頭ぶつけたんだけど…。」

「な、なんで…。」

「は?だから、あいつらと完全に関係を断つには、あいつらの方からもう関わりたくないって思わせるのが楽だと思ったんだ。でも、喧嘩で全員打ち負かすなんて君みたいな事僕には出来ない。警察を呼んでも説教されるだけで後々報復されるだろうし、おそらく僕達もお咎めがあるだろう。で、僕に重傷を負わせたと思わせられたら今までの軽い犯罪と違って本当に警察のお世話になりかねないと思うんじゃないかとね。」

「そ、そうか…。」

「ま、あのボクサー崩れに殴られてたら本気でヤバかったけど。そうならないように雑魚を引きつけたんだけどさ。よいしょ、さて、病院行こう。歩ける?」

「あ、ああ…なんとか。」

 結城は立ち上がって服を軽くはたいた。それから涼を起こし肩を貸すと、二人は河原を歩き始めた。

「怪我、してなかったんだな……良かった…。」

「まあ、ちょっと頭ぶつけたけど大丈夫。慣れない事はしない方がいいね。」

「そうか…。でも、なんでお前、あんなとこにいたんだ?」

「歩いてたら君たちが橋のしたに入って行くのが見えて、時機が来るまで隠れてた。」

「そうじゃなくて…今日普通に学校だろ。」

「ああ。今日推薦の受験日だから。」

「へえ…ってええっ!?痛っ…。」

「耳元でうるさいな。怪我人なんだから静かに話せよ。」

「お、お前!じゃあ推薦は…?」

「まあおしまいだね。ま、君を放って受かっても後味悪いし。後悔してないよ。」

「…すまない。俺のせいで……。」

「…三上くんてさ、優しいね。自分は酷い怪我してるのに、よく他人の事気にしてられるよね。」

「……。お前だって、俺なんかのためにこんな事…。普通しないだろ。」

「僕には目的があるんだ。それよりさ、前にも言っただろ、喧嘩が好きじゃなさそうって。なんで不良なんてやってたの?」

「……。」

「…別に言いたくないなら無理に聞かないけど。」

「…俺、やりたい事がなくて、毎日に意味が見出せなくて…さ。勉強も何のためにやってるのかわからなくて、そんな自分も嫌で、イライラしながら日々を過ごしてた。」

「……。」

「そんな時カツアゲしてる不良を見つけて、そいつを打ち負かしてやったら、実はそれがうちの中学の番長だったらしくて…。知らない間に名前が広まって、喧嘩売ってくるやつが増え始めたんだ。面倒だったから適当に相手してるうちに次期番長とか大黒天とか話に尾ひれがつき始めて、それを聞きつけた南高の奴らが声をかけて来たんだ。」

「なんでそれでつるむようになったの?明らかに良くない奴らだってわかるだろ。」

「…居場所が、欲しかったんだ。両親は仕事で基本家にいないし、番長とか言われ始めてからは周りにも距離をおかれ始めて、怖がられたり、避けられたり。それで、あんな奴らでも俺を必要としてくれるなら…って。馬鹿だよな……。」

「全くだね。」

「本当はっきり言うよな…。」

「でもさ、やりたい事がないからっていろんな事を放棄するのは勿体無いと思うよ。」

「…?」

「僕はやりたい事が沢山ある。絞り切れないくらいにね。だから将来、一番やりたい事をやる時のためにいろんなカードを残すことにしてるんだ。」

「カード…。」

「そう。知識、財力、学歴、体力なんかもね。やりたい事をやる時に、それに必要な力が足りなかったら余計な時間がかかるだろ。そんなの勿体無いと思わない?」

「…そうだな。でも、俺は今更遅いよ。今から勉強したって偏差値の低い南高くらいしか入れないな。」

「…僕がただ偽善的正論言ったんだと思ってんの?」

「は?」

 結城は涼をまじまじと見つめ、それから心底呆れたようにため息をついた。

「はあ…。でもさあ、僕が助言した次の日に行動するなんて、単純ていうか、従順だよね。素質あるよ。」

「な、それは…。てか何だよ、素質って。」

「僕はカードが欲しい。君のその力と性格は僕にとって強力なカードになる。」

「は?あのさ…それとさっきの話どうつながるんだ…?」

「僕は一般受験で北奎宿高校を目指す。あと一ヶ月弱で受験日だ。君にもそこを目指してもらう。」

「は?!北高って…この辺りの市立で一番頭の良い学校だぞ!俺の学力じゃ無理だ…。」

「僕がつきっきりで教えてやる。絶対に合格させるから。」

「…。なんで、そこまでしてくれるんだ…?結城…。」

「馨でいいよ。僕も涼って呼ぶ。…君が必要なんだ。僕が君の居場所になってやるよ。」

「なっ…。」

「わかったら『お願いします』って言え。」

 涼は結城の顔を見上げた。結城は真っ直ぐ進む方向だけを見つめて歩いている。その横顔には全く迷いなんて見つけられなかった。

「……お願い、します。」

「うん、明日からみっちり勉強だから。覚悟しとけよ。」



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